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私が占い師になった理由。  作者: 月灯
第五章 アルトリア王国編
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58話 聖女の足跡と途切れた研究 - 受け継ぐ調べ

アルトリア王国の歴史を刻む石畳。

その上を歩むアリアの足取りは、表面の落ち着きとは裏腹に、内なるざわめきを映し出していた。

見慣れたはずの王都の風景も、今日はどこか違って見える。


街角でふと耳にする古の聖女「キク」と「サクラ」の物語。

それは、遠い故郷を離れて久しいアリアにとって、忘れかけていた温かい子守唄のようだった。

特に「キク」という響きは、彼女の胸の奥底に眠る、まだ名も知らない感情を優しく呼び覚ます。

それは、微かな痛みにも似た、不思議な懐かしさだった。


「キク…サクラ…」


誰に聞かれるともなく呟いたその音は、アリア自身の魂の奥底から湧き上がってきたかのようだった。

その響きの中に、彼女は確かに何かを感じていた。

それは、過去からの微かな呼びかけかもしれない、とアリアはぼんやりと思った。


宿に戻ったアリアは、静かにランプの火を灯した。

その頼りない光の下で、古文書の束を丁寧に広げる。

長年の時を経て乾ききった紙は、指先が触れるたびに微かに音を立てた。

そこに記されていたのは、遥か異世界からこの地に流れ着いたという聖女キクの伝説。

そして、この世界で生まれ、その聖なる役割を受け継いだという聖女サクラの物語だった。

二人の聖女の足跡は、まるで一本の細い糸のように、この国の歴史の中に確かに存在していた。


「異世界から来た曽祖母…この世界で聖なる意志を受け継いだ祖母…」


古文書の文字を追うアリアの脳裏には、聖なる使命を静かに、そして強く胸に抱いて生きた母の、穏やかな横顔が鮮やかに蘇る。

母もまた、この聖なる血筋を受け継ぐ一人だったのだ。

そう思うと、アリアは自身の内に流れる血潮の重みを改めて感じた。


ふと、アリアの心は、あの幽霊屋敷で出会った少女、リリアへと深く沈んでいく。

初めて彼女を見た時、リリアは深い悲しみと、言葉にできないほどの無念を、その透明な魂の姿にまとっていた。

小さな手が大切そうに抱えていたのは、エレノアが大切にしているものと、どこか似た古びたオルゴールだった。


「なぜ、リリアはあのオルゴールを、あんなにも大切そうに抱えていたのだろう…?」


アリアの心には、今はもうこの世界にはいないリリアの、やり場のない悲しみが深く刻まれている。

彼女の一家に一体何があったのか?その問いは、アリアの中で静かに、しかし確実に大きくなっていた。


翌日、アリアは王宮の一室に足を踏み入れた。

そこに積み上げられていたのは、長年手つかずだった古代研究資料の山だった。

埃を丁寧に払いながら、黄色く変色し始めた紙を一枚一枚注意深くめくる。

古文書独特のインクの匂いが、静かな部屋の中に漂う。そして、その中に思いがけなく、エレノアの両親の名前を見つけた時、アリアは息をのんだ。


「エレノア様のお父様と、お母様も…ここで古代魔法の研究を…?」


信じられない思いで、その記述を食い入るように見つめる。

確かに、二人の名前が並んで記されており、高度な魔法理論や、見たこともない紋様についての考察が詳細に綴られていた。

しかし、その研究は途中で突然、まるで何かに遮られたかのように途絶えていた。

一体、何が起こったのだろうか?なぜ、彼らは研究を放棄せざるを得なかったのか?


窓から差し込む夕方の柔らかな光が、積まれた古代研究の跡を静かに照らし出す。

アリアは一人、その光を見つめながら、深く沈んだ声で呟いた。


「リリアの魂の調べ…あの憂いを帯びた、どこか悲しげな旋律は…エレノアのオルゴールの、本当にごくわずかな部分と、確かに共鳴していた…あれは、ただの偶然なのだろうか…?」


古文書に記録された、遠い過去の聖女たちの足跡。

リリアが大切に抱えていたオルゴール。

そして、エレノアの両親が情熱を注いだ古代魔法の研究。


「全てが、まるで目に見えない細い糸で、複雑に絡み合い、繋がっているような気がしてならない…」


(異世界から聖なる使命を帯びてこの世界に来たという、キク。その聖なる意志を受け継ぎ、この地で生きた聖女サクラ。聖なる道を志しながらも、その傍らで古代の謎を追い求めた母ユリ。そして、悲しい運命を辿ったリリア…)


アリアは、目の前の古代研究資料を固く握りしめた。

その紙の感触が、彼女の決意をより一層強固なものにする。


「リリアの不当な死の真相を、必ず明らかにしてみせる。そして、このアルトリア王国を覆う、深く眠った古代の謎を解き明かしたい。」


途中で途切れてしまった研究の、その先にこそ、きっと全てを繋ぐための重要な鍵が隠されているはずだ。

アリアはそう固く信じて、再び、埃を被った古代の記録へと、その熱い視線を深く注いだ。




ーーー59話へつづく

〈登場人物〉

* アリア: 主人公。聖女の血筋を受け継ぐ女性。過去に出会ったリリアの死の真相と、エレノアの両親の研究に興味を持つ。

* キク: アリアの曽祖母。異世界から来た聖女。

* サクラ: アリアの祖母。キクから聖女の役割を受け継いだ。

* アリアの母: 聖女見習いだった。

* リリア: 幽霊屋敷でアリアが出会った魂。オルゴールを持っていた。既に成仏している。

* エレノアの両親: 古代魔法の研究者。研究は途中で途絶えている。

✦✦✦✦✦


※このお話の舞台はヨーロッパ風異世界であり、現実世界の歴史とは一切関わりありません。

作中に出てくる 国・文化・習慣・宗教・風俗・医療・政治等は全てフィクションであり、架空のものです。

あくまで創作上の設定としてお楽しみいただけますと幸いです。


✦✦✦✦✦✦✦✦


✪読んでくださり、ありがとうございます。

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