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《 秋夜風さらさら 》
煙草に火を点ける 夜更けのベランダで…
静けさに身を任せれば 微かな風が吹いてきて…
その冷たく澄んだ風は 肌を清めてくれるようで…
さらさら さらさら…
鈴を転がすような 虫達の声はか細く…
見上げれば 無数の星が瞬いて…
紫煙と 吐息と…
悪しきものと 善きものと…
哀しみと 悦びと…
私を成す全てが夜風に溶けて…
さらさら さらさら…
私を縛るもの全てが解けて…
秋の夜の風になる。
このまま そのまま 舞い散って…
そのまま このまま 大気に混ざり込み…
さらさら さらさら…
色づき始めた木の葉を撫でて…
家々の屋根を滑り…
唯 漫然と 漠然と舞い踊り…
秋の夜の静けさの中…
やがて 私は跡形も無く消滅する。
完全な無である自由を手に入れて。
さらさら さらさら さらさら さらさら…と。




