武骨者
「いっちょって、何?」
「闘技場でやることといえば一つだろう。
手合わせだよ」
と、シェイは腰に差していた30cmほどの槍を
取り出した。
「短っ」
30cmの槍を見てクライドは思わず言う。
「あーこの槍な、長さが自在に変化できるんだ
そんで絶対折れねー」
槍の長さを伸ばし片手でブンッと一振りして
シェイが強烈な殺気を放ち構える。
「さぁ、試合おうぜ!」
「な、何を、雑用係の自分が戦いなんて・・・!」
ととぼけてみた。
「とぼけなくて良いって魔王様から聞いてる。
戦闘力も十二分にある、使える骨だって。
そうなんだろう?」
情報漏洩よ奥さん。
仕方ない、とクライドはゴロム直伝、パックス戦闘術の構えをとった。
「へぇ、格闘術か。妙な構えするねぇ」
と完全に戦闘態勢に入ったシェイがじりじりと動く。
パックス戦闘術は暗殺や室内での戦闘を主とした
超接近戦に特化した技術だ。
広い戦場で戦うことが多いシェイにとって
初めて見る、そして奇妙な構えであろう。
クライドはシェイを改めて観察する。
戦う相手として。
持っている武器は槍だ。
先ほどの話からすると
自在と硬化の魔法で強化された槍。
ゲームの知識で考えればそれほど上等な物ではない。
武器の威力としては大したことが無いだろう。
魔王軍でそれほど地位が高くないと思われるシェイ
だからこれくらいの武器が妥当なのか?
だがどんな槍であれ、槍は超接近戦に弱いという特徴がある。
超接近戦を得意とするパックス戦闘術を使う
クライドにとって、一対一ならばシェイはカモと言える。
槍ゆえに長距離戦を挑んでくるであろうことが予想できる。
それをかいくぐり、いかに懐に飛び込むか?
これがカギだ。
「どしたい?クライド?こっちから行こうか?ソラッソラッ」
シェイが長さを毎回変化させながら
猛スピードで何度も槍を突き出す。
長さが変わることで距離感がつかめない。
非常に避けづらい攻撃だ。
たったこの動きだけでシェイが戦いに熟達した者であることが
容易に想像できる。
槍をどうにかかわしながら
これほどの実力者がパックスにいたであろうか?
とクライドは考える。
「どうした?戦いの最中に上の空じゃ大けがするゼ!」
シェイが渾身の突きをクライドの胸元へ出す。
訓練、手合わせなどというレベルではない殺す気、本気の突きだ。
「ぐあぁ!!!」
直撃は避けたものの槍はクライドの脇腹をかすめる。
「避けたか!だがかすったゾ!」
にやりとシェイが笑う。
と、、、顔をゆがめていたクライドもニヤリと笑うと
脇腹の横をかすめて通った槍に己の腕を素早く重ねる。
ちょうど脇腹と腕で槍を挟んだ状態だ。
「つ~かま~えた」
槍をとらえたクライドがニタリと笑いそのまま距離を
つめようと地面を蹴り上げた瞬間。
「ふんっ」
というシェイの気合声とともに
クライドが真横に吹っ飛ばされた。
ドシャアという音を立て闘技場の地面に
倒れこんだクライドは自分に何が起きたか
一瞬わからなかった。
脇腹を抑えよろよろと立ち上がりながら
クライドは自分に何が起きたかを理解した。
「この、馬鹿力め・・・」
クライドが槍をわきに挟み距離をつめようと飛び上がった
タイミングに合わせて
シェイが猛烈な力で槍を横に振ったのだ。
その槍の勢いをもろにうけたクライドは
真横に吹っ飛ばされた形となったわけだ。
「へへん、力比べなら負けねえよ?
ま、俺の槍をつかめる奴がいるなんて
ちょっと焦ったけどな」
遠距離では分が悪い。
しかし距離を縮めるために槍をつかむのも
難しいし危険だ。
どうすれば良い?
答えはたった一つ。
槍に触れずに超接近戦になるまで
距離を縮めるれば良い。
どうするのか?
「さすがだなー、シェイ。
正直お手上げだよ」
クライドは構えを解き肩をすくめた。
「なんだ?もう降参か?
いがいとあきらめ早いな?」
とシェイが槍を手元に戻しながら
戦闘態勢を解く。
距離を縮めるには
こうするんだ!
クライドは走破術を発動させる。
走破術というのは長距離を凄まじい速度で
駆け抜ける移動の技術に過ぎないのだが
走破術を高レベルで身に着けたクライド
にとってはそれだけの技術ではない。
戦闘時の長距離、中距離を一瞬で縮める
ことができる特殊技能として使うことができる。
しかし直線的な動きのため
相手がある程度油断していないと
迎撃されやすいという弱点もある。
シェイの油断を誘ったクライドは
その距離を一気に縮める。
シェイの驚愕の表情を浮かべた顔が目の前に迫る。
卑怯だなんだと言われようと関係あるかい!
どんな手でも使わなきゃかなわない強さの相手なんじゃい!
クライドはシェイに絡みつき関節技を決めようと
手を伸ばす。
その瞬間、シェイの手や顔から毛が急激に生え始める。
「ガァァァァァッ」
魔狼の獣人と化したシェイがその爪で
クライドの腹を切り裂こうと手を薙ぎ払う。
とっさに交わしクライドは距離をとる。
危なかった。
避けられなかったら、はらわたぶちまけるところだった。
ぶちまけるはらわた無いけど。
「卑怯とか言わねぇ、見事だ。俺が油断しちまった」
魔狼と化したシェイの口角が上がる。
笑っているのか、怒っているのか。
「だけどよう、クライド、お前さんも
最初に油断してたよな。
こいつの武器は大して威力無いって。
別に武器そのものの威力がすべてじゃねぇんだよ。
自分にあわない無駄に高威力の武器より
自分の手になじむ武器のほうが、かえって使えるんだよ。
強い威力の武器持って、俺つえーーーーーなんてのは
ガキの考えさ。
威力だけの自分に合わない武器は役に立たないどころか
いずれ身を亡ぼす。
しかし己の特徴をしっかりふまえた武器ならば
特別な威力が無くともそれは無双の武器となる」
なるほど
獣人特有のパワーとスピードと正確さゆえに
折れない、長さが変わるという槍が強力無双に働く。
そして
獣人が生まれながらに持つその爪や牙による
超接近戦能力で槍がかかえる接近戦に弱いという弱点は無くなる。
ゆえにシェイが持つ槍は
全方位全距離対応の無敵の槍と化す。
そういうことか。
「獣人は卑怯なんて言わねーでくれよ。
お前さんが、俺を油断させるために
話術、駆け引きを行い
高レベルな移動術、高レベルな格闘術
それらを全て駆使したように、
俺も全てで戦う。
お前さんはその価値がある奴だゼ」
武人
クライドにとって
短い期間だが、軽口をたたくけれどまっすぐな男という
印象が強いシェイであったが
戦いにおいては、まさに武人という言葉が似合う男という
印象も加わった。
ともあれ、そんな武人を本気にさせてしまったのは
いや~ん
ではある。
「さぁ、死合おうぜ!」
ゴォォという咆哮を上げてシェイがクライドとの距離を
一気に詰める。
シューッと息を吐きだしクライドもシェイに応戦するべく
距離を詰める。
■
ぜぇ、ぜぇ、ぜぇ
「なんだよ、お前さん、真正面からの正攻法でもつえーじゃねーかよ」
無数の傷を負ったシェイが肩で息をしながらクライドへ声をかける。
「そ、そう?」
ボロボロになり地面に大の字で倒れこんでいるクライドは
息も絶え絶え答える。
「ボロボロだなークライドォ!うはははは、久々に楽しかったぜぇ!」
もうやだ奥さん、この犬、本気で殺しにきたから参ったわ。
「そうだ、救護室にも行こうか。
実際に使いながら施設の説明できるしな。
得したなオイ」
やだ奥さん、何が得なのかさっぱりわからないわ。この犬何を言ってるのかしら。
シェイは肩を貸しながらクライドを引き起こした。
シェイとクライド、一匹と一体は、肩を組みながらフラフラと
救護室へ入っていった。
「あ、そうだクライド、魔王様からの伝言。
シェイと戦ってどんなにボロボロになってても
明日からゴリゴリ仕事させるからな。
だってさ」
ひでぇ!鬼!悪魔!この魔王!




