お骨ったぞう
「ムカつく、腹立つ、イラつく」
ブツブツブツ
クライドはブツブツと何事か文句を
言いながらイコンの屋敷へと向かっていた。
時間はさかのぼる。
魔王と初めて邂逅し、御庭番に任じられた
その日のこと。
ボニー、スケベイに
「俺、魔王様につかえることになったよーーーん。
エリートってやつ?
な、スケベイ、すごいべ?すごいべ?
なぁボニー、すごくね?すごくね?」
とウザイ対応をしているとき
イコン族の者がクライドを呼びに来た。
「魔王様がクライド様をお呼びです」
え!?もう仕事!?
入社面接受けたその日にいきなり現場につれてかれて
仕事やらされるて、とんだブラック企業じゃねーか。
という叫びは心の奥にそっとしまって。
「わかった、すぐ向かう」
呼ばれた建屋の前に行くと
既に馬上の人となった魔王が待っていた。
「骨!私は帰る、城まで馬の轡をとれ」
主人がお忍びで移動する際、先導をするのは
雑用係の役目だ。
そしてお忍びの主人のセキュリティを確保するのは
諜報部員である御庭番の役割でもある。
したがって完全にクライドの仕事である。
クライドは
「はっ!かしこまりました!」
と馬の轡を手に取り先導しようとする。
普通は
この先導のペースにあわせて移動するわけであるが
魔王は、いきなり馬の尻に鞭を打ち
全力で駆け出す。
「ちょっとちょっとぉ」
猛烈な速度で駆け出す魔王の馬。
思わず驚きの声を上げるクライド。
普通の主人ならば、従者に任せて
いきなり駆け出したりしないであろう。
しかし魔王はふつうではない。
普通の従者ならば、全力疾走の馬に
振り切られるであろう。
しかしクライドもまた普通の従者ではない。
クライドはパックスではちょっと知られた
走破術の達人なのである。
最初はいきなりのことで驚いたクライドであったが
すぐに慣れ、全速力の馬にピタリとあわせて
並走する。
「ほう、骨なかなかやる」
感心した声を上げた魔王が、さらに馬に鞭うち
速度を上げる。
「ちょっ」
クライドもどうにか速度をあげて
ついていく。
魔王居城、イデア・アリスト・プラット城。
禍々しい雰囲気を放つ城の周囲は
魔物達が住む街が形成されている。
魔王が乗る馬とそれを引く骨は
猛烈な速度で魔王城下町を駆け抜ける。
やがて魔王居城へと到着し
城門の前で、魔王は馬を飛び降り
「骨、しばしそこで待て」
そう言い残すと、城門の奥へと消えていった。
片膝をつき、頭を下げて待つクライドであったが
いつまでたっても魔王は戻らない。
「アイタタタタタタ、足がしびれてきた」
ブツブツと愚痴を言いながら立ち上がるクライド。
ふと城門を見ると
城門の前には重厚な鎧を着、槍を持ったスケルトンが
2体立っている。門番であろう。
クライドはおもむろに城門に近づき中を覗こうとする。
ガチャン
2体のスケルトンが槍を交差させ、クライドの侵入を阻む。
「んだよ、見てるだけじゃん。
同種族どうしだろー、ちょっとは見逃してくれよー」
「・・・・」
「おーい」
「・・・・」
「んだよ、無視かよ!戦闘要員じゃないからって
早速その扱いは無いんじゃね!!」
「お前さん、生成スケルトンに何一人でブツブツ
言ってんだ?」
クライドの後ろから声が聞こえてきた。
クライドが声のほうへ振り向くと
背の高い一人の男が立っており
クライドのほうを見ていた。
「生成スケルトン?」
「そうさ、お前さんのように意思があるわけじゃなく
魔力によって生み出されたスケルトンさ。
与えられた命令をこなすだけで当然ながら、意思は、ねぇ」
ロボットみたいな物かと納得しながら
クライドはひそかに戦闘態勢をとりながら
「なるほど・・・、でどちら様で?」
と油断した風を装った。
「そんなに警戒しなさんなって
お前さん、新入りのクライドってんだろ?
オレは、シェイ。
シェイ・ウォン
魔王様から、門の前にいる骨の新入りにいろいろ教えてやれって
言われてきたんだ。それってお前さんのことだろ?よろしくな!」
と、カッカッカッと笑いながら握手を求めてきた。
握手に応じながらも
自分に説明しにきたということは、ド新人では無いだろうが
幹部クラスというわけではない。下っ端だろう。
にもかかわらず
パックス時代に身に着けた、ばれない戦闘態勢をあっさりと
見破ったと思われる言動から推測される実力。
曲がりなりにもパックス最強の一角を担っていたと
自負していたクライドだがその実力は魔王軍では下から数えた
ほうが早いのではと、クライドの背筋に冷たい物が走った。
「よろしくな!」
ニカッと笑いながら握手するシェイを見て
悪い奴ではないと感じられ、そこはホッとするクライドであった。
「魔王様が言うには、"なんにでも使って良い骨"
だからってんだよ。
何から教えれば良いかなぁ・・・」
なんにでも使って良い骨て・・・・
アイテム扱いかよ、と思っていると
「おおぅ!シェイ、何やっとるかぁ!」
と快活で大きな声が聞こえてきた。
見ると巨大な二足歩行のドラゴンが
ハイスペックそうな鎧を着てこちらへ近づいてくる。
シェイもかなり大きい背丈であるがそれよりも大きい。
人間の大きさからすれば巨大であるが
ドラゴンの大きさからすれば小さい二足歩行。
ドラゴニュート族であろう。
その周りも同じくハイスペックそうな武装をした
モンスター達がドラゴニュートを取り囲むように
近づいてくる。
ドラゴニュートとその取り巻きといったところか。
ということは、もしかして
魔王4軍団の一つ、カーツ軍団、軍団長カーツ・シーヴァ。
「おぅ、オヤジィ、魔王様から直々の命令でな!
新入りに色々教えることになったんだよ。
こいつが新入りのクライドだ」
というと、シェイはクライドへ手を向けた。
「この度、魔王軍さんにおせわ・・・」
クライドが自己紹介しようとすると
カーツの取り巻きの一人である
蝙蝠のような羽が生えた(魔族か)男が冷たいまなざしを
クライドに向け、口を開いた。
「シェイ、こいつはどこの軍団所属だ?」
「お庭番だから魔王様直属だよ?」
それが何か?という顔をしてシェイが答える。
カーツとその取り巻き達は
お庭番という言葉を聞いた瞬間
あからさまに侮蔑の表情を浮かべた。
そして、蝙蝠の羽が生えた男が
「シェイ、お前は我が軍の一翼を担う者だぞ!
そんな小間使いの下賎なアンデットなんぞに時間を割く暇は無いぞ。
自覚してもらわんと困る」
まるでクライドがそこにいないかのように話をする。
イラっとしたクライドであったが
それを気が付いたのか、気が付かずかシェイが口を尖らせ
口を挟む。
「魔王様直々の命令だぜ!
前にオヤジ殿が魔王様直々の命令はどのような命令であれ
光栄なことだって言ってたじゃんか」
「魔王様直々かどうかという問題ではない
カーツ軍団所属のお前がそこの下賎な者にかかわることが
問題だと言っておるのだ」
蝙蝠の羽が生えた男がイラつくように返す。
イライラとしたクライドであったが
シェイがさらに言い返す。
「下賎、下賎っていうけどよ
常々魔王様が言ってるじゃないか
こういう戦場に出ない者達から日々情報を吸いあげ
戦略や策略に生かす必要がある。
ゆえに大切にあつかわねばならぬってさ」
「魔王様は時折わけのわからぬことを申すのさ」
忌々しいといった顔をして蝙蝠の羽が生えた男が
猛烈な威圧感をクライドへ向ける。
「キサマ、黙っておればいつまでそこに突っ立っておるのだ!
魔王様が何を言われようと、キサマが辞退すれば
シェイも時間を取られずに済むであろうが!
この愚か者が!!」
完全にイラついたクライドは言い返すことにした。
「そうやって情報や戦略、策略、諜報活動を軽視するから
人間の城一つ落とせずに被害ばかりうけて混沌に陥るんだろう?
魔王様がわけのわからないことを言う?
理解できない自分の馬鹿さ加減を他人に押し付けるなよ?」
しばらく黙りクライドを睨みつけていた
カーツが口を開く
「諜報?何をぬかすか雑魚が!!
我々の強大な力があれば、人間ごときの城一つや二つ
落とせるわ!!
魔王様のご命令がないだけじゃ!
勘違いするな!雑魚めが!」
噂通り強大な戦闘力を感じさせ
魔王に勝るとも劣らない猛烈な威圧感を発してきたが
正当性が無い、後ろめたくもないと感じるクライドは
引き下がらなかった。
クライドが恐怖を感じていないと気が付いた
カーツは憎々し気な表情を浮かべ
「行くぞ、時間の無駄だ!
シェイ、時間の無駄も時には必要だがほどほどにせいよ」
と言い残し去っていった。




