隣の骨は何する骨ぞ?
「あの子、大丈夫かしら・・・」
部屋の窓から外を見ているシーノは、ふぅと
溜息を一つ漏らした。
「かしこまりました!!クライド・スケルター
謹んで魔王様の御庭番務めさせていただきます!!」
魔王様のご情愛を受けている私に気を使って
お庭番なんて役割を引き受けた、あの子。
私という存在は
あの子の重荷になっているんじゃないだろうか?
私はあの子へ魔王軍で羽ばたけと言った。
それもあの子の重荷になってるんじゃないだろうか?
私はあの子の足をひっぱってるんじゃないだろうか?
私のせいで
魔王軍の大将になれるはずのあの子を
お庭番という、身分不確かな地位に
押し込めてるんじゃないだろうか?
魔王様に聞いても
「順調だ」というだけでその他は何も言わない。
クライド本人は、雑用係だから暇がいっぱいあると言い
ちょこちょこ、この屋敷に戻ってきて
私に珍しい品物をお土産だとくれたりして気を使う
相変わらず良い子。
でも
兄たちとこっそり話して
そしてイコン族数人とどこかにでかけて
数日、時に数カ月戻ってこないこともある。
ナグル族と連れ立ってでかけることもある。
あの子にどこに言ってたのかと聞いても
「旅行へ」「お使いに」「野暮用で」
とか
「ちょっと旅先でお腹が痛くなったので」
とか
「出先にかわいい子がいたんでつい長居しちゃって」
などと濁す。
私が想像していたお庭番、雑用係ではない
大変なお仕事をしているのはわかる。
他のイコンの者との会話で
「火をつける・・・」
「陥れる・・・」
「失脚させた場合・・・」
「消した場合の影響は・・・」
など漏れ聞こえてくる言葉で
悪辣な謀議、謀略にかかわっていることくらいは想像できる。
とはいえ
謀略を悪し様に言うつもりは毛頭ない。
そもそもイコン族は諜報活動で生計を立てている一族だ。
それに謀略によって救われる多くの生命がある。
とは、魔王様の言。
大切な仕事だ。
しかし厳しい世界ではある。
あの心優しい子が、そんな世界についていけるのだろうか?
私の言葉に縛られて
人知れず傷ついているのではないだろうか?
そもそも、そんな心配をすることが
お節介ではないのか?
それこそがあの子の足を引っ張ているのではないか?
「ふぅ」
シーノはもう一つ溜息をつき
心配はつきぬが、考えても仕方がないことかと
最近飼い始めた小鳥のンマガイくんに声をかけた後
横になった。
■
あの日、クライドは
「魔王様に仕えることになった」
と言い、イコンの屋敷を出て行った。
帰ってきたばかりなのにまたお別れか
と寂しく感じたボニーだが
クライドはちょいちょい帰ってくる。
「寂しがった気分かえせ」
帰ってくるとイコン族党首エイト様と
何か難しそうな顔をして話をしているのを見かける。
その後、どんだけ忙しそうに見えても
シーノさまのところにはかかさず顔を出す。
その癖
アタシとスケベイのトコには顔も見せやしない
ことがある。
シーノさま、シーノさまって何だい。
鼻の下ごにょーって伸ばしてるに決まってるよ。
ボニーがぶつぶつ言いながら庭の掃除をしていると
「よぅ、ボニー」
聞きなれたいつもの声が聞こえる。
ボニーは
「クライド!」
というはずんだ声とともに笑顔で声のほうへ振り向く。
「シーノさまいる?」
瞬く間に不機嫌な顔になったボニーが
「エイト様は奥の部屋にいるよ」
「エイトさんとはもう打合せ済だよ
シーノさまだよ、シーノさま。
いる?っていうか魔王様いないよね?」
「シーノさまはお一人で部屋にいるよ。
あんまり体調良くないから気を付けなよ!
っていうか鬼のいぬまにナントカかよ!」
「鬼じゃなくて魔王様のいぬまにナントカだよ。
なんだよ、ボニーつれないなー
シーノさま体調悪いって聞いたから
元気が出る食べ物を届けにきただけだって
んじゃーね」
片手を軽く上げ、シーノの部屋へ去っていくクライド。
ボニーは、その背中を見送りながら
「なんだよ、魔王様の威圧で砕けちまえ」
と悪態をつき掃除に戻った。
それから間もなく、ほとんど時間もたたず
クライドが戻ってきた。
「あれ?シーノさま寝てたかい?」
「いいや、起きてたよ」
「それにしちゃ戻りが早いじゃないか。
いっつもグダグダするくせに」
「だから言ったじゃん、
元気が出る食べ物を届けにきただけだって。
んじゃーね」
と片手を軽く上げ屋敷から立ち去ろうとするクライド。
「あ、そうだ忘れてた」
ふいに立ち止まりクライドはボニーへ近寄る。
「な、なんだい急に・・・」
「はい、これ、ボニーに」
クライドが差し出した手には
美しい装飾がついたチョーカーがのっていた。
「あ、アタシに?」
「そう、
他のみんなへのお土産は忘れちゃったから
俺たちだけの秘密。内緒な」
そう言うと、いたずらがみつかった子供のような
表情をして
「じゃ、ボニーまたな!」
と今度は本当に立ち去った。
ボニーは、真っ赤な顔をして、チョーカーを握りしめ
いつまでもそこに立っていた。
■
いつの間にかイコンの屋敷を出て行ったクライドさ。
そしてたくましくなって戻ってきたクライドさ。
今度は魔王様のお手伝いをするようになっただ。
魔王様のお手伝いをしながらも
この屋敷にちょこちょこ戻ってきてる。
オラにも気を使って声をかけてくれる。
クライドさがイコンの屋敷に来たときは
オラのほうが先輩だったども
いまやクライドさのほうが偉いだ。
いや、オラとの関係だけじゃね。
イコン族の党首であるエイト様。
オラ達にとっては仕えてる主人だ。
クライドさにとっても最初はご主人様だっただ。
けんど
いつの間にかエイト様と同等にしゃべって
何か指示をしてるだ。
エイト様もクライドさとしゃべる時は
党首の威厳ある雰囲気じゃなく
同志のような対等な雰囲気でしゃべってる。
すごいだ。
すごい骨だ。
どうやったらそんな大胆に動けるだか。
どうやったらそんなうまく他人とつきあえるだか。
どうやったらこの世界を強く生き抜いていけるだか。
オラだって本当は
クライドさのように羽ばたきたいだ。
オラだって本当は
クライドさのようにこの世界を縦横無尽に走り回りたいだ。
オラだって本当は
クライドさのように人々を率いてみたいだ。
けんど
臆病なオラは、なんもできねぇ。
臆病なオラはイコンの屋敷で掃除するだけだ。
臆病なオラはクライドさに憧れるだけだ。
臆病なオラはやってみたいと思うだけだ。
神様、ほんの少しで良いから勇気が欲しいべ。




