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骨、消す

きなくさい

ドーガ領最大の規模を誇るナブの街。


ドーガ家穀物管理課の朝は早い。


穀物管理課は、各地から持ち込まれる小麦などの穀物を

産地、消費期限などで分類しドーガ家領内にある倉庫に

運搬するための手配を行う役所だ。


小麦相場の高騰でここ数カ月は各地から大量の小麦が

持ち込まれる。


業務を滞りなく行うため、そして上からの素早く行えという

指示もあり今は小麦専従の担当者を置いている。


朝早くから夜遅くまでの激務であるため若い役人が

担当することとなった。



ドーガ家穀物管理課ヌシグス・ツイコ。

20代の若者だ。


管理課の仕事もだいぶ覚え運搬を行う業者や

小麦を取り扱う商人達とのやり取りも円滑に

行えるようになった。


そのため今回の仕事に抜擢されたわけだ。


小麦専従は一時的なもので、これが終われば一つ上へ

出世し部下数人を持つことができるぞ。

とはヌシグスの上司の言葉だ。


仕事は充実してると言えよう。

そして、私生活も充実している。

長くお付き合いしている恋人のコナウ・コフと

このたび婚約した。


仕事に私生活に順風満帆といったところであろうか。


ここ最近は管理課の部屋の戸締りはヌシグスの仕事だ。

残業でいつも遅くなってしまう。

それでもヌシグスが仕事に手を抜くことは無い。

明日の運搬手配の書類と実際の荷物のチェックを

入念に行う。

そして、翌日のための準備も怠らない。


管理課の建屋を出たのは日もすっかり暮れた夜であった。


管理課の建屋を出て、数分歩き到着した

それほど大きくない長屋の扉をノックする。


ガチャリと扉があき、ごく普通の若い女性が顔を出す。

ヌシグスの顔を見るとニッコリ笑い

「おかえりなさい」

と部屋に招き入れる。


婚約者のコナウだ。


「あー今日も疲れたー」


「お疲れさま」


とテーブルに暖かいシチューとパンが出される。


「疲れたけど今がんばれば一つ出世できるかもしれない

って上司が言ったんだ。だから俺がんばるよ」


「がんばるのは良いけど体にはくれぐれも気を付けてね」


「あぁ、でも頑張るよ。子供もたくさん欲しいからね!」


「もぅ」


あはははは、うふふふふふ。


部屋からはとても楽しげでとても暖かい笑い声が

聞こえてくる。




ヌシグスの家からそっと離れる人影が一つ。

凡庸な顔をした男。


そう人間に擬態したクライドだ。

クライドは足音を立てず素早く家から離れていった。




ナブの街はずれに位置する小さな宿『何て骨亭』。


クライド、ゴロム、ワンの3人がそろって話ている。


「ゴロム、どうだった?何か妙な動きはあったか?」


「いえ、特にありませんでしたね」


今回の任務は罠の危険もあるため役割分担をしていた。


クライドは、暗殺ターゲットの情報収集。

ゴロムは、罠を警戒してクライド周辺の監視。

ワンは、その他裏社会もふくめた情報収集。


「そっか、罠は無しか。

こっちもターゲットに特筆する動き無しだ。

朝早くから職場に出て、夜遅く家に帰り婚約者と過ごす。

これの繰り返しだ。

職場関係者以外の誰かと接触する気配もない。

あの役人を消して意味あるのか・・・・」


罠かもしれない。

意味が無いかもしれない。

そんな思いがクライドに任務実行を躊躇させていた。


そこへワンが口をはさむ。

「どうも、複数の連中に暗殺の任務がいってる

らしいんでさ」


「複数の連中?」


「へい、俺たち以外の魔王軍非所属の連中やこの街の

闇社会の連中です」


「ドーガ領にいる人間にも暗殺の任務が出てると?」


「そうらしいでさぁ」


競争させているのか?

そんなことすれば焦って任務が荒くなる。

失敗する恐れだってある。

大っぴらに暗殺とわかるのも良くはない。


なぜだ・・・?



「のんびり構えてる暇は無い、か。

しかし暗殺と明確にわかるようにするのは危険だ。

かといって全然わからないようにするもダメだ」



「じゃあどうするんで?」



「首つって自 殺したようにみせかけるか・・・」


「そうですね、仕事や私生活が充実した人間が自ら死を

選ぶのは不自然ですから暗殺の線を匂わせることも

できますね」



「よし!実行は明日の夜だ。ゴロムは変わらず監視を頼む。

ワンはゴロムからさらに離れたところで

バックアップを頼む。念には念だ」




今日も夜遅くドーガ家穀物管理課からヌシグスが出てくる。

部屋に鍵をかける。本日も最後の戸締りだ。


いつもの道を帰宅する。

その角を曲がればコナウが待つ家だというところで、

物陰へ何者かに引きずり込まれる。


暗闇のため何も見えず素早く口元を押さえられ、

ヌシグスは声を出すことが出来ない。


その首に太いロープがかけられるや否や

ヌシグスは何者かに仰向けに背負われる。


みるみる首にかかったロープがしまっていき

息ができなくなる。


しばらくピクピクと動いていたが、やがてヌシグスの

身体から力が抜け落ちる。


ヌシグスの首にロープをかけ、背負っていた

クライドの耳元に最後の息が漏れる音が聞こえた。

「コナウ・・・」

と聞こえたのは気のせいか。



クライドはロープを高い位置に括り付け

吊るされたヌシグスの足元に椅子を倒しておき

首吊りの偽装をした後、その場を離れる。





ゴロムとワンが待つ場所へたどりつく。


「妙な動きは何もありませんでした」

というゴロムの報告を聞くとクライドは


「行こう」

と声をかけた。



「暗殺実行後の動向を見届けなくて良いんで?」


「今回の任務は意味なんてないよ。見届けるだけ無駄だ。

それにそっから先は見たくない」



クライド達はパックスの砦へと戻っていった。






パックスの砦へ戻りシックスへ任務を報告する。

罠かもしれないという緊張感と無意味な任務である

という倦怠感か、いつもと違う静かな任務報告であった。






数日後、パックスにドーガ領ナブの街で起きた

暗殺任務に関する驚きの情報が届けられる。


クライド達が暗殺任務を実行してから数日後に

穀物管理課の役人達が次々と同時多発で死ぬ

という事態が起きた。


中にはあきらかに何者かによる他殺とわかるものもあり

ドーガ家は魔王軍による犯行と発表し、あわせて

ここ数カ月の小麦相場の高騰も魔王軍による

意図的な物であるという声明も出した。


これにより周辺諸国の魔王軍に対する敵意と

ドーガ家の警戒レベルが上昇し策による切り崩しが

一段と難しくなってしまったと言える。









魔王軍領内、魔王の居城イデア・アリスト・プラット城。


魔王城内謁見の間、玉座、真白い全身鎧をまとった者

―魔王サウロ・ノヴァ―

が玉座から立ち上がり怒声を発する。


「おのれぇ!!!ラ・モンド!!

くらだぬ策を弄したのはキサマか!!!」



玉座の前に4侯爵と呼ばれる魔王軍最高幹部である

4人の魔物がかしずき控えている。


白銀の全身鎧をまとった魔王軍筆頭である

ラ・モンドの表情はわからないが、

恐怖で小刻みに震えているのはわかる。


「はっ!配下の手の者が勝手に行ったようで」


「配下のせいなどと言い訳するか!モンドォ!!!」


「も、申し訳ございません!」


ラ・モンドは一段と深々と頭を下げる。

その横に同じく頭を下げているドラゴニュート

―カーツ・シーヴァ―が気づかれぬようにと

頭を下げたままニヤリとほくそ笑む。


その隣でやはり頭を下げているハイアンデット

―ジュード・アーク―は、無表情を装っているが

目元の緩みは隠せない。



「カーツ、そんなにモンドの失敗が嬉しいか?

ジュード、何か痛快なことでもあったか?」


魔王は冷ややかに二人の幹部へ声を掛ける。



カーツはびくっと震え深々と頭を下げる。

ジュードも額に汗をにじませ頭を下げる。


「自分は関係ないか?モンドがしくじってもキサマらが

フォローすればよかろう!!

キサマらに笑う資格があると思っておるのか!!!!」



「もう良い、親衛隊を出して一気に力攻めする」


「お待ちください魔王様!罠の恐れがございます!

力攻めを我々、ラ・モンド軍にお命じください!

それが叶わぬならば、力攻めならカーツへご命令を!」


「やかましぃ!!キサマらに任せておるから

これほどドーガ家攻略に手間取っておるのだ!」



そう怒鳴ると魔王は謁見の間から立ち去って行った。



「ま、手違いは誰にでもある、気を落とさぬことじゃ」

ジーク・ハイムはラ・モンドの肩をポンとたたき立ち去る。


ラ・モンドも、はぁ、とため息一つつき謁見の間を去る。


続いてカーツが身体を起こし、いまだに顔を伏せたままの

ジュードを一瞥し、ふんっと一声かけ立ち去った。



最後に謁見の間に残ったジュードは

魔王が去った後にも関わらず、頭を下げたままだ。

そして身体は小刻みに震えている。


恐れ震えているのか?泣いているのか?


違う


「ふ・・・ふ・・・ふふふ、ふはははははは」


高笑いを上げるジュード。


「ベルザさん、あなたの希望通り魔王に親衛隊を

出させましたからね、ふははは」



「それにしてもベルザさんには困った物です。

たかがイコン族の娘一人のために魔王様をはめよう

とするのですから、ふふふふ」



「ふはははははは」


やっぱりきなくさかった

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