骨、警戒す
おだいじに
クライドはシックスの部屋に呼ばれた。
シックスの部屋に呼ばれるときは特殊な任務、
厄介な任務であることが多い。
今回も例にもれず厄介な任務であった。
「忙しいとこ、すまねぇな。任務の話だ」
「部屋に呼び出すってことは厄介な任務なんでしょ?」
「うはははは、正解。厄介というよりは、
説明が面倒な任務だ。任務そのものは別に
厄介じゃないぞ。暗殺だから」
さらっと物騒な言葉出しますね、大将。
パックスは破壊工作なんかも請け負うから暗殺だって
当然するんだけど、いざその単語が出てくると
嫌な感じがするね。しかも別に厄介じゃないとか言うし。
クライドの表情に何を感じ取ったのかシックスが
言い訳のように任務の説明をし始める。
「先日、オメーらがドーガ家の小麦相場を
高騰させたよな。あれ以来、小麦の値段が落ちねーんだよ。
ほんで魔王軍も含む周辺諸国に影響が
出てきてるらしくてな」
やべぇやりすぎたか?と思っていると
どうやら違う事情のようだ。
「聞いた話によると魔王様、お怒りで取り乱してる
らしくてなちょっとおかしくなってるレベルらしいぜ」
「ちょっとおかしくなってるレベル・・・」
組織のトップである魔王が、ちょっとおかしくなってるって
ただごとじゃないのだが?
「そうなんだよ、小麦の値段が魔王軍にも影響が出始めた
って報告を聞いた瞬間『おのれ!!"混沌者"め!!』
って叫んだらしいぞ。
俺たちに怒るならわかるんだけどよ~、
"混沌者"関係ねーべ?
それで、ちょっとおかしくなってるとみんな
思ってるわけさ。
それでまぁ、ドーガ家で小麦の出入りを管理してる役人が
バカだからそれを暗殺して少しでも小麦の高騰を
抑えようって任務だ」
怒りで取り乱してるかもしれないけど
魔王様は、おかしくなってるわけじゃない。
現代人のクライドには容易に理解できることだが
これは経済戦争だ。
小麦の値段が落ちない理由は役人がバカだからじゃない。
バカならあっさりと値段は落ちるはずだ。
下がらないではなく小麦の値段をわざと高値で
維持してるんだ。
目的は何か?
想像に過ぎないが、ドーガ家の小麦の値段を高値で
維持すれば、周辺諸国の小麦はドーガ家に集まる。
普通であればそれでドーガ家の小麦相場の値段は下がるが
意図的に小麦を外に放出しないようにして
相場を下げないようにすればどうなるか?
周辺諸国から小麦が無くなり周辺諸国も小麦相場が上がる。
ドーガ家は、小麦相場は高いが小麦そのものは持っている。
周辺諸国は、小麦相場が高く、小麦も不足。
という状態になる。
いわばドーガ家から周辺諸国にしかける壮大な兵糧攻めだ。
魔王様は、『おのれ!!"混沌者"め!!』と叫んだ。
つまり魔王様は経済戦争を仕掛けたが、
それを逆手にとられてしまった。
その首謀者が"混沌者"であることを魔王様は知った。
ゆえに
『おのれ!!(全て裏で手をひく)"混沌者"め!!』
魔王様は気が変になったわけじゃない。
まてよ、ということはだぞ、背後で"混沌者"が
指示しているわけで表に顔を出している下っ端役人を
殺したところでこの兵糧攻めは、何も変わらない。
ただ担当者が変わるだけで、引き続き兵糧攻めが
行われるだろう。
ならば、この暗殺任務無駄ではないか?
何かおかしい。
役人がバカだから?
違う!バカは暗殺任務を出したこっちだ。
魔王様がそんなバカな無駄任務を指示するか?
クライドの脳裏に違和感と警報が鳴り響く。
「大将、この任務ラ・モンド軍からの依頼ですか?」
「ん?おう、そうだが?何か問題でもあるのか?」
「任務を受けた時、何か変な感じというか
いつもと違うというか、そんな違和感を感じたりは
しませんでしたか?」
「どしたよ?急に」
シックスはおちゃらけようとするが
クライドの真剣な眼差しを受けまじめに考える。
「今回の任務、いつも担当してくれるデグさん
じゃなかったな」
「いつもは、そのデグさんなんですか?」
「決まりではないんだけどよ、
デグさん、デグ・ノボーという名前なんだが
身体がでっかい悪魔族でな。
身体がでっかい同士、気が合うってんで
ラ・モンド軍が俺たちに仕事を投げるときゃ
デグ・ノボーさんが担当してくれるんだよ」
(なんちゅう名前や・・・)
「それが、今回の任務は違った?」
「おぅ、フードをかぶって顔全体は見えなかったんだが
口元は真っ青だったな・・・。
・・・ハイアンデットだな」
フードをかぶった青い顔した者。
クライドがこの世界に来た時に襲われた者と同じ容姿だ。
クライドの脳裏に警報がガンガン鳴り響く。
「大将、そいつと次に会うのはいつだ?」
「次は無ぇ」
クライドと同様にシックスの顔もどんどんと
険しくなっていく。
「次は無いってどういうこと?」
「普通は任務完了後の報酬支払が次に会うタイミング
なんだが今回の任務は報酬完全前払いだった。
つまり会うタイミングは無ぇ」
「大将、報酬前払いというのは普通なの?」
「いいや、基本は任務完了後の後払いだ。
ほとんどは成功報酬だからな。
たまに諸経費として一部前払いということがあるが
それでも完全な報酬は後払いだ。
ましてや暗殺任務なんて成功と失敗が明確な任務だから
絶対に後払いだ」
いつもの担当者ではない。
暗殺任務にもかかわらず以降の接触ができないように
報酬前払い。
そしてハイアンデット。
これほど怪しい事例にもかかわらずなぜシックスが
あやしまなかったか?
魅惑
魅惑の魔法は、相手を親友と思い込ませる魔法だ。
初歩的な魔法であり、シックスであれば容易に
抵抗できそうだが
術者が高レベルであり、疑う理由が少なければ
シックスクラスですらいとも簡単にかかってしまう。
使いどころを選ぶと強力な支配魔法だ。
「くそっアンデッド野郎が!
次あったらただじゃおかねー!!」
もちろんこれらは推測でしかない。
ハイアンデットは必ずジュード・アーク軍所属で
ラ・モンド軍にハイアンデットがいないとは限らない。
・・・極めて怪しいが。
ということでクライドとシックスは罠かもしれない
という警戒はしつつも任務は行うことと決定した。
「下っ端役人の暗殺任務程度なら大したことねぇから
普通のチームを組もうと思ったが、状況が変わった。
出来る限り最強の布陣で任務を行う。
クライド、おめーもメンバーの一人だからな」
ほどなくしてシックスの部屋には
潜入任務の達人、ゴブリンのワン・パックス。
パックスオールマイティ、オークのゴロム。
そしてクライドの3人が集まり
シックスを合わせた4人が
いつになく険しい表情で打ち合わせを行っていた。
きなくさくなってきた




