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~裏舞台~末妹姫はめげない

”今日は気分が優れません”


そう言われ、彼女が門前払いをもらうのは今日が初めてではない。


(うそつき。きょうも、ですわ)


胸中で物申しながらも顔は笑みを作って彼女はゆっくりと腰を下げた。頭を下げてはいけないとマナー講師にしつこく言われているので、そこだけは強く意識していた。


「こう何度も訪れては姉殿下も休まりませんよ」


「なに?いけないというの??」


「程々に、と申しております」


彼女に指摘をする侍女は城に遣えて長い。既に結婚も出産も終え、それでもまだ働きたいという意志を貫き、皇妃直々の推薦で再度城に上がってきたのだ。そのため、幼いとはいえ姫殿下に口を出す猛者の一人でもあり、それ故自我が強くなってきた末妹姫のお世話係も務めていた。


「エルリーシア殿下が姉殿下方を想う気持ちは十二分に分かります。ですが、毎日来られては付いている侍女達も困ってしまいますよ」


「、、、わかってますわ」


つい先程まで小さな黄色い花を大事そうに包んでいた空っぽの手を見つめて、エルリーシアは渋々と頷いた。明らかに落胆した小さな背中を見守りながら、最近大人びた口調の末妹姫に、周囲は扱いに困っていた。


まだ日は浅い。城内の庭で民が愛するダヴォリア帝国の聖女クラウディア第二皇女が魔物に襲われたあの日から、エルリーシアは変わった。末の皇女ということで、皆に可愛がられ甘やかされで、さぞ我が儘に育つと思いきや、あの日をきっかけに彼女は皇女であることを意識し始めたようだった。

未だ拙い点はあるが、皇女としての振る舞いや学への意欲に燃えるエルリーシア。そして短い期間でありながらも、彼女はその幼い姿を利用した”諜報”の才能を開花させていた。周囲は幼いから、子供の戯れ、まだ理解できないだろうと、エルリーシアの前では口が軽い。そういう浅はかな輩に彼女は無邪気の問うのだ。”どうして?”と。

彼女の”素朴な”問いに堂々と自供する彼等をすごいすごいと、手を叩いて賛美するエルリーシア。そして彼等の”自慢話じきょう”を皇族みうちの晩餐でまた”子供の戯れ”として報告するのだ。

その姿が、色が違えども母エレメントルート皇妃の影が色濃く出ていると気付いているのは、恐らく皇妃自身にも遣えたことがある長いこの侍女だけだった。


だが、やはり彼女はまだ幼い。クラウディアに続き、絶対的な存在であった第一皇女フロリアーナまでもが深手を負って床に伏せっている今、明るく振る舞おうとしているがまだ遊び、甘えたい気持ちはあるのだろう。

聞き分けが良いふりをして、エルリーシアは毎日皇妃の庭々から花を摘んでフロリアーナの部屋へと見舞いに訪れる。本来であれば都度皇妃に申し入れをしなくてないけないが、皆黙認している。甲斐甲斐しく毎朝早くに姉のための花を選ぶ小さな背中を、軽率に否と咎める者は城にいなかった。


「明日は大きな花に致しましょうか」


「!そうねっ、めいあんですわっ」


おねえさまのふいんきにぴったりよ、と曇った顔から一瞬で花開いた笑顔になったエルリーシアに、侍女はポケットから小さな箱を取り出す。跪き、日々の花摘みのせいで皇女らしからぬ姿になったエルリーシアの小さな手指に、そっと軟膏を塗る。

また何か言われるのかとエルリーシアは身構えたが、侍女は事を終えると静かに立ち上がった。


「参りましょうか」


「、、、えぇ!」


何も言わない彼女の優しさに、エルリーシアは溢れ出そうな涙を堪え”いつものように”笑みを作った。

箝口令は発せられているが城内の空気は重い。頼りの騎士団長は先日は帝国を去り、同じくして隣国の聖女も姿を消した。今、ダヴォリア帝国は国内外共に厳しい状況だった。希望が、光が、民を支える癒しがない。

ならばと決意するも自身が相応しいかと考えてしまい、時折自分を見失いそうになるエルリーシア。だが、静かに、常に”侍女かのじょ”が傍らにいる。それだけでなんと心強いことだろうかと、エルリーシアは改めて胸に刻んだ。


「セシア、あしたもはやくおきますわよ!」


「仰せのままに」


名が近い侍女を連れ立って、末妹姫はめげずに明日も花を摘む。愛する上の姉のために、下の姉が愛する民のために。そして、皇族に生まれたからこその”帝国くに”のために。

本当にお久しぶりになってしまいました。まさかの1年もの間が空いてしまうとは。申し訳ない気持ちで一杯ですが、続けたい気持ちも残っており性懲りも無く投稿してしまいました。

その上で閑話なのが大変恐縮です。

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