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”龍王”と”建国王”

いつもお読みいただきありがとうございます。今回は、否応なしに説明文です。長いです。チェーザレとカーリンがお話しているだけです。


ーーー魔物襲撃の翌日ーーー


朝一でリッカルドに紅茶を入れさせてから、カーリンを呼び出した。カーリンは入国初日のような黒いローブ姿で執務室に現れた。新しく仕立てたドレスは昨日の戦闘で使い物にならなくなり、他の皇族と揃いにしたドレスは相応しくないとどこぞかの貴婦人に陰口を言われ、箪笥の奥にしまい込んだらしい。


「下がれ、しばらく誰も通すな」


「、、、承知致しました」


強い口調にならないよう事務的にリッカルドへ命令すると、彼は少し考えてから焼き菓子の皿をテーブルに置いて退室した。俺はリッカルドがいなくなるのを確認してから、用意された焼き菓子を隅へと片付ける。今のカーリンに、もてなしなど不要だったし、カーリンもそこは弁えていた。出された紅茶に口もつけずに、俺を待っていた。


「さて」


俺は紅茶を一口飲み、口を開いた。それにカーリンはゆっくりと瞬きで返してくる。まるでカーリンと再会した日のようだった。だが、あの時とは違う。どこから聞こうかなんて思っていない。遠慮もおふさげもなしだ。


「昨日の襲撃は想定内か」


「いいえ」


「あの巨大な魔物と剣が効かない魔物の正体は知っていたか」


「いいえ」


「お前が生んだあの不死鳥、あれがクラウディアを守っていた。それはお前の想定内か」


「、、、いいえ」


「今躊躇した理由を話せ」


罪人の尋問よりは生ぬるい。だが、何一つ見逃す気もないし、誤魔化されるつもりもない。詰まらせた部分を問い詰めるも、カーリンは言葉を選んでいるようだった。


「質問を変える。あの不死鳥は、誰を守るものだった」


「、、フロリアーナ殿下よ」


「本当に、それだけか」


「それは、、、」


「フロリアーナ殿下を守るためだけに、あの夜、あんな派手に不死鳥を生み出したのかと聞いてる」


そう。あの夜にカーリンは派手にやらかした。あの場に居たものだけでなく、帝国中に自身の存在を知らしめるかのようにだ。その理由は口喧嘩であやふやになってしまった。仲直りした日も、第三の仲間の話やリッカルドのせいで話が途中になったままだった。あの時はそれでもいいと思っていた。いざというときは、どうにかなると思っていたし、どうにかする気もあった。

だが今は違う。昨日で身に染みた。ただチートだけでこの”物語”は”ハッピーエンド”にならない。もっと深いところに”フラグ”があり、それを正しく回収しないと、また昨日のようなことが起こる。そうどこかで確信していた。


「あの夜」


ゆっくりと息を吐いてから、カーリンは口を開いた。


「不死鳥を派手に生んだのは”北国の聖女”の加護が、皇族にあるということを知らしめるつもりだった。同時に、皇太子の私に対する疑念も晴らす目的もあったの。彼は警戒心が強く、私の見た目や力でも心を開いてくれないと思ったから」


「当然だ。だからこそあの人は帝国の皇太子でいられる」


「だから、フロリアーナ殿下から取り入れば彼を守れると思ったの。でもそれだけじゃない、本物の役者を見出すためでもあった」


「役者?」


「、、、長い話になるわよ」


「結構。いくらでも付き合うさ」


話を続けるように促すと、カーリンはようやく紅茶に手をつけ、語り始めた。それは、ダヴォリア帝国に伝わる建国伝説の話から始まった。



ーーーーーーーーーー

世界は獣で支配されていた


良き獣は、誇り高き龍王の下に集い、

悪しき獣は、混沌を好む魔王の下に集った


二人の王は対立し、

戦いは長きに渡り、土地は荒れ、

王たちの下に集った獣の多数が死んでいった


”どこかで、戦いを終わらせなくてはいけない”


そう訴えたのは、新しい獣「人間」だった


「人間」は他の獣とは違い魔力と宿すこともなく、肉体も貧弱

敵を切り裂く鋭い爪もなく、肌を守る体毛すらもない

すぐに絶えてしまう種族だった


しかし、「人間」には他の獣にはない長けた知力があり、

戦いを終わらせようと模索しながら、辺境の地で生き永らえていた



龍王は辺境の地に赴き、「人間」に問うた

”なぜ、生き永らえるのか。お前たち人間は、とても弱く、すぐに滅びてしまうではないか”


早々に諦め、世界から退場すべきだと、示唆するつもりがあった

死をも連想する紅い瞳に魔力を乗せ、龍王は小さな存在の「人間」を強く見下ろした


龍王の足元に立つ淡い金色の瞳をもつ「人間」は龍王に答えた

”弱いからこそ、どこまで強くなれるのかを知りたい。そのためには早く戦いを終わらせ、その後も子孫が生き残る必要がある”



龍族は、子どもが出来にくい体質だが、永生の魂を持ち、めったに死ななかった

その上、魔力と肉体は他の獣と比べて圧倒的な上位であり、長年の知慮もあり、

他の種に命を脅かされることもなかった


そこに胡坐をかき、子孫を残すことに怠惰的になっていた龍族は、

長い戦火で若い個体が消え、今では古参の龍が数頭残るのみであった

それも天の導く一つの道、戦いが終わるまで持てばよい、と龍王は思っていた

戦いの後の世界など、考えたこともなかった


龍王は、戦いの後「人間」がどうなるのか、知りたいと思った

「人間」の知識と命への貪欲さに惹かれたのだ


龍王は再度「人間」に問うた

”この戦いを、終わらせたいか”


「人間」は答えた

”争いは嫌いだ。早く終わらせる為に戦ってくれるのなら、共に手を取れる”


龍王は「人間」の手を取り、戦いを終わらせることにした



龍王始め良き獣の武力を以て、

「人間」の知力を以て、

魔王は力を大きく削がれ、かの地に封印された


長きに渡る戦いが、ようやく終止符を打ったとき

最初に龍王の問いに答えた「人間」は、寿命が尽きる頃であった


龍王は「人間」に問うた

”私の血を飲めば生き永らえる、生き残りたいか”


「人間」は答えた

”私は人間の中でも長く生きた方だ、血を与えるなら新しい命にしてほしい”


「人間」は、「人間」がつくった「国」の王だった

龍王は「王」の意に沿い、自身の血を王の子たちに飲ませた


第一子の王女は、強い魔力を

第二子の王太子は、強靭な肉体を

第三子の王子は、世界の果てまで見据える眼を得た


龍王は「王」に問うた

”戦いは終わり、私も深い眠りにつくだろう。再び災いがもたらされたとき、同じくして手を取り合うことは可能か”


「王」は答えた

”我が子孫が残っていれば可能だ。だが、災いは我ら人間が起こすかもしれない”


龍王は少し待ってから「王」に笑いかけた

”その時は、私がお前たち人間を喰ってやろう”


「王」は龍王に笑い返した

”喰われぬように努めよう”


龍王は長い首を折り、強い魔力を秘めた紅い瞳で寝具に横たわる「王」を見つめた

「王」は、細いものがより細くなった腕を伸ばし、龍王の瞳に手をかざす


「王」は龍王に言った

”美しいな瞳だ、ずっと見ていたい”


龍王は「王」に答えた

”望むのなら、お前たちに向けていよう。永劫の先まで”


「王」は答えなかった

その代わりに、口元で笑みを作り淡い金色の瞳で龍王を見つめ返す

やがて、淡い金色は生気を失い、瞼が閉じられた


力を失い、細い皺だらけの腕が落ちていくのを、龍王は紅い瞳で追う


王の子たちが「王」に泣きすがり、「国」中が悲しみに満ちていく様子を感じ、

龍王は悟った


これが「死」か、と


長い時を過ごし、戦火の中、多くの命が消えていくのを見ていたはずなのに、

死は、地に、天に還るだけと思っていたのに、


もう一度、あの淡い金色の瞳で見つめ返してほしいと、

叶わない願いを胸に抱き、亡き「王」を見下ろしていた



龍の血と父の意志を引き継いだ王子たちは、

龍王から授かった力を以て、「人間」たちを治めていった


やがて、「国」は大きくなり、龍王と建国の王を称えた城を立てた

城の正面は龍王が眠っているといわれる遥か南東を向いている


龍王が「人間」をよく見えるように

「王」が龍王を見つめ返せるように

決して自分たち「人間」が災いを起こさないよう戒めを込めて

ーーーーーーーーーー


「こうしてダヴォリアは龍王の加護の下、繁栄し、大陸の半分は占める大国までになった」


「帝国に生まれたものは子供の時から聞かされる、有名な伝説の建国物語だ。だが、実話でもある」


「そう。この伝説を真実たらしめる存在が”貢献者”」


「長い歴史の流れで血は薄れたが”貢献者”がいれば、龍王の加護の証明となる」


「なら、不思議だと思わない?分家や妾、もしくは身分違いの仲で生まれた血統の子孫たちは、少なからず力を現しているのに、直系であるはずの皇族にはその力が見られない」


「それも血の薄れだと。だからダヴォリア帝国はかつての実力主義ではなく、血統主義へと変わってきている。歴史が古ければ、そんなことも起こりうるだろう」


「文化や主義の変化について疑問はないわ。ただ、本当に皇族には何も力がないだけと言い切れるのか、ということ」


「どういうことだ」


確かにカーリンの言う疑問は、一度は誰しも抱くものだ。だが、現在の皇帝や皇族らの行いに大きな疑問や不満を持つ民はいない。それは彼らの見目がまさに皇族の証を示しているからだ。淡い金色の瞳。現皇帝も皇太子も同じ色を持つし、伝説に出てくる建国王と同じであれば、誰も疑問には持たない。それほどまでに皇族の色には力があり、”貢献者”ら含め帝国民は皇族に対して絶対的な忠誠があった。


「建国伝説の話の中で、龍王の力を引き継いだのは子供たちのみ。建国王本人はただの”人間”」


「牙も爪も、毛も分厚い皮もない。まさに貧弱な獣」


「それこそが”証”だと私は思うの。”この物語”で必要な役者をそろえるなら、龍王と建国王が必要。前にも言った通り私の憶測だけど、龍王はチェーザレ」


俺は前に話した内容を思い出す。皇帝はそれらしくないとカーリンは言っていたな。


「そして、建国王の役は」


「皇太子」


あえて、力のない血筋を皇族に”建国王”をあてがい、龍王の血を引き継いだ”貢献者”たちが彼らを守ることでいつか現れる魔王への策を講じてきたということか。色合いを見れば、テレンツィオ皇太子が第一候補になるのも頷ける。だが、その考えていくと。


「でも、彼じゃなかった」


2口目の紅茶を口につけ、カーリンはゆっくりと俺を見返してくる。次の言葉は発しなかったが、何が言いたいのか分かった。


「不死鳥が守ったのは、フロリアーナ殿下でも、テレンツィオ皇太子でもなかった」


「、、、クラウディアか」


そう、昨晩不死鳥が身を挺して守っていたのはクラウディアだ。テレンツィオ皇太子のような為政者としての素質もフロリアーナ殿下やアンドレア殿下のような武威もエルシーリア殿下のような策の知慮もない。力のなさが証、それが”建国王”たる所以とするなら、クラウディアは最適だった。


「彼女が”建国王”の生まれ変わりだというのか」


「ダヴォリア帝国の伝説になぞらえるなら、役者はそろったわ。”龍王(チェーザレ)”と”建国王(クラウディア殿下)”。手を取り合うことで”魔王”を封印できる」


「色が(キー)だというなら、エルシーリア殿下だって可能性はあるだろう。不死鳥が守ったというだけで、決められるものなのか」


末姫を持ち出すのはどうかと思ったが、クラウディアを巻き込みたくない。それに不死鳥はカーリンが生み出し、フロリアーナ殿下に懐いていた。姉の願いにこたえただけかもしれない。


「考えたくない気持ちはわかるけど、これは貴方が一番理解していることよ」


「どういうことだ」


「惹かれているということが、何よりの証拠ということ」


カーリンの言葉の意味が最初は分からなかった。だが、そんな俺にカーリンは少し苦い笑みを浮かべたのを見て、察してしまった。


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