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(旧) 天才は異世界の救世主[厄災]となる  作者: ポルゼ
第二章 宗教と竜の瞋恚
53/59

神の役目

 ドーバはルーナの後を追わず、門の近くに潜伏し続けることを選んだ。リンクアと一緒にいるのがルーナでなければ追った可能性もあるが、ルーナなら大丈夫という信頼の元、追わないことを選んだのだ。

 後はアビタル教に関係する人物の中でも、地位の高い重要人物を見つけること。しかし、そういった重要人物の顔は大抵が分かっていない。そうなると、身なりや護衛の有無などで地位が高いかどうかを見分ける必要がある。その中でもアビタル教の服を着ていればアビタル教信者ということであり、動向を探る必要がある。そうではなく、国の政治に関わっていたりするような貴族等である場合は、その人物がアビタル教と関わりがあるかどうかを判別するのは難しい。基本的にはアビタル教と関わりのある権力者は名前しか分かっていない。権力者の特徴や好みなどは多少調べがついているが、それが門の近くで判別するのに役立つかと言われればなんとも言えない。


(このまま待ち続けても目的の奴らと出会える気がしないな。もうここは放っておいて他の所に行きたいが……はぁ、さっさと奴らをボコして帰りてぇな)


 律儀に所定の位置で息を潜めていたドーバだが、基本ドーバは短気で堪え性がない。しっかり作戦を守っている時点で普段とは違うドーバと言える。そもそも、人間に対してルーナほどの寛容さを持ち合わせていない。世莉架とはよくぶつかっていたこともあり、今のドーバも変わらず人間に対しての認識はあまり良くない。

 だが、世莉架達の実力は認めた。だから共に行動できているのだ。しかし、流石につまらなくなってしまったドーバは、今いる位置から移動するかどうかを考える。作戦に従わずとも、結果的にアビタル教を壊滅できればそれで解決という風に考えてしまえばそれで終わりだが、ドーバは一応作戦に納得して参加している以上、ここで投げ出すのは責任放棄である。


(まだ動いていい時間じゃないが、もういいだろう。納得しちまったが、こうやってじっくり待つのは性に合わん)


 ドーバが動いていい時間というのは決められており、それまで特に何もなかった場合は他の場所に臨機応変に移動して良いということになっている。ただ、まだその時間にはなっていないため、もう少し粘る必要がある。


(よし、動こう)


 だが、ドーバはその時間前に動くことにした。リンクアを倒したルーナが、もしくはその逆の状況になれば二人のうちどちらかが門を通ってくることだろう。しかし、ルーナを信じているドーバにとって、そんなもの見る必要がなかった。

 ここでドーバが取る選択肢がいくつかある。それは誰の元へ手助けをしに行くか、である。とはいえ尾行の作戦が多いため、それぞれがどう動くかは相手の動き次第で変わってしまうため、広大なバレコールの街を探索する必要がある。誰かが騒ぎでも起こしてしまえば見つけるのは簡単になるが、大教会の外に関してはそうはならない可能性が高い。


(とりあえず大教会の前にでも行ってみるか。やっぱりあそこが一番敵が多いし、権力者も門より大教会に向かうことの方が多いだろうしな)


 可能性が一番高いのは大教会である。他の誰かと合流できなくても何かが起こる可能性があるのは大教会だろう。ドーバはなるべく裏道を使いながら大教会へ向かうことにした。


(それにしても、なんでアビタル教なんてロクでもねぇ宗教が流行るんだろうな)


 アビタル教はここ最近で急激に成長した宗教である。人間以外の種族を下に見て、特に上位種族と言われる種族をこの世から除外しようとするという思想は暴力的であり、一般的には受け入れられないと思われる。

 しかし、実際には受け入れて同じ思想を抱く者が増えているのだ。結局のところ、人間がこの世で一番優れていると思っている人間が多かったということだろうか。


(他の種族と比べても、権力や金に執着があり、汚いことに手を出すのはいつの時代も人間ばかり。勿論、他種族とも仲良くできる人間はいるが、やはりどこかで人間は高等な生物であるという人間達の思いを感じることがある)


 細々とした技術の開発はドワーフなども優れてはいるが、人間も同様に優れている。また、新しい政治の仕方や新しい価値観の創造、革命などは人間の間で良く起こる事象である。それはそれだけ人間の世界には問題が多いということでもあるのだが、人間以外の知能の高い種族ではあまりそういうことが起きない。

 そもそも個体数が人間は圧倒的に多いため、その分優秀な人物が生まれる可能性は高い。更に、他の種族の良いところだけを吸収して人間の世界の成長に繋げることがある。

 例えば、エルフやドラゴンは肉体的に強く、寿命も人間とは比較にならないほど長い。また、知能も非常に高い。だが、長所でもあり短所でもあるのだが、プライドが高いという厄介な点が挙げられる。

 他種族で開発された技術がどれだけ優れていても、我らには我らの暮らしがある、といったような感じで受け入れないことが多いのだ。


(今回シグガンマ国に来たのは人間とドラゴンの協力体制を敷くためだが、これはシグガンマ国との繋がりが元々あったからできることだ。他の人間の国に交渉しても恐らく突っぱねられて終わりだろうし、ドラゴン側もシグガンマ国以外に協力体制を敷こうとはしないだろう)


 この世界には色々な種族がいるが、仲の良い種族もいれば仲の悪い種族もいる。その中でも人間に対しては、貿易や交渉は行うが個人的に仲良くはなりたくない、という考えが多くある。

 人間が生み出す価値あるものや画期的な技術は欲しいが、人間という生き物自体はあまり好かない、ということである。


(互いに嫌い合ってる奴らが多すぎる。結局どの種族も利益やプライドを優先して生きている。知能が高いってのは良いことばかりじゃないって痛感するぜ)


 改めて現状の種族間同士の関係を考えてため息をつくドーバ。そんなことを考えていたら大教会のすぐそこまで来ていた。


(さて、適当に影になる場所を探して潜伏してみるか。リンクアが外に出てくるという予想外のことが起きたわけだし、大教会周りでも何か起こる気がする)


 ドーバは大教会近くに潜伏する。元々その付近でアリーチェとルーナが潜伏していたが、状況は変わっている。

 

(下手すりゃリンクアだけじゃなくて、クタルガも外に出てるんじゃないか? いや、それどころか教皇や他のアビタル教信者の地位が高い奴もみんな外に出てるかもな。アリーチェがいないということは教皇かそれに近い者を尾行しているって可能性が高いが、とりあえず俺は大教会に入っていく国の権力者を目標にしよう)


 これによって、世莉架はクミーラを囮にしてアビタル教信者達を尾行。アリーチェは教皇とその周りの信者達を尾行。ルーナは魔王軍幹部のリンクアとバレコールの外で戦闘中。ドーバは門付近から移動して大教会近くに潜伏。それぞれが本格的に動き始めている。

 そんな中、唯一城にいるメリアスは城の中でやるべきことがあった。

 

「うん、とりあえず入って」


 メリアスは城の中で作戦会議していた部屋の外から呼びかけられた声に対し、入ることを許可した。

 入って来たのは剣を帯刀し、薄めの防具をつけた目が細い男だ。男の黒髪はボサボサで、少しだらしないイメージを持ってしまうような男だった。


「失礼します」


 礼儀作法はしっかりしているようで、部屋の中に丁寧に入ってきて後ろ手で扉を閉める。


「ちゃんと来てくれてありがとう」

「約束してしまいましたから、当然です」

「良かった。それにしても貴方、多分だけど曲者よね」

「どうでしょう。まぁ、上の者からの責任追及を避けるのは得意ですね」


 その男はどこか飄々としており、掴み所がない。隙がないとも言える。

 二人はすぐに本題に入ることはせず、少し雑談をしていた。人と打ち解けるのに雑談をするというのは有効な手だ。


「それで、今城はどんな感じ?」


 ようやくメリアスが本題を切り出した。


「現状は少し慌ただしいですね。ルーナ様方がアビタル教の大教会に一度侵入した訳ですから、アビタル教もいよいよ本格的に動くと予想されます。ですので、国としてはなんとかアビタル教の動向を把握し、早急に、そして出来る限り静かに制圧したいと考えているようです。ただ、本当に動く気があるのかは不明です」

「騎士団の動きはどう?」

「騎士団はいつでも動けるように準備されています。しかし、我々にも仕事が色々とあるので、騎士団総動員とはなりませんが」

「それだけで十分だと思う。ありがとう」


 メリアスは何故、騎士団所属らしい男とコンタクトを取っているのか。それは一日前に遡る。

 世莉架達は城の中の一室で長い間作戦会議をしていた。世莉架達は本来城に招かれておらず、ルーナとドーバのための部屋に勝手に居座っている状態なため、部屋の扉をノックして入ってこようとしてくる清掃員などが訪れてくることがあったが、そういった時は扉を開けずにルーナがやんわり断っていた。


「やっぱり、王様とまではいかずとも、ある程度地位のある人とコンタクトを取ってもっと色々と協力してもらうように言ったほうがいいよ」


 そう提案したのはハーリアだった。ルーナとドーバは国からアビタル教について色々と話をされており、アビタル教の崩壊についても話をされている。しかし、世莉架達の存在は知らないし、得体の知れない世莉架達を受け入れる可能性は低いだろう。

 だが、アビタル教の崩壊のためには国の協力は必須と言っていい。ルーナとドーバだけではどうにもならないだろうし、アビタル教を制圧できてもそれ以降の対応は国にやってもらわないといけない。また、制圧することに関しても国の協力があった方が助かるのは間違いない。


「人間とドラゴンの協力体制を敷く。ただ、最近はシグガンマ国にとってアビタル教が邪魔になってきている。だからドラゴン側がアビタル教を崩壊させろ。それができたらより強固な協力体制にする……そんな感じかしらね」


 世莉架が国の思惑を簡単に予想して語る。昔からシグガンマ国とドラゴンの間には交流があったというが、今も良好な関係が続けてられているとは必ずしも言えないだろう。

 

「けっ。まぁ、今の国王のもっと前に交流が始まったみたいだからな。昔は仲が良くても今は違うなんてことくらい嫌ってほど良くある話だ」


 そんなことを話すドーバは軽くご飯をつまんでいる。幸いにも部屋の中に食料はしっかりと置いてあるので、人が増えても一、二日なら持つだろう。

 

「正直、今の国王やそれに近い権力者にアビタル教崩壊のための協力を仰いだとしても、自分たちのリスクを考えて崩壊後の対応しかしてくれないかもしれないな」

「リスク?」


 ルーナが話す権力者達のリスクについて、ドーバは疑問符を浮かべる。


「アビタル教は流行っているんだ。そして勢力を増し、一般市民からの支持もどんどん増えている。そんなアビタル教崩壊を国がやり、かつそれがバレたら一般市民からの印象や支持は間違いなく揺らぐだろう。例えアビタル教崩壊について真っ当な理由があったとしてもな」

「つまりは、自分達が失脚したくないから、外部のドラゴンに、それも都合よく来てくれたドラゴンにやらせようってことか」

「もっと言えば、最悪私達に罪をなすりつけることもできるからな。果たしてこれを協力体制と呼ぶのだろうか」


 ルーナとドーバはシグガンマ国と協力体制を敷くためにわざわざ訪れて来た訳だが、シグガンマ国としてはいかにしてドラゴンを有効に利用するか、そういうことしか考えていないのかもしれない。


「貴方達はいわば外交官。そして外交というのは決して仲良しこよしをするということではないわ。外交をした上で相手の国よりもいかに多くの利益を得るか、そこを第一に考えなくてはいけないの。だから、シグガンマ国が貴方達ドラゴンを利用しようと目論むのは為政者としては何ら不思議ではない判断よ」

「まぁ、そうかもしれんが……私達ドラゴンには政治なんていう立派で堅苦しいものは無いからな。人間が細かすぎるんだ」

「人間はそうでもしないとまともに生きられないのよ」


 世莉架も思うところがあるのか、ため息をついた。


「それで、この国のお偉いさんとのコンタクトはどうするんだよ」


 ドーバが話の先を促す。このまま世莉架達だけでアビタル教と戦っていると厄介なことになるかもしれない。国はアビタル教崩壊のための協力をするような意思は見せてはいるが、今のところ特に国の協力を感じられない。

 やはり、誰かをこちらに取り込む必要があるだろう。


「一番可能性があるのは騎士団じゃない?」


 そこで話に加わったのはメリアスだった。


「騎士団か。確かに、彼らは国に従事する者だが、安全な場所で偉そうに指示するだけの権力者共とは違う」

「まぁ、偉い人には偉い人の仕事があるから責められないよ。それで、騎士団なら平民出の人も多いだろうし、話を突っぱねずに聞いてくれるんじゃないかな」

「いい案だな。よし、早速どうにかしてこの国の騎士団とコンタクトを取ろう」


 そうしてメリアスの案は皆に賛成され、騎士団の人間にどうにかしてコンタクトを取ろうという話になった。

 そのための話をルーナ達がしている間、メリアスは少し離れている場所に座っており、そこに世莉架が近づいて壁に背を預けた。


「珍しいわね。貴方が何かを提案してくるなんて」


 世莉架は先ほどのメリアスの提案に少し驚いていた。メリアスは神であり、世莉架と共に地上に降りて来たのは世莉架が間違った力の使い方をしないか、世界を救う行動をするかなど、世莉架を監視する目的があるからだ。

 そのため、今まで世莉架の行動に関して口を挟むことはあったが、世界を救うことの一端になるであろう行動に関してはあまり口を出さずに従っていた。しかし、ここにきて騎士団の話を提案してきたのは何故かという世莉架の純粋な疑問であった。


「……世莉架が騎士団に話をしに行くなんてことくらい、とっくに思いついていたのは分かってたよ」

「えぇ。アビタル教と戦うことを決めたときから考えていたわ」

「ははは、流石だね」

「それで、急にどうしたの?」

「うーん。なんというか、私もよく分からないんだけど、何か協力したいと思ったというか……」

「それだけ?」


 メリアスは考え込んでいるようだ。神であっても、全知全能ではない。何でもできるなんていうのは人間の勝手な思い込みだとメリアスは言っていた。神でも悩むことや分からないことくらいある。決して万能でも天才でもないのだ。


「……私はこの世界を救いたい。そのために世莉架の力を必要とした。それで今まで世莉架に付いてきた訳だけど、少し思うところが出てきた」

「それは?」

「私は今まで上から世界を見ていた。どこでどんな戦争が起きているか、どこでどんな事件が起きているか、どこでどんな人たちが、種族が幸せに、もしくは苦しい生活をしているか。そういったものを長い時間、本当に長い時間見てきた。だから、理解しているつもりだった。戦争する理由、騙す理由、仲良くなる理由、愛する理由……けど、私はただ見ていただけだったから、本当は分かっていなかったの」


 神は地上にいない。上から見下ろし、世界を監視しているのだ。そんな神が地上で生きる者達のことを理解することは難しい。それこそ全知全能、何でも知りうる神であれば別だろうが。メリアスはそんな神の中の神のような存在ではない。


「自分の管理する世界だとしても、基本的に私は傍観者。理解できるはずがない。だからこそ、こうやって地上に降りてくると色々な発見がある。神が地上に降りてしまうと体が普通の人間と同じようになって簡単に死ぬ可能性が出てくるから普通はやらないし、やりたくないものなんだけどね」

「仮に体が死んでも精神は生きているみたいなことはあるの?」

「微妙なところだね。肉体が滅べば精神も死ぬのは当然のこと。そして人間の肉体レベルになってしまったら例え神でも肉体が死ねば精神も死んでしまう可能性が高い。肉体の強さと精神の強さには繋がりがるからね」

「じゃあ貴方は本当に危険なことをしているのね」

「そうだね。でも、そうしなくちゃいけないくらいの状況になってしまったから」


 メリアスは時々幼い言動を取る。世莉架からするととても神には見えないことを言ったりする。それでも、今世莉架が見つめるメリアスは大人びていて、どこか普通ではない雰囲気を感じ取っていた。


「貴方が死んだらギフトが貰えなくなるし、困るから死なないように努力してね」

「心配してくれるんだ」

「どう受け取ってくれても構わないけど、私でも必ず守りきれるとは言えない。どうやらこの世界には前の世界と一緒で、敵がそこら中に溢れかえっているようだから」

「……そうだね。私も、せめて足手まといにはならないように頑張るよ。だからさ、今回の作戦に私も組み込んでくれない?」


 そこでメリアスは世莉架に更なる提案をした。今まで作戦の中の重要な役目を負うことはなかったメリアスだが、そこに加えて欲しいという提案だった。


「戦力にはならない貴方を?」

「うん。戦力には全くならないけど、話し合いならできる」

「なるほど。騎士団との交渉、もっと言えば国の権力者達と交渉をするってことね」

「そういうこと。多分、みんな外に出てアビタル教と戦うでしょ? その中から一人割いて交渉に当てるのは戦力的にも少し厳しくなる部分があると思う。そこで私だよ」

「騎士団との交渉が上手くいけば、貴方の護衛として騎士団をつけて権力者達との交渉に望むことも可能ね。悪くない案だと思うわ」

「でしょ?」


 メリアスは世莉架にニコッと笑いかける。


「貴方、案外図太いのかしら」

「図太くなきゃ神なんてやってられないんじゃない?」

「適当言ってるでしょ」

「ふふ」


 二人はなんだか久しぶりにちゃんと会話をした気分になっていたが、決して悪い気分ではなかった。

 メリアスは騎士団、そして権力者との交渉に望む。


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