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(旧) 天才は異世界の救世主[厄災]となる  作者: ポルゼ
第一章 天才は異世界に連行される
28/59

それは地面の下で

 世莉架が闇ギルドの頭領であるタシェーラと命や人についての対話を終え、ついに世莉架が攻撃を仕掛けた時、魔王軍第四幹部隊のニミルが立ち塞がってきた。


「そういえば名前を聞いてなかった。教えてくれるかな?」


 ニミルから一旦距離を取る世莉架に、タシェーラが名前を尋ねてきた。


「悪いけど教える義理はないわ」

「そうだろうね。しかし、これだけの美人なんだ。名前くらいは聞いておきたいものだ」

「どうせすぐ忘れるでしょう」

「忘れないさ。というより忘れられない。これだけの美人があのような価値観、考え方を持ち、そしてここまで来れる実力もある……なかなか衝撃的だよ」

「そう。でも私は貴方を忘れるわ」

「はっはっは。これから君は死ぬのだから仕方のないことだ」


 タシェーラは世莉架に負ける未来など見えていない。焦りなども無く、相変わらず余裕ぶった表情をしている。

 事実、この光景を一般人が見たら世莉架の状況は絶望的だと判断するだろう。魔王軍幹部が一人に、闇ギルドの主戦力だと思われる二人の男が相手なのだ。普通に考えれば世莉架が勝てるとは思えないだろう。


「へぇ。それは良かったわね」 


 世莉架はタンっとその場で軽くジャンプする。そして足が地面に着いた瞬間、世莉架の姿は消えていた。


「!」


 ニミルも含め、タシェーラ達は流石に驚いていた。

 まず最初に倒すべきなのはやはりニミルだ。ニミルさえ倒してしまえば他の男達など造作もなく消せる。

 

「ふん!」


 世莉架はニミルの真横に移動していた。そこから短剣で首を切り裂こうとする。

 しかし、ニミルはその動きに反応できたようで、首元に瞬時に土魔法によるコーティングを行い、世莉架の攻撃を防いだ。それから世莉架はすぐに距離を取る。


(流石に魔王軍幹部はそこらの雑魚とは段違いね)


 純粋な反応速度、魔法の生成速度はやはり魔王軍幹部と言うだけのことはあった。

 そして、世莉架はニミルが苦手な相手である事を悟った。


(ニミルは恐らく直感型。こういう奴が一番何をしてくるか分からないし、反応できなかった攻撃を直感で避けたりする……なんてことがありそうね)


 前に世莉架が戦った魔王軍幹部のガルグは比較的理性的で、戦うことに悦を見出してはいたが、まだ頭を使う魔族だった。

 しかしニミルはそうではなく、直情型及び直感型である。そのため、思わぬ事態を引き起こす可能性があるのだ。


「速いなお前! でも、まだまだ本気じゃないな?」

「いいえ、本気よ。魔王軍幹部を相手にして本気を出さないなんて舐めた真似はしないわよ」

「本当か? 俺には、お前にはまだまだ隠しているモンがあるように思えるが」

「思い過ごしよ」


 世莉架がそう言った時、突然タシェーラの左右にいた闇ギルドの主戦力たる男二人が動いた。

 ようやく戦いに参加するようだ。魔王軍幹部のニミルと比べれば主戦力と言えども男二人は大した事はない。だからこそ、ニミルのサポートに回る様だ。

 男二人はニミルと違い、冷静に相手を見極めて戦い方を探るタイプの様で、世莉架の周りを囲む様に走り始めた。

 裏社会の仕事をこなす上で、冷静さと慎重さは極めて重要である。まず直情型の人間ではできない仕事だ。

 二人はよく世莉架を観察している様だ。また、周りをグルグル回られると鬱陶しい。

 それらのことから、ニミルを先に倒してしまおうと考えていた世莉架だが、鬱陶しい男二人を先に倒してしまった方が良いと考えた。


「鬱陶しいのだけど」

「!」


 世莉架は素早く動き回る二人の動きを完璧に捉えている。まずは大剣を持つ大柄の男に迫る世莉架。大柄の男はすぐに反応し、大剣で世莉架を薙ぎ払おうとする。勿論、世莉架はそれを容易く避ける。姿勢を低くして避けた世莉架は、そのまま大柄の男の腹に向かって短剣を向けて貫こうとする。しかし、大柄でありながら俊敏な動きをしてその攻撃を回避、そこからまたも大剣による薙ぎ払いを行う。世莉架はバク転しながらそれを避け、いつの間にか背後に迫っていたフードを被る男の剣による攻撃をも軽やかなステップで避ける。そしてステップで避けたと同時に更に迫っていた大柄の男の左足を切り裂く。


「ぐあ……!」


 大柄の男は多少怯みながらも、すぐに反撃を仕掛けてくる。

 世莉架はその後も同じ様にして軽やかに男二人の攻撃を避けながら反撃を繰り返す。


「くっ、一旦距離を取るぞ!」


 大柄の男がたまらずフードの男にそう声をかけ、一旦世莉架から距離を取った。


「こいつ……なんて身軽なんだ」

「つーかどんな身体能力してんだよ。身体能力強化の魔法を使っている気配は無いってのに……」


 フードの男と大柄の男はようやく世莉架の恐ろしさを理解したようだ。だが、世莉架にとってこの程度は軽い運動のようなもの。圧倒的な実力差がそこにはある。

 男二人の体には至る所に傷があった。たった一人の女にここまで圧倒されるのが悔しいのか、顔を歪めている。


「……なるほど。確かな実力があるようだな」


 いつの間にか余裕な態度を崩していなかったタシェーラの顔が真剣なものになっている。

 そんな中、ニミルだけはとても良い笑みを浮かべていた。


「……お前、面白いなぁ。久々に楽しい戦いになりそうだ」


 ニミルは先ほど男二人と世莉架の戦いに混じらなかった。それは純粋にニミルが一対一の戦いを望んでいるからである。


「ニミル、悪いが此奴らと共に奴を殺してはくれないか?」


 タシェーラがニミルに男二人と共に戦ってくれるように言う。元々協力関係、利害関係にあるのだから協力し合うのは当然なはずなのだが、やはり魔族は人間を下に見ているようだ。事実、ニミルは男二人が苦戦しているのを見てもやれやれと言った様子だった。

 

「えー。本当は一対一がいいんだけどな。まぁ、ここは一応あんたのホームだし、仕方ないか。ただし、俺が正面からぶつかる。お前らは俺の邪魔にならない程度に戦っていろ」

「……分かった」


 男二人は不服そうではあるが、渋々頷いた。


「お前達、最早この拠点の損害など考えなくて良い。魔法でもなんでも使って奴を必ず殺せ」

「了解」


 タシェーラが男二人にそう告げた。それはつまり、周りのことは気にせずとにかく本気で世莉架を殺す事を優先するという事に他ならない。どれだけ損害が出ようが、ここで世莉架を仕留められなかった時が怖いのだろう。


「やっと本番かしら」

「あぁ。楽しもうぜ!」

「嫌よ。さっさと終わらせて帰りたいもの」

「なんだよつまんねーな。というか、さっきから気になってたんだが、そこにいる女は戦わないのか?」


 ニミルはそこでメリアスを指差して言う。

 メリアスはこれまでずっと部屋の隅で静観していた。


「戦わないわ」

「舐めてんのか?」

「いいえ。彼女には戦う力が無いの」

「はぁ? じゃあなんでこんなとこまで来たんだ」

「色々あるのよ」


 世莉架は適当に誤魔化す。メリアスはただ、世莉架という一人の人間を監視、もとい見守るためにいるのだ。


「そうかい。じゃあいいや。始めようぜ」


 ニミルは武器を持っていない。ガルグもそうだったが、魔族は武器を魔法で生成することが多いのかもしれない。

 まずは男二人が動いた。先ほどと同じように、世莉架を惑わすように複雑な動きをしている。

 その動きを見ていれば大柄の男とフードの男が長年組んできたコンビであることがよく分かる。何も言わなくてもすぐに動きを合わせることが出来ている。先ほど世莉架と戦っていた時も、いいタイミングで片方が引いたり避けたり攻撃したり、息が完璧に合っていた。少なくとも数回組んだことがあるだけでできる動きでは無い。

 現状ではまだ世莉架に攻撃をするつもりは無いようだ。敵からすればニミルが切り札。そのニミルを上手く使うことこそが最も勝つ事に繋がる。


「おらぁ!」


 ニミルは両手を地面につける。すると床がグラグラと揺れ、世莉架の真下の床が急に盛り上がった。

 それをバックステップで避けると、背後からフードの男と大柄の男が攻撃を仕掛けてくる。

 世莉架はそれを苦労なく避ける。だが、またすぐに回避をさせられることとなった。

 突然部屋の天井から大きな岩石が降ってきたのだ。生身の人間に当たったら即死は免れない。

 

「どんどん行くぜ!」


 ニミルは部屋のあらゆる場所から大きな岩石を撃ち出す。天井からは落ちてきただけであったが、壁からまるで射出されたかのようなスピードで世莉架に迫るのだ。

 そこに大柄の男とフードの男が隙間なく攻撃を仕掛けてくる。だが、流石にニミルとの連携は上手くいっておらず、時々その二人はニミルの土魔法による攻撃が当たりそうになったり、掠ったりしている。

 そんな危険を冒してまでやる必要があると判断したのだ。

 世莉架は迫る土魔法や剣を回避しながら火の魔法を大柄の男に放とうとする。


「させねーぞ!」


 しかしニミルの土魔法は的確に世莉架の邪魔をしてくるため、魔法が撃ちづらい状況が続いている。


「けどまぁ、関係ないわね」


 撃ちづらくとも、火力があれば邪魔なもの全て消し去って攻撃ができる。ただただ単純にそれだけの話なのだ。

 世莉架は邪魔な土魔法を全く気にせず、火の魔法を撃ち放つ。その火力は凄まじく、その魔法の直線上にあった土魔法を全て塵にしてそのまま大柄の男を飲み込んだ。


「かっ……」


 悲鳴を上げる暇もなく、大柄の男は世莉架の魔法によって焼き尽くされた。

 その光景は、ニミル達を驚愕させた。


「な、なんだあの火力は!」


 フードの男は明らかに動揺している。何故なら、世莉架はこれまで魔法を全く使っていなかったからだ。ニミルが戦いに参加して尚、魔法を使わない時点で世莉架は魔法が苦手、もしくは使えないのだと予想したのだろう。

 そのため、世莉架が魔法を使おうとしていることが分かっても大したことない魔法だ、と勝手に思い込んでしまった。

 長年コンビを組んでいたのであろう大柄の男の死に嘆く暇もなく、立て続けに世莉架はフードの男に向かって同じ魔法を使おうとする。


「……こりゃあ出し惜しみしている場合じゃねーな」


 ようやくニミルの顔から笑みが消えた。ニミルの土魔法をいとも容易く塵にできる魔法の腕前に加え、三人からの波状攻撃を己の身体能力だけで凌ぐことができるのだ。明らかに普通ではない。いくら魔王軍幹部と言えど、これにはニミルも本気を出すしかなかった。

 世莉架の魔法を防ぐため、ニミルは今まで使っていた土魔法よりも上位の魔法を行使する。

 それは純粋に強度を増した土魔法である。

 フードの男に向かって世莉架の魔法が撃ち放たれた。だがそれは強度が段違いに高くなったニミルの土魔法によって阻まれる。


「これを防ぐレベルの魔法を使い始めたのね」


 ニミルは得意気にしているが、世莉架からしたらこの程度止められて当然という認識である。

 そしてニミルが本気を出してきたことを理解した世莉架は、魔法のレベルを上げる。

 次に撃とうとしているのは水と風の魔法だ。これはガルグに対しても使ったもので、貫通力に長けているために土魔法を貫くことができると考えたのだ。

 その魔法を土魔法を避けながら練り上げ、フードの男に向かって撃つ。

 そしてそれはニミルの土魔法に一瞬阻まれたが、やがて貫通し、フードの男の胴体を貫いた。

 ついに闇ギルドの主戦力であろう男二人の殺害に成功した。これで残るはタシェーラとニミルだけだ。


「……仕方ないな」


 タシェーラは長らく闇ギルドを支えてきたであろう男二人の死を見て一度俯いた。そして顔をあげた時、そこには覚悟を決めた一人の男のいた。

 タシェーラはニミルの元まで歩き、横に立った。


「俺も腹を括ろう」


 ついに闇ギルドの親玉であるタシェーラは戦闘に参加するようだ。


「そう。なら貴方は殺さない程度に加減しないといけないわね」

「……確かに君は強い。まさか、私が大層信頼し、苦楽を共にした彼らをこうも簡単に殺してしまうとは。だが、私はあまり舐めない方がいい」


 タシェーラの纏う殺気と闘気は凄まじいものだった。先の男二人とは段違いだ。

 流石にフェンシェント国で一番大きい闇ギルドの頭領である。潜ってきたいくつもの死線、修羅場、場数が他の闇ギルドのメンバーと比べても圧倒的だ。


「ご忠告ありがとう。闇ギルドの頭領と魔王軍幹部を相手にして舐めてかかるほど馬鹿じゃないわ」

「ふ、そうか。ではいくぞ!」


 タシェーラは武器も持たずに右の拳を前に出して構えを取る。するとタシェーラの体内で魔法が練り上げられていくのが世莉架にも分かった。そしてそれは外に放出されることはなく、タシェーラの体内に張り巡らされていく。


「!」


 そして世莉架が瞬きをした瞬間、目の前にタシェーラがいた。


「ふん!」


 右拳が世莉架を潰そうと迫る。世莉架は瞬時にそれを避けた。そして避けたことによって右拳は既にボロボロになっていた床に当たる。すると大きな衝撃音と振動と共に、床に巨大な穴ができた。

 粉塵に紛れてむくっとそこで立ち上がる姿はまるで鬼神のようだった。それほどまでに、研ぎ澄まされている。


「身体能力強化系の魔法ね」

「その通り」


 単純な魔法だが、タシェーラの身体能力強化魔法は身体能力を引き上げるレベルが一般的なものとかけ離れている。普通は通常の身体能力を四倍や五倍に引き上げるのだが、タシェーラは十倍にも二十倍にも引き上げることが可能なのだ。


「私はこの魔法しか使えない。だが今までこの魔法だけで数え切れない程の敵を殺してきた。私の身体能力強化魔法はその辺の冒険者なんかが使うものとは一線を画していると思え」


 そう言うと同時にタシェーラの姿がまたも消えた。

 一瞬で世莉架の頭上にまで移動していたのだ。


「ぬん!」


 世莉架に踵落としをお見舞いしようとしたが、世莉架はその異常な反射速度で避けた。

 だが、今世莉架が相手にしているのはタシェーラだけではない。魔王軍幹部であるニミルも同時に相手にしているのだ。

 ニミルは広範囲の土魔法を行使する。それは勿論、ニミルが使える土魔法の中でも上位に当たるものだ。

 この時、メリアスは流石に見ているのも危険だと思い、部屋の外に出る。先程から使われている魔法が強力すぎて部屋どころか巨大な拠点そのものが揺れている。

 そして部屋のありとあらゆる場所から土魔法によって生成された巨大な槍の形をした岩石が世莉架を襲う。


「ふぅ……」


 世莉架は小さく息を吐く。世莉架は今自分に向かってきている土魔法とタシェーラの位置、その速度をコンマ一秒の間に全て把握する。

 そして最小限の動きでその全てを避け始める。負けじとニミルとタシェーラも攻撃を間髪入れずに繰り返す。

 外から見たらまるで何が起こっているか分からないだろう。粉塵が舞い、視界も悪い中、三人の攻防は全く収まる様子は無い。

 拠点全体がグラグラと揺れている。このまま戦闘を続ければ間違いなく拠点は崩れて潰れるだろう。


「世莉架……」


 メリアスは戦う力の無い自分に無力感を覚えながら、世莉架の勝利を信じて祈る。今世莉架のためにできることはそれくらいだ。

 しばらく轟音と振動は続いた。だが、やがてそれは終わる。


「はぁはぁ……」

「おいおい、どうなってんだ……」


 ニミルとタシェーラは明らかに疲弊している。精度を落とさずに全力の攻撃を続けたため、当然である。

 しかし、二人の前に立ちはだかる世莉架は息一つ切らさずにそこに立っていた。


「流石に危なかったわ」


 体に付いた埃を払いながらそんな風に言う世莉架を睨む二人。


「さて、そろそろ私から行こうかしら」 


 戦いが始まってから世莉架はその大部分を避けることに徹している。だが、ついに自分から攻撃を開始することにしたようだ。

 避けることに徹していたのは決して舐めているからでは無い。相手の動き、能力などを観察し、正確に把握するためだ。

 軽く短剣を振る世莉架。そこにすぐさまタシェーラが攻撃をしようと迫る。

 それは世莉架に攻撃をさせるのは危険極まりないことを既に理解しているからこそ取った行動だ。

 タシェーラの拳が世莉架の頭を吹き飛ばそうとした時、世莉架はもうそこにいなかった。


「化け物め……!」


 タシェーラの体にいくつもの赤い線が浮かび上がり、それらの傷から血が吹き出した。

 膝をつき、タシェーラの背後に移動していた世莉架のその実力に文句を言う。


「やるじゃない。私としては戦闘不能にしたつもりだったんだけど、膝をつく程度で耐えるなんて」

「裏社会の仕事ってのはタフさが大事なのさ」


 多少フラフラしているがタシェーラは立ち上がる。


「こっちも気にした方がいいぜ」


 世莉架がタシェーラと対峙している間、ニミルは魔力を練っていた。


「土魔法ってのは、守りに使われるイメージを持っている奴が多い。実際、守りに関しては他の属性よりも頭一つ抜けて優れている。しかしな、突き詰めれば土魔法は強大な攻撃魔法に変わる」


 ニミルの右の手のひらには小さな土の塊があった。しかし、それがただの土の塊ではないことが嫌でも分かってしまうような、とても濃い魔力がそこに凝縮されていた。


「ここが地下で良かったぜ。存分に土魔法を活かすことができる」


 その小さな土の塊を持ってニミルは部屋の天井に向ける。


「テッラ・ロンド」


 ニミルがそう言うと、土の塊は既に崩れて落ちてきそうな天井に飛んでいき、ぶつかった。

 すると土の塊が急激に膨張し始めた。それだけではなく、拠点全体が大きく変動しようとしている。

 激しい揺れが起こり、もうすぐにでも拠点は崩れてしまいそうだ。

 土の塊の膨張によって、部屋はどんどん土で埋め尽くされていく。このままでは圧死してしまうので、世莉架は部屋から脱出し、部屋の外にいたメリアスをお姫様抱っこして距離を取る。


「せ、世莉架、もうここ崩れそうだよ?」

「そうね。私一人で来たのなら崩れてしまった方が都合が良いんだけど、今回はハーリアとアリーチェがいる。もう目的を達成してここから脱出しているかもしれないけど、確かめる術がない以上、崩れるのはなんとか防ぐしかないわね」


 世莉架はメリアスを降ろし、自分の後ろに移動させる。

 すると土で埋め尽くされそうになっている部屋からタシェーラが転がって飛び出て来た。


「クソ、あの野郎……」


 この土魔法はタシェーラの事を考慮していない。ニミルはタシェーラを気にしている余裕は無いと判断したのだ。

 もしくはタシェーラならばこれくらいの窮地は脱することができるという信頼から行ったのかもしれない。


「さてと……もうこの拠点一帯は全て、俺の支配下だ」


 土煙の中、両腕に岩石を纏ったニミルが現れる。

 世莉架と闇ギルド、及び魔王軍幹部との戦いは第二ラウンドを迎える。


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