首都・アークツルス
アークツルスへ向かう道中、思わぬ事態で意図せず他の冒険者や兵士達と別行動することになった世莉架達。
そこでエルフの少女、アリーチェと出会い、共にアークツルスに向かうことになった。
「それで、貴方の幼馴染を攫った闇のギルドを示す何かがあったりするの? 例えば紋章とか」
「そのギルドには紋章があるよ。紋章はシンプルで、蝙蝠の絵が描かれてる。プライドなのかどうかは知らないけど、奴らは悪事を働くときに必ず邪魔にならない体のどこかに紋章を付けておくの。ほんと、忌々しい連中よ」
アリーチェは俯いて怒りの感情を見せる。本当にエルフからしたら最悪の存在らしい。
「蝙蝠ね。なんか、らしい紋章ね。その前にまず、アークツルスに貴方を入れる方法を考えなきゃね」
現在エルフと人間は仲が悪く、お互いに領土に入ってはいけないという決まりがある。
「城壁をひとっ飛びすれば良いんじゃない?」
「絶対見つかるでしょうが」
メリアスが提案するが、すぐに世莉架が却下する。
世莉架の隠蔽の特殊属性の魔法を行使すればできるかもしれないが、それでは世莉架の力が露見してしまうのでできない。
「今は魔物の進行のせいで厳重警戒されているだろうから普段より更に入るのが難しくなっている可能性が高い。どうにかしてエルフと分からない工夫をしないと……」
「ちょっと待って。魔物の進行ってなに?」
どうやらルインで起こった魔物と人間の戦いのことをアリーチェはまだ知らないようだ。
世莉架はルインで起きた魔物との戦いを説明する。
「か、勝ったの!? 魔王軍幹部がいたのに?」
「えぇ。こっちにはアルファとエルファがいたからね。彼らがいなければここら一帯も全て魔族のものになっていたかもね」
「まさか人間が幹部のいる魔族の大群に勝つだなんて……これはとんでもないビッグニュースよ」
「まだまだ広まっていないでしょうけどね」
「フェンシェント国が魔王軍幹部を打ち払ったと知れ渡れば、フェンシェント国にライバル意識を持つ国々が馬鹿みたいに魔王軍に突っ込んでいきそうね。私達エルフも、何かしらかのアクションを起こすかもしれないし、何より勇者界隈が騒がしくなってしまいそう」
実際、ルインでの戦いによって、間違いなく他国に影響を及ぼすだろう。様々な者が動き、世間はより一層騒がしくなる。
「勇者界隈……そういえば、アリーチェはエルフの勇者と会ったことある?」
世莉架は勇者という言葉を聞いて尋ねてみた。
「……あるわよ。大嫌いだけどね。というか勇者とか全員嫌いだけど」
アリーチェは露骨に不機嫌になる。本当に嫌いなようだ。
「そう。貴方は村から来たと言っていたけど、エルフに国はないの?」
「当然あるわよ。私の暮らす村はその国の一部で、途轍もなく大きな樹海の中に存在するの。ちなみに今のエルフの勇者は私が住んでる村出身」
「なるほど。何やら訳ありなのは分かったわ」
どうやら縁があるようで、犬猿の仲であることはなんとなく理解できる。
「エルフはあまり自分の故郷から出ないと聞きますが、アリーチェさんもあまり外に出ないんですか?」
ハーリアが気になっていたことを聞く。
「敬語はなくていいわ。あと名前も呼び捨てでオーケーよ。堅苦しいのは嫌いだから」
「あ、うん。分かった」
「あまり故郷から出ないというのはエルフとしては当たり前ね。まぁ、私は小さい頃からしょっちゅう大人の目を盗んで外に遊びに行ってたけど」
「そうなんだ。確かにアリーチェはそんな気がする」
「でしょ。ずっと同じ場所にいたって何も変わらないし、つまらない。だからエルフっていつまでも考え方だったり、技術が古いままなのよね」
アリーチェは見た目に反してとても活発なようで、今のエルフの考え方に疑問を持っているようだ。
「エルフの国を出て外で暮らせばいいんじゃない?」
メリアスがアリーチェに提案する。
「そう簡単にいく話ではないの。さっきも言ったけど、エルフは古い考え方をずっと持っていてね。色々な条件を満たしたりしないと国を出るのは難しいの。しかも、まぁこれは私もだけど、エルフは他の種族を見下しがちで、エルフ以外は全て下等種だと思っている節がある。というかそういう大人しかいないから子供もそういう考えになっちゃうんだけどね」
「そういえば、これだから人間は……みたいなこと言ってたね」
「それに関しては悪かったわ。ちょっと機嫌悪かったから、つい言ってしまったの」
アリーチェは幼馴染を攫われ、単独で探していたのだ。精神も追い詰められて疲れていたのだろう。
「というか、貴方以外のエルフは探しに来ていないの?」
「攫われたことが分かってからすぐに伝えたわよ。でもね、すぐには動いてくれないの。色々と作戦を練らなきゃとか、今はフェンシェント国に入れないから諦めろ、とか言う奴もいたわ。だから国の協力は期待せずに私一人で勝手に出て来た」
「そうなんだ。仲間なのに、そんな風に対応されちゃったんだね」
「あの馬鹿どもは能力の高いエルフしか救う価値がないとでも思っているのよ。確かに、私の幼馴染は特筆した能力なんてない。でも、私にとっては昔からずっと一緒にいる家族のようなものなの。例え私一人でも、どんな代償を払っても助け出すわ」
アリーチェの意思は固い。この様子だと本当に自分のことなど全く考えずに救おうとするだろう。しかし、一人では絶対に無理だ。相手は裏社会のギルド。そんなもの相手に一人で挑むなど自殺行為だ。
「アリーチェ、どんな代償を払わなくても済むように私達が協力するから安心して」
メリアスはアリーチェの腕に触れて言う。
「……えぇ、ありがとう」
エルフは他種族からの身体的接触をとても嫌っている。しかし、アリーチェはメリアスの手を振り払わなかった。その事実にハーリアは軽く驚いていた。また、アリーチェ自身も驚いていた。世莉架は事前に許可を取って耳を触っていたから大丈夫だったが、通常なら敵意を向けられるはずである。アリーチェはメリアスの神としての何かを無意識に感じ取ったのかもしれない。
「エルフの国からの協力を期待できないのであれば、私達四人でなんとかするしかないわね」
世莉架はため息を吐いて言った。
「アークツルスには大きな冒険者ギルドや軍隊、様々な実力者がいるの。そこにアルファさんやエルファさんも加わるわけだから、そういう人達に協力を仰ぐのはどう?」
「エルフと喧嘩している国の人間に頼るのはまずいでしょう。アルファ達なら分からないけど、彼らは彼らで色々とやることがあるでしょうし、難しいかもね」
ハーリアが提案したことは難しいと世莉架は思っていた。そもそも協力を頼んで受け入れられても、その時点でアリーチェの存在が見つかってしまうだろう。だから国に近い組織に協力を仰ぐことはできない。冒険者ギルドの人間はエルフだとかは関係なく協力してくれるかもしれないが、信頼度に欠ける。理想はアルファとエルファの協力を得ることだが、彼らは今回のルイン攻防戦や魔族の動きについて国と話したり、英雄として様々なイベントもあることだろう。そのため、大忙しだと思われるアルファとエルファの協力はあまり現実的ではない。
「そっか。なら慎重にやらないとだね」
「えぇ。裏社会の闇に対して真正面から戦いを挑むのは愚策。闇には同じ闇で慎重に挑まないといけない」
そのような闇に嫌という程詳しい世莉架のその言葉に、メリアスはちょっぴり悲しそうな顔をした。
**
それから数日、ようやくアークツルスの姿が見えてきた。
「これは確かに大きいわね」
この世界に来てからルインとルインからアークツルスに向かうど田舎の道中しか見てこなかった世莉架には、アークツルスはとても都会に見えた。そして事実、都会である。
まず領地がとても広い。ルインも領地は広い方だったが、アークツルスは別格だ。建物はどれも高く、中央に一際大きな城がある。それがハーリアの言っていたアークツルスのシンボルの一つだ。更に町の真ん中に大きな運河も見える。それらの様子から、フェンシェント国がとても技術の進んでいる国であることが分かる。このフェンシェント国に対しては無策で突っ込むわけにはいかないと魔族でも分かることだろう。
事実、魔族の領地に一番近い場所にありながら平和を保てているのだ。
「さて、それじゃあ作戦通りに行きましょう」
アリーチェをアークツルスに入れる作戦は既に練ってある。アークツルスは頑丈そうな城壁に覆われており、その城壁の上には兵士が見える。また、門は全部で四つあり、それらは東西南北に配置されている。そこにも沢山の兵士がおり、ルインでの魔族との戦いがあったことから、明らかに厳重警戒していることが分かる。
「それじゃあ北門から行くわよ」
アークツルスの北には大きな山がある。その山は冒険者がよく依頼される場所で、北の門は冒険者の出入りが多い場所である。そのため、荒くれ者や少々怪しい者の出入りも良くある。しかし、門番はそういう者も多少は黙認しているところがあるという情報をハーリアから得た。ならばそこを使わない手はない。
世莉架達は北門に向かう。北門の近くに着くと、多くの冒険者が出入りしていることが分かる。また兵士の数も少ない。他の門からの出入りは比較的少ないように見えたが、それは魔族の進行を厳重警戒しているからであり、恐らく何らかの制限がかかっていて簡単に外には出られないようになっているからだ。しかし、それは冒険者にはあまり関係のないことだ。勿論、冒険者にくる依頼にはアークツルスの外に出なくてもできる雑用のようなものもある。だが、より稼ぎたいのならやはり討伐系の依頼が良いのだ。そしてそれらの依頼をこなして生計を立てている冒険者からしたらアークツルスの外に出れないのは死活問題になる可能性がある。そのことを国がきちんと分かっているからか、冒険者だけはいつも通りに外に出れるようだ。
「門番は……見えてる限りでは十人くらいかしら」
「結構いるね」
「城壁の上にも兵士はいるけど、彼らは門番ではないから通るときには考慮しなくても大丈夫そうね」
世莉架は北門付近にいる門番の役割を担っている兵士、更に全ての冒険者の動きを把握していく。
「それじゃあみんな、準備はいい?」
世莉架の言葉に三人は頷く。
「行くわよ」
まずは普通にアークツルスに入るために並んでいる冒険者の列に並ぶ。
逆に外に出てくる冒険者達が次々通りすがって行く。誰も彼もが魔族などを心配している様子はない。やはり、実際にルインの時のような壮絶な光景を見ないと魔族の恐ろしさは分からないらしい。
「……」
しかし、先程からアリーチェの様子がおかしい。勝気な態度はどこかへ行ってしまったようだ。フードを深く被ってできるだけ存在感を消す、というのは元から話していたことであるため、静かにしていること自体は正解である。
だが、震えている。アリーチェは恐れているのだ。ここは人間の国で、現在はエルフが入ることのできない場所。もしもバレたら大変なことになり、幼馴染を救うどころの話ではなくなる。
「!」
そんなアリーチェを見て、ハーリアがアリーチェの手を握る。
アリーチェは驚いてハーリアを見る。
「大丈夫、私達がなんとかするから」
ハーリアは優しく微笑みかける。
(暖かい手……エルフが今まで散々見下してきた人間の手が、ただの少女の手がこんなに暖かいなんて。そして今そのおかげでこんなに落ち着くなんて。どうかしちゃったのかな私。でも……セリカ達のような人間に出会えて本当に良かった)
繋がれた手をぎゅっと握り返すアリーチェ。ハーリアもしっかり握り締める。ハーリア達に限り、人間の身体的接触をアリーチェが完全に許した瞬間であった。
どんどんと進んで行く列。ついにあと数組で世莉架達の番になった。
アークツルスの住む住民ならば審査は少なく、簡単に出入りができる。しかし世莉架達は完全に外から来たため、審査は多く厳しい。聞かれる内容は種族、年齢、名前、何故アークツルスに入りたいという目的、身分証明書となる物の提示などである。世莉架とハーリアは冒険者のライセンスカードがあるからいいが、実はメリアスはそういったものがない。そこは世莉架は機転を利かせて適当に言いくるめる必要がある。
ルインから来たと言えばそれだけで時間を稼げたり、逆に通りやすくなったりするかもしれない。しかし、問題はエルフであるアリーチェなのだ。
「次の方どうぞ」
とうとう世莉架達の番になった。
アリーチェをなんとか偽って入れる、なんてことはしない。それでは人間としてアリーチェが入ったという記録は残る。そもそも偽ることは難しいし、もしかすると誰かがアリーチェをエルフと見抜くかもしれない。そのようにリスクが高いのだ。
だったらどうするか。バレないように強行突破である。
「私は……」
世莉架が兵士に説明を始める。ルインの話をした時点でその兵士の目は変わった。
「ルインからは既に一般市民だけでなく、全ての冒険者と兵士がここに辿り着いていると聞いていますが」
兵士は明らかに警戒している。だが、それは世莉架の予想通りだ。
「いいえ、私達は山の途中で土砂崩れによって分断されてしまったのです。そのため時間短縮できる山の道ではなく、通常の道から来ました。信じられないかもしれないですが、事実です。あぁ、アルファさんとエルファさんがいるでしょう? 彼らに聞いてみてください。私達は彼らに面識があるので」
「ふむ……」
多少は警戒を解いたようだが、兵士の警戒がなくなったわけではない。しかし、他の兵士が対応に来ないあたり、この程度良くあることで、まだまだ大したことではないらしい。
「それでは、ルインから来たという証拠になり得るライセンスカードを見してください。そこにはそのライセンスカードを発行した支部が書かれているはずです」
「分かりました」
これも予想通り。ライセンスカードは身分証明書と同じであり、色々なところで使える。
世莉架はバッグの中を漁り始める。それと同時に目線だけを動かして兵士達の動きを見る。
(今対応してくれている兵士は疲れているようで、気怠げにしているわ。その兵士の背後にいる三人組の兵士達は雑談をしていて、そこから二メートル離れた後方では何かを飲みながら書類に目を通している兵士が二人。私の右側では一人の兵士がこれから外に出る冒険者達に対応している。そこから少し離れた場所でブラブラと所在なさげに歩いている兵士が三人。合計十人……さて、アリーチェがどこまでうまくやれるか)
今回、世莉架達がサポートするとは言え、結局一番動くのはアリーチェだ。アリーチェが失敗したらその時点でアウトだ。
「まだですか?」
「すいません、もう少し……」
世莉架は時間をかけてバッグを漁り、近くにいたハーリアに目配せする。アリーチェはハーリアとメリアスの後ろにおり、恐らく兵士からは見えていない。
目配せされたハーリアは少々緊張した様子でありながらも自分の魔力を使い、ある魔法を発動させる。
「なんだ?」
ボンっと門から六十メートルほど離れた場所で音がした。兵士や周りの冒険者が何事だとそちらの方を見る。そこには小さいが煙が上がっていた。
「爆発か? なんであんな所で」
「にしては随分可愛い爆発だったがな」
「誰かがあそこにいる訳でもなさそうだし……どういうことだ?」
困惑の声が至る所から上がる。それはそうだろう。いくら小さくても爆発音が聞こえて煙が上がっていれば興味を惹かれるし、少しは心配にもなる。
「おい、お前ら一応見に行ってくれないか」
世莉架に対応していた兵士が後ろにいた雑談をしている兵士三人組に声をかける。
「へーい」
気の抜けた声で返事し、音のした方へ歩いていく三人。これだけ魔族に関して騒がれているのに随分と余裕だなと世莉架は一人思っていた。
そして三人が門から少し離れた辺りでアリーチェが動いた。
アリーチェは薄く自身に魔法をかけている。それは空間操作の魔法で、自身の姿を背景と混ぜているのだ。しかし、現在いる門には多くの冒険者と兵士がいる。中には当然魔法の扱いに長けている者がいるだろう。そういう者はアリーチェの魔法に気づく可能性がある。冒険者ならばまだいいが、兵士に気づかれた場合は不味い。
そのため、魔力を抑えてアリーチェは薄く魔法をかけているのだ。となると必然的に魔法の質は下がっており、完全に背景と混じっている訳ではなく、少し空間が歪に見える程度のものとなっている。
だが、それでも一般的な兵士ではなかなか気づかないと思われる。
(一気に行く!)
アリーチェは息を潜め、人の目では捉えにくい斜めの動きをしようと力を込める。
世莉架はそこでタイミングを合わせ、ライセンスカードを取り出して兵士に見せる。兵士はそれを受け取り、書かれている支部を確認している最中に、アリーチェは飛んだ。
エルフは純粋に力が無い。膂力が無いのだ。しかし、それを補えるほどに魔法の扱いと俊敏さに長けている。アリーチェも例外ではなく、簡単に数メートルほどの高さまで跳躍することができ、その動きは相当に捉えにくく速い。
跳躍したアリーチェは、門の内側の壁に一瞬足を乗せ、そこから勢いをつけて一気に中に入ってしまおうと考えた。兵士は皆、それぞれの仕事をしており、気づいている様子はない。
だが、中に入ることができればそれで良いという訳ではない。中に入れてもアリーチェの存在は少なくとも兵士や国の上層部の人間には絶対にバレてはいけないため、常に細心の注意を払い続けなくてはならない。
門の内側を覗けば分かるが、中には沢山の人がいる。首都であるから人口は多く、賑わっているし、兵士も見回りをしていたり大きな建物の入り口を管理していたりと気が抜けない。
つまり、中に入れてもそこでバレたら意味が無い。中に入ったら全速力で、かつ兵士などに見つからないようにどこか裏道のようなところに入り、世莉架達と合流するまで身を隠さなければならない。そこまで行ってようやく一息つける。
しかし、何事も必ず上手く行く訳では無い。
「ん? なんだあれ」
これから町の外に出ようと思っていた冒険者だろうか。町の外に出るための審査をしている列の最後尾に並んだ冒険者らしき人物がそう呟いた。
そしてそれを聞き取ったのはアリーチェと世莉架。エルフは五感がとても優れており、特に聴力に優れていた。そのためアリーチェは混雑している門付近の人間達の声をほぼ全て聞き取れていた。
なんだあれという疑問符を受かべる人物を見つけたアリーチェ。その人物はまさにアリーチェがいる門の上の方をジッと見ている。アリーチェは中に入ってどう身を隠すかを考えていたため、ほんの少しの間だが跳躍して門の内側の壁に捕まってそのままの状態でいたのだ。故に、完全にではないが気付かれた。例え冒険者だとしても、明らかに怪しい動きをして入ろうとしているアリーチェを認識したら当然兵士に報告することだろう。
そしてその人物を把握したのは世莉架も同じ。そこで世莉架は地面に落ちていた小石を見つけた。咄嗟に足で絶妙な力加減、角度で石を踏みつけ、自分の手の位置あたりまで飛ばした。それを一瞬で取り、一瞬でその冒険者に向けて打ち出した。
常人では視認できない速さで打ち出されたその小石は、アリーチェに気付きそうになっている冒険者の持っていたバッグにぶつかった。
「うお!」
小石だとしても速さがあればそれはとても大きなエネルギーを持つ。冒険者の持っていたバッグは弾き飛ばされ、中身がそこら辺に散乱した。
なんだなんだと当然周りの冒険者達も視線がそちらへ向く。兵士達も同様だ。
世莉架の作り出した一瞬のチャンスを無駄にはできない。アリーチェはすぐに動き、ついに町に入った。
(よし!)
アリーチェは右と左を見る。前方には大きな通りがあり、とても人が多いためにそこは身を隠す候補にはならない。右側はそれなりに人いたが、左側の道にはあまり人がいなかった。アリーチェは城壁を上手く利用しながら、決して地面には降りないように左側に走って行く。そして途中で裏道のような人通りの少ない場所を発見し、城壁を蹴って全速力でその裏道に入る。
「やった……!」
本来入ることのできないエルフであるアリーチェはフェンシェント国の首都、アークツルスへ世莉架達の協力の元、侵入することに成功したのだった。




