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(旧) 天才は異世界の救世主[厄災]となる  作者: ポルゼ
第一章 天才は異世界に連行される
17/59

最大戦力

「……!」


 魔王軍幹部であるガルグと戦うアルファとエルファ。その戦いは凄まじく、周りの冒険者はその圧巻の戦いに惹きこまれていた。 

 しかし突然、両者の動きが止まった。ガルグは何故だという表情。アルファ達はニヤッと笑っている。


「どういうことだ。我が軍勢の気配が全て消失した。まだ一万近く残っていたのに、一瞬でその全てが消えた……何をした?」


 ガルグは自分が連れてきた魔族の気配が全て消えたことに多少なりとも動揺している。


「自分達の勝ちは絶対で、必然である……とでも思ってたか?」

「……」

「確かに、数では圧倒的に負けているさ。そして数の暴力っつーのは単純かつ強力。馬鹿みたいに真正面から戦いに行っていたら勝てない。しかし、お前のような幹部クラスの魔族でなければ知能で大きく勝る。だから勝てる」


 アルファ達の提案した魔法陣はとても高度でその辺の魔族には扱えない。魔族の幹部クラスでなければ、人間は知能や技術力を駆使することで魔族に対抗できるのだ。そしてそれを証明した。


「なるほど。確かに数では最早言うまでもなくこちらの不利だな」


 ガルグには先程までの動揺はなく、至って冷静に話している。


「しかし……実力で言えば、未だこちらが優位だよ」


 ガルグの雰囲気が更に変わる。アルファとエルファという強敵と戦える愉悦があり、先程までは楽しそうに戦っていたガルグだが、明らかにそういう雰囲気ではなくなった。今はとにかく目の前にいる人間を殺すこと。それを最優先に動こうとしている。


「お前ら、急いでこの付近にいる動けない負傷者を抱えて城壁の方へ避難しろ。ここにいたら塵も残らないぞ」

「お、おう!」


 戦いを眺めていた冒険者達はハッとして急いで負傷者を探して逃げ始めた。


「よし、これで遠慮は無しだ」

「アルファ、最初から本気で行くわよ」

「おうよ」


 二人は構える。アルファは通常の剣だが、エルファはレイピアのような細剣を持っている。それらを構え、見据えるのはガルグ。二人の体は炎と光に纏まれていき、神々しく光る。

 また、ガルグも同じように体を闇で覆い、闇の鎧のようなものを作る。更に闇によって漆黒の剣が生成される。辺りは三人のそれぞれの属性が蔓延し、高濃度の魔力が漂う。


「……」

 

 三人は構えたまま動かない。誰か一人でも、ほんの少しでも動いたらそれが戦いの合図だ。

 そして時は来る。ガルグが一歩前に進もうとした瞬間だった。

 そこに三人の姿はもうなかった。


「……!」


 轟音が辺り一面に鳴り響く。凄まじい衝撃波が町を襲い、広範囲に渡って町が瓦礫と化していく。

 三人は剣でぶつかっていた。ガルグが落ちてきた時の衝撃波によってできたクレーターの中心でぶつかっているのだ。城壁付近にいた冒険者達もその轟音と衝撃波に気づいた。

 それぞれの魔力のぶつかり合いによって三つの魔力が美しい紋様のように広がっている。

 アルファはガルグの剣を下から掬いあげ、ガルグの体勢を崩した。

 そこに間髪入れずにエルファが神速の突きをガルグの顔に向かって繰り出す。エルファの突きを目で追えるものなどほぼ皆無であろう。しかし、ガルグは紙一重で突きを避ける。


「よく避けれたわね……!」


 ガルグは突きを避けてすぐに全身から闇の瘴気を噴出させた。それに触れてしまうのはとても危険なため、二人は一旦後退する。

 その瘴気の中からガルグは一直線にアルファへ向かって行く。

 剣を振り下ろすガルグだが、アルファは身軽に避ける。避けたことによってガルグの振るった剣は地面に当たり、その場所から百メートル以上先まで亀裂が入った。


「ルーチェ!」

 

 エルファはガルグの背後から光の弓矢を放つ。ルーチェは光属性魔法の中でも初級の魔法である。しかし、エルファの放つルーチェは、普通の魔術師が放つ上級魔法に匹敵する威力を誇る。


「ふん、これでは傷などつかんぞ」


 ガルグは闇を纏った手で容易くエルファのルーチェを弾く。


「そうでしょうね」


 エルファは今度はルーチェを連射する。しかしやはりそれではガルグに傷一つつかない。


「おらぁ!」

 

 ガルグの頭上に影ができた。そこにはアルファがおり、灼熱の炎を纏った剣で攻撃しようとしていた。

 その攻撃をガルグは闇の剣で迎え撃つ。


「ぐぬ……!」


 アルファはガルグの頭上から振り下ろしているため、自身の体重も乗せて威力が高まっている。よって下から攻撃を受けたガルグは少し押されていた。


「エスプロジオーネ!」


 少しの間剣の鍔迫り合いをしていたが、アルファは剣に魔法を付与した。それは単純明快な爆発の魔法である。これもまた、通常の魔術師が放つエスプロジオーネと比べて威力が段違いに高い。

 爆発に巻き込まれたガルグに攻撃を緩めることはしない。すぐにエルファが光の光線、アルファが炎の光線を撃つ。それにより更なる爆発が起こる。クレーターのあった場所は最早原型などなくなっている。


「……アルファ」

「あぁ、こりゃ手強い。分かってたがな」


 二人は一旦合流し、爆発した場所を見る。先程の爆発に巻き込まれて生存している生物など常識的に考えていない。しかし、その常識が通用しないのが魔王軍幹部という存在である。


「これは滾る。滾るぞ」


 爆発による煙が消えた時、そこにはガルグが立っていた。闇の鎧に加えて闇のバリアのようなものを周囲に張っていた。


「想像以上だ。これほどとはな。闇による防御がなかったら危なかったな」


 ガルグは闇のバリアを解く。


「さぁ、次は私の番かな?」

「!」


 そして消えた。闇がガルグを包んだと思ったら二人の背後にガルグが現れた。

 闇の濁流を二人に向かって放つ。それを避けるために距離を取っていると、エルファのすぐ目の前にガルグが突然移動してきた。


「う……」


 エルファは真正面からガルグの攻撃を受ける。しかし、このままだと吹き飛ばされて闇の濁流に呑まれと思ったエルファは上手く剣を受け流す。


「ほう」


 剣を受け流されつつもすぐにまた攻撃するガルグ。そこからはガルグとエルファの凄まじい攻防が繰り広げられる。

 不利なのはエルファだ。背後から迫る闇の濁流を避け、そこに意識をある程度割きながらガルグの剣技を捌かなければならない。その剣は速すぎて常人では捉えられない。だがエルファはしっかりと剣を捉え、最小限の力で受け流す。エルファはガルグという凄まじい剣技を持つ相手の剣を全て正確に受け流しているが、受け流すというのはとても難易度が高い。剣の角度、力の入れ具合、体の動きなどからどうすれば剣を受け流せるのか一瞬で理解し、寸分の狂いなく実行しなければならない。

 それこそエルファのような超人でなければできない神業である。


「初手で私の剣技を見切っていたか! 素晴らしい理解力と観察眼だ。人間とは思えんな」

「そりゃどーも!」


 だがエルファが決して優位に立っている訳ではないし、どこかでこの状況を突破しなくてはならない。


「クソ、邪魔だなこれ!」


 一方アルファはエルファに迫る闇の濁流の数倍はある膨大な闇に追われていた。エルファを助けに行きたいのは山々だが、それを許さないように闇が追いかけてくるのだ。

 アルファは灼熱の炎を闇に向かって放つ。すると闇は一旦減少する。しかし、またすぐに供給されて追いかけてくる。その時点でそれらの闇を消すことは諦め、別の作戦を考えていた。


「このままじゃ埒があかねぇ。エルファの元へ向かいたいが、この闇をどうにかしないと……よし、力技で行くか」


 アルファは元々頭で考えるより自分の感覚や勘に頼ることが多い。頭で考えるのはエルファの仕事で、アルファはとにかく力技で、感覚から最善手を導き出す。その力技で今まで幾度となく窮地を脱してきた。そしてそれができる圧倒的な力がアルファにはある。


「全部……燃え尽きろ!」


 アルファは闇から逃げているため、エルファがいる場所からかなり離れていた。場所的には第四線の近くにあった学校より更に南まで逃げていた。

 アルファは闇から逃げるのをやめ、向き直る。眼前には全てを覆う禍々しい闇。だがそんなもので怖気付くアルファではない。

 剣を闇に向け、そこにありったけの炎を注ぎ、撃ち放つ。

 炎と闇がぶつかる。最初は拮抗していたが、徐々に炎が押していく。


「いけぇ!」


 炎はどんどん闇を侵食し、呑み込んでいく。


「この闇はガルグから出ている。このまま炎で呑み込んでいけば……」


 闇は炎となり、夜の町を、大部分が瓦礫と化している町を照らす。

 アルファの額に汗が流れ落ちる。いくらアルファでもこれだけ膨大で高火力な炎を出し続けるのはかなり大変だ。

 だがここで折れたら終わりだ。どうにかしてこの炎で全ての闇を燃やし尽くさなければならない。


「クソ、キッツイなこれ」


 アルファの炎は順調に闇を消していたが、途中で闇の勢いが強くなってまた拮抗した。拮抗してしまうと闇を消し尽くすのに時間がかかり、厳しい状態になる。

 そしてついにアルファの炎が押され始めた。必死に炎を強めるが、それでやっと拮抗している状態だ。


「こりゃやべぇ。早くエルファの元へ行かないといけねぇのに!」


 アルファは押されていく。折角闇の大部分を消し終えていたのに、その努力が無に帰ってしまう。

 自分はこれからどうするべきか。闇を消すのは諦めて別のアクションを起こすか。それともこのまま頑張るのか。そのように迷っていた時だった。


「なんだ!?」


 突然、炎の勢いが強くなった。自分が出している炎の火力は変わっていない。しかし、何故か炎が闇を押し返し始めたのだ。理由は分からない。というより、今ここでその理由を考えても仕方ない。とにかくこの状況に、この状況にしてくれた何処かの誰かに感謝し、自分も限界を超えて火力を出すのみ。

 

(段々慣れてきた。あとちょっとで……)


 場所は変わり、ガルグとエルファは未だ激しい攻防を続けていた。ガルグの剣を受け流しているエルファは段々とガルグの剣技に慣れ、そろそろ反撃をしようとしていた時だった。


「な……!」


 突如ガルグが燃えたのだ。それどころかエルファの背後に迫っていた闇が燃えている。否、ガルグから出ている全ての闇が燃えて消えていく。

 アルファがついに闇を消し去ったのだ。

 チャンスが訪れたことを理解し、心の中でアルファに感謝しつつエルファは燃えているガルグに一瞬で迫った。


「ふっ!」


 息を止め、突きを当てることに集中する。光の魔力を全力で剣に纏わせ、息を吐くと同時に突きを放つ。

 目に見えぬ神速の突き。ガルグにまだ当たったことのない突きは膨大な光の魔力を纏ってガルグに迫る。

 灼熱の炎に焼かれているガルグはすぐに突きに気づく。突きは顔ではなく、胸あたりに向かってきていることが分かり、それは避けることができず、闇の鎧すら貫くことをガルグは悟った。しかしそのまま突きを喰らう気はない。闇の剣で突きを捌こうとする。

 だが、剣で捌くことすら間に合わないということをガルグは悟る。

 できたのは辛うじて体をずらすことだけだ。

 これらの思考は刹那の逡巡であり、コンマ一秒にも満たない程の一瞬の出来事である。


「ぐっ……!」


 結果的にエルファの突きはガルグの闇の鎧を破り、右胸辺りに突き刺さった。


「はあっ!」


 エルファはそこで更に力を込めて確実に致命傷を与えようとする。


「光が……!」


 光魔法がガルグの体を内部から侵食していく。ガルグは闇魔法で光を相殺するが、剣は右胸を貫いている。また、闇でガルグを襲っていた炎を消す。


「……」


 闇も光も炎もない状態でガルグとエルファは睨み合う。剣は未だ刺さったままだが、無闇に動くことはしない。エルファはこのチャンスを無駄にはできず、ガルグはこの状況を打破しなければならない。それにまだアルファがいる。いつ戻ってくるのか分からない。


「……これは驚いた。私にここまでの傷を負わせるとは」

「まだまだ味合わせてあげるわ。人間の力を」


 エルファは一瞬で光魔法を新たに剣に付与し、同時に剣を動かし、ガルグの心臓を裂いて決着をつけようとした。

 

「があっ!」


 ガルグはその剣を左手で力の限り弾いた。それによってガルグの右肩までバッサリと裂かれたが、それでも心臓を裂かれることは回避した。

 そして二人は一旦距離を取る。


「はぁはぁ……楽しいな」


 ガルグはニヤリと笑う。現状、勢いはエルファ達にある。だがその状態すらもガルグは楽しんでいる。


「魔族はみんな戦闘狂なの?」

「ふ、底辺の魔族はそうかもしれんが、幹部以上の魔族はそうでもないさ。勿論、幹部以上の魔族にも根っからの戦闘狂はいるがな」

「そう。貴方もその戦闘狂の一人なのね」

「いいや、私は至って普通さ。魔王軍の幹部以上の魔族は同じ魔族を従え、指示を出したり、様々な雑事に追われるものでな。戦いに出向くことは極端に減る。そうすると戦闘狂でなくてもたまには戦いたくなるのだ。それも雑魚ではなく、強敵とな」

「……まぁ、人間とか魔族とかは関係なく、実力のある者達に共通するところねそれは。私も否定はできないし」


 実力があればその実力を試したくなるのは当然であり、強敵と自分の全てを出して戦いたいという思いもおかしなことではない。


「そうだな。だからまだ……この戦いを続けたい」


 ガルグはそう言うと、先程まで出していた闇よりも更に高濃度な闇を体に纏う。その雰囲気は凄みが増している。


「大丈夫かエルファ!」


 ようやく戻ってきたアルファはエルファの隣に立ち、安否を確認する。


「えぇ、私は大丈夫。奴に大きな傷も負わせた」

「ナイスだ。にしてもさっきより凄みが増してんのはなんなんだよ」


 アルファとエルファは剣を構える。まだまだ戦いは終わらない。


「アンピプテラ!」


 ガルグが叫ぶと、闇が形を変えていき、ドラゴンのような姿に変わっていく。

 その闇のドラゴンにガルグは飛び乗る。


「……腹括るぞエルファ。多分無事じゃ済まねぇ」

「言われなくても分かってるわ」


 その闇のドラゴンから感じる殺意、敵意、超高濃度な魔力は周囲の空気すら奪っているのかと錯覚するほど強大であり、アルファ達が一瞬硬直するレベルだ。


「呑み込め、アンピプテラ」


 アンピプテラと呼ばれた闇のドラゴンはアルファとエルファを見据え、闇の引力で吸い込みを始める。


「とんでもない引力だ……!」


 その引力はとても強く、二人は地面に剣を突き刺し、なんとか耐える。


「攻撃すれば引力は弱まるわ!」


 耐えながらエルファは光属性魔法をいくつも放つ。引力によって自然にアンピプテラに向かっていく魔法だったが、その魔法は凄まじい闇の魔法で消されてしまった。


「ダメだ、相当に強力な魔法でないと全て消されるぞ!」


 そしてガルグはアンピプテラの上から魔法を放ってくる。闇の引力に耐えながらガルグの攻撃を避けなければならない。この状態が続けば呑み込まれるのはアルファ達だ。時間的な猶予は少ない。


「アルファ!」

「あぁ、やるか!」


 流石双子か、二人は同時に同じことを考えついた。

 引力に耐え、なんとかガルグの攻撃を避けながら二人は魔力を練り始める。


「次は何を見せてくれるんだ?」


 ガルグは興味があるようだが、手加減はしないようで全力の攻撃を続ける。


「……!」


 やがて二人の魔力は練り上げられる。その時、ガルグは気づいた。二人が練り上げた魔力が狂いなく同量であることに。


「まさか、合わせ技か!」


 アルファとエルファがやろうとしているのは合わせ技。誰かと一緒に行う魔法の合わせ技の難易度は通常の魔法を遥かに超えている。息を合わせ、魔力量を寸分違わず同じにし、暴発しないように制御しながら一つの魔法にする。 

 例え初級の魔法の合わせ技でも相当な難易度を誇る。しかし、発動されればその威力は一人で放つ魔法とは段違いである。


「アンピプテラ、更に引力を強くしろ! そしてお前も魔法を放て!」


 ガルグがアンピプテラに指示すると、引力は強まり、更には魔法も放ってきた。

 迫り来る無数の魔法に加えて強力な引力。流石のアルファ達もこれはたまらない。


「くそ!」


 アルファが魔法の攻撃を避けた時、たまたま足を滑らせた。そしてそれはこの状況においてはあまりに痛い致命的な出来事である。

 吸い込まれそうになるアルファ。だが、その時エルファが動く。


「!」


 エルファは吸い込まれそうになったアルファの元へ行く。そしてアルファが吸い込まれないように光の魔法で地面とアルファの足を繋ぎ合わせる。

 それと同時にガルグの魔法が二人に向かっていく。エルファは避けれないことを悟って光魔法で全力で守る。

 だが、ガルグの魔法に加えてアンピプテラの魔法も加わり、エルファの防御を破った。


「がっ……!」


 攻撃を喰らってしまったエルファはアンピプテラの方へ吸い込まれていく。


「エルファ!」


 アルファが叫ぶ。ガルグは好機と思い、エルファを確実に吸い込むために魔法による追撃を続ける。

 エルファはなんとか光魔法を展開し、防御に専念する。

 凄まじい魔法がエルファに連続して当たる。斬撃の闇魔法、打撃の闇魔法、純粋に威力の高い闇の濁流、闇の瘴気など様々な攻撃がエルファを襲う。

 エルファの鎧は既にボロボロで、血反吐を吐いた。


「ははは! これで一人脱落だな!」


 エルファが吸い込まれそうになってガルグは愉快そうに笑う。

 だが、そこで違和感に気づく。


「……」


 ガルグはエルファを見る。そこには今まさに吸い込まれそうになりながらも光魔法で必死に防御するエルファがいる。そのエルファは両手を前に出し防御系の光魔法を行使している。


「……剣を、持っていない?」


 エルファはレイピアのような細剣で戦っていた。そして、二人が合わせ技を繰り出そうとしていた時は剣を持っていた。しかし、今防御系の光魔法を行使しているエルファの手のどちらにも剣が握られていない。それが違和感の正体。


「……!」


 エルファは剣を持っていない。当然ガルグも持っていない。アンピプテラに吸い込まれていたら流石に気づく。となると、自ずと答えは出る。

 そう、アルファだ。


「はっ、もう遅いぜ馬鹿野郎め!」


 エルファはアルファの元へ行き、ガルグの攻撃を受ける直前に剣をアルファに渡していたのだ。既にエルファの剣に魔力は込められており、後は魔力を制御するだけだったのだ。


「アンピプテラ、アルファを狙え!」


 アルファに大きな魔法がいくつも迫る。だが、時既に遅し。


「ソーレ・アステロイド」


 ガルグがその魔法の名を言う。その合体魔法は光と炎が合わさり、人くらいの大きさの球体になっている。それは周囲を闇魔法で覆っている状況では一つの惑星、一つの太陽のように神々しく輝いている。

 

「アンピプテラ、呑み込みをやめるんだ!」


 闇の引力のせいでその球体を自ら引き寄せてしまうと考えたガルグだった。しかし、そんなのは全く関係ない。


「無駄だ。これは惑星だぜ?」


 アルファの眼前にあった球体。ガルグが気づいた時には、ガルグの眼前にあった。


「は……」


 凄まじい炎と光の爆発が起こる。人くらいの球体だったその魔法は、闇のドラゴンであるアンピプテラを軽々覆い尽くすほどの大きさになっている。

 その中は超高密度、超高濃度、超高火力の光属性と火属性が全てを焼き尽くし、その存在を消し去ろうとする。

 神々しく輝くその球体は見る者を魅了する。夜空に輝く星のように美しく、残酷なその魔法は最早人智を超えている。

 やがて球体は小さくなっていき、消えた。


「……すげーな」


 この魔法の発動のために自らを犠牲にしたエルファに駆け寄ったアルファは、球体が消えた後の場所を見て呟いた。

 そこにアンピプテラはいなかった。しかし、ガルグは膝をついてそこにいた。

 体からは多量の血が流れ、煙が立ち上っている。


「がはっ、ごほっ……強いな、お前達は」


 ガルグは辛うじて立ち上がる。


「まさかあれを喰らって生き延びるとはな。頑丈にも程があんだろ」

「魔族は頑丈さが売りでね」

「そうかい。まぁ、生き延びてしまったんなら仕方ない。トドメ刺させて貰うぜ」


 アルファは剣を持ってガルグに近づいていく。


「……まぁ、当然だろうな。これは戦争なのだから。少なくとも指揮をする者の首を取らなければ戦いが終わったとは言えない」

「分かってんじゃねーか」


 アルファは剣を構え、ガルグの命を刈り取ろうとする。

 

「だが、ここで終わるのは勿体無いと思わないか?」

「!?」


 突然、ガルグから大量の闇が噴出された。


「くそ、まだやるってのか!?」


 闇は広範囲を覆い、視界が悪くなる。


「だったら付き合ってやるぜ! 来いよ!」


 アルファはどこから来ても対処できるように構える。


「……」


 しかし、待っていても攻撃が来ない。それどころかガルグの気配を感じない。


「まさか……!」


 アルファは炎を噴出し、闇を払う。

 しかし、アルファの前には誰もいなかった。


「逃げられた……くそが!」


 ガルグは逃す訳にはいかなかった。魔王軍幹部の一人であるガルグを仕留める絶好のチャンスだったのだ。逃がしたのはとても痛い。

 だが、ガルグは完全に逃げに徹しているのか、もう全く気配も魔力の残滓も感じない。これでは追えないのだ。


「やっちまった……対話なんてせずにさっさと仕留めていれば……」


 アルファは後悔し、そこに座り込んでしまった。


「アルファ」


 エルファは治癒魔法で自分を治しながらアルファの元へ行く。


「確かに逃がしてしまったけど、今は生き残れたことを喜びましょう。幸い私達に大きな怪我はなかったけど、一瞬の油断やミスで致命傷を負っていたかもしれない」

「……そうだけどよ」

「もう、アルファってこういう時結構引きずるわよね。もっと普段みたいにしゃんとしなさい」

「けっ、うっせーよ」


 アルファとエルファは顔を合わせ、笑みを浮かべた。

 ガルグには逃げられたが、今回の人間と魔族の攻防戦は人間の勝利で終わった。

 いや、まだ正確には終わっていない。ガルグの居場所を完全に把握している人物が一人だけいるのだから。


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