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(旧) 天才は異世界の救世主[厄災]となる  作者: ポルゼ
第一章 天才は異世界に連行される
16/59

人の命・魔族の命

 ガルグによってできたクレーターが世莉架の魔法によって更に拡がっている。その真ん中にいたガルグは周りの冒険者達を皆殺しにするために空中に浮いていく。

 そしてその様子をすぐ近くまで来ていたアルファとエルファが目撃。そこでアルファは超高火力の炎の弓矢を空中に浮かんで高度を上げた事によって見えたガルグの頭に向かって撃ち放った。

 結果それはガルグに避けられてしまったが、兎にも角にも圧倒的強者達による戦いが始まろうとしていることは間違いない。


「やっと正々堂々強者とまともな勝負ができる。私はガルグ。魔王軍第三幹部隊の一人だ」


 ガルグは新たな強者に歓喜しつつ自己紹介する。


「俺はアルファだ。こいつはエルファ。俺達のことは知っているか?」

「あぁ、お前達のことは聞いている。魔王軍幹部クラスとなかなか良い戦いができる数少ない人間とな」

「はっ。そりゃ光栄だ。しかし良い戦いだけで終わらない。こっちはお前のような幹部クラスをも凌駕する」

「それは面白い。是非ともやってみて欲しいね。結局姿は見れなかったが先程までかなり骨のある相手と戦っていてね。しかし今は何処かに消えてしまったようで不満だったんだ」

「さっきのとんでもねぇ魔法を使った奴か。じゃあ良かったな。そいつの代わりに俺達が相手になるんだから」

「とても昂ぶるよ。久しぶりに心から楽しめそうだ」

 

 アルファとガルグの雰囲気は意外と柔らかい。互いに相手の力量が今までの敵を遥かに上回ることを会話するだけで理解したようだ。


「……」


 そんな中、エルファはある一つのことを考えていた。


(さっきの凄い魔法。第四線に配置した上級冒険者と兵士にあんな魔法を使える者はいなかったはず。そんな人がいたら迷わず第一線に配置するから。となると誰が……明確な根拠はないけど、やっぱり怪しいのは……)


 エルファが目の前に敵に集中できてないことが分かったアルファは軽くエルファの横腹を小突く。


「おい、集中しろ。そんな余裕はないはずだぞ」

「……えぇ、ごめんなさい。集中するわ」


 二人は改めてガルグと向き合う。


「さて、始めようか。久々に熱い夜になることだろう」


 いよいよ今回の戦いにおいて最大戦力同士の戦いが始まる。





 **





 アルファとエルファがガルグと戦いを始めた時、世莉架は第四線のすぐ後ろにある学校に向かっていた。

 ガルグが落ちてきた時の衝撃波はやはり凄まじく、頑丈なはずの学校の半分は瓦礫と化していた。

 学校内には食料や薬品、ポーションなどが置いてある他に、町の上層部の人間がいる場所でもある。


「……」


 半壊した学校を見つめる世莉架。瓦礫の山を乗り越えて学校に入る。明かりは消えてしまったようで中は暗い。

 世莉架は迷わずに学校の二階に向かう。二階を進んでいると明かりのついている部屋を発見した。

 その部屋からは複数人の声が聞こえる。その声は明らかに焦った様子であり、怪我人でも出たのかもしれない。

 部屋の扉は変形しており、中から開けられないのかもしれない。世莉架は短剣で音すら立てずに変形した扉を切り裂く。

 中にいたのは町の上層部の人間だった。部屋はボロボロで、今にも崩れそうだ。更に二人の負傷者が出ているようで、横たわっている二人の側でこれからどうするか言い争ったり、できる限りの治療を施していたりとかなり混沌としていた。

 突如部屋に入って来た世莉架に視線が一気に集中する。


「き、君は……」

「第四線に配置された冒険者の世莉架です。現在外では魔王軍幹部がアルファ達と戦っています。冒険者、兵士共に負傷者が多く、更に薬品やポーションが置いてあるこの学校は衝撃波によって半壊してしまっていたため、貴方方の安否の確認と薬品などの補充にきた次第です」

「そ、そうか。君は治癒魔法は使えるか?」

「申し訳ありません。私はまだ初心者でして治癒魔法どころか通常の魔法すらも上手く扱えません」

「ふむ……しかし、扉を開けてくれたことには感謝しよう。扉が変形して出られなかったのだ」

「警護の冒険者や兵士達はいないのですか?」

「ずっと部屋の外で待機してもらっていたのだが、先程の強烈な衝撃波で何処かに吹き飛ばされてしまったようだ」


 彼ら町の上層部の人間を警護していたのは上級冒険者や上級兵士ではなく、第四線に配置されるような初心者達だ。世莉架が学校に入る時、学校が半壊したことでできた瓦礫の山の上に数人倒れているのを見かけたが、それが警護をしていた者達のようだ。


「そうですか……では皆さん、一旦ここを出ましょう。このままだと建物が壊れてしまいます。負傷者は私が運びますので」


 世莉架は負傷して倒れている二人の元へ歩きながら言う。その意見に反対してこのまま危険な学校に残ろうとする者などいない。

 世莉架が開けた扉に向かう町の上層部の人間達。部屋の外に出ようとした瞬間だった。


「!」


 突然、一番最初に部屋の外に一歩踏み出した男の首が落とされた。


「う、うわぁぁぁ!」


 部屋に悲鳴が響き渡る。突然目の前の男の首が落ちたら普通腰を抜かすだろう。


「皆さん、部屋の中心へ!」


 世莉架が声をかける。


「外に魔族がいるのかもしれません。一旦部屋の中にいて下さい。私がなんとかします」

「ま、まさかこんなところまで侵攻されているのか!? だとしたらもう冒険者や兵士は全滅してるんじゃ……」

「分かりません。戦場は常に混沌としていて予想外の出来事などいくらでも起きるものです。とにかく皆さんはここにいて下さい」

「クソッ、何をやってるんだ冒険者や兵士は……町を、私達を守ることが出来ないなんて生きている意味すら無い!」


 一人の男がストレスや不安によるものからか、現在命を賭して戦っている冒険者や兵士を侮辱する。

 そしてその怒りとも嘆きとも言えるその言葉に他の者達も同調し始め、他者への文句を垂れている。


「……では、行ってきます。絶対にここにいてくださいね」


 文句を垂れている彼らは世莉架の言葉にも大した反応を見せない。世莉架はそんな彼らを静かで感情の無い瞳で見た後、部屋の外に出てそのままどこかに走って行った。

 

「冒険者は……」

「兵士は……」

「アルファやエルファは……」


 彼らはいつまでも文句を垂れる。自分達は何もせずに一番後ろで隠れて見ていただけなのに。そもそも世莉架が誘導しなければ町に残るつもりさえなかった。

 世莉架は決めていた。自分達だけ首都へ颯爽と逃げる事で安全を確保することが当たり前だと思っているその性根。無力であるのに自分を有能と信じて疑わず、他者を無意味に見下すその性格。

 そんな人間がのうのうと生きていることを容認できるのか? いや、できない。世莉架にとって、それが犯罪であろうがなかろうが関係ない。誰が関わっていようが関係ない。消すべきだと、生かすべきではないと判断したのなら必ずそれを実行する。


「本当に奴らは全くもって役に立た……」


 彼らのうちの一人がまた文句を垂れているときだった。

 突然胴体が真っ二つにされた。


「な……!?」


 そこは部屋の中だ。世莉架に言われた通り部屋の中で待機している。しかし、突如として一人殺された。しかも何が起きたのかわからない。


「ど、どういうこ……」


 次々と体が真っ二つにされていく。それは縦にだったり横にだったり斜めにだったり、色々だ。

 訳も分からず殺されていく様子をまだ生きている者達は絶望しながら見ていた。

 言葉を発しようとした瞬間、体はバラバラになっていく。部屋は夥しい量の血が溢れかえり、その場の空気を吸ったら普通は嗚咽を我慢することはできないだろう。斬られた腕が、頭が、足が、腹が、様々な体の部位が転がっていく。残酷な斬られる音が絶えず聞こえ、断末魔は一瞬しか聞こえない。まさに地獄絵図だ。

 その攻撃が斬撃なのか魔法なのか、魔族がやっているのかなどなど分からないことだらけの中で、答えを見つけられずに死んでいく。

 誰もがこうなるとは思わなかっただろう。自分達は学校で隠れていればいい。アルファやエルファがいるし、自分達を守ってくれている冒険者や兵士がすぐ近くにいる。これで魔族に勝利すれば沢山の名誉が手に入る。沢山の名誉が手に入れば必然的に富も手に入るということだ。


「……」


 部屋の中で生きている人間はただ一人になった。その人物は世莉架と役所で町での生活や裏社会について話したウェールだった。

 ウェールは呆然としている。自分もこのまま殺されると覚悟したのに自分が最後の一人になった途端、攻撃が止んだ。

 すると外から誰かの足音が聞こえてきた。誰だろうと回っていない頭で考える。


「……君は」


 そこには世莉架がいた。息を切らし、駆けつけてきたかのようにそこに立っていた。


「だ、大丈夫ですか?」

「……君こそ、敵は倒したのですか?」

「はい、先程どこかに向かって攻撃している魔族をようやく見つけることができました。不意をつけたのは運がよかったです。しかし、奴が狙っていたのはこの部屋……だったんですね……」


 世莉架は悲しそうな顔をする。


「私だけ運良く、無様に生き残りました……もうどうすれば……」 


 ウェールの精神状態は危うい。このままではこれからの生活すら危うくなるかもしれない。そんなウェールに世莉架は近づいてゆったりとした口調で話しかける。


「落ち着いてください。現在、この町を動かす大事な役割を担っているのはウェールさん、貴方だけです。もう他にいないのです。皆……死んでしまいました。ですが、貴方さえ残っていればこの町を立て直せます。勿論、冒険者や兵士もみんな協力します。みんなで頑張りましょう。こんな凄惨なことがもう二度と起こらないように、皆が死に怯えなくていいように」


 世莉架はウェールに希望を与える。それによってウェールは多少は精神状態が安定したようだ。町の上層部で何度も修羅場を乗り越えてきたのだろう。普通だったらしばらく気を失ってもおかしくないが、なんとか気を立て直した。


「あぁ……私が頑張らなくては……皆の分まで……」

「えぇ……確か学校には地下があったはずです。そこなら安全ですし、念の為に食料や薬品なども置いてあったはずです。そこに行きましょう」


 世莉架はウェールに肩を貸し、学校の地下に行く。


「君はこれからどうするんです?」

「まだ決めていません。とにかく戦場に戻って状況を確認し、臨機応変に動きます」

「そうですか……どうかご無事で」

「はい、貴方も」


 そうして世莉架はウェールを地下に入れて学校の外……ではなく、二階に上がり、先程大量虐殺が行われた部屋に向かう。

 部屋は相変わらずの地獄絵図。至る所に死体が転がっている。

 そんな死体に向かって世莉架は。


「……」


 雑に短剣を振る。それによって更に死体は滅茶苦茶になる。一見すると魔獣か何かに殺されたかのように見えるように、絶妙に繊細で時々雑に死体を切り裂いていく。その時の世莉架の表情には何もない。悲しみもなく、かと言って歓喜している訳でもない。ただただ暗い目でそれを見ているだけだ。

 その後、世莉架は半壊した学校が数分後には完全に崩れるように学校内に残った柱をいくつか破壊していった。これによってバラバラになった死体は更に潰れ、まず間違いなく魔族がやったと思うだろう。そこにウェールの証言も加われば誰も疑わない。

 最初に部屋の外に出ようとして首を落とされた者がいたが、殺したのは世莉架だ。世莉架は部屋に入る前に水魔法を操り、ウォーターカッターをいつでも発動できるようにしていたのだ。そして外に出ようとした者の首を落とした。その後、魔族を倒しに行くと言って外に出る。その際、世莉架はさりげなくウェールに小さな小さな魔力の塊を付けておいたのだ。世莉架であれば、多少離れた所でその小さな魔力の塊が分からなくなることはない。そして少し離れた所からウェールが部屋のどこにいるのかを把握し、ウェールだけが生き残るようにウォーターカッターを撃ち、一人ずつ殺していった。

 世莉架の心は真っ黒だった。ゆっくりと歩いて学校の外に出る。

 ウェールを除き、町の上層部の人間を虐殺したのは世莉架だ。世莉架は演技力も女優顔負けであるため、部屋に戻ってきた後の世莉架の様子を見たウェールは全く疑っていないだろう。

 世莉架はまたも人を殺した。しかも今回は人数が多い。たった数秒で多くの命を奪ったのだ。

 しかも今回は世莉架の私情によるところが大きい。町の上層部の中には裏社会を深い結びつきがあり、バレたら即処刑されてもおかしくない者がいたことだろう。だが性格はどうであれ、そうでない者もいたはずだ。

 世莉架はただ彼らの態度と魂胆、その性格がとにかく気に食わなかっただけなのだ。しかし全員殺してしまうとこれから町の運営を全くしたことのない者達でなんとかやっていくしかなくなる。そうならないために唯一ウェールだけ残したのだ。彼だけは世莉架の殺害対象から外れていた。

 私情なのにも関わらず、憎かったり嫌いな相手を殺しても世莉架の心が晴れることはない。

 世莉架は上を見上げる。戦いは続いているのに綺麗な夜空がそこにはあった。自分とは真反対の、綺麗な星々を見て世莉架は自嘲した。

 大きな魔力のぶつかり合いを感じた世莉架はそちらを見る。そこではアルファとエルファがガルグと戦っていた。そこで世莉架はすぐに気持ちを切り替え、これからの行動について考える。結果、アルファ達の戦いを見守ることにした。アルファ達が勝った時と負けた時にどう動くかはもう既に決めてある。また、勝ちでも負けでもない、引き分けのような形になった時のことも。

 世莉架は学校の崩壊に巻き込まれない場所にて、瓦礫の陰からアルファ達の戦いを見守る。





 **





「これは……」


 城壁のすぐ側まで辿り着いたハーリアとメリアス。城壁の近くには沢山の人がいた。そして城壁の外からは常に戦闘音が聞こえてくる。

 城壁の中には小さいながらもスペースがあり、そこに運ばれていく人達が多くいた。そして何より、二人の目の前で何かを用意する人達がいる。


「これってあの作戦だよね?」

「そうだね。けど結局ここも危険なことに変わりはないから、とりあえずメリアスは城壁の中に入っておいて」

「分かった」


 メリアスは城壁の中に入っていく。これで世莉架の言っていたメリアスの安全の確保は完了した。


「それでも絶対的に安全という訳ではないけどね……私は前線へ出よう」


 ハーリアは迷わず城壁の外に出る。そこでは多くの冒険者と兵士がまだまだ大量にいる魔族と戦っていた。

 城壁の外へ出て魔族の元へ向かうハーリアを見て城壁の上から攻撃している者達は驚き、止めようとした。しかし止まる気などハーリアにはない。少しでも魔族を減らすため、被害を抑えるために全力を尽くすのみ。

 確かにまだハーリアは十七歳だ。だが、ただの十七歳の少女だと思う事なかれ。その実力は、その潜在能力は周りの冒険者や兵士を軽く凌駕している。


「久しぶりに……全力を出す!」


 ハーリアに以前のような怯えは一切ない。ただ皆を守るために奔走する。

 魔力を練り始めるハーリア。ハーリアが魔力を練る時間は一般的な速度よりかなり早い。練られていくその魔力は相当に高濃度で、周りにいる魔法を使える冒険者や兵士は何事かとハーリアを見る。

 そしてついに魔力を練り終えたハーリアはその技を魔族の軍勢に放つ。


「トレ・コルテオ」


 その瞬間、ハーリアの前方には異常な量の水、風、闇属性の様々な武器の形をした魔法が飛んでいく。それは幹部でもない魔族が躱せるような魔法ではない。単純な魔法ではあるが、規模も速さも通常の魔法とは段違いだ。

 その魔法を多くの魔族は正面から受け、蹂躙されていく。ただ魔族の断末魔はうるさいくらいに聞こえてくる。


「マジかよ、あんな女の子が……」


 周りの冒険者達は呆然とその様子を眺めていた。明らかにそこらの少女が行使していい魔法のレベルを超えている。


「俺たちも続くぞ! このままあの子に助けられていたら恥ずかしくて生きていけねーぞ!」 

「おお!」


 ハーリアの登場と魔法の行使は落ち込みかけていた冒険者達の士気を大きく高めた。


「相手はまだ一万ほどは残っている。どこかで見切りをつけて、城壁の入り口付近に魔族を誘導しないと」


 ハーリアは今度は魔力の消費量を抑え、それでも魔族を一体ずつ確実に倒せる魔法で数を減らしていく。

 他の冒険者達は士気を上げたものの、疲労や魔力切れが次々に起こっていく。そうでなくとも負傷で城壁まで退避したりする者もいるため、ハーリアの参戦で一時は魔族を押し返したが、またも勢いは相手に奪われた。


「……全員、攻撃しながら退避だ! できる限り城壁の門付近に魔族が集結するよう誘導しながら町に戻るぞ!」


 一人の上級冒険者がそう号令をかけた。それを聞いた冒険者達はすぐに何をするのか察知し、まだ少しでも余裕のある者は魔族を誘導しながら町の方へ近づいていく。 


「よし、ならもう一回……!」


 ハーリアは退避しながら少しでも魔族を減らすために先程の魔法を準備する。


「トレ・コルテオ」


 三属性の魔力の濁流が魔族を飲み込んでいく。それによって前線にいた魔族は消しとばされていく。


「まだまだ!」


 更にもう一度魔力を練り上げて同じ技を放つ。

 ハーリアの魔法の技術は魔術師の中でも既にかなり高い方だが、魔力も桁違いに多い。完全魔術師(ペルフェットメイジ)の名に恥じない才能をハーリアは持っている。

 そのため大技の連発という集中力、魔力の練り上げる精度、技術などなど色々な要素が必要になる大変なことを成し遂げられる。

 もう前線にはハーリアしか残っていない。他の冒険者達はどんどん町の方へ退避していっており、既に城壁の内側に入っている者もいる。

 

「おい、嬢ちゃん! もう誘導は難しいだろう。だからそろそろ町に戻れ!」


 上級冒険者の一人がハーリアの声をかける。


「分かってます! でも、誰かが前線に残って魔族をきちんと誘導しないといけません! そしてその役目は私に任せてください。私はまだ参戦したばかりで魔力も多く残っています。皆さんは城壁のところで絶対に失敗しないように準備をお願いします!」


 ハーリアは一番危険な役を自分の意思で選んだ。実際に町の外にて行われている戦場で今一番魔力に余裕があるのはハーリアだ。 


「……くそ、俺もやる! 俺と嬢ちゃんで城壁の門の近くまで誘導するぞ!」

「ありがとうございます!」


 その上級冒険者はハーリアと共に魔族を誘導する役目を担った。ハーリアは素直に礼を述べる。

 未だ多くの魔族が残っているため、その魔族の意識を自分たちに向けないと城壁の門近くに誘導できない。

 意識を向けられないと町をグルッと回って現在戦っている場所とは反対の町の入り口から入ってきてしまうかもしれない。そんな知能はないはずだが、絶対とも言えない。それに何より、城壁の門近くに誘導できないと人間側が画策している作戦が実行できない。

 ハーリアと上級冒険者は威力がなくても目立つような魔法を広範囲に放ちつつ、城壁の門に近づいていく。


「お前ら、タイミングを間違えるなよ!」


 城壁の門の所には沢山の冒険者、兵士が大きな魔法陣を囲むように立っていた。その顔はどれも緊張しており、一回しかチャンスがないことを物語っている。


「ハーリア、無茶しないで……!」


 メリアスは城壁の中から外が見える小さな窓から魔族を誘導しているハーリアを見る。大量の禍々しい魔族に追われるハーリアに、メリアスは心から無事を願う。


「そ、そうだ。ハーリアにもギフトを……」


 メリアスはハーリアにも世莉架と同じように超強力な能力を手に入れることのできるギフトを与えようとして、留まった。


(ダメだ。ギフトは異世界転移を行った者にしか与えてはいけない。それにギフトは一度出したら基本的にその存在を消すことができない。つまり、ここでギフトを与えたら完全に私と世莉架の事情に付き合わなくてはならなくなる。そんな強制みたいなことはしたくない)


 メリアスは神だ。神は自ら世界を救うことはしない。できるだけその世界に住まう者に干渉しない。だが、世莉架以外にギフトを贈るといったような干渉はできず、またギフト以外では何もできない自分に情けなさを感じていた。


「こんなのが神だなんて、笑っちゃうよ……」


 メリアスはただ願い、祈る。自分が願われ、祈りを捧げられる存在だが、今は下界に降りているため人間みたいなものだ。祈ったっておかしくない。

 そしてそんな祈りを知らないハーリアはそろそろ城壁に辿り着きそうだった。

 魔族の攻撃をいなし、目立って誘導する。この作戦が一回きりということからも神経を使ったようで、疲労が顔に出ている。


「もうすぐ……!」

「お前達、準備はできているか!?」


 上級冒険者は魔法陣を囲んでいる者達に問う。


「完了している。後はなんとか魔法陣を発動させてここにできる限り近づけるだけだ!」

「よし! 嬢ちゃん、もうここまできたら誘導はいい。魔法陣のところまで行くぞ!」

「はい!」


 ついにハーリアと上級冒険者は誘導をやめ、城壁の門に向かって走り出す。既にその二人に意識が向いている魔族の軍勢は追いかけてくる。


「全員城壁の内側に入った!」


 そしてハーリアと上級冒険者が城壁の門をくぐる。そこには大きな魔法陣を囲む多くの人々。中には負傷して治療を受けていたはずの者もいる。この作戦がうまくいけばガルグ以外の魔族は全滅させることができる。戦いの勝敗を左右する重要な局面だ。

 その魔法陣にハーリアも加わる。そこでメリアスが城壁の中から外に出てきて、ハーリアに寄り添った。


「メリアス、危険だから中に……」

「ううん、私だけ隠れているなんて嫌。私はここにいる。応援しかできないけど、ここにいさせて」

「……」


 ハーリアは意地でもここを動かない、という覚悟をメリアスから感じ取った。


「!」


 しょうがないなぁ、とでも言うようにハーリアはメリアスの手を握る。

 するとメリアスは子供のように嬉しそうな顔をする。それによってハーリアにも自然と笑顔が溢れた。

 だが危機はすぐそこまで迫っている。魔族達はもうすぐそこだ。魔法陣をきちんと発動させ、その効果が魔族の軍勢に適用されなければならない。


「全員、息を合わせろよ」


 ハーリアと共に魔族の誘導をした上級冒険者が言う。

 基本的に魔法陣には魔力を込める。そうすることで魔法陣の効果が発動する。しかし、規模が大きくなればなるほど必要な魔力は増え、かつ魔力の制御、調整がとても困難になる。

 今回の魔法陣には冒険者や兵士の初心者から中級者、更に上級者まで様々な人が関わっている。当然初心者の魔力制御、調整は覚束ない。そこは経験豊富な上級者がカバーしないといけない。つまり、とても難易度の高い魔法陣だと言う事だ。


「ふう……」


 ハーリアは魔力を込め始める。他の者も魔力を込めていく。すると魔法陣が青白く光り出した。


「よし、一段階突破だね」


 この魔法陣は段階によって色が変わる。最終的には黒い光で包まれるのだ。

 一段階は青白い。次に赤くなり、最後に黒く光れば成功である。


「み、緑に……」


 しかし二段階は赤色にはならず、緑色に光り始めた。


(このままだと発動しない。なんとかして調整しないと……!)


 ハーリアは未だ多くの魔力を残している。しかし、今回の魔法陣の規模は大きいため、ハーリアの魔力もその分多く使用することになる。

 このままの魔力量で調整しても赤色に光らせることはできない。となれば魔力にまだ余裕のある者や上級冒険者、上級兵士が他者の魔力より多く込め、他者よりも多く調節するしかない。


「ふ……!」


 ハーリアは出し惜しみせず、一気に魔力を使う。そしてその才能を持って絶妙に調整していく。

 それは簡単にできることではない。魔力切れ、というのはとにかく疲れ、不快感が体を襲う。頭痛や吐き気を催すこともある。ポーションは既に切れ、これ以上魔力を回復することはできない。

 それに魔力を一気に使い切るのは通常の魔力切れよりも遥かに辛い。気絶してもおかしくない程に。

 そのため、魔力を一気に使い切るなんて決断はそうそうできるものではない。それでもハーリアは一切躊躇わずに魔力を全力で込めて調節していく。


「っ……」


 ハーリアに立っているのも辛い程の頭痛が襲った。視界も悪くなっている。

 しかし止めない。そんな状態でも死ぬ気で魔力を込めて繊細に調節する。そのおかげで魔法陣は段々と赤色になっていき、ついには赤色になった。後は黒くするだけだ。

 現在ハーリア一人で魔法陣の魔力の四割、調整は五割ほどを担っている。時々ふらつきながらも、全力を尽くしている。

 そんなハーリアを見て、他の冒険者や兵士が何も思わない訳が無い。

 皆が魔力切れのことなど考えず、全力で魔力を込め、今までにないくらいに集中する。


「やった……!」


 そしてついに魔法陣が黒く光り出した。それと同時に魔族の軍勢が城壁の門に辿り着く。数はまだ一万近くいるため、門に集中してごちゃごちゃになっている。

 先頭にいた大きい巨躯の魔族が腕を振り下ろし、門を破壊する。

 そして魔法陣を発動する時がやってきた。


「全員、魔法陣を発動させろ!」


 上級冒険者が叫ぶ。それと同時に全員が魔法陣を発動させるための魔力を込め、ついに発動する。


「ブラッディ・モールティ」


 ハーリアが呟く。その瞬間、魔法陣を囲む者達の眼前に迫っていた魔族達の足元に黒い円が浮かび上がる。

 突如足元に現れたそれに気を取られ、不思議そうにする魔族達。

 それは一瞬の出来事だった。

 音もなく魔族が黒い何かに包まれ、その黒い何かが消えるとそこには何もなかった。

 本当に一瞬のことだった。


「……」


 まだ一万近くいた魔族。しかし、一秒ほどでその全てが音も無く消え去った。

 呆然とする冒険者と兵士達。この魔法陣はアルファ達上級冒険者によって提案され、戦いの準備期間中に試行錯誤しながらも作り上げられた魔法陣だ。この魔法陣の効果は教えられていたが、本当に音も無く一瞬であれだけの魔族が消え去るとは思っていなかったのだろう。

 魔法陣の効果は、その効果が適用する範囲内に存在する魔族のみの消却。範囲はあまり広くなく、一箇所に集めて発動しないといけない。しかし、その範囲内にさえいれてしまえば全ての魔族が消え去る。幹部以上の魔族に対して効果があるかは不明だが、幹部以下なら間違いなく消せる。ほぼ必殺の超強力な魔法陣だ。


「やっ……た」


 ハーリアは安堵したと同時にその場に倒れこんだ。魔法陣に最も魔力を使い、最も魔力制御、調整をしたのだ。魔力切れ、疲労、緊張からの解放などが襲いかかり、とうとう意識を保てなくなったのだ。

 メリアスはしゃがみこみ、ハーリアの頭を自分の膝に乗せる。そして頭を優しく撫でた。


「お疲れ様。頑張ったね。まだ脅威が去ったわけじゃないけど、今だけはゆっくり休んで」


 静かに寝息を立てるハーリアの顔は、とても安らかだった。


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― 新着の感想 ―
[一言] うん、殺された人達の態度を見ると、かなりグレーですが、セリカさんが悪人とは未だ言えないだと思います。
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