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第三十三話【オッサン、大聖堂に着く】

 時刻はお昼をちょっと過ぎたぐらい。


「ついたーっ!」

「きゅっきゅぅーっ!」


 ニーナとキューちゃんが巨大な建築物を見上げながら、飛び跳ねて歓喜の声を上げた。

 煌びやかなステンドグラス、巨大な十字架、そして鳥のシンボル――

 綺麗な石材で作られたその建物は、非常に厳かで神聖的な雰囲気を醸し出している。

 

 旅の神を祀る、"カルーン大聖堂"だ。


「すっごいおおきいね、パパっ!」

「ああ、遠くから見ても大きかったが……近づくと尚更凄いな」


 実物を目の当たりにすると、その大きさに圧倒される。

 流石、パンドラの大御神を祀る聖堂と言ったところか。

 観光や祈りに来る人も非常に多く、聖堂前は混雑としていた。


「あっ、おまもりとおんなじ形だ!」


 鳥のシンボルを指差してニーナは言った。


「カルーンのシンボルだよ、ニーナ。渡り鳥の形をしてるんだ」

「わたし知ってるよ! きかんまほーのかみさまだよねっ!」

「厳密には違うんだが……まあいいか。その通り、"旅の神カルーン様"だ」


 旅の神と呼ばれるカルーンは、この世界(パンドラ)の"大五神"の一神だ。

 大五神とは、"戦神モルガ"、"魔神ウィアナ"、"技神ツァル"、"冥神スーラ"、そして"旅神カルーン"から成る五つの神の総称で、パンドラの神々を束ねる者とされている。

 それぞれ各地に大きな聖堂があり、人々から大切に祀られているのだ。

 

 このカルーン大聖堂もその一つ。まあ名前からしてそのままだよな。

 カルーンは大五神の中でも特に偉いらしく、最高神の一面もあるとか。

 だからこんなにも立派な聖堂が建てられてるんだろうな。


「パパっ、中に入ってみようよ!」


 景観を眺めていたニーナは、内部の構造も気になったらしい。

 早く行ってみたくてうずうずした様子でこちらを見ていた。


「ああ、人が多いから離れないように気をつけるんだぞ」

「うんっ!」

「キューちゃんは……そうだな、俺が持って歩くか」

「きゅきゅっ!」


 俺はニーナの手を掴み、もう片方の手でキューちゃんを抱きかかえる。

 ちょっと重いし筋肉痛が辛いが、はぐれてしまうよりはマシだ。

 そして俺たちはそのまま、大聖堂の内部へ向かって歩き始めた。

 

                  ◇


 本堂へ続く道は人で溢れており、中々前へと進めない。

 人気のスポットと言ってもこんなに人が集まるのには何か理由がありそうだ。

 俺は集まった人々の話に耳をこっそりと傾ける。


「こんなに混んでると大司教様に会えなさそうだなぁ」

「このままじゃ聖歌聞けずに終わっちゃうよ」

「折角来たのになー……まあ大聖堂見れただけでも満足だけど」


 なるほど、今日は何かイベントがあるらしい。

 大司教がどうとか聖歌がどうとか言ってたな、多分それだろう。

 この人の多さだと本堂への立ち入りも制限されているだろうな、参ったな。


「パパっ」


 ニーナがくいくいっと手を引っ張る。


「あっち行ってみよっ」


 指差す先は本堂へ行く道とは外れた道。階段があるのが見える。

 そっちはこの道よりかは人は少ないようだ。

 まあ大司教などにはあまり興味もないし、観光を楽しむ意味でもそっちに行ってみるか。


 ニーナに手を引かれるまま、俺は本堂から逸れた回廊を進んでいく。

 内部の装飾も外と変わらないほど荘厳で、見ていてて飽きない。

 本堂はどれだけすごいのやら。また別の機会があれば見に行きたいものだが。


「すごいねパパ、とってもきれいっ」


 雰囲気に合わせてか少し声を落として喋るニーナ。目を輝かせながら辺りを見回している。

 キューちゃんも普段見慣れぬ景色にキョロキョロと忙しなく首を動かしている。

 大聖堂に入ってからこの子も静かだな、いい子だ。


「つぎはあっち行ってみよっ」


 俺の手を引っ張って、奥へ奥へと進んでいくニーナ。

 観光客はもういない。時々修道服を着た女性とすれ違うくらいか。

 止められない辺りここまで入り込んでも大丈夫らしい。


 ニーナに導かれるまま進むと、日が差し込む中庭に出る。

 手入れされた生垣と小さな噴水、そして白い花畑のある綺麗な中庭だ。

 ここに居るのは俺達だけ。噴水の水の音が聞こえるくらい静かな場所だ。


「ここでちょっときゅうけーいっ!」


 噴水の側のベンチにぴょん、と座るニーナ。

 俺もその隣に座り、キューちゃんを膝の上に置く。


「きゅっ!」


 しかしキューちゃんは動きたくて仕方がないようで、膝上から飛び降りた。

 まあしばらく抱っこの状態だったから分からないでもないな。

 彼……いや彼女?は草地を駆け回ってきゅーきゅー楽しそうに鳴いている。

 そういえばキューちゃんって、性別はどっちなんだろうな……。


「いいばしょだね、パパっ」

「ん……ああ、そうだな」


 俺がそんな事を考えていると、唐突にニーナから話しかけられた。

 足をぷらぷらとさせながら、彼女は俺に微笑みかけている。

 楽しんでいる様子で何よりだ。連れてきて良かったな。


「あれ? なにかきこえるよっ」


 耳を澄ませると聞こえてくるのはパイプオルガンの音と複数人の合唱。

 方角的に本堂の方から聞こえてきているようだ。


「観光客達が言っていた聖歌だろうな、ここまで聞こえてくるのか」

「……ふふっ、すてきなおとだね、パパ」


 目を瞑ってその音を聞いているニーナ。

 中庭で聞こえるのは、噴水の水の音と旅の神を称える聖歌のみ。何とも神聖的な雰囲気だ。

 俺もニーナの真似をして目を瞑り、聖歌の音に耳を傾けた。


 昼下がりの太陽が中庭を照らす中、のんびりとした時間が過ぎて行く――。

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