第三十二話【オッサン、お茶会をする】
「まさかニーナちゃんが遺物として見つかっただなんて、驚きました」
俺が話を終えると、ミアは驚いた様子でニーナを見ていた。
ニーナは何故かふふん、と誇らしげにしている。……まあ確かに凄い事なんだけどさ。
「それに、廃城の迷宮の測量を始めとする様々な迷宮の探索……この一ヶ月で、本当に色んな冒険をなされたんですね」
「えっへんっ!」
「きゅきゅうっ!」
ミアの言葉に得意気になるニーナ。そして何故かキューちゃんまで。
まったくこの子達ったら……。
しかし本当に色んな冒険をしたものだ。
廃城の迷宮、転移祭の"星空の絨毯"……キューちゃんを拾って、鹿狩りもして、昨日の海底の迷宮……。
思い返せば、この一ヶ月で様々な思い出が出来た。
これからもこの子と色んな迷宮を測量して、色んな景色を見るんだろうな―― 俺はそんな事を思いながら、ふんぞり返るニーナを見た。
……ちょっと台無しだ。
「ふふ、お茶のおかわりは要りますか?」
「ん、ああ……すまない、頼むよ」
俺の気持ちを察したのか、ミアは少し笑いながら俺のティーカップに紅茶を注ぐ。
助けられたりもしたけれど、ニーナには今後も苦労させられそうだな……基本的にはいい子なんだが。
それにしても、本当に美味しい紅茶だ。
この茶葉はどこで作られたものなのだろうか?
「そういえば、この紅茶の産地って何処なんだ?」
「私の故郷、ルナルモアです。名産品なんですよ」
ほう、それは初耳だったな。ルナルモアは紅茶が名産品なのか。
そういえば、ヘレンもよく紅茶を飲んでいたのを思い出した。故郷を思い出すんだろうか?
「ミアさんっ、わたしルナルモアのおはなしききたいなっ!」
お茶を飲み終わったニーナが、興味津々にミアへと視線を向ける。
「いいよ、ニーナちゃん。……といっても、面白いかどうかは分からないけれど」
ミアはそう言うと、自分の故郷について懐かしむように語り始めた。
「ルナルモアは"精霊の森"の傍にある小さな町なの。住んでる人が殆どエルフで、みんな仲良く暮らしてるわ」
「せいれいのもり?」
「トランパルから西の方にある大きな森よ。名前の通り精霊が住んでるの」
「せいれいさんってどんなすがたなの?」
「うーん……こう、小さくてふわふわとしてる、かな」
ニーナの質問攻めに、頑張って思い出すようにしながら答えるミア。
その回答もちょっとふわふわとしている。
「なんともふわっとした回答だな……」
「実は精霊は子供にしか見えないんですよ、ジムさん。大人になってしまうとその姿を殆ど忘れてしまうんです」
なるほど、そう言う事か。精霊ってのは不思議だな。
そうすると、子供のニーナならきっと見えるだろうか?
もしもルナルモアに行ったら、是非その姿を教えて欲しいものだ。
「パパっ、わたしルナルモアに行ってみたい! せいれいさんとともだちになるの!」
「そうだな、トランパルでの仕事が終わったら行って見るか?」
「うんっ!」
大きく頷くニーナの頭を撫でてやる。全く可愛い奴め。
そうだな、黄金の迷宮の測量が終わったらルナルモアに旅行しに行くのも悪くない。
子供にしか見れない景色を見せてやるのも、良い思い出になるだろう。
その後も、ルナルモアの話や迷宮の話で盛り上がり。
いつの間にか紅茶も無くなった頃に、ミアはああそうだと手を合わせて。
「実は私、趣味で占いやってるんです。よく当たるって評判なんですよ」
そっちが趣味なのか、というツッコミは置いといて……。
どうやら占ってくれるらしく、何処からともなく水晶玉を取り出した。
それ、仕事場のあの台にあった奴だよな? この子いつの間に取って来てたんだ……?
「わーい!うらなってうらなって!」
「きゅっきゅー!」
身を乗り出してニーナはミアにせがんだ。
女の子ってこういうの好きだよな……まあ、実は俺も少し信じてしまう方なんだが。
「では早速行きますね、まず生まれの季節を教えてください」
生まれの季節か……パンドラでは春季、夏季、秋季、冬季の四つに分かれている。俺は秋季の初めの方だな。
ニーナとキューちゃんは分からないが、見つけた時期を誕生日とするとニーナは春季の中期、キューちゃんは春季の終わりの方になるか。
それを全てミアに伝えると、分かりましたと一言言い机の上に水晶玉を置いた。
そして水晶玉に手をかざし、呪文のような物を唱え始める。
すると水晶玉に星空のような模様が浮かび始め、模様がぐるりぐるりとゆっくり回転し始めた。
趣味にしては随分と本格的だな……この子、占い師としてもやっていけるんじゃないのか?
「……出ました、ジム様の星は吉兆が見えます。今後も良い結果を引き寄せるでしょう」
あっ、雰囲気が仕事モードに切り替わったな。
しかし良い結果を引き寄せるか。これは嬉しい。
「キューちゃん様の星はまずまず、と言ったところでしょう。何か探し物が見つかるかもしれません」
「きゅー?」
キューちゃんは首を傾げているが、この子の探し物と言ったら母親だろうか。
そう考えればこっちも良い結果だと思うな。
「そしてニーナ様の星は……これは」
「どうしたの?」
「……あまり良くない傾向ですね。時には立ち止まることも必要、と出ています」
「えぇー、がっかり……」
ニーナは少ししょんぼりした様子で俯いた。
「まあそういう時もあるさ、ニーナ」
俺は彼女の肩に手を置いて、励ましの言葉をかける。
うん、と小さく頷くニーナ。占いでも悪い結果だと少し悲しくなるもんな、気持ちはわかる。
「あくまで占いですので、当たらぬ場合も多くあります。ゆめゆめお忘れなきよう……と、こんなものでしょうか」
ミアは水晶玉から手を離すと、元の雰囲気に戻ってこちらに微笑みかける。
「ニーナちゃん、そんなに落ち込まないで。残念な結果だったけど占いは占いなんだから……あっ、そうだ」
そう言うと懐から何かを取り出し、ニーナに手渡した。
それはガラスで出来た鳥の形をしている小さなアクセサリー。
旅の神カルーンのお守りだ。
「これニーナちゃんにあげる、大切にしてね?」
「いいの? ……おねえちゃん、ありがとうっ!」
にこりといつもの笑顔をミアへと向けた。
どうやら元気を取り戻したようだ。いいものを貰ったな。
◇
「こんなに長い時間引き留めてしまってすみません、少しだけお話をするつもりだったのですが」
俺たちが外に出る頃には、丁度お昼になろうとしていた。
ついつい楽しんでしまったな、紅茶も美味しかったし悪い気分はしていない。
「いや、こっちも楽しかったから大丈夫だよ」
「ミアおねえちゃん、おまもりありがとっ!」
俺達はミアに礼を言うと、再びカルーン大聖堂へとゆっくり歩き始めた。
良い休憩になった。ニーナも楽しんでたし、また機会があれば遊びに行ってみようかな――。
鑑定士の館からジム達が去ってから、数分が立った。
ミアは室内で一人で考え事をしていた。
「ニーナちゃんに言えなかったな……"大きな別れがある"だなんて」
ニーナにその凶兆を見たミアは、事実を告げることが出来なかった。
彼女に出来ることは自身が持っているお守りを彼女に渡し、自身が信じている神に祈ることだけだった。
「……カルーンよ、どうか彼女を見守っていてください」





