第三十一話【オッサン、鑑定士と再び会う】
人通りが少ない道を進んで、しばらく経った頃。
子供達は相変わらず上機嫌に俺の前を歩いている。
ここから大聖堂が見えるが、だいぶ近づいてきたと感じる。
このままいけば、昼前には到着するだろう。
「パパっ、あれはなに?」
「ん?ああ、あれは――」
時々見慣れない建物や遺物を見つけると、ニーナは質問をしてくる。
丁度今、目の前にあるのは鑑定士の館。ちょっと怪しげな店構えが印象的だ。
鑑定士の館と言ったら鑑定士だが、あのミアという女性の店なのだろうか。
「鑑定士の館だな」
「かんていし……あっ、ミアさんのおうちかなっ?」
「そうとは限らないかもしれないが……多分な」
名前は確か……ミア・オルム・ルナルモアって言ってたっけか。シエラの同郷の友人だったよな。
まあ、この広い街でちょうどここが彼女の店だなんてそんな都合の良い偶然――。
「ああ、どうも」
そんな事を考えていたら、後ろから声を掛けられる。
振り向くと紙袋を持った紫髪と紫眼のエルフの女性。黒いローブは来ていないがミアだろう。
いや、まさかそんな偶然があるなんて……ん、待てよ? 確かギルドの近くの館に居るって言ってたっけか。すっかり忘れていた。
「どうも、ミアさん……で良いんだよな?」
「はい、仕事服じゃない時で会うのは初めてですよね」
童顔のシエラよりも、少し大人びた印象を受ける彼女。
服装も出来る大人の女性って感じのスタイルだ。
「こんにちは、ミアさんっ!」
「きゅーっ!」
「ふふ、こんにちはニーナちゃん、キューちゃん。元気いっぱいだね」
挨拶するニーナに優しく微笑んで返すミア。
こうしてみると、以前会った時と随分印象が違うな。
前はもうちょっとミステリアスな感じな気がしたが……。
「何か良い事でもあったのかい?」
「……? いえ、どうしてですか」
「いや、前と印象が違うから何となく、な」
「前……ああ、私仕事の時はあんな感じなんです。畏まってしまうというか」
なるほど、簡単に言えば仕事と私生活を分けるタイプって事か。
道理であの時はニーナを様呼びしていたわけだ。納得した。
「ところで、皆さんはどちらに向かわれるのですか?」
「ああ、カルーン大聖堂を見に行こうと思ってな」
「なるほど、確かにこの道なら大通りよりも近いですね」
ミアは納得した様子。確かに用事もなければ通らなさそうな道だしな。
この道を通る俺達を不思議に思ったんだろう。
「ミアさんはおかいものしてきたの?」
「そうだよニーナちゃん、今日は鑑定士はお休みだから」
そう言うと、ああそうだと言ってこちらを向いて。
「もしお時間が宜しければ家に寄って行かれませんか? 色々お話を聞きたいですし、お茶もお出ししますので」
と提案してきた。
せっかくのお誘いを断るのも悪いだろう、ここはちょっと寄らせてもらうか。
ニーナも何だか行きたそうにしてるし。
「じゃあ、お言葉に甘えさせてもらおうかな」
「ふふ、ありがとうございます。今鍵を開けますね」
「紙袋持つよ」
「ああ、ご親切にどうも」
俺に紙袋を手渡すと、ミアは館の鍵を取り出し開ける。
「わーいっ! のりこめーっ!」
「きゅっきゅー!」
扉を開けるや否や、今か今かと待っていたニーナ達が先に入っていった。
「おいニーナっ! ……すみませんね、朝からこの調子で」
「いえいえ、子供は元気なのが一番ですから」
ミアは笑っていたが、今日のニーナはちょっとお転婆が過ぎるな。
あとでちゃんと注意しておかないと。
外の風貌も少し怪しげだったが、中もますます怪しい印象だ。
部屋の中央に台座が置かれ、その上に紫色の水晶玉が置かれている。
周囲には装飾のカーテンにお香、用途不明の謎のオブジェまで置いてある。
「……このお香とか装飾には何か理由があるのか?」
「仕事に身が入るんですよね、この雰囲気」
……鑑定士ってよりも、占い師だなこりゃ。似てるっちゃ似てるけどさ。
ニーナ達は物珍しそうに部屋をぐるぐると見渡している。
流石に置いてある物を触ったりはしていないようだ。
「奥の部屋まで案内します、こちらへ」
俺たちはミアに奥へと案内される。
奥の部屋は生活スペースになっているようで、キッチンや机、椅子など最低限の物は全て揃っている。
生活空間は見た感じ普通なようだ。まあ当たり前か。
俺は紙袋をキッチンに置くと、案内されるがまま椅子に座る。
ニーナも椅子に座り、足をゆらゆらと揺らしている。
キューちゃんは俺の膝上に飛び乗ってきてそのまま座った。
「今お茶を用意しますね」
と言うと、ミアはキッチンへと向かって行った。
しばらくすると紅茶のいい香りが漂ってくる。
俺はお茶には詳しくは無いが、何となく高級感のある香りだ。
そしてミアがティーポットとカップを運んでくる。
カップに紅茶が注がれ、俺たちの目の前に差し出された。
「お待たせしました、どうぞ」
いただきますと二人で言うと、俺は紅茶を口に運んだ。
上品な味と香りが口いっぱいに広がっていく。美味い紅茶だ。
ニーナはちょっと熱かったのか、ふーふーしてからちびちびと飲んでいる。
「どうでしょうか」
「結構なお手前で、なんてな。とっても美味しい紅茶だよ」
「ふふ、お口に合って良かったです」
ミアはにこりと笑って答える。
「そうそう、良ければ冒険の話を聞かせていただいてもいいですか? あんまりこうして迷宮測量士の方とゆっくり話す機会って、殆ど無くて」
「ああ良いとも、そうだな……まず俺とニーナの出会いから話そうか」
「出会い、というと?」
「今となっては家族みたいな物だが、実はこの子は――」
俺はこれまでの冒険と体験を思い返し、ミアに語る事にした。





