「新たな脅威」
「はーあ、何よりあの振る舞いは?可笑しくって笑いが止まらなかったわ」
「確かに…リオ様らしくなくて可笑しかったですな」
「俺"らしく"ないか…まあ、俺も何かしなきゃなーって思っただけだからさっ、気にしないでよ。…てか流石にあんな爆笑すること無いだろ!!」
利央はわざとらしく地団駄を踏み、怒っているアピールをするが、その様子すらもシャーリーとジーバ君にとっては愉快であるらしかった。
「それで、この前のことなんですがな…」
ジーバ君は魔王軍天下一番武闘会の最中に、人間達が反乱を起こした事や、そこで起きた事について語ったのだった。
「"天使"?"セオス教"?まためんどくさそうな奴らが出てきたな」
「セオス教って言ったら、王国でも最近幅をきかせ始めてる宗教ね」
ジーバ君の話を聞いた利央は気だるそうな顔を、シャーリーは好奇心をそそられたような顔をそれぞれ浮かべる。
「俺、神とか天使とか…まあ仏?とかって嫌いなんだよな。願っても助けてくれたりしなかったしな」
利央は気だるそうな顔から一変して、遠い昔を思い出しているようであった。
「兎に角ですな、いずれぶつかる事になるでしょうな。天使もそのように言ってましたし」
「厄介ね…。セオス教とぶつかるってなれば、おのずと"セオス教国"ともぶつからないとならないものね」
「そうですなあ」
「セオス教国?どっかの国?」
「教国はセオス教の総本山。歴史ある国で昔から"人類の最後の希望"なんて大それた呼ばれ方をしていましたなあ」
「そうなの??正直王国や帝国の人は教国についてほとんど知らないと思うわよ。なんてったって大山脈に隔てられててほとんど関わり無いもの」
「うーん…どうしたものかね〜」
利央は不意に訪れた眠気に負け、めんどくさそうな話だったのでほとんど聞いていなかった。
「まあ、その話はまた今度にしようぜ。もう寝る時間だしさ」
「寝る時間って…まだ日が昇ってるわよ?」
数百年近く睡眠とは無縁の生活を送ってきた不死者の王は、利央の様子を敢えて無視するように続ける。
「リオ様!他にもやる事は山積みですぞ。"亜人連合"との話し合いや人間達の統治。それに魔王軍の編成もまだまだですしな」
「人間の統治か…」
シャーリーの表情はどこか憂いげな様子であった。
「どうしたんだシャーリー?」
利央はゴシゴシと目をこすり、眠気を堪えながらも話し合いに参加するようだ。
「いや、別に…」
「頼みますぞシャーリー殿。我が魔王軍にはリオ様とシャーリー殿しか人間がいないのですからな。人間達と上手くやるにはシャーリー殿の頑張りも…」
「あらジーバさん、貴方も昔は人間じゃなかったかしら?…それにドンファンも一応いるわよ」
懐かしい名前に利央が反応する。
「ドンファン君か…彼今何やってんの??」
「?!…貴方が物流の管理を任せたんじゃなかったかしら??」
「あー、そうだった。ドンファン君、影薄過ぎて完全に忘れてた」
魔王軍の中枢による今後の方針を語る会議も終わり、真っ昼間から寝室へと向かう利央はふと言葉を漏らす。
「はーあ。ケル吉やスネ夫と森で自由気ままに生きてた頃に戻りてえなぁ」
利央の頭の中には食って寝て食って寝ていたあの頃の快適な生活が走馬灯のように駆け巡る。
あれ?俺ってそういえば何の為に魔王になってるんだっけ?
「時は待ってくれないものね」
利央の頭の中の疑問は、シャーリーの何気ない一言と強烈な(程良い)眠気によって消えていった。




