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クズが異世界を通ります  作者: 山崎トシムネ
第4章「開戦」
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「素顔」

「どういう事だルシュコール公!!王国軍が"消えた"とは!!!」




オベロン王国現国王オスカー・ネル・オベロンは突拍子も無い報告に、思わず怒りを含んだ声をあげる。



その声は二人しかいない巨大な会議室内に響き渡った。



オスカー王が普段見せないような口調になるのも無理はない。そのくらいルシュコール公の報告は馬鹿げたものだった。



「私のナオス騎士団が国境付近に着いた時には、付近一帯が更地になっていたそうですよ」



ルシュコール公は至って冷静にそう語った。





「なんという事だ…それが本当なら王国軍の大半が…クソッ」



オスカー王は拳を握りしめて、円卓を叩きつけた。




「なんでも大森林から"黒くて巨大な球体"が飛んできたそうですな」



ルシュコール公は自らの眼鏡を拭きながら、思い出したようにそう述べる。




「黒い…球体??………まさか」



オスカー王は先日王都を騒がせた、ある事件を思い出す。かつての魔王を連想させる"黒色"の魔法を使う者など、この世であやつ以外見たことは無い。




「…あの男か?」



「恐らくそうでしょうね」



ルシュコール公はまるで興味がなさそうな様子を見せる。



オスカー王はルシュコール公のそんな様子が気になったが、敢えて何かを言うことは無かった。



「しかし…王国軍の約半数が国境付近にいたはず…このままでは国を守る事が…」




「オスカー王。…本音で話しましょう」



「??」



ルシュコール公は普段の規律正しい壮年の男性といった雰囲気から一変して、獲物を狙う肉食獣のような鋭い目を向けて来た。




「壊滅した王国軍はほとんど反王家派の貴族で編成されていました。オスカー王にとっては都合が良かったのではないですか?」




普段の彼から発せられる言葉とはかけ離れた言葉が発せられた為、オスカー王は驚きのあまり声を発することが出来なかった。




ルシュコール公はさらに続ける


「特に王国を"裏切っている"モルガン公の騎士団が壊滅したのは幸運でしたな」



「なん…だと?」



ルシュコール公が当たり前のようにさらっと話した内容の中には、オスカー王にとって衝撃的な言葉が含まれていた。



「それに報告によると、どうやら帝国軍も一緒に壊滅したそうですな。その点から察するに"彼"が魔法を行使した可能性が一番…」



「まっ!!、待ってくれルシュコール公!モルガン公が裏切っているとは…一体どういう事なのだ!!」



オスカー王の声には力が込められていた。

それはそうだろう。王国の屋台骨を支える公爵家が、王国を裏切っていると目の前の男は言っているのだから。



「あれ?ご存知かと思っていましたが…そうですよ。モルガン公は帝国情報局と繋がっていますよ」


「なっ、何か確証があってそのような…」


「ええもちろん。"彼女"が直々に調べてきたのでね」


「あの娘が…」



ルシュコール公の言う彼女とは、ルシュコール公の秘蔵っ子の事だろう。人間離れした人間とでも言うのか…。彼が公爵になれた秘密でもあるが…



とにかく、そういう話なら信じるしかないだろう。王家が囲っている実力者よりも隔絶した力を持つあの娘が調べたのならな…。




「それで…どうするつもりなのですかな?オスカー王」


「…しかし、モルガン公を処断するとなると、王国が大きな混乱に陥ってしまう」



「良いのではないですか?」



「…何?」



目の前の男は何を言っているのだ?



「王国が混乱に陥ってしまうと言っているのだぞ??下手したら王国を二分した戦争が…」




ルシュコール公は薄らと笑みを浮かべながら話す。


「だからこそ良いのでは??…さっき言ったでしょう?モルガン公の騎士団は壊滅していると」



「…貴公は一体何を言って」



「失われた王家の力を取り戻す絶好の機会だとは思いませんか??オスカー王」




確かに、私が幼かった頃の…先代の王家は絶対的な力を持って王国の黄金時代を築いていた。



今の私は…大貴族の機嫌を窺うような情けない王であると言わざるを得ないだろう。









いや、しかし




「しかし!民の安寧こそ王として守らなければならないものだルシュコール公よ…私が進んで民を混乱に陥らせるような事は…」



「…失礼を承知で言わせて頂きます国王陛下。そのようなどっち付かずの中途半端な態度を取るから民から"平凡王"などと呼ばれているのでは無いですかな?」



「何?!」




え?私ってそんな呼ばれ方されてんの?!?!




オスカー王は内心ショックを受ける。




「民も求心力のある王を求めているのですよ、決断力のある、強い王をね」




強い王か…。




オスカー王は困惑した様子だ。

自分が何をすべきか、オスカー王は必死に考える。




そんな様子を見て、ルシュコール公はニヤリと笑う。



そして迷いが垣間見えるオスカー王に対して、トドメとばかりにルシュコール公は高らかに宣言するように言い放った。





「共に立ち上がりましょうオスカー王!!力のあるオベロン王家を復活する為に!!!」






オベロン王国現国王オスカー・ネル・オベロンは、決心を固めた表情を見せるのだった。

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