「支配」
心の奥底から湧き出てくる怒りの感情。
敵と認識した全てを壊してぐちゃぐちゃにしてやりたいと思った時にはもう遅かった。
自分が自分でないかのように身体が…口が…勝手に動いた。
はっきりとした意識は無いが、ぼんやりと自分が何をしているのかが分かる。
しかし…まるで誰かの意識が自分の中入ってくるような変な感覚だ。自分の中に別の自分がいるような…。
そして今、俺は何やら魔法を使っているらしい。
それもみんなを巻き込むような威力の魔法を。
普段の俺ではあり得ないような事をしている…しかし、俺の身体は動かせない。
そして段々と心まで何かに支配されそうになる。
何でもいい…
何でもいいからめちゃくちゃに壊したい。
人間…
そうだ!人間を殺そう。誰でもいい、人間を殺して"あの時"の無念を…
「しっかりしなさいよ!!リオ!!!!!」
はっきりとした声が聞こえた。
聞き覚えのある声だ。心が休まる、どこか懐かしい声。
この声は確か…
「シャーリー??」
利央の目に生気が戻る。
「リオ…」
シャーリーはほっとするような、それでいてそれが当然と思っているような安堵と自信が入り混じった表情を浮かべる。
どうやら身体の自由が効くようになったみたいだ、頭上に浮かぶ巨大な球体も自由に動かせるらしい。
「リオ様!良かった!!」
「リオ様!それをどうにかしなければならないですぞ」
「ああ、そうだな」
利央は頭上に浮かぶ球体をどうにかしようと試みるも…
「えーっと…消せないんだけど?」
「…はあ?!?!」
「やばいですぞリオ様…魔力が膨張し始めてますぞ…」
見ると闇属性魔法で生み出した元気玉のように巨大な球体は、次第にその形を維持できなくなっており、ビリビリと歪みが生じていた。
「これは…」
「やばいわね…」
「ヒリエ…」
「ええ、これは…」
その場にいる全員が呆気に取られてしまっている。
その中で利央は
「ええ?!どうするどうする?!?!、どうすればいいのこれ!!!」
完全にパニックに陥っていた。
「リオ様!!どこか遠くへ飛ばすのですぞ!!!」
ジーバ君は叫ぶ。
そうだな、とにかくどっかに飛ばしちゃうか!
利央は今にも暴発しそうな球体を適当な方角へ、力一杯に放った。
黒い元気玉はそのまま破裂することなく森の向こうへと飛んでいき…
やがて地面が大きく揺れるほどの衝撃が生まれ、遠くに黒い波動が見えた。
「あの方向って…まさか」
「ヒリエ…さすがにそんな訳ねぇだろ」
ふう…。危なかった。
「リオ様!!」
「危なかったわね本当」
「ご無事で…ご無事でなによりです」
みんなが駆けつけてくる。
「みんな…なんか俺、今日おかしかったよね?」
シャーリー達は顔を見合わせて
「ええ、自爆するところだったのよ?」
「本当ですな!!どうされたのかは今後話し合うとして…」
「…!!リオ様!侵入者達の姿が…」
少し目を離した隙にあの2人の姿が消えていた。
そもそもあいつらのせいでこんな事になったんだった。
この"ツケ"は必ず払ってもらおう。
死んでいった部下達の為にもな。
「みんな!聞いてくれ!!」
その場にいた全ての者が利央に注目する。
「次の目標が決まった!…こんな事を引き起こした奴らに後悔させてやろう。…"帝国"にクズの!!魔王の鉄槌を下してやろう!!!」
「オォォォォオオオオオ!!!」
同胞を失い、失意の中にいた者たちが雄叫びを上げる。
帝国…許しはしないぞ。




