「波乱の授与式(後)」
なんなんだこの変な女の子は!
いきなり出て来て人の晴れ舞台を邪魔しやがって!!
ハーフっぽくて若干可愛いけどさ!世の中にはやって良い事と悪い事があるから!!騎士のコスプレみたいな変な格好してさ!…
ん?騎士のコスプレ?…
あ!!思い出した!!!
この人俺がケル吉と出会った時に近くにいたコスプレ少女じゃないか!
よく分からないけど俺に剣を向けて拉致監禁してきた子だわ…
ていうかいきなり出てきてなにやっちゃってんのこの子は…
この俺が未曾有の危機だと?…
…バレてる。
あの感じ…確実にコスプレ少女俺の力について知ってるよね?
もう、クズはアドリブに弱いんだから…どうしようかこの状況…。
「これこれ、アーネル家のご令嬢よ。英雄に向かって未曾有の危機とは…いくらアーネル家のご令嬢とて許されることではないぞ?リオ殿に対しても、我に対してもな…」
オスカー王は穏やかな表情こそ浮かべているが、その言葉には若干の苛立ちを含んでいるのが分かる。
リアはその重圧に押しつぶされることなく、勇気を振り絞り自分の役目を果たそうと決意する。
「は!!失礼を承知で申し上げます!!ですが彼は…あの男は"闇の魔法"の使い手であるが故に、公爵位の授与は大変危険であると判断した次第であります!」
再び女騎士の大きな声が、静寂に包まれていた広場全体にこだまする。
「…」
その場にいた誰もがキョトンとした顔を浮かべ、言葉を失う…。
そして次に訪れたのは
「…ぷっ」
「ブワッハッハッハ」
「ヒャハハハハハハハハハハハ」
「ヒィーーーッヒッヒッヒッヒ」
広場全体から轟く、割れんばかりの人々の笑い声だった。
「ヒッヒッヒ、今あのお嬢ちゃん"闇の魔法"とか言わなかったか?」
「言ったな!いきなり出てきて何を言うかと思えば…英雄様が闇の魔法を使う?!妄想もあそこまでいくと大したもんだな?イヒヒヒ」
「そもそも闇の魔法なんてお伽話の中にしか無いっての!あー、笑い過ぎて腹いてえな」
「いい加減にして欲しいぜまったく。でもまあ、いい笑い話にはなったな!もういいぜお嬢ちゃん!早いとこ退いてくれよ!!」
国民の声は鋭い棘のようにリアの心をえぐる。
(私は…王国のためにと…)
「リア・タナルカ・アーネル、そんなふざけた事を言う為に栄誉ある式典の進行を滞らせたのか?」
ヴォルフは呆れた様子である。
(私にしか…出来ないと思ったから…)
「アーネル家のご令嬢よ、ここは公式の場。貴殿も騎士を目指す者ならそのような冗談を言うのでは無く、鍛錬を重ねて1日でも早く正式な騎士へと…」
オスカー王はもはや、力ある貴族の令嬢という事でリアを心配するような言葉をかける。
(女の子を…女の子の未来を守ろうと…)
リアは膝から崩れて落ちる。
瞳からは自然と涙がこぼれていた。
こういう事になるかも知れないということは頭の隅にあったはず…
しかし、想定では測れないものは世の中にはある。
守ろうとしていた相手からの棘のように鋭利な言葉は、15歳の少女の心を深く傷つけた。
「早くどけよ!!授与式が始まらねえだろ!」
「そうだよ!!邪魔だ!!!」
国民からは苛立ちを含んだ罵声が飛ばされる。
「早くどけって…言ってんだろ!!」
1人の国民から石が投げられた。
そしてその行為は広場全体に広がり…
無数の石がリア目掛けて一斉に飛ばされる。
「痛っ…」
石はリアの額に当たり、顔には血が流れる。
それでも国民は止まらない…
(痛い…痛いよ…)
ヴォルフには国民を止めるべく動くような気配は無い。
「これこれ民たちよ、そのような事はやめないか」
国王の言葉も半ば暴徒と化してしまっている国民の耳には届かない。
(私は…こんな…、こんな人達の為に夢を?…こんなことになるなら、こんな"奴ら"の事なんて…)
ん?
なんかコスプレ騎士から黒いモヤモヤみたいのが出てるの見えるんだけど…
あれって俺の手から出るやつと似てる気がするような。
その時だった。
「それくらいにしたらどうだい?」
飛んで来る石を華麗に防ぎ、リアを庇うようにして立ち塞がった1人の人物が現れた。




