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クズが異世界を通ります  作者: 山崎トシムネ
第2章「魔王と王国」
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「提案」

利央はジーバ君に連れられ、クーズー城の正門まで来た。





しかし、ジーバ君は様子を見るとのことで城の中で待機するらしい。







そして門に居たのは2人の男…






1人は不健康そうな青白い肌に、やる気の感じられない無気力な目。腰には短刀のようなものを差し、全身ボロボロな革の装備を纏っている。




もう1人は小太りのおっさん。武器のような物は所持していないように見える。






…どうやってこの2人は森を抜けて来たんだろうか?








ケル吉達じゃ無いにせよ、森には結構強い奴らがいるのだが…。





すると俺たちが来たのが目に入ったのか、小太りのおっさんの方がいきなり大声で話し始める。






「我はオベロン王国王貴院に仕えしニコラス男爵である!此度は王貴院ならびにオスカー王の命を受け、ケルベアーを飼い慣らしたという男への使節として参った」




小太りのおっさんは続ける。



「ケルベアーの様な獰猛な魔獣を飼い慣らすという技術。魔獣使いとして最高峰の腕前を是非王国軍にて還元させて頂きたく思い使節として参った次第だ…それで貴殿がケルベアーを飼い慣らしたという者かね?」



「多分俺ですけど…」


「7日後の正午、王は貴殿に勲章を授与したいとのこと…もちろん出席するということで構わないな?」


「ええ?…王が来てくれるんですか?」



「何を言っておるのだ、王都にて式典は開かれるに決まっておろう」


「えー、めんどくせえなあ…。ジーバ君!王都ってどこまでここからどのくらいかかるもんなの?」




城の中からふわりとジーバ君が現れる。









「げえ?!アンデット?!?!」




ニコラスとやらは驚愕している様子だ。





不健康そうな男はジーバ君を一瞥するが、特に何も言うことなく虚空を見つめる。








「ここからですと…歩いて丸5日、ケル吉殿に乗れば丸3日ってとこですかな」



「お、おおおおおい!何故アンデットと一緒におるのだ?」




ニコラスは引きつった顔で聞いてくる。









「いや、アンデットじゃなくてジーバ君だから」




イラッとしたので軽くニコデブラスを睨み付けた。




「!!…ま、まあ良い。とにかく7日後に王都に来るのだ!もちろんケルベアーを連れてな!他にも手懐けた魔獣がいるなら連れて来れるだけ連れて来るように!!で、では失礼する!!」




ニコラスはそのまま森の中へと消えていき、不健康そうな男もそれに続いて消えて行った。








「失礼な奴じゃね?上から目線っぽい感じでさ」


「まあ貴族というものは大抵あんな感じですな…それで、行かれるのですか?」


「移動に丸3日もかかるんだよね?…正直なところ行きなくないなあ」


「うーむ、国王からの勲章とは貴族になれることを意味しているのですがな…やはりリオ様にとってはそんな事は意に介さない事であるのですな」




「だって、貴族になるよりは今の生活を続けた方が全然良いっしょ」



「…だからこそ。だからこそ貴族になっておくべきだと思いますぞリオ様」



「ええ?!ジーバ君俺の話聞いてた?!」


「もちろんですぞ!リオ様は今の生活を続けたいとおっしゃいましたな?」



「うん」


「今日あの様な者たちが来たことから分かる通り、我々の存在は既に王国に知られているということなのですぞ」


「…!確かに!!」


「リオ様の事を危険だと判断すれば、軍隊だったり騎士団を派遣するに違いありませんぞ…いくらリオ様と我々が強力といえど、まだまだ我らでは人間の国とやり合うのは厳しいですな」


「ええ?!なんでそんな事するの?!?!なんもしてないのに…」


「それが人間なのですぞ、脅威に成り得るものはあらかじめ排除する。リオ様の事を魔獣使いと勘違いしているようなので今のところ大丈夫でしょうが、もしリオ様の能力が露見すれば必ず排除しようとしてくるでしょうな」


「まじかよ…。人間ってとんでもないな!!!…でもそれと勲章を貰って貴族になる事がなんで繋がるん?」


「魔獣使いとして王国中に認知される。さらには貴族として王国の一部となれば、攻められる事はおろか、リオ様を危険に思う者はかなり減るでしょうな」


「そう上手く行くかね?」


「人間というのは自分の理解が及ばないものを恐れるのであって、理解できるものには案外無警戒になるものなんですぞ」


「なんか…詳しいね、ジーバ君」


「昔色々ありましてな…」



心なしかジーバ君の表情が悲しそうに見えた。







「それじゃあこの悠々自適な生活を守る為には、とりあえず王国に媚び売っとくのが良いって事か!」


「ですな!それでいて奴らが安心している間に、今度は誰にも口を出されないくらいの強大な力を手に入れてしまえばいいのですぞリオ様!!」


「そうだな!!そういえば俺魔王なんだし、好き勝手に生きさせてもらいますでぇ!!」




利央は決意を新たにして、自分のニート生活を必ず守ると決めた。



「とりあえずは7日後、王都に行けば良いんだよね?…せっかくだしこの前仲間にした"あいつ"、ケル吉とスネ夫と一緒に連れて行くか」



「おお!良い考えですな!彼がいれば王国民はリオ様の凄さを実感できると思いますぞ!!」



「ふっはっはっは!意外と楽しみになってきたな!!」




利央は最近練習している"魔王っぽい"笑い方をしながら、魔王っぽいであろうポーズで遠くを見据える。








































なんなんだ!あの若造は!!とてもじゃないけど正気じゃない!!




ニコラスは王と王貴院の命を受けて、先程使者としての役割を果たしてきた所だ。





そもそも命令の内容自体が常軌を逸しているものだった。




凶悪で凶暴な魔獣や魔物、更には亜人にアンデットが潜むと言われているこの世の地獄であるデスデモーナ大森林に行き、どこにいるか分からない人物に使節として赴けなどといったものだった。




初めはやらかしてしまった"不祥事"がバレてしまったのかとも思えたが、どうやらそうでもないらしい。






何故なら王国に3組しかいない"白銀等級"の冒険者。その中でも最上位であると噂されているパーティの1人、"シュウ"が警護に当たると言うのだ。






これは身の安全を考慮しての事なのか…それとも…







しかし、出会ってからこいつ…シュウは一言も言葉を発さない。さっきあった城を見つける為に何やら魔法を使っていたようだが…その時にジェスチャーで付いてくるよう指示を受けただけだ…不気味な奴め。





それにしてもさっきの魔獣使いとやら…あんな奴に貴族位を与えるなど正気か?アンデットと暮らしているような奴だぞ?何年も王貴院に勤めているこの私ではなく、あのような頭のおかしな奴に"公爵位"を与えるなんて…まったく、やっていられるか。












ニコラスは苛立ちからか、早足で大森林を進む…


















しかし、その背後にシュウの姿は無かった。

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