「神の使い」
「おい!何があった?!」
オームは余りの眩しさにしばらくの間視力を奪われてしまっていた。
「オーム様!!大変です!!模様の中から変な生物が…かはぁ!!!」
「おい!どうした?!大丈夫か?!」
断末魔の叫びを最後に、部下の声は聞こえなくなる。
「誰か居ないのか?!誰か返事をしろっ!!」
視力が回復してきたオームは、恐る恐る悲鳴が聞こえた方へと進む。
「ふんっ!神を知らぬ愚かな生き物共め」
「誰だ?!?!」
静まり返った教会の中で、聞こえてきたのは聴きなれぬ低い声。
やがて声の主はオームの前に姿を現わす…
「ふんっ。亜人が…神に"見捨てられた"醜い生き物が」
「貴様…その背中の羽は…ハーピィか?」
オームの前に現れた男は筋肉質な人間の体、平凡な人間の顔なのだが決定的に人とは違うものが背中にあった。
「ハーピィだと?!この私が?!…やはりお前たちはその程度の思考しかできんらしいな。セオス様より授かりし翼を羽とは…つくづく不快な奴らだ」
「そんな事はどうでも良い!俺の部下たちは?!」
「ふんっ!先ほどの雑魚共ならそこにいるではないか」
オームの視線の先には見るも無残な形になっていた部下達の姿があった。
「貴様ぁあ!!…貴様は魔王様の配下に手をかけたのだ!そんな愚行はこのオームが許しはしないぞ!!!」
「魔王?…ふむ。"奴"か?まさか私が眠っている間に復活したのか?名はなんという?」
「魔王リオ様だ!!この羽虫が!!」
「リオ?聞いたことない名か。奴では無かったか…。まあ良いだろう、お前の存在もそろそろ不快になってきた。消すとしよう」
「来るならきやがれ!!クソがぁ!」
オームは我を忘れて突撃する。
翼の生えた男にはそれが、部下を殺された怒りのあまり隔絶した彼我の戦力差を理解出来ぬまま、戦略も無しに突撃しているように映った。
「ふんっ!無能な生き物だ…はっ!」
翼の生えた男は手から光の矢を放つ。
…がオームはそれを避けようとはせず、己の肉体で受ける。
「なに!?…ふんっバカな生き物だ。避けること知らないらしい」
しかし、その直後男の表情は急変する。
「何っ?!直撃したはずだが?…」
男の言葉通り、魔法はオームに直撃したはずだった。しかしオームには苦悶の表情は見られない。
魔法は扱えず、戦闘の技術も平凡なオームが魔王軍幹部になれた理由。それは…
「痛くも痒くも無い!俺様の鋼鉄の皮膚にはどんな攻撃も通らねぇぜ」
そう、オークという種族はこれといった特徴の無い種族であるが、唯一の特徴として皮膚の硬さ…防御力の高さがある。
そしてオームは一族の中でも突出して硬い皮膚…鋼鉄の皮膚を持っているのだ。
オームを嘲笑していた男は想定外の事態に完全に隙を作ってしまう。
そして初めからその一瞬を狙っていたオームは迷うことなく棍棒を振り抜いた。
ダークドーフの加工により、属性が付与された魔法の武器である雷の棍棒を…。
「この化け物がぁ!」
「油断したな、羽虫野郎」
そして男は棍棒から発生した雷に、全身を貫かれたのだった。