抗えば。抗うほどに、螺じ曲がる。その7。
前回の続き。
ちょいグロあります。
『 ---答えなさいダークエルフのバルテズール。首謀者は誰であり、いったい何を企んでいるのか--- 』
「…………」
ギイイイイイイイイイイイイイイイッ!!
「ぬぐわああああッ!!」
暗転。
『 ---答えなさいダークエルフのバルテズール。首謀者は誰であり、いったい何を企んでいるのか--- 』
「………………」
ギキキキイイイイイイイイイイイイイイイッ!!
「ぬぐおおおおおおッ!!」
暗転。
「これ以上は、危険ですね……」
「そうですか~? まだまだイケますって~♪」
「カナミ……あんたは鬼か!」
「大丈夫だろ。なにせ、コイツらのせいで此方だって何十人もの犠牲者が出てるんだ。甘やかしてはいけない」
無事に魔術師バレンシアと合流する事が出来た女子高生3人組は捕縛した彼等ダークエルフを牢獄という名の実験室に放り込んだ。
当初は他の魔術師達に今直ぐにでも始末すべきだと猛反対されたのだが、聞きたい事は山ほどあったのだ。
裁判も宛ら、バレンシアの手も借り、ようやく彼女達は愚痴る彼等を納得させる。
現在、ふたりのダークエルフ達は完全密室の中で取り調べという名の拷問を受けている。
ただし、ふたりを一部屋に纏めるのは危険性を感じたので、別々の個室で、交互に拷問は繰り返されていた。
「バレンシア様。奴等、いっこうに口を割りませんな……」
他の魔術師を代表して取締役というか、拷問役を買って出た者が溜め息混じりに彼女に告げる。
名をウェスカーと言い、オールバックの黒髪と屈強な肉体美がまるで魔術師とは思えない。
厳つさが醸し出され、確かに拷問役としては相応しいだろう。
だが、彼も以前、バルテズールの襲撃に遭った内の1人なのだ。
眼光の奥底に、凄まじい程の殺気を溜めつつある。
彼の限界も近い。
「……そうですか……」
瞳を閉じ、何か決心したかのように次の句を詠もうとするバレンシア。
その気配を察したのだろうか。
ヒナは彼女の肩に手を掛け、真剣な眼差しで首を横に振る。
それはどちらか一方を処罰、つまり死刑にするという事だった。
決して、復讐の連鎖を産み出してはならない。
断固として、そこは譲らないヒナ。
しかし、ウェスカーはそんな生温いやり方にうんざりしているようだった。
「此処は我々の世界であって、貴様らの世界では、ない。そちらの道徳は確かに素晴らしく尊いかもしれないが……」
睨み合う両者。
バチバチと飛び交う視線で秋刀魚が焼けそうだ。
大根おろしを準備するカナミ。
おちょくるのもいい加減にしなさいと言いたかったが。
トールは何処からともなく座布団を持ち出し、今か今かと御膳を待ち腹を空かせている。
ぐぅ、と腹が鳴った。
「……ちっ……」
彼女達に聞こえるかどうかの小さな舌打ちをして、その場から立ち去るウェスカー。
後ろ姿に、憤怒のオーラを纏いながら。
「なんか~……みんな大変ですよね~……」
うわははは。見ろ。まるで他人事のようだ。
一先ず、大根おろしの器具を仕舞い、バレンシアの胸中を察する素振りをみせるカナミ。
トールは未だに秋刀魚定食を待ちわびているが、そっとしておこう。
「皆、未だ納得していないのでしょう。致し方無いことです」
バレンシアは肩で軽く溜め息をつき、酷く疲れきった表情で彼女に答える。
神とやらに快復させて貰ったにも関わらず、彼女は既に疲労の色が濃い。
それもその筈。
まだまだ、問題は山積みなのだ。報告書も。
執務室を占拠している弟子達などは、死屍累々。
風呂にも入らず、芳ばしい臭いを醸し出しながら、ところ狭しと床で寝ている者や、机に突っ伏したまま意識を失っていたりと、某アニメやゲーム会社の作業室の如くに。
しかも、総指揮者のバレンシアがその場から離れようものなら、途端に寝落ちするのも当然であろう。
況して、ヒナ達が獲得してきた『竜の涙』の地域への分配。
これがまた、彼等の悩みの種でもあった。
確かに大量の『竜の涙』により『虚無化』は随分減らし、その脅威を解消出来ると推測される。
しかし、派遣の人材が乏しいという現状は変えられないのだ。
特に、ここ数日間で『虚無化』の数はその規模を問わず確認しただけでも千は越えていた。
たからこそ、ヒナ達はダークエルフのふたりを拷問に掛け、これはいったいどういう事なのかと取り調べていたのだが……
「バレンシア様! 異常事態が発生しました!!」
突如、事件は起こる。
女性のダークエルフが発狂しだしたのだ。
横たわる身体を激しく震わせ、視線も虚ろに不規則に暴れ、のたうち回る。
口許からは絶えず唾液を溢れ撒き散らし、下半身は湯気と共に老廃物を垂れ流し床を汚物で染めていた。
「にぎゃにぎゃはははひはひはひははははは!! んにゃひひふひひぶくぶくぶくふひふひひ、ひゃわはははははッはッ!!」
常人では考えられない、検討も予測もつかない動きでひたすらに狂う。
精神が崩壊したのだろうか。
狂人とはまさしく、この事をいう。
ピタリと突然、彼女は動きを止めて、ようやく焦点の合った視線が虚空を見詰め最後の言葉を発した。
「……グランヴィア様……に……栄光あれ……ッ!!」
途端、彼女は目映い閃光を放ち施設全体を揺るがす程の衝撃を以て、爆散する。
かつては、一切を清らかな純白で埋め尽くされていた室内は深紅に染まり、夥しく飛び散った僅かな肉片がべっとりと生きてきた証を残す。
別室のダークエルフ、バルテズールはその様子を感じ取ったのだろうか。
『仕込み』を期待しつつ、舌を舐めずり、瞳をカッと見開く。
「な……何が起きたんですか!?」
ヒナ達は衝撃に備え床に伏せ、両手で頭を抱えながら、バレンシアに問う。
僅かにぼやける彼女の周囲。
咄嗟に発動した防御結界の魔術が、崩壊し降り注ぐ瓦礫から皆を守る。
「く……ふふふふふ……」
どうやって脱出したのか分からない。
粉塵を掻き分け、彼女達の目の前に仁王立ちするダークエルフのバルテズールと『何か』が居た。
「さぁ。地獄の開幕だ!! 産声をあげよ!! 我が息子よッ!!」
『ギュワワワワワアアアーーーーーアンッ!!!!』
数日前に、愛しき彼女の子宮に放り込まれた種子は卵子と結合し、呪いの術式は完成を経て、新たな命が目覚め狂喜乱舞する。
鮮血にまみれた実験室を破壊し、彼女達の前に立ちはだかる異形の怪物。
形容し難く。
強いて言うならば、ブラックホールのど真ん中に大きな瞳を生やした魔物。
様々な媒体で『バグベアード』と呼ばれる不可思議な化け物を彷彿させていた。
「う……そでしょ……」
その絶対的な恐怖に、暗闇に、心の底から怯えるヒナ。
そのビジュアルに何かトラウマが有るのかもしれない。
珍しく、カナミはそんな彼女を助けるべく、無謀にも、ずいっと前に出て両手を拡げ身を呈して庇う。
「ヒナちゃんに手を出したら……ただじゃあ済まないんだからあッ!!」
普段の間延びした口調では無く、ぎりりと切羽詰まった表情で、血眼を宿し恐喝するカナミ。
荒げた殺意により、一瞬、時は止まる。
隙をついて、トールが焔をその身に纏った。
「うらああああああああッ!!」
灼熱はバグベアードのその大きな眼に向けて突進した。
だが、次の瞬間。放たれた視線はトールを彫像へと変える。
カチンと固まった石像は全く身動きなどしない。
「う……そ……でしょ……?」
ヒナはガクガクと身震いつつも、目の前で守ってくれているカナミを押し退け、かつてトールであった物に寄り添おうとする。
「ダメだよ! ヒナちゃん!!」
カナミはそんな彼女を引き留めようとするが、ドンと力強く弾かれてしまい、尻餅をつく。
「あ……あ……トール……トールぅ……」
逞しい彫像に抱き付き、滝のように涙が溢れ、か細い声で一心不乱に泣き叫ぶ。
突き放されたカナミはそんな彼女を見詰めては、血が滲む程、唇を噛み締め、己の力不足を改めて感じてしまいその場で泣き崩れてしまった。
「ほう……まだ粘りおるか。流石は偉大なる魔術師よ……」
実は先程からバグベアードが視線による攻撃を継続していたのだが、カナミとヒナにそれが適用されていないのに気付き見抜く。
バレンシアは額に汗を滲ませ、絶えず防御結界を行使し続けていたのだった。
「まぁ、良い。これも計画に織り込み済みだ。多少の誤差はあったがな……」
悲壮感にくれる彼女達を眺め悦に浸るバルテズール。
彼は1つ眼の怪物に飛び乗り、指図する。
「往け! 全てを混沌に導くのだ!!」
最下層に位置する其処からは決して見える事の無い、遥か上空は蒼天へと目指し、屋敷を辺り構わず破壊の限りで埋め尽くし上昇し続ける。
今、再び、野に放たれたダークエルフのバルテズール。
彼はにやりと禍々しい笑みを一層に賑かせ、その場をあとにしたのであった。
ようやく、次の段階まで来たかな?
(^_^;)
冒頭、某バイオハザ○ドの映画のパロですw
次回は一応、11月1日~3日辺りの予定でっす。




