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ドラゴンNO涙  作者: caem
第4章・暴れだす。幕を引き裂き、さぁ、開演だ。
65/96

抗えば。抗うほどに、螺じ曲がる。その6。

一応、前回からの続き。

短めです。

「大人しく、それを此方に渡してもらおうか……」



 漆黒の鎧を着込んだ長い黒髪の美女が彼女達の目の前に突然顕れ、脅迫紛いに剣先を向ける。

 鎧と同じくして露出された肌艶も闇のように黒く染まり、整った美貌を他所に、長い耳が目立つ。

 『ダークエルフ』だという、異世界大陸ファンタジスタに於いて、恐れ忌み嫌われている存在を認識させた。


「またか……もうっ! 何でこんなタイミングで……ッ!!」


「ごほっごほっ……でもって~……見たこと無いヤツだよね~……」


「よし、斬ろう」


 潔いトールさん。

 言葉も短く、瞬発的にダークエルフの美女に襲い掛かった。

 新調した長剣は熱を帯び、一閃の焔が彼女を真っ二つに斬り裂こうと雄叫びをあげた。


「ちょ……いきなりかよ……ッ!!」


 寸前で見切り避けたものの、まるで止まる事の無い焔の斬激。

 反撃するに叶わず、思わず大きくその場から離脱する。

 だが、トールはもう、走り出したら留まらないのじゃ。

 何処かのババ様も言っていた。

 ただし、その者は蒼き衣などは着飾っていないし、金色の野にも降りたっていない。


「おおおらあああああああッ!!」


 覇気を撒き散らしながら、盛りの付いた猛牛の如く、更に突進し続けるトール。

 長剣のみならず、彼女自身も焔の塊と成り、それは見事に『灼熱』を体現していた。

 他の二人は、彼女が引き付けている間に、各々の得物を片手にいつでも補助・参加出来るようにと戦闘準備を済ませてはその光景に固唾を呑む。


「ちッ、クソが! 調子に乗るなよッ!!」


 ペッと唾を吐き悪態をつきながら、ダークエルフは反撃を開始する。

 美女が形無しだ。

 忌々しさを眉間に寄せ、歯軋りが苛立ちを示す。


「氷よ、魔力を我が剣に宿せ!!」


 詠唱も短く、空いた片手で魔術を行使する。

 途端、彼女の剣に冷気が纏い、軽く試し斬りする傍から草木は凍り付いてゆく。

 やがて、向き合うふたり。


「うおおおらああああああッ!!」


「クッソがあああああああッ!!」


 焔と氷とが激しくぶつかり鬩ぎ合う。

 大気をも焦がし尽くさんとする焔が氷剣と重なり忽ちに掻き消されるが、それぐらいでは燃え尽きない。

 迸る闘志は一切萎えず、それどころか、より一層に焔は膨れ上がる。


「ん~……今のところ、トール1人で十分かもね~……」


 傍観を決め込み様子を診ていたカナミが状況を冷静に分析し、呟く。

 確かに誰が見ても、類い稀なる剣術や体現せしめた焔の魔力などに於いて、遥かにトールが勝っていたのは明確だった。


 多分、あと数刻も経てば、決着は有するだろう。

 しかし、『彼』の出現により、その状況は大きく一転されようとする。


「全く、何をやっておるのだ……」


 奈落の底から響くような、かつて、何処かで聞いた事のある声はカナミとヒナの恐怖心を煽り、動悸は高まる。


 このタイミングで作者は便利な呪文を唱えた。



  【---時は少し遡る---】



 まだ陽も高く陽気に拓けた平原。

 何処からか聴こえてくる小川のせせらぎが心地好く。

 麗らかな季節の花々が咲き誇り穏やかな香りが辺り一面を春色に染めている。


 大量の『竜の涙』を獲得し、ほくほく顔で『光帝』の元をあとにした彼女達3人は、そんな甘いひとときを味わっていた。


 前以て、魔術師バレンシアと話し合い合流場所としていた村へと向かう道中。


 重くなるかと思われた生理痛も全く感じないので、トールは軽快に自転車を漕ぎつつ涼風を感じては朗かに微笑む。

 ただし、彼女は元から筋力に恵まれているので、カナミとヒナが追い付くのに精一杯ではないかと思われていたのだが。

 バレンシアによりチューンアップされた自転車は現代で云う所の『電動式』に近い性能を身に付けているので、どうやらその心配は無さそうだった。


 3人は共に仲良く寄り添い、とても気持ち良さそうにサイクリングを楽しんでいた。


「……ん? あそこ……誰か倒れてない?」


 ヒナは気付き、視線の先を指差す。

 道端で、何者かが横たわっていた。

 片腕を上げ、何かの文字を地面に書いてはいないか興味津々で近寄ろうとしたカナミ。


「待て! カナミ!」


 『ハウス!』とばかりに彼女を制するトールであったが、時既に遅し。

 横たわっていたそれはむくりと起き上がり、瞬時にカナミの首根っこを掴み持上げる。


「……う……ぐ……」


「馬鹿が……油断してんじゃあねーよ!」


 フード越しに邪悪な笑みをちらつかせ、苦悶の表情を浮かべるカナミに更に追い打ち。


「痛あッ!?」


 した筈なのだが、何故か叩き付けた拳の痛みに戸惑い、人質を手放してしまった。


「まさか……防御魔法を使えるとはな」


 少し違う。

 確かにカナミは首根っこを掴まれてはいたが意識を失った訳ではない。

 咄嗟に前以て支給されていた護符を握り締めていたのだった。

 放たれた彼女は急いでその場から離れトールの元へと駆け寄り背後に回る。



  【---はい。今ここです---】



 突如、顕れたもうひとりのダークエルフ。

 彼女達3人には見覚えがあった。

 確か『バルテズール』とか呼ばれていた。

 あの尋常成らざる『暴虐』の悪魔の側近だ。

 彼は久々に出会った彼女達に何の一言も挨拶を交わさず掌を宙に翳す。

 刹那、頭上に幾数本もの鋭利に尖る『氷結の槍』が顕現された。


 無詠唱による氷系統の最大級魔術『氷結の投槍群アイシクル・スピアーズ』が全弾、トールに狙いを定める。


「させないッ!!」


 ヒナは手にしていた弓を弾き、祈りを込めて解き放つ。

 燃え迸る矢が、一瞬にして空間を引き裂き一筋の熱線を描く。


「むッ!?」


 集中は途切れ、頭上の魔術は効果を発し威力を及ぼす事もなく霧散。

 消滅し、彼は咄嗟にその場を退く。


 だが、次いで。

 カナミはフヒヒとほくそ笑みつつ、背負い袋『バックパック』から何かを取り出し準備していた。


 いざ、行動に移す前に予め、然り気無く自分にヒナに耳栓を渡し装着する。

 拡声器『スピーカー』のスイッチを押しながらスマホの音声部分に押し付けると、盛大に不協和音が周囲に響き渡った。



『ギキキキキキキキキキキイイイイイイイイイイイイイイイーーーーーーッッ!!』




「ぬぐわあああああッ!? 何だ此れはぁぁぁぁぁッ!?」



 堪らず、耳を両掌で塞ぎ、その場で蹲る彼等ダークエルフ達。

 甲高いハウリングも伴う。


 それはスマホに録音された『黒板を爪で引っ掻く音』その物だった。


 ループさせる設定にしているので、アプリを止めない限り、充電が切れない限り、サウンド地獄は永遠に続く。


 ただ、耳が長いだけ?

 いや、そんな事はないだろう。

 きっと彼等ダークエルフは聴覚にも優れている種族に違いないと推測したカナミの策略は見事に功を成し、果たし遂げたのだ。


 以前、対峙した時には、完膚なきまでに叩きのめされた完璧超人。

 勝てる筈もない化物のような悪魔『暴虐』がそこに居たのだが、今この現場に居ない。

 シメシメと。

 %は少ないものの勝機を見出だし、いざ、カナミは確信をもって奇策を実行したに至る。


 況して、この異世界に於いては、このように脳味噌を震わせるような、心を掻き乱す程の鬱陶しい音は無いだろう。


 魔術を発動させるには、少なくとも精神を集中させねばならない。

 それを覆すには、精神を乱すには。

 これぐらいのイカサマは許されても善かろうかと。


 ちなみに、トールはこの音が大好きな変態さんである。


 幼い頃はよく、学校の教室で掻き鳴らしては悦に浸り、同級生達や教師を困らせていたものだった。

 今も彼女はその高音に酔いしれ、恍惚な表情をして立ち尽くしゾクゾクと身悶えている。


 良いですよね、この音。

 俺も好きです。


 斯くして。

 全く耐性の無かったふたりのダークエルフは口許から盛大に泡を吹きつつ意識を失い大地に臥せ横たわっていた。

 正直、トールの出番は必要なかったのでは?と思ったのだが、それはさておき。


 ヒナとカナミは未だ悦に浸るトールを他所に、彼等を縄で頑丈に縛り上げ、猿轡を以て捕縛したのであった。

 どうでもいいが、亀甲縛りは辞めなさい。


次回は11月は1日以降に……

詳細は活動報告などにてお伝え致します。

重々、御容赦くださいませ……

( ノ;_ _)ノ


嘘つきです。俺。

10月28日、深夜にもう一本ぽいっちょしました(爆)

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