抗えば。抗うほどに、螺じ曲がる。その5。
前回の引き続き。
かなり茶番です(爆)
「ほれ、今の出番が終わったら次は嬢ちゃんらの番でさぁ」
ごくり。
唾を飲み、緊張する女子高生達。
3人はそれぞれ自分の掌に『人』の文字を書き、それを呑み込む。
「んなにビビるこたぁねぇですぜ? 気楽にやってくんなせい。あっしは客席に回りやすんで……」
『光帝』は相変わらず茶髪の日本人を装い飄々と、舞台袖をあとにした。
確かに、彼の言う事に間違いはないだろう。
どんな方法を用いても構わずに観客である『竜』を泣かせさえしてしまえば、零れ落ちた涙は結晶化し、宝玉『竜の涙』と成るのだから。
だが、彼女達はあくまでも女子高生であり、お笑い芸人ではない。
寧ろ、各々の部活や趣味に熱中するタイプだった。
とはいえ観客や従業員も含め、あれだけの大勢の『竜』と闘える訳もなく。
暫く3人で悩んだ末、ようやく覚悟を決める。
この異世界に持ち込めるようになった携帯『スマホ』を活用し、ネットから使えそうなネタを検索しつつ練習しようとしたのだが、そんな時間はなかった。
最低限の準備だけを整え、いざ、ぶっつけ本番。
前座が終わり、メクリと演目には『かしましむすめ』と書かれていた。
スマホから流れる軽快な音楽が会場を賑やかにする。
ウチら陽気な『かしまし娘』♪
誰が言ったか知らないが
女三人寄ったら
姦しいとは愉快だね。
ベリーグッド♪ ベリーグッド♪
お笑い、お喋り、ミュージック♪
明るく歌って、ナイトアンドデイ♪
ピーチクパーチク……
か~しましい~~~♪
「ヒナで~す」「カナミどえ~す」
「みなみはるおでございま」「なんでやねん!」
「ちょ、突っ込み早いって~!」
意外とキツかった突っ込みに、トールはぎろりとヒナを睨み付けた。
思わず、ふたりは、会場の観客は皆、その迫力に圧倒される。
静まり返る会場の雰囲気をどうにか強引に変えようとする。
「え~と、ぼちぼち暖かくなってきましたよねぇ?」
「うんうん。懐は寒いけどね」
死ーーーん。
オチた。
観客の片眉すら微動だにしない。
「……ふぅ……辞めだ。今回は諦めて帰らせて貰おう……」
どこか疲れているように、ため息を吐き、踵を返すトール。
だが、ヒナがぐいと彼女の腕を掴み引き留める。
「……ちょっと、トール。どうしたの?ここに来てから何だか変だよ……」
カナミはヒナの側に付き添い不安そうに身を寄せていた。
それが更にトールの苛立ちをより一層焚き付けた。
「あんた達は良いよね……いつでもどこでも一緒なんだから……」
力強く握られた拳の行き場は何処にも無く、眼力だけが怒り一色に染まってゆく。
決して彼女達に手を出さないように、酷すぎる暴言を吐かないようにと必死に『自分』を抑え込もうと足掻いてはギリリと歯軋り、踠く。
「ねぇ、どうしたのよ……ちゃんと言ってよ……」
そんな彼女に対してヒナは、彼女の腕を掴んだまま、あくまでも優しく接し、真剣な眼差しで真っ向から挑む。
嘘偽りのない鮮明な眩しさが、光が、彼女のどんよりと濁った心の奥底に酷く突き刺さる。
「だって……二人ともおかしいんだもん……アタシ、何だか置いてけぼりな感じがしたから……」
突然、か弱さが口をついて出てしまった。
ハッと我に帰り、零れ落ちそうになる涙を拭う。
トールは、どうにも情緒不安定な己に不甲斐なさを感じ、再び怒りへと感情を転嫁させようとする。
観客達は、一体何の茶番を見せられているのかと首を傾げているのだが、静かに彼女達を見守っているようだ。
「あ、もしかして……あの人?」
いくら鈍感なヒナでも流石に気付いたのか。
トールが恋をしている相手『灼熱』の事に。
彼女は黙りこくり肯定する。
しかし、事の本質は全く別ものであった。
「違う! そんなんじゃあない!!」
握り締めた両拳を振り乱し、まるで菓子をねだる駄々っ子のように、純粋に心の内を吐き出すトール。
その衝撃で掴んでいた腕は引き剥がされ、ヒナは思わず仰け反り、傍らのカナミを護るようにして怯えてしまう。
「……それだよ!! 何でヒナは……カナミは! そんなにアタシから離れたんだ!!」
魂の咆哮は、嫉妬を辺り構わず撒き散らす。
「何でカナミはヒナに頼る!!」
更に激しく狂おしく。
斜めに傾かれた姿勢は羨望を現す。
「もう! アタシなんて要らないんじゃあないのかッ!?」
くだらない誇りや尊厳など最早どうでもいい。
口許はへの字口にひん曲がり、涙が止めどなく溢れ、会場全体に切ない慟哭がありったけに響き渡る。
「……アタシは……こんなにも情けない……大馬鹿者だ……」
トールは、力無く、がくりと膝から崩れ落ちる。
滝のように流れ落ちる涙などには一切構わずに。
崩壊してゆく自我に委ねて。
そんな彼女の側にゆっくりと近寄り、ヒナは突如、思いっきり平手でビンタをかました。
「馬鹿だよ! あぁ! 大馬鹿者だよ! アンタはッ!!」
力無く踞る彼女の襟首を掴みあげ、ヒナは限り無く純粋な眼差しでトールを見据え、やがて激しく精一杯抱き締めた。
生涯、決して離して成るものかと。
力強く注がれる絶え間ない愛情が流れ込む。
受け入れてしまい、トールは他の視線になど憚る事無く、一切合切を放り出して産まれたての赤子のようにはち切れんばかりに声を張り上げ号泣した。
やがて、何処からともなく啜り声が聴こえては、次第に増幅してゆく。
いつの間にか、会場にいた観客達は皆、堪えきれずに各々、涙を溢していた。
多分、『雰囲気に釣られた』というヤツであろうが、床に叩き付けられる水滴は結晶化され、宝玉へと相成る。
そこには、光溢れる『竜の涙』で埋め尽くされた感動が犇めいていた。
強く抱き締め合ったままヒナは、彼女の頬を伝う涙を頬で拭い、耳許で愛を優しく囁く。
「アタシはみんな大好きだよ……トールは特に。だって、同じ日に産まれて、一緒に育って、一緒に生きてきたじゃない……」
慈しみは、ヒナに宿り、唯独りの壊れたやんちゃな無垢に光を灯す。
トールは只ひたすらに、謝罪と感謝を噴き出し、スポットライトが一点に彼女達を導き観客達の瞳を潤していた。
それでは、皆さん
ごきげんよ~う♪
明るい音楽で半ば強引に幕は締められた。
舞台袖にて、3人は仲良く嬉し涙を流しながら、寄り添い互いに抱き締め合う。
ただ、1人。ふとカナミは何かに気付き、トールに質問をした。
「もしかしてさ~……トール……『あの日』なんじゃあない?」
「…え?…」「…あ…」
何か妙だとは思っていた。
ヒナはトールの下腹部を優しく撫で擦る。
「痛い?」
「ん……うん……」
彼女はチラリとズボンをずらして中を覗き込む。
まだ、始まったばかりなのかそれほど迄には到ってはいなかった。
よし、赤飯を炊こう。いや、違う。
違う違う。そうじゃ、そうじゃ無い。
なんと、トールは初めての生理だったのだ。
気付けなかったのもしょうがない。
一般的には10歳にも成れば来るとされているが、実は17歳までの幅がある。
ひとつ年を経て18歳になって以降だと、深刻な病気かもしれないと判断されるが。
今ちょうど、彼女トールは17歳の高校二年生。
それが喜んで良いことなのかどうかは分からない。
女性としての苦しみと闘う日々が始まるのだから。
ただ、これだけは言える。
それは、命を宿せる身体に成ったという事。
「そっか~……良かったね~……」
カナミは、そんなトールの手を握り、優しく微笑んだ。
「じゃあ……次のステップだね!」
何の躊躇いも、悪びれた様子も無く、ヒナがトールを勇気づける。
「な……何言ってんの!! もうッ!!」
一応その意味が分かったらしく、顔を真っ赤に染めてトールはヒナの胸元に顔を埋めてしまった。
少し嫉妬するカナミだったが今だけはと我慢している。
……後で萌えあがるつもりだろう。
「いや~、嬢ちゃんら。卑怯な真似してくれたモンでさぁなぁ……全く、いけやせんぜ……」
いつの間にか傍に居た『光帝』が目許に滲む涙を和服の袖で拭う素振りで、何かでたんまりと包まれた小袋を彼女達に差し出してきた。
じゃらり、と鳴る音が宝石の匂いを嗅ぐわせる。
「ほれ、取り分さね。受け取りな!」
ぐいと胸に突きつけてきた小袋を受け取り、中を確認するカナミは思わずにんまりといやらしい笑みを浮かべる。
大小様々な光輝く宝玉『竜の涙』でいっぱいに埋め尽くされていた。
しかし、ヒナが彼に告げたのは謙遜だった。
「こんなに沢山……受け取れません。アタシ達、何もしていないから」
「いやいやいやいや。確かに『笑』とは違うかもしれやせんが、ね。観客皆を泣かせた事には違えねえ。それに…それなりに皆笑っていやしたぜ?」
そう言うと彼は胸に手を当て瞳を閉じる。
「こう……心の奥がくすぐったくてぇ仕方が無え。うわははははは!!」
屈託の無い笑顔で、場は和む。
一頻り笑い、ちょちょぎれる涙を手拭いで拭き取り、彼は座り込んでいたトールに近寄る。
「ちょいと失礼しやすぜ?」
真剣な眼差しで彼女の下腹部に人差し指をついっと宛てがう。
いやらしい手つきではなかったので、拒否する事もなく、何をするのか興味津々な彼女達3人。
光が放たれ、お腹は丹田あたりから暖かな感触が全身に拡がってゆくのを感じる。
「ん……んふぅ……」
漏れた喘ぎ声は決して快楽からではないとは言い切れないが。
先程までの生理痛が徐々に治まってゆくのを感じトールの表情が和らぐ。
「よしゃ。暫くは無理なさらぬこったな?」
まるで、お医者さんのように、トールに接する『光帝』。
「なんで……ここまでしてくれるんですか?」
代表して、ヒナが聞く。
「そりゃあ、嬢ちゃん達が光って見えるからよ。特に……ヒナ嬢。お前さんは格別だぁな」
そう告げると彼はヒナの胸元に指を突きつけた。
「ゆくゆくは、その光は世界を救う。絶対に失うんじゃあねえぞ?」
「……そんなにたいした事出来ないと思うけどなぁ……」
「いや~、ヒナちゃんなら何かやらかしそうな気がする~」
「確かに、な」
「ちょっと! 言い方、酷くない?」
ぷんすかして頬を膨らませるヒナ。
そんな彼女の頬っぺたを突っつくカナミとトール。
ぷしゅーと息が吐き出され3人は互いに顔を見合わせ、自然と笑い声に包まれてゆく。
「仲良き事はぁ美しきかなってな!」
そんな心暖まる光景を見ながら『光帝』は、まるで、家族のように彼女達を優しく見守っていたのであった。
本当の大馬鹿者は俺だぁ!!
( ・`д・´)
酒呑みながら書いてるから、どうしても悪のりになっちまう(爆)
しかも、文法とか文章とか多分、滅茶苦茶じゃないかな?
そろそろ、酒抜きで、シラフで書く癖を身に付けないと、な……
(T∀T)
次回は木曜日辺りにしようかと。




