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過去を明かす

少女が去ったあと。

店の中に戻ると、空気が少しだけ重かった。

リナと祖父が、こちらを見ている。

「……話、聞かせてもらおうか」

祖父が低く言った。

逃げるわけにはいかない。

「……ああ」

俺は、ゆっくりと口を開いた。

「俺、この世界の人間じゃない」

静かな店内に、言葉が落ちる。

リナが目を丸くする。

祖父は無言のまま、続きを促した。

「元いた世界で……結婚式の途中で色々あってな」

思い出す。

あの光景。逃げる新婦。追いかけた先。

「トラックに轢かれて死んだ」

リナが小さく息を呑む。

「それで、この世界に転生した」

言葉にすると、妙に現実味がない。

だが、事実だ。

「その時に……変な“特典”がついた」

「特典?」

リナが首をかしげる。

「借金が増える特典だ」

自嘲気味に笑う。

「元は100万円だったのに、この世界じゃ1000万ルピーになってる」

沈黙が落ちる。

祖父の眉が、わずかに動いた。

「……さっきの娘は、その取り立てか」

「ああ」

頷く。

「で……」

一度、息を吸う。

「毎日パンを渡すことで、期限を延ばしてもらった」

言い切ったあと、深く頭を下げた。

「勝手なことして、すまない」

床が近い。

顔を上げられない。

「店の利益、削ることになる」

静寂。

何も言われない時間が、やけに長く感じる。

「……リナ」

祖父がぽつりと呼ぶ。

「どう思う」

リナは少しだけ考えて——

すぐに笑った。

「いいんじゃない?」

あっさりとした声。

思わず顔を上げる。

「だって、この店ここまで繁盛したの、コウのおかげだし」

まっすぐな目で、そう言った。

「パン一個くらい、全然問題ないよ」

軽い口調。

だが、その言葉はやけに重かった。

祖父が鼻を鳴らす。

「……甘いな」

そう言いながらも、完全には否定しない。

しばらく黙ってから——

「はぁ」

大きくため息をついた。

「……好きにしろ」

ぶっきらぼうに言う。

「ただし」

視線が鋭くなる。

「その分、もっと稼げ」

「……ああ」

自然と頷いていた。

「必ず、取り返す」

祖父はそれ以上何も言わず、焼き台の方へ戻っていく。

リナが隣に来て、小さく笑った。

「よかったね」

「ああ……ほんとにな」

胸の奥が、じんわりと温かくなる。

逃げてきたはずの世界で。

いつの間にか——

守りたい場所が、できていた。


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