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結婚式

誓いの言葉を交わす——まさにその瞬間だった。

「健やかなる時も、病める時も——」

神父の声が、静かに響く。

ステンドグラス越しの光が、柔らかく式場を包み込んでいた。

参列者たちの視線が、祝福の色を帯びてこちらに注がれている。

その中心に、俺と——新婦。

白いドレス。震える指先。

少し俯きながらも、確かにここにいるはずだった。

——その時。

バンッ!!

式場の扉が、乱暴に開かれた。

静寂が、一瞬で崩れる。

「……え?」

誰かが小さく声を漏らす。

視線が一斉に入口へと向く。

そこに立っていたのは、一人の男だった。

息を切らし、乱れた髪。

だがその目だけは、まっすぐに新婦を捉えている。

迷いがない。

男は一直線にバージンロードを駆けた。

止める者はいない。

いや、止める間もなかった。

「——来い」

低く、しかしはっきりとした声。

男は新婦の手を掴む。

「え……」

新婦の唇が震える。

その目が、一瞬だけこちらを向いた。

言葉を探すような、迷いの色。

だが——

「……ごめん」

かすかな声だった。

次の瞬間には、彼女は男に引かれていた。

ドレスの裾が翻る。

ベールが空気を裂く。

「ちょ、ちょっと待ってください!?」

司会者の声が裏返る。

参列者たちがざわめき始める。

「どういうことだ……?」

「ドラマか何か?」

「え、本物……?」

混乱。

誰も状況を理解できていない。

普通なら。

ここで、膝から崩れ落ちるのだろう。

すべてを失ったように。

——だが。

「待て!!」

気づけば、俺は叫んでいた。

心臓が暴れている。

頭の中がぐちゃぐちゃだ。

だが、それでも浮かんだのは——

「式代どうすんだよ!!」

参列者が一瞬、静まり返る。

空気が凍った。

だが構うか。

借金してまで用意した結婚式だ。

このまま逃げられてたまるか。

俺はタキシードのまま走り出した。

革靴が床を打つ音が、やけに大きく響く。

「待てって言ってんだろ!!」

外に飛び出す。

眩しい光が目に刺さる。

式場の外は、抜けるような青空だった。

白いドレスが風に揺れている。

その先で、男が新婦の手を引いて走っている。

「ふざけんな!!」

距離は、まだある。

だが追いつけない距離じゃない。

呼吸が荒くなる。

心臓が喉元までせり上がる。

それでも足を止めない。

「止まれ!!」

もう少し。

あと少しで——

その時だった。

——パァンッ!!

鋭いクラクションが、鼓膜を突き破る。

視界の端で、巨大な影が動いた。

トラック。

気づいた時には、もう遅い。

「……え」

体が、浮いた。

衝撃。

時間が、引き延ばされる。

空が、ぐるりと回る。

アスファルトが迫る。

横を見ると——

同じように宙に投げ出される二人の姿。

新婦のベールが、ゆっくりと舞っている。

男の顔が、驚愕に歪んでいる。

(ああ……)

なぜか、妙に冷静だった。

(結局、回収できなかったな……)

最後に浮かんだのは、そんなくだらない考えだった。

——そして。

意識は、闇に沈んだ。

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