平定
流石に悪漢様も分が悪いと感じたのか、素直に王城へと案内してくれます。
大勢の民衆様を引き連れるわたくしに、時折り視線を向けながら。
正門前にいる兵と話をし、巨大な扉が開かれていく。民衆様を引き連れた立派な馬車。更には剣を掲げるわたくしの姿に傭兵たちは謀反が起きたのだと理解しているようです。
「お嬢様、悪玉はここに来てもらいましょう。城の中で待ち伏せされてはいけませんし」
「そうかしら? まあでも住民様たちを守るのなら、そうすべきかもね」
わたくしは先導してきた悪漢様に指示を出す。傭兵団の全員を集めるようにと。
ここでわたくしは馬車を飛び降り、団長というバジマ様の到着を待っていました。
とはいえ、直ぐには現れません。傭兵団の対応は明らかに怪しいですわね。王城と言えども、そこまで大きくなかったのです。流石に時間がかかりすぎですわ。
刹那に無数の弓矢が王城内から放たれていました。どうやら傭兵団は奇襲により、わたくしたちを亡き者とするつもりらしい。
「プロージョン!!」
即座に爆裂魔法にて対処する。向かい来る矢を爆風にて無効化。更には矢が放たれた方向にフレイムアローを撃ち込んでいます。
「おお! 聖女様!」「聖女様に続けぇぇっ!」
住民様たちもわたくしの攻撃に触発されています。明らかに聖女とは異なる魔法を放ったというのに、彼らはまるで気にしていないようです。
「エルサ、行きましょう!」
「了解しました!」
ここからは押せ押せとなります。住人様たちと力を合わせて勝利すること。それはわたくしが望んだまま。遠距離攻撃で殲滅するのは簡単でしたけれど、それでは意味がありませんの。
我先にと突撃していった住民様たちですが、急に足を止めて後ずさりを始めています。
「お前が聖女か? 小娘じゃねぇかよ……」
王城から現れた大男様。大剣を握る彼こそが親玉であるバジマ様に違いありません。
「貴方がバジマ様でしょうか? わたくしはヒナ・テオドールと申します」
セーラー服の裾を上げ、軽く挨拶を済ませる。わたくしとしては自然な行動であったものの、バジマ様は馬鹿にされたと感じたのかもしれません。
「お前たち、あの女を引っ捕らえろ! 全員で犯してやるぞ!」
バジマ様が声を荒らげると、一斉に襲いかかってきました。流石は傭兵様ですわね。住人様たちには相手など務まりません。
「エルサ!」
「はい、お任せください!」
二人して斬りかかっていく。乱戦に魔法は使えない。よってわたくしもまた物理攻撃に頼るしかありません。
とはいえ圧倒的でした。剣術に関するステータスはろくに伸びていませんけれど、元より戦闘値50%アップの超怪力というチートスキル持ちなのです。瞬く間にわたくしは傭兵団を斬り裂いていく。
「お、おま、本当に聖女なのか……?」
最後の一人となったバジマ様。震えながら、問いかけています。わたくしの強さを目の当たりにして。
「悪を以て悪を制す! それは悪役令嬢を目指すわたくしが、たった今思いついた言葉ですわ! これより貴方様を天へと還します。わたくしは刑の執行者として裁きを与えましょう。泣き言や弁明は天界にてお願いいたします」
言って、わたくしが斬りかかる。相手は自身の二倍ほどもあるような大男でしたが、果敢にも近接戦を選んでいます。
「むぅ、良い剣だな!?」
初撃は大剣に止められるも、わたくしは動じない。剣術による攻撃で余裕を見せたかのようなバジマ様へ執拗な攻撃を繰り出します。
「ぐぅ、ぐぁ、ちょっ!?」
バジマ様を一方的に攻め立てていく。傭兵団を率いる彼であっても、所詮は人を相手にしていただけですの。強大な魔物との戦闘を経験していない彼には、わたくしと同じだけの魂強度はありません。
最後に甲高い金属音が王城前に響き渡る。最大限に魔力を乗せた強烈な一撃。二メートルはあるだろう大剣を、わたくしは弾き飛ばしていました。
「待て、降参だ! 何でも言うことを聞く!」
武器を手放してしまったバジマ様は一気呵成に攻め立てるわたくしに対して、命乞いとも取れる発言をしています。
瞬時にピタリと停止。バジマ様の喉元にはわたくしの愛刀が触れていたというのに。
「たっ、頼む。許してくれ……」
尚もバジマ様は懇願します。どう足掻いても勝てないのだと。
圧倒的な魔力差は一撃の重さに大きく寄与していました。大剣を振り回したところで、わたくしが相手では少しも効果がなかったのです。
「わたくしの役目が弁明を聞くものではないと、先ほど申しましたでしょうに?」
バジマ様の切なる願いでありましたけれど、わたくしは首を振って答えている。実際に手を止めていましたが、許すつもりはありません。
「わたくしは悪役令嬢。刑の執行者ですから――――」
言って、わたくしはバジマ様の首を落とした。悪を以て悪を制す。その言葉通り、無慈悲とも思える一刀にてこの戦いを終わらせています。
刹那に大歓声が巻き起こりました。わたくしを称える声。聖女様との叫び声が……。
悪役令嬢とは呼ばれないわたくしでありましたけれど、一応は満足しています。追放されたあとの世直しは悲願でもあったのです。覆すべき悪評などなくとも、わたくしには一定の達成感がありました。
「ゼクシルの皆様、これで全てが終わったわけではございません。全員が力を合わせ、今度こそ住みよい国を築くこと。全てを教団へと丸投げするのではなく、貴方様方も尽力いただきとうございます。わたくしはその助力をさせていただいたに過ぎません」
わたくしは民たちに語りかける。復興は一人の手で成し遂げられるものではないと。全員が同じ方を向き、懸命に努力し続けた先にしかないのだと。
「まずは王城に残された金品の一部を住人様に分配します。わたくしも及ばずながら、復興支援として幾らかの援助をさせていただく所存です」
とりあえずは町に活気を戻すこと。住人様たちが私財を持つことが復興への足がかりでしょう。
恐らく王城にはかなりの金額が貯め込まれているはずで、民が潤えば商人たちが避けるはずもないのですから。
エルサは頷いている。わたくしが示した方針に間違いはないと感じでいるのでしょう。常識外れの話ではなく、真っ当な方策であるのですし。
「さし当たってテオドール公爵家より白金貨千枚を援助させていただきます!」
「お嬢様ァァッ!!」
エルサがわたくしの腕に縋るようにして懇願していますが、そんなに慌ててどうしたのかしら?
兎にも角にも復興にお金は必須。悪党を斬り裂いただけで終わりだなんて、わたくしの信念に反することなのですわ。
「お嬢様、援助は金貨千枚でも充分すぎます!」
「端銭では復興などできませんの!」
「いつになったら貨幣価値を学んでいただけるのですかぁ!?」
相変わらず、エルサは分かっていませんわね。白金貨こそが最強ですのに。
それに、お父様からいただいた白紙の振出手帳へと、わたくしは既に金額を記入し終えておりますの。この場所で使わなければ意味などありませんわ。この場所で使うために、わたくしは手帳を持っていたのだと思えてなりません。
「必ずや住みよい国にしましょう! お願いではなく、命令ですからね? わたくしが気に入る国にならなければ、悪役令嬢に切り刻まれますのでご注意を!」
最後はにこやかな雰囲気で。ちょっとした冗談でありましたけれど、住民様たちはわたくしの言葉を真摯に受け止めています。きっと命令通りに、この国は生まれ変わることでしょう。
今だけは聖女でも構わないわ。本当に住みよい国を作り上げてくれるのなら……。
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