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煩悩まみれの聖職者と女子高生(悪役令嬢)だけで世界を救うって本気ですか? 〜終末世界は残念な二人に託されました〜  作者: さかもり
第二章 各々が歩む道

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悪役令嬢ヒナ・テオドール

 聖堂をあとにしたわたくし、は剣を構えたまま突っ立っているエルサへと駆け寄ります。


「お嬢様、遅かったですね?」


 聖堂前とはいえ、治安は良くありません。豪華な馬車を睨むように見ている輩が多く存在したのです。隙あらばと全員が考えているのかもしれませんね。


「エルサ、とりあえず傭兵団を倒しに行きます!」


 目が点になるエルサ。まあ、気持ちは分かるわ。つい先ほど釘を刺したというのに、わたくしが問題を抱えて戻ってきたのですから。


「お嬢様、ゼクシルは無政府状態とはいえ、独立国家ですよ? 力尽くで占拠したのは事実ですが、前政権から執政者の地位を奪った者たちです。明確に内政干渉となります」


 エルサは考え直してもらおうと言葉を並べますけれど、残念ながらわたくしはもう決めましたの。とっておきの妙案で横槍を入れて差し上げますわ。


「ならば力尽くで奪いましょう。この地に派遣されたシスター様が困っており、圧政者の打破を望んでいるのです。わたくしたちは雇われの兵。図式は政権交代時と何も変わりません」


「まぁた、そのような屁理屈を……」


 嘆息するエルサですが、生き生きとした表情のわたくしを見ては口を噤んでいます。

 わたくしは本気なのよ。現状はアルテシオ帝国のココナとはまるで状況が違いますの。


「それにディーテ様が教団から執政者に相応しい者の派遣を約束してくれました。ゼクシルは教団の庇護下に置かれることになるでしょう」


「それはそれは。さぞかし女神様もお嬢様の扱いに苦労なされていることでしょうね?」


 ちょっとした嫌味が返ってきましたが、少しも気にしませんわ。わたくしは傭兵団を殲滅するだけですの。


「しょうがありませんね。ならば早々に片付けて出発しましょう」

「ええ、そのつもりよ!」


 諦めたエルサは御者台に乗る。わたくしは馬車の天井に立って、敵陣へと乗り込むことに。


 数分走らせたところに元王国騎士団の詰め所がありました。まずはここを襲撃し、民の決起を促しましょうか。


 わたくしは剣を掲げて堂々と大声を張ります。


「ゼクシルの住人様、どうか聞いてください。今よりこの地はディーテ教団が治めることになります。圧政者を排除し、安全で公平なゼクシルを共に築き上げましょう!」


 わたくしは民を煽る。しかしながら、遠巻きに見ているだけであり、誰も近寄ろうとしません。


 しばらくすると詰め所から、ガラの悪い人たちが現れています。


「おう姉ちゃん、圧政者とは聞き捨てならねぇな? 俺たちは狂った王様から国民を守った英雄だぜ?」


 先頭に立つ男性は巨大なハンマーを肩に置いています。なかなかの力持ちですわね? 恐らく普段から武力によって住民様を抑圧しているのでしょう。


「英雄とは尊ばれし者の称号ですわ。貴方様にその資格がないことは明白。大人しく投降するのであれば、命だけは助けて差し上げましょう!」


 わたくしとしては投降してもらうことがベストです。けれども、そう上手くいかないことくらい分かってもいました。


「はん、女二人で正義ごっこか? 笑わせる。とっ捕まえて奴隷にしてやるぜ!」


 男性が部下に指示を出した瞬間、武器を取る男たちが燃え上がりました。

 残念ですけれど、わたくしは遠隔攻撃もできますの。初級魔法のファイアーでありましたが、男たちは消し炭となっております。


「おまっ、魔法剣士か!?」


「いいえ、わたくしは悪役令嬢! よって人を殺めるなど造作もありませんわ。悪評は全て受け入れる所存であり、寧ろ悪評を広めて欲しいくらいですの! 民を苦しめる巨悪がそこにあるというのなら、わたくしは鉄槌を下すのに躊躇などいたしません!」


「お嬢様、矛盾しております……」


 エルサのツッコミにもめげず、わたくしは更なる台詞を投げました。


「さあ、親玉様の元へと案内しなさい! 貴方様など一瞬にして消し去れる力をわたくしは持っているのですから!」


 ここでわたくしは「オーッホッホ!」と高笑いをします。

 馬車の上というこの舞台。本日は何だかいけそうな気がします。悪役令嬢として輝けそうですの!


 流石に町はざわついていました。突如として現れたわたくしが傭兵たちを瞬殺し、親玉様がいる場所まで乗り込もうとしているのですから。


「悪役令嬢様、頑張ってください! そいつらのボスは王城です!」


 ふと声が上がりました。それは待ちに待っていたものですわ。住民様たちが立ち上がる切っ掛けとなる勇気であり、わたくしが望む姿そのものでした。


「ぐぬぅ、雑魚は黙ってろ!」


「貴方様こそお黙りなさい! わたくしは冷酷無慈悲な悪役令嬢。王城へ連れて行くのか、行かないのかどちらかしら!?」


 わたくしは悪役令嬢ロールを続けました。今までで一番の手応えを感じています。誰かに初めて悪役令嬢と呼ばれたわたくしは自己陶酔の真っ只中にいたのですわ。


「くっそ、バジマ団長はお前になど負けんからな? その場で泣き喚いても知らんぞ」


「泣き喚くのはどちらかしらね! わたくしはゼクシルに安寧をもたらす悪役令嬢ですの! ただの悪漢に負けるほど、柔な悪役じゃなくてよ?」


 徐々に昂ぶっていく。ようやく前世からの願望が遂げられようとしています。わたくしは更なる悪役令嬢コールを期待していたのです。


 ところが、


「聖女様! 私もディーテ信徒としてご一緒いたします!」


 なぜかシスター様が追いかけてきて、そのようなことを口にする。


「皆様、このお方はディーテ様が使わせし、聖女様なのです! 私はこの目で見ました! 今し方、聖女様の前に降臨なさるディーテ様のお姿を! ディーテ様が本部の僧兵をゼクシルへと派兵される話もお伺いしました!」


 シスター様は見聞きした全てを住人様に知らせてしまう。

 えっと、あとにしてくれません? せっかく、わたくしの見せ場だというのに……。


「あ、あの……?」


 わたくしは困惑し、何とかシスター様に黙っていてもらおうとします。

 しかしながら、一瞬のあと聖女コールが巻き起こってしまう。期待とは正反対の掛け声が、わたくしに浴びせられていました。


「聖女様!」

「聖女様、頑張ってください!」

「聖女様ぁぁっ!」


 怒濤の聖女コール。期待した悪役令嬢コールはもう一つだって存在しませんの……。

 呆然とエルサを振り返ります。どうして、こうなってしまったのかと。


「エルサ……?」


「お嬢様、こうなる運命なのですから、諦めてくださいまし」


 今思えばシスター様の前に降臨してもらったのは間違いでした。あれさえなければ、今頃わたくしは悪役令嬢コールを一身に浴びていたでしょうに。


 流石に不本意ですわ。こうなると八つ当たりするしかありません。

 わたくしは悪漢様を睨み付け、声高に言うのでした。


 悪役令嬢以外の悪を認めるわけにはなりません!――――と。




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