すれ違う運命
祈りを終えたわたくしは街を散策したあと、聖堂前でエルサを待っていました。彼女が馬車を手に入れたならば、直ぐさま出発しようと。
「ヒナ、エルサが戻ってきたよ!」
珍しく起きているサラ。長旅で疲れたのは水流を吐き続けたウンディーだけであるみたい。彼女はわたくしの右肩に乗ったまま熟睡しています。
「お待たせしました。王家払い下げの馬車が購入できましたよ」
「流石はエルサね! また端銭まで値段交渉したの?」
「お嬢様、馬車は王家の払い下げですら白金貨も必要ない金額なのです。かなり状態の良い馬車ですけれど、値切る必要もなく金貨200枚で馬まで買えました。しかし、言っておきますが、金貨200枚は超大金です! 肝に銘じていただければと……」
まあ、エルサったら。冗談が上手ね。結局は白金貨で買えるのでしたら、それ以上でも以下でもありませんわ。
エルサに案内された場所は裏通りにある馬車の修理工房でした。
「意外と綺麗じゃない?」
「そうなんです。車軸が折れただけで、買い替えられたそうですね。現在はちゃんと修理されております」
純白の馬車。王家払い下げとのことで、御者台と車内は小さな窓で繋がるだけ。北大陸に置いてきた馬車のように気楽な行き来はできそうにありません。
「結局、クリエス様は間に合いませんでしたね……」
ポツリと漏らす。というのもディーテ様からクリエス様が港町ダリスへ向かっていると聞いていたからです。ひょっとすると出発までに会えるのではないかと考えていましたが、小さな港町に彼の姿はありませんでした。
「お嬢様、南大陸とて広大なのです。殿方一人を見つけるのは難しいかと思います。待ち合わせでもしない限りは……」
「まあそうなのですが、ダリスへ向かっていると聞けば期待してしまいます……」
肩を落とすわたくしにエルサは思案しています。時間がない現状でありましたけど、わたくしの望みを叶えるかどうかを。
「それではクリエス殿の到着までダリスに滞在しますか?」
とても魅惑的な提案です。しかしながら、わたくしは首を振って答えています。
「鉢合わせしない以上は、まだその時ではないのでしょう。わたくしもクリエス様も使命を持っております。優先すべき事柄を見誤ってはなりません」
わたくしの返答にエルサは嘆息しています。けれど、仕方のないことですわ。わたくしたちは二人して時間が足りないのです。再会するためだけに費やす時間など持ち合わせておりませんの。
「それじゃあエルサ、出発しましょうか! 行き先は西南の島サナタリア。そこでヒュドラゾンビ狩りをする予定です!」
得意げに話すわたくしにエルサは眉間にシワを寄せています。恐らくヒュドラなんて初めて聞いたのでしょう。明確な災害でしたし、加えてゾンビだなんて受け入れ難い話かもしれません。
「お嬢様はヒュドラをご存じないのでしょうか? 伝記にあるような怪物ですよ?」
「災害級はあるみたいですね。ディーテ様はわたくしがゾンビ体であれば戦えると知って、ヒュドラゾンビ様の情報をお教えくださいました。サナタリア島のヒュドラゾンビ様を狩り、レベルアップするようにと仰せつかっております」
やはり、にわかには信じ難い話だったことでしょう。頻繁に女神様が顕現するなんてこと。しかもドラゴンゾンビ様を討伐した話まで知っているだなんて。
「それでは私はまたお荷物でしょうかね?」
「エルサは船で待機してください。島は毒化しているみたいですので」
予想外の話に大丈夫なのですかぁっとエルサ。またも勢いで戦おうとしているのかと思われているのかもしれないですね。
「いや、ホントに頼みますよ、お嬢様?」
このあと、わたくしたちは大量にポーション類を買い込み、馬車へと乗り込む。
御者台にはエルサが座り、車内にわたくしとと大精霊の二人が入ります。
港町ダリスには僅かな滞在となりました。
しばらく馬車を走らせると街道は岩山に囲まれたエリアへと入っていく。切り立った高い崖が左右にあり、妙な圧迫感を覚えてしまう。
街道の幅は割と狭かったのですが、運悪く行商の荷馬車が南側からやって来たようです。それでなくとも、エルサは御者として不慣れであったというのに。
「ハーフエルフの女性が荷馬車の御者とか珍しい……」
向かい側から来た荷馬車の御者はハーフエルフみたい。荷馬車は冒険者などを乗車させることもあるようで、女性は本当に珍しいようです。
しかし、考えていたよりもハーフエルフの御者は馬車の扱いに長けており、やや広い場所に幅寄せをして停車してくれたとのこと。そこでエルサとすれ違うつもりなのでしょう。
エルサが礼をすると、ハーフエルフの彼女もまた礼を返しています。それは接触をして立ち往生せずに済んだ感謝の表れなのでしょうね。
運命は交差していく。すれ違う馬車と同じように……。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
俺たちは港町ダリスへと向かっていた。馬車に揺られていると何だか眠気が襲ってくる。
「んん?」
一定の間隔で揺れていたのだが、急にガタンと大きな揺れ。流石に気になった俺は御者台のベルカさんに声をかける。
「ベルカさん、何か現れたのですか?」
「ああいえ、前方から貴族らしき馬車が来たので、道を空けようかと……」
「そうですか。ぶつけて難癖つけられないように停車して通過を待ってください」
俺は貴族を優先させる。先を急ぐ旅だ。俺自身も貴族ではあったけれど、地元の貴族と揉め事をおこしたくはないのだと。
このとき俺は気付いていなかった。もし仮にベルカさんへ注意を促さなければ、未来は変わったかもしれないということを。
天界でした約束が果たされなくなることは、なくなったはず。接触をして双方が馬車から顔を出すだけで……。
純白の馬車がゆっくりとすれ違っていく。俺はただその時を待つ。
一定の間隔で響く蹄の音。路面を叩く車輪の音が近付いては遠ざかっていった。
もしかすると俺たちは出会えぬ運命にあるのかもしれない。
ヒナと俺は転生をして初めて同じ場所に存在したけれど、近付いただけで再び離れていくのだから。
二人共が秘める感情とは裏腹に、無情にも双方の目的が優先されていた……。
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