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煩悩まみれの聖職者と女子高生(悪役令嬢)だけで世界を救うって本気ですか? 〜終末世界は残念な二人に託されました〜  作者: さかもり
第二章 各々が歩む道

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契約

 思わぬ返答に俺は大きく深呼吸をする。タイプ過ぎるサイズを聞いてしまったことで、邪念が頭をよぎることに。


「テラパイナップル……」


 思わず鼻血が出そうになってしまう。

 パイナップル級は巨乳好き界隈で最も人気が高いのだ。手の平から溢れるほどの大きさであるけれど、概ね形が良いと評判。前世でそんな話を聞いていた俺は密かにパイナップル級に憧れを持っていた。何せテラなパイがプルっとしてるなんてヤバすぎんよ……。


「マジすか……?」


 巨乳とされるバストサイズは最大のドデカカボチャ級からスイカ、パイナップル、メロン、リンゴ、ナスビと続く。また細かく分けるのに、テラ、ギガ、メガと先に付けることが慣例となっていた。最大級であるドデカカボチャ級だけはテラ以上を超と呼んでいる。


「嫌な思いさせちゃったからね。代わりに良い思いさせてあげるよ……」


 ゴクリと唾を呑み込む。もうベルカさんさんの胸から目を離せなくなってしまう。


『旦那様、見るだけでしたら私の超ドデカカボチャ級を!』

『妾も美巨乳を提供する用意がある!』


 言って悪霊の二人が俺の眼前に胸を放り出す。

 触れることは叶わないのだが、一糸纏わぬその姿。初めて見るパラダイスに俺は鼻血を流して突っ伏してしまう。ニヤけた顔をして俺は失神してしまった。


「あらあら、ウブだったのね?」


 意識を失ったはずの俺だけど、どうしてか声が聞こえていた。

 しかも、なぜか勝手に顔を上げ、俺は意識外で言葉を喋っている。


「ハーフエルフ、貴方の所業は許せません……」


 俺は確かにそう言った。しかし、俺じゃねぇよ。俺は意識を失ってるんだし。

 何となく以前と同じような感じ。どうも俺は三日月亭での一幕と同じように、身体の支配権を奪われているようだ。確実にヤバい状況に陥っていると思う。


「誰……なの?」


 言葉を発するのは明確に俺であるけれど、心を押し潰すほどの殺気を俺が放てるはずもない。ベルカさんも、それに気付いているみたいだ。


「私はミア・グランティス。穢らわしいハーフエルフが私と同じテーブルにいるなど無礼千万です」


 失神した俺の身体を乗っ取ったのはミアであった。

 エルフは生まれにより明確に階級が分けられている。皇族はハイエルフのみ。一般国民はエルフであり、その下にダークエルフが位置し、ハーフエルフは最下層の階級であった。


「ミア……グランティスって?」


 まだ若いベルカさんにはピンとこなかったのかもしれない。しかし、お伽噺のような伝記の中にその名を聞いたことがあるようだ。


「ミア……姫殿下?」


 戸惑うベルカさんの声にコクリと頷くミア。身体は明らかに俺であったけれど、ベルカさんは放たれる威圧感に身体の震えが止まらなくなっている。


「ハーフエルフ、貴方がどれだけ人を殺めようと知ったことではありません。けれど、尊きこの方を騙そうというのなら、幾千の毒と幾万の呪いによって、あらゆる苦しみを与えた末に殺す……」


 今も肌が裂けるほどの殺気をベルカさんは一身に受けている。手も足も硬直したままだ。まるで本当に皇族がそこにいるような感覚をベルカさんは覚えていることだろう。


「いやでも、ミア姫殿下って千年も前の話よ!? 作り話でしょ!?」

「愚かね……? なら手を出してみて」


 ミアがそういうと金縛りのような身体の硬直が解けた。更には意志に反して、ベルカさんは手をミアの前に差し出してしまう。


 頷くミアはベルカさんの手を取り、ニヤリとした笑みを浮かべる。


「私は腐食させて死に至らせることもできるのよ?」


 刹那にベルカさんの手の平は感覚を失う。かと思えば、一瞬にして手を合わせた部分が腐り始めている。しかし、それはただの警告であったらしく、手首まで腐り落ちることはなかった。


「腐食魔法……?」


 感覚が戻ったのか、激痛に顔を歪めながらベルカさんが問う。


「ライオネッティ皇国史の……」


 幼き日にベルカさんが呼んだという伝記。ライオネッティ皇国が世界の中心であったというその物語は強力な闇属性の使い手が主人公だったらしい。またそれは主人公ミア・グランティス姫殿下が圧倒的な軍勢を率いて南大陸を制圧したという嘘くさい話であったようだ。


「あの伝記は事実をねじ曲げて書かれている! 貴方は誰よ!?」

「あら、まだお気付きでない? 言ったではありませんか……」


 睨みを利かした視線を向けながらミアは口にする。ベルカさんの問いに対する回答を。


「狂気のハイエルフその人であると――――」


 ベルカさんは再び動けなくなってしまう。圧倒的な殺気が向けられ、呼吸すらできなくなっていた。


「ハーフエルフ、貴方の罪状は重い。我が主人クリエス・フォスターを騙そうとしたこと。胸ポケットの貴族章が見えたのでしょう? 主人の財を手に入れるという欲望が目覚めたのですよね?」


 ミアの問いには何とか首を振るけれど、ミアの追及が終わることなどない。


「我が主人は純粋で優しいお方。穢れたハーフエルフなどにも慈悲を与えてしまう。彼に代わって私が殺して差し上げます。ただこの宿を破壊してしまいそうなので外にでましょうか。旦那様に嫌われるのは私が望むことではありませんし」


 ミアがそういうと、どうしてかベルカさんは立ち上がらずにいられない。魂に刻み込まれた恐怖心に抗う術はないようだ。外に出るや殺されると分かっていたというのに。


「お、お許しください! 確かに隙あらばと考えていました! どうか下劣なハーフに機会をお与えください! 汚れ仕事でも何でもこなしますから!」


 懇願するベルカさん。自身の命は宿を出るまでだ。それまでにミアを説得できなければ確実な死が待っている。こんな今もミアの命令に背くことができず、意志とは裏腹に身体は大人しく後をついていくしかできなかったのだ。


 ベルカさんが声を張ったあと、ミアが立ち止まる。ゆっくりと振り返る彼女は俺の顔だというのに、邪悪な笑みを浮かべていた。


「ハーフエルフ、ならば奴隷となりなさい。貴方は荷馬車。生命などないただの運搬具です。旦那様が望むところに連れて行くだけの道具。そうなるのであれば、殺さずにおきましょう」


 願いは通じたけれど、それはベルカさんが求めたチャンスではない。道具とまで呼ばれた人生が幸せなはずもなかった。


 だが、ベルカさんは頷いてしまう。もとい彼女には決定権がない。全てミアが話すように身体が動いていたのだから。


「手を出しなさい……」


 再び手を差し出せとミア。ここもベルカさんは言われるがままだ。奴隷契約が待っていたのは明らかなのに、身体はミアに抗えない。


「本当にミア様なのでしょうか? 確かミア様は千年前、行方不明になったと……」


 ここまで来ると信じるしかないと思うけれど、ベルカさんは問う。俺の身体を使って話している人物が誰であるのかを。


「私は千年前に死んでおりますからね。ずっと霊体のままです。現在は旦那様に取り憑い……、いえ仕えているのです。彼がいなければ、今も私は名もなき泉に囚われていたでしょう」


 伝説のハイエルフが既に死んでいるなど信じられなかったはずだ。ハイエルフの寿命は何千年もあり、加えてミア・グランティスは最強であったのだから。


「まあ、そのあたりは追々知ることになるでしょう。とにかく私は霊体なのです。しかし、魂はこの世界に残ったまま。よって支配契約は問題なく成されることでしょう」


 言ってミアは黒い霧のようなものを吐き、それは瞬時にベルカさんの手を覆う。


「永遠の忠誠を旦那様と私に。如何なる時も主人を守り、自己犠牲を優先すること。身体、精神、思考に至るまで存在の全てを譲渡することを誓いなさい」


 この命令に同意してしまえば、ベルカさんは廃人同然だろう。支配契約と口にした術式が普通の奴隷契約であるはずがない。


 さりとてベルカさんがミアに抗う術など残っていなかった。


「誓います……」


 ベルカさんがそういうと黒い靄は手の平に吸い込まれていく。完全に靄が消え去った頃、ベルカさんの手の平にはグランティス皇家の家紋が赤く刻み込まれていた。


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