剣豪
『スキル【剣術】は【剣豪】に昇格しました』
俺が意志を口にすると、即座に昇格通知があった。
ジョブはクレリックであったけれど、俺は昇格によって強化された戦闘スキルを手に入れている。
「剣豪って!?」
やはり期待してしまう。そのままの意味合いであれば、俺の剣術は飛躍的に向上していることだろう。
俺は嬉々として愛剣を振り上げていた。心理的なものなのか、はたまたスキルの効果なのか。心なし愛剣が軽くなったような気がしている。
全力で振り下ろすと、今までとは異なり手応えと共に鈍い音が響き渡った。
「魔眼っ!」
直ぐさまダイヤモンドアントのステータスを確認。剣豪に昇格した攻撃が変化をもたらせたのかどうか。期待をして俺は目を凝らしている。
【体力】9
「マジか……」
まだ倒したわけでもなかったというのに。俺は思わずガッツポーズをして、喜びを露わにする。
『婿殿、遂にダメージを与えたのか?』
「ああ、もちろん! 昇格した剣豪スキルが仕事をしたらしいぞ!」
俺は再びステータスを覗き込む。先ほどはスキルの効果を見忘れていたのだ。剣術はステータスに影響を与えなかったけれど、昇格した剣豪はどうなのかと。
【剣豪】クリティカルヒットが出やすくなる。
期待した俺なのだが、説明は意味が分からない。クリティカルヒットが何を意味するのか俺には理解できなかった。
「おい、クリティカルヒットって何だ?」
ここは悪霊に聞くしかない。剣術は専門外である二人だが、何か知っているかもしれないと。
『ああ、それは潜在能力よりも威力が出る攻撃のことですね。他にはカウンターヒットなどがあると聞いたことがあります』
ミアの説明で納得がいった。今し方の鈍い音。それは通常よりもダメージを与えた感覚であったに違いない。だからこそ、ダイヤモンドアントは体力値を減じたはずである。
「よっしゃ、斬りまくるぞ! クリティカルヒットってやつを出しまくってやる!」
俄然、張り切る俺。あと九回クリティカルヒットを出せばいいのだ。延々と続く打ち込みは終わりを告げ、明確に最後が見え始めていた。
振り続けると二十回に一回の割合で鈍い音がしている。加えて、その度ごとにダイヤモンドアントの体力値は減じられていく。
約二十分。剣を振り続けた時間も最後の時を迎えている。
十回目の鈍い音が古代遺跡に響き渡ったことで……。
『Lv321になりました』
レベルは一度に二百ほども上がっている。それに応じてステータスが上昇しているけれど、平均80上がった前回とは異なり効率が悪いように思う。恐らく前回の上昇値にはサブジョブの補正値が含まれていたのかもしれない。
『婿殿、ようやくアリンコに勝てたの!』
『旦那様、アリンコ退治おめでとうございます!』
「お前ら馬鹿にしてんだろ!?」
千を超えるレベルの二人からすれば、俺など赤子同然である。倒したのは間違いなくアリンコであったけれど、地上に現れたとしたら災害と呼ぶべきものだというのに。
「まあいい。ダンジョンコアを破壊したのなら、俺は王国の貴族になれるはず。道中の魔物は殲滅したし、もう魔物は生まれないのだから」
ダンジョンコアこそが魔物を生む原因である。イーサが作りだしたオーブが古代遺跡をダンジョンに変えた原因であり、それを排除することで問題は解決するだろう。
ダイヤモンドアントがいた大部屋の最奥。そこにダンジョンコアが置かれていた。
「やべぇ雰囲気の玉だな……」
イーサがそこそこの魔力を注いで作ったというオーブ。千年以上が経過した今も邪悪な魔素を垂れ流している。
「壊すぞ?」
『婿殿、言っておくが、壊すと高濃度魔素が一度に噴き出すからな?』
剣を振り上げたところでイーサが言う。何か体調に異変が生じそうな話を。
「高濃度魔素を浴びたらどうなる?」
聞いておかねばならない。俺は魔王と邪竜の討伐を願われて転生しているのだ。高濃度魔素を浴びて天界に還るなどあってはならない。
『まあ、死にはせん。婿殿もそれなりの強者になったのだからな』
どうやらレベルアップにて強化されたステータスをイーサは感じ取っているようだ。アリンコの討伐をからかっていた彼女だが、一応は俺の成長を認めているらしい。
一つ息を吸った俺は邪悪なオーラを放つオーブを前に振りかぶっている。
「これで終わりだぁぁっ!」
目一杯の力で叩き割っていた。長かったダンジョン攻略はこれにて終わりとなる。
はずだった……。
「なっ!?」
オーブは真っ二つに割れたものの、聞いていた通りに大量の魔素を吐き出し始めたのだ。
しかし、想定していない。高濃度魔素と聞いてはいたけれど、視界がなくなるほど真っ黒になるだなんて思いもしないことである。
「!?」
まともに高濃度魔素を浴びた俺は嘔吐したあと、倒れ込んでしまう。悲痛な声を上げるしかなく、その他はもがき苦しむだけだ。
『いかん! 流石に無理じゃったか!?』
『無き者、いい加減にしなさい! 旦那様を治療する魔法とか持っていないのですか!?』
悪霊の二人が取り乱す声。苦しむ俺を見て戸惑っているのかもしれない。
『妾が回復魔法など持っておるわけなかろう!?』
『何が魔王候補ですか!? このポンコツ!』
『なんじゃと!? では駄肉はどうなのじゃ!?』
『私は狂気のハイエルフと呼ばれていたのですよ!? 回復魔法など持っておるわけがないでしょうに!?』
『ハイエルフのくせに神聖魔法も使えんのか!?』
『何ですって!?』
二人の無意味な言い争いが続いていたようだが、それに終止符を打つ者が現れた。けれど、それはバターではなく、声だけが響くというものである。
『ミア様、私めにお任せください……』
どこからともなく聞こえた声。それは二人も知っているものだった。
俺の心の中。その声は低く振動しながら、俺にも伝わっていた。
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