帰路にて
東西へと伸びる中街道まで到着した俺たち。ここから東へしばらく進めばフォントーレス公国の首都ネブラである。
「んん? あれは……?」
地平線の先。争うような影があった。かといって粉塵が立ち籠めていて視界が悪い。
「確認してみっか……」
俺は魔眼にて確認することに。すると魔物被害ではないと分かる。まるで戦争をしているかのように、人と人とが争っていた。
「チチクリ、お前は姿を消してくれ」
『婿殿、加勢する気か?』
「当たり前だ。どちらが悪いのか分からねぇけど、盗賊なら全滅させる」
悪党であれば手加減する必要はない。もしも戦闘に善悪があるのなら、俺は善人の方につくだけである。
『旦那様、見たところ弱者しかおりません。旦那様であれば、双方を殲滅可能かと……』
「俺は正しい方につくだけだ。戦闘狂じゃねぇんだからな……」
『婿殿、どうやらディーテ教会の僧兵が戦っておるようじゃぞ?』
悪霊の二人は遠目が効くのか、粉塵の中に見える戦闘をある程度理解しているようだ。俺には争っているくらいしか分からなかったのだが。
「マジ? じゃあ、相手は盗賊か?」
『ああいや、相手も僧兵じゃな。あの旗印は確か……』
どうしてかイーサはディーテ教徒たちと敵対する勢力もまた僧兵であるという。ディーテ教以外にはシルアンナ教しかアストラル世界には存在しなかったというのに。
もし仮に事実であれば、俺は選択を迫られることになる。ディーテ教徒につくか、或いはシルアンナ教徒につくか。
ところが、イーサが続けた話は予想し得ないものだった。
『あれはタイラー・スティルハートの意匠じゃ――――』
タイラー・スティルハートといえば、千年前の勇者だ。シルアンナ曰く邪教の神となった者の名であろう。
『間違いない。あの旗印は奴が地平十字と呼んでいたものじゃ』
「なら、俺はディーテ教団につく。手出しは無用だぞ?」
俺は駆け出していた。前世において司祭を務めたのだ。転生した今もディーテ教を信じているし、信徒たちが悪であるはずがないと考えているから。
全力疾走にて争う中心地へと入り込む。徐に剣を抜くや、俺は僧兵に話しかけている。
「加勢するぞ!」
「き、君!?」
流石に僧兵は驚いていた。まあ、そりゃそうだろうな。突如として、無関係な少年が戦闘に加わったのだから。
「戦えるのか!?」
「戦えなきゃ加勢しねぇよ!」
俺は果敢に斬りかかっていく。敵兵を次々と斬り裂いていった。優勢であったはずの邪教徒たちを俺は一人で斬り捨てている。
「やるじゃないか!?」
「やっぱ、こいつらは邪教の僧兵か!?」
「敵は地平の楽園。邪神を崇拝するこいつらは我らだけでなく全世界の敵なのだ!」
イーサが話した通りであった。やはり敵兵はタイラー・スティルハートを神と崇める地平の楽園。狂気的な目をして襲い来る様子からして、ろくなものではないだろう。
「でやあああぁぁっっ!」
邪教徒ならば遠慮はしない。俺はものの見事に敵兵を仕留めていく。レベルアップのおかげか、敵の動きは止まったように見え、更には一撃にて鎧ごと斬り裂いてしまう。
程なく戦闘が終了。俺が参戦したことにより、ディーテ教徒たちは襲いかかった地平の楽園を返り討ちにできていた。
「君、助かったよ。もの凄い腕前だな?」
「いや別に。役に立って良かったよ……」
シルアンナ教徒だと話せば話がややこしくなる。よって自身の話は伏せておくべきだろう。
「それで貴方たちはどこへ行こうとしてるんだ? 公国に用事?」
「私たちはディーテ様の神託をレクリゾン共和国に伝える役目を担っている。デルクサイト皇国にも他の僧兵が向かっているんだ」
デルクサイト皇国は共和国の北側にある小国だった。レクリゾン共和国と同じようにシルアンナ教徒が増えているらしい。とはいえ、まだ国教はディーテ教会のままである。
「いや、共和国の国教はシルアンナ教だろ?」
女神たちは助け合っているのだが、生憎と人間は違う。大小を問わず異教徒との争いごとは世の常であった。
「それも神託にあったんだ。どうやら世界は滅び行く運命にあるらしい。全ての種族が手を取り合って立ち上がるようディーテ様は仰っていた」
納得の理由である。アストラル世界の九割が信仰するディーテ教なのだ。よって彼女の神託は絶大な効果を発揮するだろう。
「それで地平の楽園は、やはりディーテ教団を敵と見做しているのか?」
「奴らはあろうことかディーテ様の存在を否定する教義を持っている。いわゆる地平信仰だ。最近になって力を付けてきて、こういった戦闘が各地で頻発している」
村などを襲って女を攫っていくことも多いという。かつて勇者タイラーが望んだ平らな世界を地平の楽園は構築しようとしているらしい。
「でも、平らな女神もいるだろ? えっと、女神シルアンナとか……」
今も監視している彼女に悪い気もしたけれど、俺は疑問を口にする。地平の楽園がディーテ様を否定したとして、世界には対照的な女神シルアンナもいるのだと。
「初代教皇であるタイラー・スティルハートの時代にシルアンナ教は存在していない。アストラル世界は一神教だったんだ。何しろ千年前の話だからな。従って地平の楽園がシルアンナ教会をどう捉えているのか不明だ。けれども、ディーテ様の神託通りに、我らは彼らに伝えるだけだよ……」
思いのほか、対立には長い歴史があるようだ。シルアンナの板胸を知る俺は地平の楽園が彼女を脅威と考えている可能性は低いと思う。
「とにかく助かったよ。私たちは先を急がねばならない」
「いや、問題ねぇよ。俺は巨大な双山を愛する者の味方だからな」
言って俺は手を振った。
懐かしさすら覚えるディーテ教の僧兵たち。立ち去っていく彼らの背中に旅の安全を願っている。
本作はネット小説大賞に応募中です!
気に入ってもらえましたら、ブックマークと★評価いただけますと嬉しいです!
どうぞよろしくお願いいたしますm(_ _)m




