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煩悩まみれの聖職者と女子高生(悪役令嬢)だけで世界を救うって本気ですか? 〜終末世界は残念な二人に託されました〜  作者: さかもり
第二章 各々が歩む道

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千年前の災禍

 下界管理センターにあるシルアンナの業務室。クリエスの状況を確認する彼女は溜め息ばかりを吐いていた。


 ふと扉がノックされたかと思えば、応答よりも早く開かれている。


「シル、入るわよ」

「ディーテ様!? ってポンネルも来たの!?」


 アストラル世界を見守る女神が勢揃い。恐らく最近は報告していなかったから、ディーテは情報の共有に来たのだと思われる。


「えっと、すみません。ディーテ様……」


 まずは謝罪せねばならない。現状は胸を張って報告できるものではなくなったのだ。

 順調に成長していたクリエスなのだが、呪いによってステータスは四分の一にまで下がっている。世界救済の中心人物であったクリエスが弱体化したなど、どう弁明して良いのか分からない。


「どうしたの? クリエス君はかなり成長していたでしょ?」


「そうなのですが、貧にゅ……例の呪いが怨念に強化されまして、ステータスは四分の一程度に下がっているのです……」


 クリエスだけでなく、シルアンナにとっても胸を刺すような痛みを覚える呪い。今も彼女はクリエスを召喚した折のトラウマが抜けきっていない。


「ああ、確か貧乳の呪いね……。ド貧乳の!」

「ドはついていません!」


 直ぐさまツッコミを入れるもシルアンナは再び溜め息を吐く。恐らくクリエスはSランク相当の魂であったと思う。呪いが思いのほか強力であったせいで、Aランクとなってしまったはずだ。


「ということはクリエス君ってパーティーを組んでいるのね? それも巨乳の……」


「そうなんです。でも生者ではなく、悪霊に取り憑かれたのですよ。悪霊も呪いの範囲内だったらしくて……」


 私にはどうすることもできませんとシルアンナ。副神でしかない彼女はクリエスを見守るくらいしかできなかった。


 頷いたディーテはモニターを覗き込み、クリエスの現状を確認している。


「これは……?」


 想像を絶する状況に息を呑むディーテ。

 最後に報告を受けてから十日も経っていない。しかし、異常だと思える変化がクリエスにはあった。


「シル、これはどういうこと? なぜこうなったのかを説明しなさい」


 表情を厳しくするディーテ。彼女はクリエスに取り憑いた悪霊について問うことなく、その過程を問い質している。


 一方でシルアンナは問われたなら答えるしかない。恐らくディーテも自身と同じことを危惧しているのだから。


「クリエスは千年前の災禍を再び起こしてしまうかもしれません」


 シルアンナの返答にディーテは頷く。彼女の求めた回答とは違ったけれど、調べ上げた結果として現状を把握しているのなら構わないといった風に。


「非常に危うい状況ですね。クリエス君が一歩間違えると、世界は終焉を迎えることでしょう」


「どゆことですぅ? クリエスが呪われたとして、なぜ終末を加速させるのでしょうかぁ?」


 見習いのポンネルが聞いた。どうやら彼女は千年前の災禍について知らないようだ。


 見習いとはいえ、一応はポンネルもアストラル世界を守護する女神である。ディーテは彼女にも分かるように経緯を説明していく。


「アストラル世界は千年前に魔王が誕生しようとしていました。発端は世界のバランスが大きく崩れたこと。世界の調律をすべき四大精霊の内、三体が消失したからです」


 魔王や邪竜といった過度に強化された魔物は世界がバランスを崩すことで生じる事象なのだという。千年前の警報は火水土風という自然を統べる大精霊の大半が消失したことが原因となっているらしい。


「それがクリエスの呪いとどう関係するのですぅ?」


「世界のバランス崩壊を加速させる者が現れたからです。彼女さえ現れなければ、災禍注意報は警報に切り替わることなく、未然に防ぐことができました」


 淡々と語られるのは千年前の災禍。ディーテは一人で対処していたという。


「バランスを崩壊させた者の名はミア・グランティス――――」


 あっと声を上げるポンネル。ようやく彼女も理解していた。その名はクリエスに取り憑いたハイエルフの悪霊に違いないのだと。


「ハイエルフの国であるライオネッティ皇国は彼女が成人するまで慎ましく暮らしておりました。ですが、彼女は才覚がありすぎたのです。ハイエルフにしては珍しい闇属性を持つ術士。ジョブがネクロマンサーであった彼女は南大陸に住む生命の大半をアンデッドに変えてしまったのですよ……」


 語られる過去は想像よりも酷い惨状であった。南大陸の大半をアンデッド化してしまうなんて、彼女こそが魔王なのではないかと感じるほどだ。


「狂気のハイエルフ、ミア・グランティスが世を乱したせいで、突如として発生したのがイーサ・メイテルという災禍です」


 ディーテの話にシルアンナは相槌を打っている。自身が調べた内容の答え合わせをするかのように。


「でもぉ、イーサはサキュバス族なのでしょう? どうしてまた災禍にぃ?」


「サキュバス族であることは間違いありません。しかし、魔王候補となる素養を満たしていました。底抜けの魔力量と好戦的な性格。強力な催淫を持ち、あらゆる強者の精魂を吸い尽くしました。それこそ北大陸はイーサ・メイテルに滅ぼされかけたといっても過言ではありません。何しろ世界の柱となっていた竜神でさえも、彼女の手にかかってしまったのですから……」


 神とつくものは女神以外にも多数存在した。


 人々の信念が生み出す土着の神であったり、世界が自浄的に生み出す神格レベルの存在であったり。竜神は後者であり、四大精霊と同じように世界の柱となるべく生み出された存在であった。


 また世界の理として、討伐者は対象の力を引き継ぐ。イーサは竜神の精魂を吸い尽くし、神に次ぐ存在の力を手に入れてしまったらしい。


「神格である竜神の力を奪ったイーサは魔王候補となりました。魔王として覚醒するのは時間の問題かと思われました。しかし、彼女には世界に認めさせるだけの強い感情が足りなかったのです。魔王候補イーサは確かに北大陸を壊滅的な状況としましたけれど、男性ばかりを狙っておりましたし、世界征服を考えていたわけではありませんでした……」


 魔王候補イーサ・メイテルの覚醒は時間の問題だったらしい。

 これらの説明にてクリエスに取り憑いた悪霊が何者であるのか明らかになったものの、ポンネルはまだ小首を傾げていた。


「じゃあ、どうして災禍警報は収束したのですかぁ? イーサもミアも世界を滅ぼす可能性を秘めていたと思いますぅ」


 この質問には顔を振る。だからこそ、ディーテは取り憑かれるまでの過程をシルアンナに聞いたのだ。彼女は主神であったにもかかわらず、結末を知らないのだという。


「シル、せっかくだから話してくれない? クリエス君がどうして二人に取り憑かれたのかを……」


 女神とて万能ではない。特に信仰心が薄い者を監視するのは難しかった。ディーテが結末を把握できていないのは、原因となる者が存在したからである。


「ええ、実はミアもイーサも南大陸のとある泉で地縛霊となっていたのです。イーサは狙いをつけた男にスタイルを馬鹿にされ、ショック死したと話しています。真偽の程は分かりませんけれど」


 眉根を寄せるのはディーテだ。彼女は千年前、魔王化を覚悟していた。イーサの能力であれば、幾ばくもなく世界を混沌に陥れるだろうと。そんなイーサがショック死という意味不明な最後を迎えたなんて、どうにも信じられない。


「もしかして……」


 かといって、ディーテには思い当たる節があった。たった一人、魔王候補を死に至らしめる者が存在したことを。


「ディーテ様、何か知っているのですか?」


「ええまあ。ワタシは千年前も異世界召喚を試み、勇者を召喚したのですよ。けれど、結果的にそれは失敗でした。ワタシは危険人物を世界に放ってしまったのですから」


 異世界召喚にて勇者を転生させたにもかかわらず、どうしてかディーテはその転生が失敗だったと語る。現実に災禍警報は収束していたというのに。


「転生させた勇者はワタシの指示を少しも聞かなかったのです。手綱が外れた狂人をワタシは地上に送り込んでしまったのですから……」


 重々しい口調で失敗したという内容が語られていく。

 その最後にディーテは勇者の名前を口にしている。


「勇者の名はタイラー・スティルハート――――」


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