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蜜柑の対策  作者: 榛原朔
蜜柑の対策4 神の視点は黙認の理

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2-セフィロトの道

――昨晩。

ウィステリア達3人の仲間が寝ている中、蜜柑達はレイスから2つの道を示された。


1つは、この先も多くの被害を出し続け、いずれはマンダリンにも迫るであろうクリフォト達を、今討伐すること。

もう1つは、勝てなかったのだからと、マンダリンへ逃げ帰ることだ。


彼女達が選んだのは当然前者であり、レイスはそれを成し遂げるために必要なことも伝えてくれた。

ウィステリア達セフィラが全員揃っていないのと同じように、セファール達クリファも全員は揃っていない。


できれば彼らが全員揃う前に、こちらを全員揃えて襲撃する。これが最善手だ。ただ、これは現時点でもう人数不利であるため、現実的ではないだろう。


そのため彼は、せめて現時点で数で負けているという状況を覆すことを目標として示した。

まずは、セフィロトの果実を与えることで、その眷属であるセフィラを増やし、戦力増強を目指す。


その人材を見つけるために向かうのは、この世界で最も強い輝きを持つ国……現人神が座する国、エリュシオンだ。

これが、レイスの示してくれた道である。




「ふーん……ぼく達が寝ている間に、そんなことがあったんだね。まぁ、ガーベラを守ることに繋がるし、異論はないよ」


起きてすぐにレイスとのやり取り、これからの目的・予定を聞いたウィステリアは、迷いなく頷く。

雰囲気から大事な話だとすぐに察したらしく、いつだかとは違って目はぱっちり開いていた。


だが、そんな彼とは対象的にまだ寝ぼけている人物もいる。

その人物とは……


「ねーねー、ウィル。わたしを守ってくれるの?

いつもありがとー、大好きー」


昨晩ウィステリアと添い寝したままの勢いで、彼に抱きついて寝ていたガーベラだ。彼は話を聞くために上半身を起こしていたため、彼女はほっそりとした太ももを枕にしていた。


いつものような強さではなく、甘えたいという本心のままに振る舞う彼女を見つめるウィステリアは、彼女の願いを叶えるべく言葉を紡ぐ。


「うん、ぼくが君を守るよ。何があっても、どこへ行っても。だって、ぼくも君が大好きだから……」


寝ぼけてとろんとした目を向けてくる彼女に、彼は覆い被さるように顔を寄せ、銀髪でカーテンを作る。

ふっくらとした唇が紡いでいくのは、彼女の問いへの答えであり、彼が神秘に成った理由である誓いだ。


しかし、久しぶりに彼女と再会した彼は、それだけでは終わらなかった。より顔を近づけると、至近距離でささやく。


『愛してるよ、ベラ』

「〜っ!! おはようございます、ウィステリアっ!!

とてもいい朝ですねっ! あー、空気が美味しいわーっ!!」


ウィステリアに愛を囁かれたガーベラは、途端に意識を覚醒させる。顔をりんごのように真っ赤に染めると、彼の膝の上から飛び上がって、彼女らしからぬ口調で挨拶をする。


チラチラと恥ずかしそうに彼を見ながら伸びをする彼女は、眩い朝日を全身に浴びて、美しく輝いていた。


「〜っ!!」

「……」

『……』


おそらくはこの場から逃げ出したいのであろうガーベラは、少し離れたりまた戻ってきたりとかなり挙動不審だ。

ウィステリアはそんな彼女を愛おしそうに眺め、そんな彼を蜜柑は感極まった様子で見つめていた。


しかし、それもしばらくすると終りが来る。

ガーベラが落ち着くのではなく、ウィステリアが居心地悪そうに蜜柑に視線を移すという形で。


「あの、蜜柑お姉さん。流石にそんなじっと見つめられると恥ずかしいかな。いや、たしかにぼく達に非があるけど……」

『ううん、大丈夫! とっても美味しいよ!

じゃなくて……えっと、私は楽しいから!』

「全然大丈夫じゃないし、食べないで!?

蜜柑お姉さんが楽しいのは結構だけど、ぼくは嫌だよ!?」


控えめに抗議をするウィステリアだったが、蜜柑の返事は彼が期待するものとは真逆のもの。

彼とガーベラの尊さを堪能し、心の底から喜び楽しむというものだった。


たしかに原因は、こんな開けた場所で、周りに仲間がいる中で甘ったるいやり取りをし始めたウィステリア達だろう。

しかし、だからといってじっと見つめるのが当たり前ということにはならない。当然彼は強く抵抗する。


だが、彼女は見つめるのをやめるどころか、瞳をキラキラと輝かせてより凝視する始末だ。

気まずそうに目を逸らすと、彼は何事もなかったかのように話題を変えた。


「ユウリくん、けがの様子はどう?」

「ベルゼブュートに斬られた傷は、レイスさんに治してもらえました。しかしベラと同じで、ない部分の再生は流石に難しかったようですね。手足は破壊されたままです」


彼らの中で最も重傷なのは、自らの四肢などを破壊して戦いに使ったユウリであり、最も自然な話題転換だ。

しかし、その受け取り手は若干不自然で、答えたのはなぜかアオイだった。


先に答えてしまった彼女を黙って見つめるユウリは、少し考え込んでから肯定するように口を開く。


「……しカシ、量子で補助スレば問題ハありマセン。

エリュシオンへの旅も、コノまま同行できるデショウ」

『……』


アオイは医者ではないのだから、ユウリの状態を一番よくわかっているのはもちろん彼本人だろう。

したがって、当然質問に答えるべきなのも彼だ。


だが、実際に答えたのはアオイであり、相手のことをちゃんと把握して世話を焼いている様は、まるで夫婦か恋人のようである。


それを見た蜜柑は、ウィステリア達の時と同じように目を輝かせていた。


「いや、流石にそこまで無理はさせられないよ。

君は医者にかかった方がいいと思う」


愛でる対象が自分達から彼女達に移ったことを察したらしく、ウィステリアはホッとしたように話を進めていく。

彼の代わりに凝視されているアオイも、彼女には何を言っても無駄だと理解しているため、完全に放置だ。


ユウリにまともな感情がないこともあり、蜜柑と離れた場所で照れているガーベラは放置で、彼女達はこれからの予定を決め始める。


「コレを、治せる医者ガ?」

「探せばいると思うけど……」

「えぇ、心当たりがありますよ。私が知る限りそのレベルの神秘は2人、うち1人はこの国にいます。案内しましょう」

「ほらっ、いるって。だから君は体を治そう。

クリフォトとの決戦で、全力が出せるように」

「……了解しまシタ。私ハまず、コの体ヲ治しまショウ」


体どころか人格までほとんど壊れているユウリは、もちろん提案を断ったりはしない。

最初はエリュシオンまでの旅に同行するつもりだったはずだが、アオイ達が言う通りに治療することに同意する。


これにより、彼女達の予定は確定した。

心当たりのあるアオイがユウリを連れて医者の元まで行き、残った3人はエリュシオンで戦力増強だ。


話し合いを終えた彼女達は、ウィステリアが遠くのガーベラに、アオイが壁になっている蜜柑への情報共有していく。


「では、ここからは別行動ということで……

聞いていましたか、蜜柑さん?」

『うん、人格も治るといいね。そうしたらもっと供給が増えるだろうし、心置きなく愛でられる』


どうやら話自体は聞いていたらしく、アオイに声をかけられた蜜柑は、ユウリを心配する言葉を述べる。


しかし、内容的には彼とアオイのカップリングについてがより多くの割合を占めており、彼女は呆れ顔だ。

アオイはそっとため息をつくと、容赦なく思ったことを彼女に告げる。


「はい、まったくブレませんね。流石にどうかと思います」

『わーお、辛辣だぁ。でもいいじゃん、私はそれだけみんなのことを愛しているんだから』

「……あの、ウィルもそうでしたけど、恥ずかしくないんですか? いえ、一応彼は恥ずかしがっていましたが……あなたは普段通りというか、羞恥心は前世に置いてきましたか?」


ズバッと告げたアオイだったが、蜜柑はまったく気にしないどころか、むしろ平然と反撃してくる。

さっきまでとは若干質は違うが、変わらず愛おしそうに見つめられたアオイは、赤面して身動ぎを始めていた。


『なんか攻撃力高くない? でも、アオも必死なんだもんね〜? 赤くなっちゃって可愛いぞ〜!』

「ユウリさん、行きましょう」

「了解、シタ。治療を受けニ行きまショウ」


恥ずかしさを誤魔化すように、より辛辣な言葉を投げかけるアオイだったが、蜜柑はやはりノーダメージだ。

笑顔で歩み寄る彼女に頭を撫でられたアオイは、シュバッと立ち上がるとユウリを連れて一目散に逃亡した。


その背中を名残惜しそうに見つめる蜜柑は、へにゃりと相好を崩しながら呟く。


『あちゃー、ちょっと愛ですぎたかな』

「本当だよ。昨日あんな事あったのに、ブレなすぎ」

『えー、だからこそでしょ。またアオイと別行動なのは残念だけど、あの2人は完治してからが本領発揮ということで……

今はウィステリアとガーベラでてぇてぇを摂取します!』


ガーベラを呼んで戻ってきていたウィステリアは、少し席を外した隙にアオイを逃亡させたことに苦言を呈する。

見送りどころか、別れの挨拶すらもできなかったのだから、当然の主張だ。


しかし、それでもやはり蜜柑は動じない。

アオイ達との別れを惜しみながらも、残った2人を愛でることを堂々と宣言した。


「あのっ、たまには落ち着かせてくれないかしらっ!?

蜜柑ちゃん、村でもずっとそうだったし……」

『んー、ノーコメントで』

「ちょっ‥」

『さぁ、人材集めの旅に出発だ。

目指すは現人神の座する国、エリュシオンだよ!』


堪らず抗議するガーベラだったが、蜜柑はスルーだ。

恥ずかしそうにぷるぷると震える彼女を尻目に、蜜柑は力強く宣言して純白の翼を広げていった。


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