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蜜柑の対策  作者: 榛原朔
蜜柑の対策1

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8-神秘の地球

アオイによるこの世界の勉強会は、彼女が一度家から教材を取りに帰ってから本格的に始められた。


理由は、一度はガーベラの悲鳴を合図に、その場ですぐに始まった勉強会だったが、やはり何か見ながらやった方がいいと提案されたからだ。


アオイが戻ってくるまでの間、口頭で伝えられていた知識を反芻していた蜜柑は、彼女が戻るとすぐに質問を投げかける。


『アオイちゃん! ここが地球っていうのは本当なの!?』

「え、ええ……ここは地球ですよ?」


荷物持ちのガーベラを伴って戻ってきたアオイは、蜜柑の勢いに押されながら言葉を返す。

彼女達からしてみると当たり前らしく、なんて言っていいのかわからなくて困り顔だ。


「私はまだ子どもなので、そこまで詳しくないのですが……」


しかし、目がどこにあるかがわからないとはいえ、明らかに目を輝かせている様子の蜜柑である。

詳しくは知らないと断りながらも、アオイは彼女の望むままに教え始めた。


「この星の歴史だと、大昔にあった科学文明が大規模な自然災害に見まわれて、それに洗われることで生まれたのが現代の文明なのだとか……」

『科学文明……!! それ、まさにだよ……!!』


(まさに私が生きた時代の話だ……!! ここが地球なら、だけど……つまり、私は異世界転生ではなく未来転生をしたと……

そーいうことだね!? ……って、未来は木が喋るんかーい!!

どんだけおかしなことがあればそんな事態になっちゃうの!?

人知を超えた理解不能な出来事が起きちゃってるんだけど!?

やけに長閑な自然風景だし……え、なに未来は科学じゃなくて剣と魔法の世界ですかっ……!?)


最初に断っていた通り、アオイが教えられたことは少ない。

だが、目が覚めたらいきなりこの時代の、しかもみかんの木に転生していた蜜柑からしてみれば情報の宝庫である。


1度死んでいることなどから既に吹っ切れている彼女は、アオイの短い話を聞くだけで妄想を膨らませ、心の中でいつものようなマシンガントークを炸裂させていた。


とはいえ、もちろんアオイの授業はそれで終わりではない。

わさわさと興奮気味に枝葉を揺らす蜜柑を見上げると、少し戸惑いながらも書物を広げつつ言葉を続ける。


「えっと、私がまだ子どもであるということ以上に、単純にそれらの創世の時代についてはあまり伝わっていないので、現状それ以上のことはわからないのですが……

少なくともそれ以外で知りたがっていた事象――精霊や神秘というものについては、それ以降に生まれたものとなります」


彼女が広げた書物に記されているのは、幼い子が生きていくためにまず習うようなこの時代の常識。

神秘という、人が自然現象を操るような技術の指南書のようなものや、神々しい薔薇の山などの絵などだった。


これは、ガーベラやウィステリアにとっては見るまでもないありふれた内容だが、蜜柑からしてみれば知りたかったすべてだ。


彼女達が退屈そうにチラ見したのとは真逆で、蜜柑は幹を派手に折り曲げて食い入るように見つめ始める。


『ほぇ〜!! 願えば、人は風や火を生み出せる!?

すっごい時代になったんだなぁ……っていうか、あれから一体何千年経ったんだ……? まぁいっか。

とりあえず、やっぱり剣と魔法の世界が近そうって感じだね。原因は意味不明だけど。もう終わったことだし、成ったことだし……考えてもムダムダ。

それで、同じように精霊っていうのも……』

「はい、神秘をすんなり受け入れたのであれば、簡単なことです。山などの神秘が意思を持ったもの。これが精霊です」


蜜柑が神秘について理解を深めたことを確認すると、アオイは同時に広げながらも自分側に置いていた薔薇の山などの本を指差して言葉を加える。


彼女の指先にあるのは、薔薇の形をしている山の上に、数え切れないほどの色とりどりの薔薇が咲き誇る光景だ。

山だけならば変わった形だけで終わるが、実際に薔薇が咲いていることでまさに虹色の薔薇となっている。


もちろん、これはあくまでも絵ではあるが、実際に見るのとそう変わらない。蜜柑には大きな感動をもたらしていた。


『受け入れたってこともないけどね。拒絶はしないけど、理解するのは別。難しいんだぁこれ。とりあえずは、めっちゃ自然が活性化したから人もーとか、魔力みたいなものだーとかって思っとくけどさ。意思を持った神秘ねー……』

「この薔薇の山、ローダンテ。とっても神秘的だと思いませんか? おっしゃる通り、自然の力は凄まじいのです。

それこそ、人に影響を与えてしまうほどに」

『……うん、大体わかった気がするよ。すごい時代だね』


改めて薔薇の山――ローダンテを見せてくるアオイに、蜜柑は深い感嘆の声をもらす。一度自然災害で滅びた地球は、自分達が生きていた時代とは比べ物にならないくらいに神秘が満ちているのだと理解して。


「ところで、蜜柑様は現代のようになる以前の時代を知っておられるようですが……」

『そうだよ。あの時代から転生してきたみたい』

「えぇーっ!?」

「なるほど、転生……ふふふ、この時代でなら、なんでも信じられますね。過去を知る方……ロマンがあります」


蜜柑のカミングアウトを受けて、度肝を抜かれるガーベラとウィステリアの隣で、アオイは袖で口元を隠しながら興味深そうに笑う。


地球や科学文明に対しての反応から、どういう人であれ少なからず関係があると察していたようだ。

蜜柑ももうとっくに吹っ切れているため、あまりその事実に目を向けることはなく、今を気にし始める。


『私としては、人はどうやって神秘的な力を扱うのか気になるところだよ』

「そこは簡単です。生物の一生で重要なのは常に自身の意思。書物にあった通り、心で力の方向を定めれば扱えます。

まぁ、一言で言えば強い心ですね。元より自然に生きてきた獣とは違って、人は弱い。死を覆そうとする生存本能に負けないだけの、心の強さが必要です」

『ふーん……』

「ふ通の人が扱えるのは、あくまでも生活の補助程度ですけれどね。大規模な神秘の行使は、魔導書等の神秘学、聖人・魔人等の神秘に成るという状態である必要があります」

『うぇっ、大変そー……』

「そうですね。前者は魔導書さえあれば使えますが、後者の場合はそれだけ心の強さが必要になります。風や火のような神秘そのものに成るのと同義ですから。寿命もないです」


(色々とあるわけだ。けど、とりあえずはみかんの木である私が動けるのは、神秘だから。つまりは意思を持った神秘、精霊で確定かな。……あれ? もしかして、私って神秘そのものに成ってない? 風、火と同じように自然――木だし……)


大規模な神秘を行使する方法としてアオイが教えてくれたのは、魔導書というこの国独自の技術と世界共通の神秘に成るというある種の概念だ。


現代のような自然の神秘に満ちた世界で、死に近い生き方をしてきた獣と並べるだけの強い心を持つこと……


それが神秘に成る条件であり、人が生活の補助として神秘を扱うのではなく、自然に対抗する規模で神秘を操る(すべ)


だが、蜜柑の場合は人ではなく自然そのもの……まさに神秘そのものである。神秘についての話を聞いた彼女は、少し考え込んだあと首を傾げながら問いかけた。


『あのさ、私って神秘?』

「そう思います。精霊様、ですから」

『何かしら特別な力あるのかな?』

「とりあえず、寿命はないと思いますけど……」

「な、なぜか蜜柑さんにはこの時期からみかんが生ってて、食べると力がわいてくる……とか?」

「なんですか? それ」

「食べてみればわかるわ、アオ!」

「はぁ……まぁそれもそうですけど……」


蜜柑の問いにウィステリアが控えめに答えると、胡乱げなアオイにガーベラがみかんを勧め始める。

アオイもみかんが生っているということ自体には気がついていたらしいが、食べなければ力が湧いてくることはない。


怪しげな文言に顔をしかめながら、おっかなびっくりみかんを食べ始めた。すると……


「うっ……!! こ、これは……!!」


みかんを丁寧に剥いて一房食べたアオイは、目をまんまるにしたかと思うと震えながらパタンと倒れてしまう。


『アオイちゃーんっ!?』

「アオーっ!?」


さっきまで自分達も食べていたもの、そもそも自分自身。

そんなみかんを食べて倒れてしまったアオイに、彼女達は驚きを抑えることなどできず、悲鳴が草原中に響き渡った。



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