0-決戦前夜
お久しぶりです、榛原朔です。
リニューアルされたなろう自体には割とすぐに慣れたのですが、実習と重なって移動させるのとかが面倒で放置していました。書き終わってはいるので、これから完結まで投稿します。
蜜柑達は名医ヒュギエイアによって疫病を治し、クリフォト達はセファールの貪欲さによって疫病を封じた。
お互いに万全の状態になれば、最終決戦はすぐだ。
クリフォトは本体である大樹の元から動けないので、戦いの火蓋は蜜柑達セフィロト側によって切られる。
戦場は大陸の南西……知恵者にはしばしば死滅の国と称される死の大地――ヘルフス。互いの戦力は、それぞれ10人の眷属。
"友を護る神秘の樹"――蜜柑を筆頭に。
"守護者の炎"――ウィステリア。
"自由を望む風"――アオイ。
"深霜の令嬢"――ガーベラ。
"破壊された平穏"――ユウリ。
"黙認を拒絶する契約"――ユスティー。
"公正なる主木"――ジエン。
"愛される輝き"――ドルチェ。
"笑顔を生む美声"――カルラ。
"利益を追求する秘密"――グプト。
"危険を察知する目"――タルト。
セフィロトだけにある世界として、隠された秘密の0。
"死地に光る覚者"――エン。
"死を運ぶ邪悪の樹"を筆頭に。
"人格崩壊者"――ディアボロス。
"愚鈍なる教育者"――ベルゼビュート。
"神は居らず"――シャイターン。
"すべてを取り込む欲"――セファール。
"心に価値はなく"――リデーレ。
"醜悪な扇動"――ペオル。
"光への拒絶"――フュイール。
"残酷な維持の否定"――サラ。
"敵対者との交わり"――アイシャ。
"不安定な幕引き"――ライラ。
彼らの戦力はほとんど変わらない。だからこそ、生命の樹と邪悪の樹は必ず相手の世界こそを滅ぼすべく、互いが互いの存在を常に感じていた。
それは、決戦前夜により強く現れて……
どちらもの首脳部が、敵を見据えて油断なく思考を巡らせていた。
「セフィロトは私達よりも1人多く、12人。
蜜柑を筆頭にして、ウィステリア、ドルチェ、ユスティー、エン、アオイ、ガーベラ、ジエン、ユウリ、グプト、カルラの11人。そして、最後に仲間になったタルトです。
こちらが待ち構える形になりますけど、どうしますか?」
邪悪の樹の前に集まったクリフォトの精神体、セファール、ベルゼビュートの前で。
商会の力を駆使して敵の情報を集めていたリデーレは、暗闇を明かりで跳ね除けながら、書類を片手に語りかける。
彼女が名を挙げるのは、翌日には激突することになるであろう、セフィラの一覧だ。彼女達は一人ひとりが自然そのものであると言える強大な存在――神秘。
いくら自分達も神秘だからといって、同格の相手を前に油断することなどできなかった。彼女の言葉を聞いたセファールは、艶やかに足を組み替えながら真面目な表情で問う。
「能力は把握しているのかしら?」
「ほとんどは。蜜柑はクリフォト様と同じなので除外しますが……上から順に、炎、絶対的な価値、契約、大地、風、氷、公正、破壊、情報、歌です。最後の1人はわかりません」
『監視……ですよ』
リデーレがまとめ上げた能力の概要だが、まだ眷属になってから対峙していないタルトの能力は未知数だ。
しかし、その言葉を聞いたクリフォトは、遠くを見るような目をしながら断言する。
自分でも調べられなかったことを、既に確証があるかのように話す自らの主に、リデーレは目を丸くしていた。
「なぜ、そう言い切れるのです?」
『今もかすかに視線を感じるからです』
「視線……たしかに、羨望の眼差しを感じますわね」
「そうかい? そんなんワタシは感じひんどすけどねぇ。
まぁ、ただ単にワタシが観衆ん視線に慣れすぎとる、ちゅうともあっとかもしれんばってん」
断言した理由を聞くと、この場にいる他の3人は各々の反応を見せた。リデーレは不思議そうに首を傾げて、セファールは自らの美貌を誇るかのように視線を受け止める。
ベルゼビュートはケラケラ笑いながらも否定しているので、ちょうど二分割された感じだ。
視線を感じる者と感じない者がちょうど半分ずつなのだから、タルトの能力を決めつけるのは危ない。
とはいえ、クリフォトが言うのであれば、十中八九間違ってはいないだろう。
リデーレは完全には納得していない様子であったが、作戦を考える指針としては採用された。
「では、一旦タルトの力は監視として……
戦闘には参加してないと見るべきですかね?」
『いいや、彼女も戦うと思いますよ。
彼女は占いができるから占い師と呼ばれるのではなく、あまりにも高い観察力があって、危機を察知できるから占い師と呼ばれていたのですから』
「よく、ご存知ですわね」
『長生きですから。なので、彼女の力も正確には監視ではなく、観察力……見続け、決して見逃さないこと、千里眼。
俯瞰風景、卓越した客観視と盤上理解。斥候的な役割を担うか、拡大解釈をすれば、見逃さない以上攻撃は必中。
これくらいは想定しておきましょうか』
感嘆した様子のセファールに対して、クリフォトは薄っすらと微笑みながら言葉を続ける。彼が述べた考えは、普通なら決して出てこないようなものだ。
かすかな視線に気が付き、ほとんどない情報を繋ぎ合わせたことで出てきた、万が一の想定。
もはや畏怖すら覚えている様子の彼女達は、主の意見を取り入れながら次の話題に打ちっていく。
「なるほど……では、タルトも案外要注意人物ですかね」
「そうですわね。私としては、最優先で排除するべきなのはドルチェなのですが」
「彼女がおらなんだら、シャイターンが自由に暴れられる。
まぁ、妥当やね。ワタシも同意すっど」
『……強さではなく、厄介さで選ぶのならば。
ドルチェ、カルラ、タルト、グプト辺りを優先して潰したいですね。次点で、アオイ、ユウリ、ジエン辺りでしょうか』
素早く要注意人物をまとめるクリフォトに、セファール達も異論はなく頷く。単純な実力で言うのならば、ウィステリアやエン、ユウリ辺りを優先すべきだ。
だが、クリフォト側にいるシャイターンは、一度セフィラを壊滅させているのだから。単純な力勝負をするのであれば、個別に彼をぶつければ事足りる。
もちろん、彼1人にセフィラのほとんどが投入されてしまえば、流石に押し切られるだろうが……
そうならないためにも、厄介な相手を優先して潰すべきなのだった。
つまり、クリフォト側の戦略とは。
味方だけを一方的に減らされる、もしくは1人に足止めされることなくドルチェを仕留め、切り札のシャイターンを自由に暴れさせることである。
『ドルチェにはアイシャさんの相性が良かったですよね?
上手いこと盤面を支配し、2人をぶつけたいところです』
「敵も彼女はシャイターンにぶつけたいでしょう。
配置にもよりますし、こちらがまずぶつけるべきは……」
「フュイールやな? 幸いにも、ワタシ達は待ち構える側。
戦場ーくまっし自由に決みらりーくとぅやー」
「……私達にも理解できる言葉でお願いできませんこと?」
『大丈夫、わかるよ。戦場は私が創る。樹木の中ならば私もすべて把握できるからね。千里眼の不利もない。
我らが殺し合う戦場は、支配すべき盤面は、私だ』
決戦前夜、邪悪の樹のすぐ前で。クリフォト達は力強く勝利を宣言する。決着の時はもうすぐそこだ。
~~~~~~~~~~
クリフォト達が迎え撃つための作戦を立てていた頃。
邪悪の樹に近づいていた蜜柑達もまた、情報を握る者や作戦立案に適したメンバーで集まって、焚き火を囲んでいた。
ウィステリアを含め、戦闘で真価を発揮するメンバーは既に就寝済み。焚き火周辺に集まっていたのは、蜜柑、アオイ、ドルチェ、グプト、タルトだ。
『さて、とりあえずクリフォトの眷属を確認しようか。
クリフォト本人を除いて10人。シャイターン、セファール、ディアボロス、ベルゼビュート、リデーレ、、フュイール、アイシャ、ペオル、サラに、最後に仲間になった人だね。
一応聞くけど、最後の人は名前わかる?』
蜜柑達の多くは、タルトが見ている10人目――敵が最後に眷属にした女性の姿を見ていない。能力どころか、姿形、名前すらもわかっていなかった。
だが、撤退するクリフォトの前に立ち塞がっていたグプトとユスティーだけは違う。途中で姿を現したディアボロスと、彼に小脇に抱えられていた女性の姿を見ている。
おまけに彼は、情報の神秘だ。
見た情報を覚えていなければ意味がないものの、知ることができるという点に関しては間違いない。
抑制しなければ余計な情報で溢れてしまうため、見た上で、さらに情報を引き出すつもりがなければ知ることはできないが……
どうやら彼は、ちゃんと簡単な情報だけは引き出していたようだ。焚き火の熱で煙草の煙を揺らしながら、疲れたような表情で口を開く。
「スハァー……たしか、ライラという名前だったはずだ。
あまり気にしていなかったから、それ以上はわからん」
「上出来だよ☆」
美少女を迸らせるドルチェがやや上から目線でつぶやくと、グプトは不機嫌そうに顔をしかめてしまう。
タルトやアオイは無反応なので、蜜柑だけが困ったように目を泳がせていた。
「上出来、ですか?
名前だけでは何の対策にもならないと思いますが」
「対策はできないけど、情報の共有が楽になるから良いんだよ♪ それより、わかることからまとめていこう!
見るだけで能力はわからないだろうし☆」
「うん、わからない。
くわしいじょうほうはおっさんだより」
「ということで、おじさんは敵の能力を教えてね☆」
「おじさんおじさん言うな、小娘が」
「全員が、知ってる訳じゃないからね☆」
タルトに追随するドルチェに、さらにグプトは機嫌を悪くする。蜜柑はあわあわと慌てるばかりだ。
しかし、当然気に障ったからといって情報共有を放棄したりはしない。彼はしばらく煙草を吸ってから、感情を押し殺すように淡々と言葉を紡ぐ。
「どうせだいたい把握しているだろうに、嫌味なやつだ。
……クリフォトは嬢ちゃんと同じ。シャイターンは神秘をかき消す、ディアボロスは人格を壊す、セファールは貪欲に全てを得る、ベルゼビュートは思考力の低下、リデーレは取引、ペオルは心身を醜悪に歪める、フュイールは影響を受けないこと、アイシャは他者と繋がること、サラは残酷な結果を引き寄せること。ライラは知らん」
「ほら、私もサラって子のこととかは知らなかったよ?」
「黙れ。それより、優先して殺すのはどいつだ? 俺はそこら辺の戦略について、君らに勝てるとは思っていないぞ」
またドルチェが口を挟んできたことで、グプトは彼女を強く睨みつけて威圧する。仲間なので手は出さないが、情報屋としてなら普通に銃で撃っていそうな剣幕だ。
余計な話をさせないようにさっさと言葉を遮り、優先すべき相手の話をするべくアオイに水を向けた。
「そうですね……何一つわからないライラは、間違いなく注意すべき相手だと思いますよ。他だと、もちろんシャイターンは単独で私達を壊滅させられますから、要注意です。
ただ、優先して潰すべき相手、というと……ふむ。アイシャ、ディアボロス、ベルゼビュート、リデーレ辺りですかね。
先日、ドルチェさんが負けていた相手。1人で戦場をひっくり返してしまう相手。勝手なルールを定める相手。厄介です」
『敵は普通に樹の周りに集まってる。
狙った相手を倒しに行けるとは思えないよ』
「……そうですね。シャイターンを倒せない限り、私達の勝ちはないですし、それはあちらもわかっているでしょう。
特にアイシャ……どうにか分断し、引き離したいところです。
グプトさんとタルトさんの情報を元に、私の風、ユスティーさんの契約、カルラさんの歌で動きを支配しましょう」
最優先で排除するべき相手の名前を上げたアオイは、蜜柑に問われるままに作戦部分にも言及していく。
人格を壊すディアボロスや思考力を奪うベルゼビュートなど、要注意人物に関しては妥当な判断だ。
だが、戦場はクリフォトが待ち構えている場所になるので、選択肢はあまりない。どんな戦いになるのかも不明瞭であるため、かなり当たり障りのない現実的な案を出している。
情報を持っているからと参加していたタルトは、グプトだけで事足りたこともあって、いつの間にかドルチェの膝の上で眠っていた。
「だけど、警戒すべきは纏まってる場合だけじゃないよね♪ 敵は確実に有利になるよう環境を整えてくる。
城塞を作る可能性、バラけて潜んでいる可能性、それから……後から何かを創って無理やり分断する可能性」
しかし、だからといってドルチェが配慮することはない。
わざわざ声を大きくすることないが、至近距離で眠っている少女がいても声を抑えずに話に割り込んだ。
頭上から綺麗だが遠慮のない声が降ってきたことで、タルトは彼女の膝の上で軽くうめいている。
「たしかに、蜜柑さんと同じ能力を持っているのなら、その場ですぐに木で何かを生み出せますね。あちらが行う利点はそこまでないように思いますが、ドルチェさんを気にせずにシャイターンを暴れさせるなら、ありえます。分断……ふむ。
そちらも警戒するのなら、仮に敵が全員いるように見えてもいくつかのチームに分けて接近しますか。タルトさんには、クリフォトの様子を常に監視していてもらいましょう」
ドルチェに指摘されたアオイは、すぐに認識を改め、それを考慮した対策を立て始める。
役目を終えたグプトはぼんやりと煙草の煙を見つめていたが、ドルチェは商人として戦略は得意な方だ。
身を乗り出すようにして、率先して自分も案を出していく。
彼女の膝の上で眠っているタルトは、ポンポンと頭が跳ねていて寝苦しそうだった。
「潜んでいても、カルラの歌なら見抜けるね♪
最初から何か作られていると面倒だけど……むしろ、あなたの風やウィステリアの炎で戦況を支配できるかな?
相手は精神的なものとか、概念的な力ばかりだから。
ただ、戦闘中に作られると手の打ちようがないね☆
風のサポートとか、期待しているよ!」
「はい。ドルチェさんが隔離された状態で、シャイターンが暴れ出したら一気に全滅です。それだけは避けなければ……」
ドルチェとアオイは、お互いに頭脳派として議論を白熱させていく。2人共戦闘面も馬鹿にできないのだが、本領は戦略や読みなどの部分だ。
相乗効果でどんどん勝利へのパズルが組み上がっていた。
タルトは眠り、グプトは傍聴人。しかし、蜜柑だけはしばらく話を聞いてから、そっと自分の意見を口にする。
『……それなら、むしろ私が先に何か創ろうか?』
「以前のような森では、むしろ逆効果のように思いますが……
確実に個別で隔離できるような城塞を、作れますか?」
『うーん、城壁って言われてもイメージがつかないかも。
ただの壁とか、木をたくさん生やすとかじゃだめなの?』
「それだと、視界が狭まるだけだと思うのです。
タルトさんの視界がどうなっているのかはわかりませんが、最悪の場合、シャイターンの手がつけられなくなります。
クリフォトが作るのと変わりませんね」
『少なくともドルチェは隔離されないけど……
結局銃で素早く壁は突破できないし、だめかぁ』
仮に簡単な迷路を作るだけなら、初めてでもできるだろう。
だが、多少入り組んでいる程度では、あの怪物ならば破壊して突破するに決まっている。
かなり強固で大規模のものを作らないと、あれを止めるのは不可能なのだ。敵が事前に準備していたものなら申し分ないだろうし、炎や風で翻弄もできるかもしれないが……
ちゃちなものでは、こちらで作る意味がない。
確実に個別で分断できるような、暴れるシャイターンを惑わせることができるほどに入り組んだものを作れないのなら、やらない方がマシというものだった。
場合によっては利敵行為になるという指摘を受けて、蜜柑もすんなりと諦めている。
「あ、待って待って♪ それならいい案があるよ☆」
「いい案……ですか?」
左右に揺れながら、うなされているタルトの寝顔を眺めていたドルチェは、2人の結論が出てから口を挟む。
口ぶりから察するに、こちらから何かを作るのは無意味だと決まった結論を覆してしまうもののようだ。
アオイは胡乱げに見つめるが、彼女は堂々とした態度でその案について話し始めた。
「タイレンにはエリスがいた。私はあの国で暮らしてたからよく知ってるんだけど……多分、あなたは体験したよね?
彼女の作り出した世界を、覚えている?」
『……まぁ、全滅したからね。覚えてるよ』
「私がクリフォトなら、あれに近いものを創る。
簡単な城壁での分断ならお手上げだけど、あれを知っていて再現できるような力もあるのなら、そっちを選ぶ。
蜜柑、あなたはあれを乗っ取りなさい☆」
『え、えぇ……!?』
可憐ににっこり微笑みながら、ドルチェはとんでもない作戦を口にする。決戦前夜、邪悪の樹から少し離れた場所では、困惑に満ちた蜜柑の声がか細く響いていた。




