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蜜柑の対策  作者: 榛原朔
蜜柑の対策6 冥獄にて花開く瞳

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番外編-呑まれぬ者達

「なーっはっはっは!! おい、酒を寄越せ!!」


薄暗いバーの中で、相変わらず上裸に装飾品を揺らしているエンは、巨大な酒瓶を片手に猛り吠える。

ここはウィステリア達が見つけたスイーツの店と同じように、フォミュルでは珍しい酒に溺れられる店だ。


やはり客はそうおらず、店員もこの酒臭い空間に酔っているのか、彼が叫んでいるのを陽気に眺めていた。

テーブルに足を置いているのに、別に問題はないらしい。


暴力事件を起こしていたり実害が出ている訳でもないので、ドンドンギャーギャー騒がしいのも、普通に見過ごされている。


「ふざけッ……お前はもう少しくらい大人しくできねぇのか、鬼哭衆の首領! 騒ぐにも限度がある。

ここは酒を楽しむ場であって、暴れる場じゃねぇぞ」


しかし、彼と同じテーブルに着くものからしたら堪ったものではない。ガタガタと暴れ回る彼と、その影響で跳ね跳ぶ酒や料理を必死に押さえ込んでいるグプトは、もう何度目かの注意をする。


当初、彼はあくまでもユスティーとジエンに同行しているだけだった。それなのに、いつの間にか現れたのはエンとそのお目付け役であるドルチェだ。


彼が大人しく酒を楽しむはずがなく、保護者的な立ち位置にいる彼は、すっかり振り回されてしまっている。


おまけに、そのお目付け役もグプトがいるとわかるや否や、瞬く間に振り回す側に回ってしまっているので質が悪い。

少し離れたカウンター席で騎士達がしんみりと飲んでいる隣で、彼は延々と問題児のお世話をしていた。


「ハッハァ、別に殴ったりはしてねぇだろうがよ!!

あいつらみてぇな辛気臭ぇ楽しみ方は御免だぜ!!」

「そーそー♪ しっとりと飲むのもいいけど、せっかくならこうして笑い飛ばしちゃおー☆」

「お前はこいつをのせるくらいならさっさと帰れ!

ここは小娘の来るとこじゃねぇぞ」

「商人にお酒は付き物だよ☆ イェーイ♪」

「ここはパーティ会場か!?

というか、どこからクラッカー持ってきた!?」


悪ノリしてクラッカーを鳴らし始めるドルチェに、グプトは青筋を立てながら文句を言う。

だが、当然そんなことでやめる彼女ではない。


そもそも、たとえのせることをやめてもまだエンが騒いでいるので無駄だ。あくまでも火に油を注いでいるだけなので、変わらず騒ぎ続けるだろう。


エンはテーブルをひっくり返す勢いで騒ぎ続け、ドルチェは彼をのせ続け、グプトもそんな2人への注意で騒いでいた。


3人がしばらくギャーギャー騒いでいると、ついにカウンター席に座っているユスティーは苦笑しながらやってくる。


「みんな、よくこんなに盛り上がれるね」

「なーっはっはっは!! タイレンで生きてきた俺様達からすると、ここは天国なのよ!! お前らも混ざるか!?」

「あぁん!? テメェユスティー様に声かけてんじゃねぇ!!」

「まーまー♪ 私達仲間じゃん? しかも、同じつながりを持った家族だよ☆ ね、おじさん♪」

「はぁ……もう知らん。勝手にしてくれ」


ユスティーがテーブル席に来たことでジエンもやってくるが、彼は信者なので無駄に噛みついてまた騒ぐ。

さっきまではしんみりと飲んでいたのに、すっかり問題児の仲間入りだ。


ドルチェにおじさん呼びされて同意を求められたグプトは、疲れ切って肩を落としていた。


とはいえ、彼が力尽きたことでテーブル上にあるものが吹き飛んでいくようなことはない。眷属の中で最年長は彼だが、その次はユスティーなので、彼女が保護者的な役割を交代している。


「はぁ!? テメェにこの酒の味がわかんのかよ!?」

「なーっはっはっは!! 俺様を誰だと思ってんだァ!?」

「はいはい。飲み勝負するのはいいけど、静かにね」

「了解いたしました、ユスティー様。

不肖ながらこのジエン、貴女様に勝利を捧げます」

「いりません」

「だァれが、だァれに勝てるってェ!?」

「テメェだボケがァ!!」


ドルチェはのせていたが、ジエンは真っ向からエンと張り合うタイプなので、騒ぎはより過激になっていく。

ユスティーが止めていなければ、今すぐ殴り合いになってもおかしくはないくらいだ。


酒瓶は床を転がり、おつまみなどは宙を舞い、とんでもなくカオスな空間である。それを横目に傍観を決め込むグプトは、ドルチェに絡まれていた。


「やーやーやー、おじさんおじさん☆

ついに力尽きちゃったおじさーん♪」

「……」

「店員さーん、何かびっくりするような面白いことない?」


完全に無視されてしまったことで、ドルチェはこの騒ぎに半分混ざっているような店員に声をかける。

どうやら、彼が思わず反応してしまうようなことをやろうと企んでいるらしい。


煙草を吹かし始めたグプトはピクリと眉を動かすも、店員が来るとは思っていないのか無視を貫いていた。


「あー、びっくり……瓦割りとかやります?」

「おい店員!? 悪ノリをするな。

お前はどうして店員なんだ?」

「よーっし、瓦なんてこの傘でスパーンだよ☆」

「くっ、これはもう彼女を呼ぶしか……」


ようやくグプトが反応を示したことで、ドルチェはご満悦だ。どこから持ってきたのか、店員が積み上げている瓦を前に輝く笑顔を見せている。


ここは普通のバーだったはずなのに、もうなにもかもが無茶苦茶だった。頭を抱えてしまっているグプトは、難しい表情でテレパシーを飛ばしていく。




~~~~~~~~~~




酒を嗜む者達が夜のバーで暴走していた頃。

近くのカフェでは、彼らとは違って正常な感覚を持った少女達による、健全な女子会のようなものが開かれていた。


メンバーは蜜柑を筆頭に、ガーベラ、アオイ、カルラ。

そして、唯一男性のウィステリアである。


もっとも、見た目だけならば完全に美少女であるため、特に違和感はない。タルトを寝かせているユウリがここにいたのなら、嫉妬の目に曝されることになるだろうが……


普通にスカートを穿いている彼なので、むしろ和服のアオイよりもこの場に馴染んでいた。


「ウィル、こんな時間にそんなものを食べるのですか?」

「え、ダメかな……?」

「ダメではないですが、ベラが羨ましがりますよ?」

「そうよリア〜……わたしも食べたくなっちゃうわっ!!」

「はんぶんこする?」

「止まらなくなるのっ!!」

「うっ……」


アオイの指摘通り恨めしげな視線を向けてくるガーベラに、ウィステリアはタジタジだ。


2人の間に座っていることもあって、逃げ場もない。

戦闘時などは最も頼りになる彼だが、今は左右からの圧力に屈するようにケーキから目を離していた。


しかし、やはり中々諦めきれないらしく、視線はチラチラとメニュー表へと向かう。最終的に、反対側の席に蜜柑と並んで座るカルラに水を向けていく。


「で、でもさ。カルラさんもステーキ食べてるよ?

ちょっと違うけど、彼女がいいならぼくも……」

「うっ……わ、わたしはたくさん歌ってお腹空いてまして……」

「むぅ。それなら、私も踊っていたからセーフねっ!」


ガーベラの強い視線を受けたカルラは、サイコロステーキを軽く喉に詰まらせて胸を叩きながら弁解する。

既に食べる分は消費しているから、問題はないのだと。


それを聞いた少女も、少し難しい顔をしてからメニュー表に手を伸ばし、少年もホッとしたように手を伸ばしていた。


「後悔しても知りませんよ、ベラ。蜜柑さんも、カルラさんに負けず劣らず随分食べていますが大丈夫ですか?」


だが、その途中で告げられたアオイの言葉によって、2人の動きは見事にリンクして停止してしまう。

安心してステーキを口に運んでいたカルラはまたもむせて、急に矛先を向けられた蜜柑もスイーツを食べる手を止める。


『私は本体が木だから……というか、みんなも神秘なら見た目は自分の意思である程度保てるんじゃないの?』

「でも、精神的に疲れるじゃない。やっぱり、食事と運動で保つのが1番簡単だと思うわっ! ここは……我慢ね!」


ガーベラがスイーツを我慢することを決定したことで、当然ウィステリアもケーキを断念することになる。

2人は揃って残念そうに肩を落とし、目の前で幸せそうに食べる蜜柑達を羨ましそうに見つめ始めた。


堪らないのはカルラだ。

彼女は蜜柑よりも気が弱いため、あまりにも見つめられていることで目を白黒させている。


そんな彼女とは対照的に、蜜柑は仲良く見つめてくる2人を明らかに愛でていた。むせる少女に水を差し出しながら、これ以上ないくらいのいい笑顔を浮かべて口を開く。


「うっ……」

『あはは、分けてあげようかー?』

『け、結構よっ!』

「なら見ないでくださいよ〜……」

「見て食べた気分になるわっ!」

「ひえぇ〜……」


カルラはずっと凝視してくる2人に悲鳴を上げる。

2人の注文を止め、この状況を生み出した張本人であるアオイは、澄まし顔で緑茶を飲んでいた。


そんな中、ダラダラと汗を流しながらも視線に耐え、必死にステーキを食べきろうとしていた彼女の頭には、聞き慣れた声が響き渡る。


『おい、カルラ。聞こえるか?』

「ふぇ!? グプトさん!?」

『悪いが、ちょっと俺達のいるバーに来て歌ってくれ。

エンが暴走していて堪ったもんじゃないんだ』

「わ、わかりました! ということで、ステーキをどうぞ!

わたしは歌わないとなので、失礼しまーす!!」

『やったー、ありがとね。いってらっしゃーい』


グプトからの救援要請を受けたカルラは、これ幸いとばかりにステーキを蜜柑に押し付けて去っていく。

カフェの外からは、先走った歌姫の歌が聞こえてきていた。




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