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蜜柑の対策  作者: 榛原朔
蜜柑の対策6 冥獄にて花開く瞳

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番外編-騎士達は

タルトの集落の手伝いを終え、ある程度生活を安定させることに成功した蜜柑達は、すぐにフォミュルへ向かう。


ガーベラ達の疫病が完治していなければ、クリフォト達との決戦に向かうことはないので、別に急ぐ理由はない。


しかし、別行動をしている理由もないし、そもそもクターからフラーへ向かうにもかなり時間がかかる。

バラバラでいるよりかは安心感もあるため、彼女達はすぐにアオイ達の後を追ったのだ。


もっとも、一行にはエンがいるので進みは遅い。

アオイやユウリのような、翼以外でスピードを上げるような仲間もいないため、数週間かけて到着することになった。




「なーっはっはっは!! この俺様が、再び恵みの国フラーへと足を踏み入れた!! 食を謳歌するぜぇ!!」


純白の翼のみでかなりの長距離飛行をして来たにも関わらず、エンは近くの草原に到着するなり雄叫びを上げる。

彼は散々した寄り道の原因にもなっているのだが、凄まじいタフネスだ。


フラーにある薬草の町・フォミュルは、鬼哭衆の首領である彼の着地によって響き渡った轟音に慄き、震えていた。

上裸に輝く装飾品も、警戒するような風の中でカチャカチャとご機嫌に音を鳴らしている。


おまけに、興奮している彼は、一緒に旅してきた仲間のことなど眼中にないらしい。豪快な笑い声を轟かせながら、1人でフォミュルへ駆け出していく。


「なーっはっはっは!! なーっはっはっは……!!」

『ちょっ、エン!? せっかく少し離れた位置に降りてるのに、そんなに騒いだら意味ないじゃん!!』

「……はぁ。あれは無駄だよ、蜜柑さん。言うことを聞く相手がいない分、うちのジエンよりも質が悪い。

クターでもね、散々荒野を掘り起こして暴れてたんだから。

それなのに、結局成果はなし。あれじゃただの獣だよ」


遠ざかっていく背中を止めようと声をかける蜜柑だったが、優雅な所作で隣に降り立ったユスティーは諦観の滲む表情で肩をすくめる。


クターでは彼のお目付け役をしていたため、相当苦労していたようだ。今の彼女はクリフォトと契約を結んでおり、剣術以外に使えるものはないのだから、無理もないが。


「まぁ、それは私も頼んでたからね♪

んー……ユスティーはジエンのところに行った方がいいだろうし、私が彼を追うね☆ 蜜柑はタルトをお願い!」

「うん、あたしをおねが……ん? あたし、迷子にだけは絶対にならないと思うんだけど。エンだろ、それは」


暴走するエンのお目付け役として名乗りを上げたドルチェの言葉に、彼女と手を繋いでいたタルトはつられて自分のことを蜜柑にお願いしかける。


素直に手を繋いでいるのも、うっかり同意して繰り返してしまいかけるのも、あまりにも年相応で可愛らしい。


だが、本人もすぐにその間違いに気がついたため、ムッとした表情になって抗議していた。


「どっちでもいいし、信用じゃなくて親愛のお話ね☆」

『ドルチェ、多分もうだいぶ遠くまで行っちゃったけど……』

「まぁ、流石に街を壊しはしないでしょ♪」

「はは……ちゃんと適当だね、君も」

「本当に、自称姉は適当。自己中心的」

「うん、そうだよ☆ 絶対的なら自信を持たなきゃね♪

だけど、もちろんみんなの気持ちを蔑ろには……って、流石に追わないとね! じゃあ、また後で☆」


残った全員に軽く貶されるドルチェだったが、彼女の自信はまるで揺らぐことはない。化け物じみた自己肯定感を以て、すべてを認めている。


そんな彼女は、既に消えかけているエンを見失うこともないと思っている様子だ。優雅に黒い日傘をさすと、軽い足取りで去っていった。


「じゃあ、僕はジエンを探してくるよ。

こちらから探さなくても、勝手に来そうだけど」

『うん、また後でね』

「ばいばい、ユスティー」

「うん、ばいばい」


日傘に隠れても輝いているドルチェを見ながら、ユスティーもまた別の方向を目指してフォミュルへ歩を進めていく。

残された蜜柑とタルトは、手を繋いで『どこ行こうか?』と話し合っていた。




~~~~~~~~~~




「なーっはっはっは!! なーっはっはっ……ん?」


フォミュルへと突入したエンは、なおも興奮気味に豪快な笑い声を轟かせながら町を突き進む。そんな彼は、その途中にあった広場から聞こえてくる別の音に気づき、不思議そうな顔をしてついに静かになっていた。


笑い声が止まってしまえば、もうドルチェが彼を見つける手段はない。しかし、幸いにも彼女は既に近くまでやってきており、立ち止まった彼の頭をパコンと小突く。


「とーっう☆ ちょっとー、だめじゃんエン♪

町を楽しみたいなら迷惑かけちゃ。自然なままの町を楽しみたければ紛れ込む。好き放題したければ利益を与える。

後者をしたとしても、ちょっと悪どいよ?」


ジャンプしたことでワンピースの裾をはためかせる彼女は、美少女を迸らせながら注意する。元商人だっただけあって、言っていることは若干怖い。


だが、頭を叩かれたというのにエンは無反応であり、それに気がついたドルチェも小首を傾げた。

風と共に流れてくるのは、やけに響いて耳に届く美声だ。


「……あれ? あぁ、この歌を聞いてるんだ☆

あなたって、思っていたより芸術がわかる人?」

「はぁ? 仲間の歌なんだからすぐわかんだろ。

やけに響いてんなぁって思っただけだ」


小馬鹿にしたような言葉に、エンは不機嫌そうに鼻を鳴らす。とはいえ、特に暴れたりそれ以上文句を言ったりすることはなく、静かに広場へと入っていく。


エンが静かにしているなど、珍しいどころでの話ではない。

明日は星が降ってきてもおかしくないくらいに、ありえないことだった。


妙に大人しい彼を見たドルチェは、面白そうに微笑みながら彼の後を追う。


「〜♪」


少し歩くと彼の背中越しに見えてきたのは、一見すると全員が少女に見える3人の仲間の姿だ。


広場の中心で歌っているのが、地味なワンピースを着ている歌姫――カルラ。その後ろで舞っているのが、お嬢様然とした綺麗な洋服を着ている少女――ガーベラ。


後ろの噴水の側で見守っているのが、スカートに黒タイツと、一見すると美少女にしか見えない少年――ウィステリアである。


「……」

「や、久しぶり☆」

「うん、久しぶりだね、ドルチェさん」


カルラの歌に聞き入っているエンをよそに、ドルチェは護衛をしていると思われるウィステリアに声をかける。


彼も彼女達には気がついていたらしく、華麗なダンスを披露しているガーベラを見つめながらも、穏やかに挨拶を返していた。


「ここでも歌ってるんだね〜♪ 流石歌姫だ☆」

「まぁ、この町には治療を求めてきた人が多いからね。

カルラさんの歌は、本当にすごいよ」

「エンが聞き入っているくらいだもんね♪ ……そういえば、タイレンのコンサートでも真剣に聞いてたっけ。

あの人を抑えられる人、いるじゃん☆」

「本当だね」


カルラ・ベルは、延々と広場で歌う。

この薬草の町――フォミュルを訪れた病人達の心を癒やすように、病気や苦痛に怯える彼らの心を和らげるように。


いつもなら騒いでいるエンすら聞き入っている中で、彼女達は楽しげに話していた。




~~~~~~~~~~




「……ユスティー、様」

「やぁ、ジエン。久しぶり」


カルラの歌によって、エンが大人しくなっていた頃。


町の片隅では、普段は彼と同じように手がつけられないことがあるジエンもまた、ユスティーを前にして大人しくなっていた。


彼は騎士だった時からユスティーの信者であるため、静かになるのはいつものことだ。エンとは違って、落ち着かない方が異常だと言える。


とはいえ、今の彼が見せるのはいつもの大人しさではない。

もはや信仰対象であるとまで言えるユスティーを前にした彼は、いつもとは違って暗い表情で彼女を見つめていた。


「クターでの戦いの後は、疫病の治療もあってゆっくり話す機会がなかったよね。少し、真面目なお話をしようか。

今は……私も君も、騎士として」

「……サラに、会ったのですよね?」


騎士としてのお話……その言葉を聞いたジエンは、普段彼女と話す時と同じように丁寧に言葉を紡ぐ。


サラというのは、ジエンと同じようにユスティーを慕っていた女性騎士のことだ。蜜柑を含めた他の仲間たちとは面識がないが、彼らにとっては大切な家族だった。


クターでの戦いでついに彼女と対面していたユスティーは、エリュシオンの時点で既に会っていたジエンに優しい目つきで問いかける。


「やっぱり、隠していたね」

「申し訳ありません」

「いや、責めてはいないよ。先に見つけていたのが私なら、私もきっと伝えようとは思わなかったはずだから。

だけど、こうして知ったからには、もちろん君1人に背負わせるつもりはない。一緒にあの子を助けよう。

いつも喧嘩していたけれど、大切には思っていただろう?」

「あなた様への思いほどではありませんが……はい」


フォミュルに片隅にある、人通りの少ない小さな道の真ん中で。今はもう鎧を脱いでいる騎士は、同じく鎧と務めを放棄しているすべての指針である騎士へ跪く。


ユスティーは新たな神として蜜柑に剣を捧げている。

だが、ジエンはまだ幼い頃に見習い騎士に救われた時から、彼が騎士足らんとした始まりの記憶から、常に彼女にだけ剣を捧げている。


ジエンという神秘は、その始まりから、心の底から、魂から彼女のみを信仰してきたのだ。


「私は常に、貴女のみを信じています。

人を救えるのは、きっと貴女のような存在でしょう。

貴女に心ごと命を救われてから、神に相応しい存在なのだと私は思い続けてきました。であれば……我が剣は貴女の為に。

物心ついた頃にはいた神ではなく、私自身が確かに救われ、選んだ神として、この身を捧げることを誓います」


ユスティーに隠し事をしていたジエンは、今こそ何一つ偽ることなく彼女と共に剣を握ることだろう。

それは、彼が騎士として始まった瞬間から捧げられていた剣、常に誓われていた騎士の誓い。


世界でもトップクラスに平穏で、聖なるセフィロトが勢揃いしているこのフォミュルの町で。

騎士の誓いは立てられた。



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