如月牡丹と水無月つゆり!!
如月は赤面していた。翔の家からの帰り道、自分の行動を振り返っていたからである。
翔が学校に来なかったので、借りた傘を返すのは明日でいいか、と最初は考えていたが、この前のベルの積極的な行動を思い出し、考えを改めたのだった。
思い立ったら即行動ということで、如月は部活を休み、翔の家へ向かった。住所は前に雑談中に聞いたのを覚えていた。スマホの地図アプリで検索し、それを頼りに向かった。
スマホから「目的の場所に到着しました」という音声が流れたので、そこで立ち止まり、前を見ると、白い一軒家が目の前に建っていた。表札には『水無月』と書かれていたので、間違いなさそうだった。如月は自分のスマホに感謝してから鞄に入れ、玄関まで向かった。
インターホンを鳴らし、しばらくその場で待っていたが、何の反応もなかった。もう一度押したが、それでも反応はなかった。
(もしかして出掛けてるのかな?)
以前、如月は翔に休みの日は何をしているのかということを聞いたことがある。そのとき、一人で旅行に行くことがある、ということを言っていたのを思い出したのだった。
二回押して何の反応もないことから、どこかに出掛けているだろうと判断した如月は、最後にもう一度インターホンを押した。それでも反応がなかったので、帰ろうとしたとき、中から音が聞こえた気がした。如月は確認のため、もう一度インターホンを鳴らした。すると、足音が近づいて来る音が聞こえたのだった。そしてドアがゆっくりと開き、Tシャツ短パン姿の翔が出てきたのだった。
如月は借りていた傘を返したが、翔は見るからに風邪をひいているようだったので、そのことを尋ねると、熱があるということだった。どうやら、翔は発熱で学校を休んだようである。如月は翔のことが心配になり、いろんな質問をした。そのとき、翔の親が家に帰って来ないということを知った如月は、自分が看病するということを思い立ち、それを実行したのである。
最初、翔は遠慮していたが、強引にいくと弱いというのは本当だったらしく、結局受け入れてくれたのである。翔は如月が作ったおかゆを完食していた。
如月が食器を洗って片づけを終えたとき、いつの間にか翔がリビングからいなくなっていた。如月は翔を探し始めたが、一階に人の気配はなかったので、二階を探すことにした。二階には部屋がいくつかあり、どこかに翔がいるだろうと思った如月は、一つ選んでゆっくりとドアを開けた。
その部屋の中に翔の姿はなかった。可愛い感じの部屋だったので、翔の妹の部屋のようだった。机や壁には写真が飾られていた。家族写真や小さい頃の翔と妹が笑顔で写っている写真、まるで盗撮したような映り方の翔の写真などがたくさんあった。妹が家族を大切に思っているということがわかる、素敵な部屋だった。
如月がしばらくその場に立っていると、左隣の部屋から翔が出てきた。
「ん? 如月さん」
「あ、水無月くん!」
「どうしたんだ? そこ、つゆりの部屋だけど」
「あ、ごめんなさい。水無月くんがいなかったから探してて、間違えちゃった」
「そっか。ごめん、何も言わずにどっか行って」
「ううん。気にしないで」
そのあと、如月は翔と妹のことを質問したが、予想していた回答と違ったので、少し混乱してしまった。そんなとき、翔の妹のつゆりが帰って来たのだった。
つゆりは黒髪ツインテールの可愛い女子中学生で、翔とはあまり似ていなかった。つゆりは帰って来て早々、翔に駆け寄ったかと思えば、如月に敵意のような視線を送り、「チッ! あのときの女か!」と呟いた。
どうやら、如月はつゆりに敵視されているようで、それをいち早く察知した如月は、お暇することにした。それに、つゆりが帰って来たので、あとのことは大丈夫だろうと判断したのである。
如月は最後まで冷静さを装って翔と別れた。
しかし、内ではずっと心臓がバクバクしていたのである。家の中に入るときも、麦茶を出されて飲むときも、おかゆを作るときも、食べてもらうときも、後片付けをしているときも、ソファーで休んでいるときも、ずーっとドキドキしていたのである。どうしてこんな強引な行動をしてしまったのか、自分でもよくわからなかった。如月は今になって恥ずかしくなり、
赤面していたのである。そして少しずつ落ち着いていき、家に帰り着いたときには冷静になっていた。
如月は家に帰り着いてから、宿題をしたり、洗濯物を取り込んだり、晩ご飯の準備をしたりと、いつも通り家事を手伝っていた。ご飯を終え、お風呂に入ったあと、部屋で好きなアーティストである雛月弥生の歌を聴いていると、スマホの着信音が鳴った。スマホを手に取り確認すると、相手は水無月翔だった。如月はビックリしてスマホを落としそうになったが、ギリギリのところでキャッチした。そして恐る恐る電話に出た。
「はい。如月です」
「あ、もしもし。私、兄の妹のつゆりですけど」
「えっ、あ、い、妹さん!?」
「はい。夜遅くにすみません。今、お時間ありますか?」
「あ、はい。大丈夫です」
「ありがとうございます。ちょっと如月さんに聞きたいことがあって電話しました」
「聞きたいこと?」
「はい。如月さん、今日私の部屋を見ましたよね?」
「え、あ、はい。お兄さんの部屋と間違えてしまって…。ごめんなさい」
「謝らなくていいです。間違えてしまったのなら仕方のないことです」
「そう…ですか」
「それより、何を見ましたか?」
「え?」
「如月さんは、私の部屋で何を見たんですか?」
「あ、えーっと、写真…がいっぱいあるのを見た…かな」
「どんな写真ですか?」
「えっ、えーっと、家族写真とか、水無月くんの小さい頃の写真とか…」
「他には?」
「えーっと、あと、最近の水無月くんの写真とか…」
如月がそう答えたとき、つゆりはしばらく無言になった。如月は電話が切れたかと思い、画面を確認したが、通話時間が動いていたので、まだ繋がっているようだった。
「あ、あの、つゆりさん?」
「如月さん! 写真のこと、お兄…兄には絶対に言わないでください!」
「えっ、あ、はい。わかりました」
「約束です!」
「は、はい!」
「あと、私の方が年下なので、敬語は使わなくていいです」
「あ、うん。わかった。じゃあ、つゆりちゃんも敬語は…」
「私は敬語の方が話しやすいのでこのままで」
「あ、そうなんだ」
如月はつゆりのペースに乗せられていたが、嫌な気はしなかった。
「あ、あの、如月さん」
「ん、なに?」
「せっかくなので、学校での兄の様子を教えてくれませんか?」
「学校での水無月くんの様子?」
「はい。兄はあんな性格なので、学校で上手くやっているのか、妹として心配なんです」
「そっか。うん。いいよ!」
それから、如月は翔の学校の様子をつゆりに語った。一年のとき翔が不良から助けてくれたこと、いろんな相談に乗ってくれたこと、文句を言いつつ『相談部』に仮入部してくれたこと、よく独りで屋上に行き、休んでいることなどを教えた。
スマホ越しだったが、つゆりが如月の話に興味津々だということはなんとなく伝わってきた。如月が翔のことを褒めると、つゆりは相槌を打ちながら、さらに翔の良いところを補足するように喋っていた。思いのほか話は盛り上がり、一時間程続けてしまった。
「つゆりちゃん、お兄さんのことが本当に大好きなんだね!」
「そっ、そんなんじゃないです。ただ妹として心配しているだけです」
「フフ、そうだね」
「あー、如月さん、絶対信じてないですよね」
「そんなことないよ」
「むー」
「怒らないで、つゆりちゃん」
如月はつゆりが頬を膨らませて怒っている顔を想像したが、可愛かったので実際に見てみたいと思ったのだった。
「でも、今日如月さんと話ができて良かったです。兄も学校で上手くやっているようですし、安心しました」
「私も、つゆりちゃんと話ができて楽しかった。ありがとう」
「こちらこそ、ありがとうございました。また、話を聞かせてください」
「うん。もちろん! つゆりちゃんならいつでも歓迎だよ!」
「ありがとうございます。では、このあと電話を切ってから、如月さんの連絡先を私のスマホに登録しますね」
「うん」
「ではまた」
「うん。またね」
「あ、最後に一つ、如月さんに伝えておきたいことがあります」
「ん? なに?」
「六月一五日は兄の誕生日です! では!」
「え!? それって…」
如月の返事を聞く前につゆりは電話を切ったのだった。
そして数分後、つゆりの電落先が如月のスマホに送られてきたので、早速登録をしたのだった。
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