第三章 連続通り魔は幼女? inダマ国 前編
「この街もなんだか物騒になったな。連続通り魔が出ているだなんて」
「本当だな。でも、とても通り魔が出るとは思えないけどな」
「ほんとに通り魔なんかいるのかね」
「どうなんでしょうね」
「とは、いいつつも、俺たちの力の前なら、どんな奴らでもひれ伏すだろうな」
「国家権力を使ってますしね」
「ガハハハハハ」
「ワハハハハハ」
時刻は間もなく日付が変わるころ。辺りは暗く、夜の静寂に警官二人が、「ダマ国」の街の安全を守るため、パトロール勤務をしていた。だが、見るからに街のためにパトロールをしているとは思えない。課された職務時間を適当にやり過ごす感が満載である。どうやら公務員感覚が染みついているサラリーマン警官のようだ。
仕事をほっぽり出して話がはずんでいる頃、道の奥から幼稚園くらいの女の子がよちよちと歩いてくるのを、警官二人は見つけた。
「おい、見たか?」
「は、はい。なんでこんな時間に女の子が夜道を歩いているんだ?」
時刻は深夜。周りには保護者の姿はない。様子が変だと察知し、さすがのサラリーマン警察官たちもこれは仕事をしなければならないと察知したのであろう、女の子に声をかけた。もちろん、不審者ではなく、警察官として声をかけた。
「あら、かわいいお嬢ちゃん。どうしたの・・・」
———『グシャ!!!』
「ぎゃああぁぁぁぁぁ!!!!」
「ひええぇぇぇえぇぇ!!!!」
闇夜に警察官の悲鳴がこだました。数秒経ってから、幼女の怪しくも純粋な笑い声がわずかばかりに聞こえた。
———『グシャ!!!』
———『グシャ!!!』
———『グシャ!!!』
「・・・・・・・・・・・・・」
「ひええぇぇぇえぇぇ!!!!」
「犯人は幼女だって?」
一夜が明け、この一帯の町の平和を守る警察の機関があたふたとわめいていた。警察官が通り魔に殺害されたのだ。さらに驚愕の事実として、犯人は幼女であるということだ。とても幼女が殺人犯とは思えなかった。
「そんなバカな話があるか?」
「しかし、襲われた我々警察官も証言をしており、さらにほかの目撃者の話からも、犯人が幼い子供であることが、証言から確認できています」
「そ、そんなことが・・・」
警察の署長は絶句していた。幼女が殺人の真似をするなど、世も末だと認識した。親は一体何をしているのだろうかと、いら立ちも見せていた。
「それで、どう対応しますか? 我々警察官が通り魔に殺害された不祥事が、この新聞のように世間一般にでかでかと公示されています。我々警察のメンツを守る術として、最早事件のもみ消しなどはできませんよ」
署員が署長に今日の朝刊の一面を持ってきた。だが、署長は机に置かれた新聞に手のひらを勢いよく押し付けた。
「バカ者! 警察官であろうものが、そう簡単に事件のもみ消しなど考えてはいけない!」
どうやら、サラリーマン警察官は襲われた二人だけではなく、この警察署そのものであった。いっそ『株式会社 警察』と看板を掲げたほうが潔いのではないか。だが、署長だけは志が違った。さすが署長と言ったところか。
「事件のもみ消しは、最後の切り札だ。まだ序盤でもみ消しのカードを切るわけにはいかない」
前言撤回。
「連続幼女通り魔事件?」
「えぇ、恐ろしい話です」
ミレイが朝の買い出しのために街を歩いていた時、キャスケット帽をかぶったやや身なりの貧しい少年新聞屋の押し売りに会い、心が痛んだミレイは快く応じ新聞を購入した。後になって思ったのが、新聞は不要であり、なぜ購入したのかわからず後悔したものの、とりあえず新聞を眺めていたところ、『連続幼女通り魔事件』を見て驚き、ダイトに話をした。
「でも、通り魔事件なんか、どこでも起きているぜ。それが新聞の一面を飾るだなんて、この辺りはそれまで凶悪な事件が起こっていなかった、いわゆる治安のいい街ってことか?」
「それが、今回は違うみたいです」
ミレイが押し売られた新聞をダイトに渡した。普段新聞など読むことの無いダイトにとっては、何とも頭の痛い作業であった。
「なになに、昨日の通り魔事件では、警察官1名が犠牲となった。目撃者である警察官の証言から、犯人は幼女である可能性が高い・・・これって、見出しの連続幼女は、幼女が刺されたんじゃなくて、幼女が刺したってことか?」
「そうなのです。なので、恐ろしいのです」
状況が一転し、ダイトは考えを改めた。
「一体、どんな教育を受けたら、幼女が殺人なんか犯すんだ?」
「わかりません。ですが、とっても恐ろしい事態です」
じっくり考えたのち、ダイトの頭に豆電球が点灯し、同時にレンジの『チーン』のような音が鳴った。
「新聞を見る限り、この幼女はまだ捕まってはいない。となれば、再び犯行に及ぶ可能性があるだろう。そこで、俺たちの出番だ。俺たちが夜の闇に紛れ、幼女がくるのを待ち伏せればいいだけだ。そして、幼女を捕まえることができれば、この街の治安は守れるということになる」
いつものように、ダイトの単純明快で至極当然の作戦が発表された。ミレイは反対をしたかったが、自身もいい案が思い浮かばなかったため、珍しくダイトの案が可決された。
「新聞いかかですかー? あっ、そこのカッコいいお兄さん。どうです、新聞? お兄さんほどのカッコいい大人が、世の中の流れを知らないなどということは許されませんよ。お兄さんの株が下がってしまいますぜ。ですので、どうです、新聞?」
「なるほど、株が下がるのは確かに困りますね。それでは、新聞を1部いただきましょうか」
「その通りですぜ、兄貴。毎度ありー」
ここでも少年新聞屋が暗躍していた。街の治安を守る警察官より、よほど仕事熱心である。
「別に私はカッコ悪くても構わないのですがね。街で話題になっている連続幼女通り魔事件の状況を知るために、新聞が好都合なだけでした。あの少年には分からないことですが、時に社会は抜けている人間の方が好まれる場合だってあるのですよ。サーカスで最も尊敬され、かつ一番報酬を受け取っているのは、実は観客からバカにされるピエロなのですがね」
ルウが皮肉交じりにつぶやいた。少年新聞屋から購入した新聞をベンチに腰掛け足を組みながら目を通した。手元にコーヒーが欲しかったが、近くにはなかったため泣く泣くあきらめた。
「まぁ、カッコいい大人かどうかは別にどうでもいいして、事件の状況は大筋わかりました。確かに、奇怪な事件であることは間違いないですね。すると、十中八九ミレイさんたちはこの事件に首を突っ込みそうですね」
新聞を読み終えると、ルウは近くのごみ箱に投げ捨てた。
「それにしても、なんですかねこの新聞の記事は? 主題について述べるときは、事実と意見を十分に精通する必要があると思いますが、訳の分からないポエムが混じっていますね。本来新聞は事件の事実を伝えるもので、新聞社の主観を読者に押し付けるものではありません。もしかしたら、どこかのスポンサーの言いなりになっているのかもしれませんね。ただし、サラリーマンの苦悩を茶化した4コマ漫画は少しクスリときましたがね」
その日の夜、ミレイとダイトは暗闇に紛れていた。本当に幼女が連続通り魔なのか、確かめるため。そして事実なら、暴挙を止めるために。
二人はが隠れている場所は、町一番の大きな公園で、中央には噴水がある。明かりは少なく、10メートル先が見えない。まさに、通り魔の犯行を行うにはうってつけの場所だ。
気になるのが、人がぽつぽつといることだ。通り魔が出てきても、肝心の人間がいなければ犯行ができない。街で通り魔が出ていることは知られているが、どこか遠い国のことのようにまるで他人事だ。若いカップルがあちこちにあふれている。ダイトは心のどこかで、リア充たちよ、通り魔に襲われてしまえと、よからぬ事を考えていた。
「通り魔のヤロー、早く出てこないか? いや、ヤローじゃないな」
「そう簡単に現れるものではありませんよ」
「それにしても、通り魔は本当に幼女なのか? どうにも信じがたいけど」
「幼女が通り魔でないことを祈るばかりです」
1時間が経過した。ミレイの想定通り、そうやすやすと通り魔は現れなかった。
「なぁ、寒くないか?」
「そうですね、少し身体が冷えてきましたね」
日付が変わった頃、気温が急激に冷えてきた。これから徐々に気温が下がっていくに違いない。ダイトはミレイが風邪をひかぬよう、着ていたファストファッションのアウターをミレイにかけた。
「ありがとう、ダイト」
ダイトのアウターにくるまうミレイ。先ほどよりは寒くはなく、身体も心も暖まった。温かいココアが飲みたかったが、残念ながら叶わなかった。
初めのうちは通り魔確保のことで頭がいっぱいであったが、長い時間が経てば緊張感も徐々になくなってくる。ダイトの思考は徐々に通り魔のことから離れていった。
思い返せば、なぜ自分はミレイと一緒に旅をしているのだろうか。いや違う、旅を続ける目的は何だろうか。そもそも旅が目的なのか。
ダイトは、一つの結論に達した。
「なぁ、ミレイ」
「はい、何ですか?」
「これから先どんな困難があっても、俺、お前を・・・」
『きゃああぁぁぁぁぁぁぁ!!!!』
絹を裂くような悲鳴が闇夜にこだました。
「まさか!!」
ミレイとダイトが目を合わせたと同時に、悲鳴が聞こえた方向に走り出した。通り魔が動き出したのか。
悲鳴が聞こえた方向へ向かおうとするも、薄暗い公園のため木や造園などが見えにくく、ダイトは全速力で木に激突した。だが、これだけではへこたれない。すぐに起き上がり、小走りの速度で悲鳴が聞こえた方向へ再び向かった。
「「!!!!!」」
二人が現場にたどり着いた時、あまりに衝撃的な光景が広がっていた。
幼女が人間たちをひとりひとり、刃物で刺していた。倒れていた女性二人を交互に、もぐらたたきのようにナイフで身体を切り刻んでいた。辺りにはおびただしい量の血の池が出来上がっていた。刺殺現場の近くの噴水に女性たちの血が混ざり、赤みがかった水が噴出されていた。
「そ、そんなバカな・・・」
「ひどい・・・」
ダイトとミレイが呆然とした。
「あれ、おにーさんとおねーさんだぁ」
鋭利な刃物を持ちながら、純粋な笑みでこちらを見つめる幼女。見た目は5歳程度だが、純粋な表情とは裏腹に、狂気をひそめた目つきが二人にはっきりと見て取れた。
「新しい遊び相手だぁ」
幼女がこちらに敵意を向けたのを見たダイトは、戦闘態勢に入った。
「上等じゃねーか。お前みたいな非力な小娘に、何ができるか見ものじゃねーか!」
ダイトが勢いよく足を地面に打ち付けかっこをつけたセリフを口走った。口走ったのまではよかったが、足元に生えていた棘のある雑草と靴ひもが絡まってしまった。こんな不運があっていいものなのか。
「し、しまった!!」
幼女はダイトを完全にロックオンした。ダイトは逃げようとした。だが、もがくも靴ひもが今度は地面の亀裂に引っかかり、身動きがとれなかった。まさに絶体絶命であった。
「それじゃあ、バイバイ」
幼女がナイフを振り下ろした。
「うわああぁぁぁぁ!!!」
「やめてえぇぇぇぇ!!!」
ミレイが叫ぶ中、幼女が持っているナイフを振りかざした。
だが、ダイトの断末魔が聞こえてはこない。
「・・・あ、あれ? 手が動かない」
「当然ですよ。私があなたの手を抑えているのですからね」
ミレイがゆっくりと目を開けると、ルウが幼女の手を掴んでいた光景が見えた。そのため、ダイトに包丁が刺さることはなかった。
腕を掴まれた幼女は、なおも必死に抵抗をする。
「こら、離せ、離せ」
「と言っていますが、ダイト君。彼女の手を離してもいいですか? 離すとこのナイフがあなたの顔面にぶち当たりますね。まぁ、私は別にかまわないのですが」
「ふ、ふざけるなあぁぁぁ!!」
笑えないブラックジョークをかます余裕のあるルウである。
「やめてくださいルウさん」
ミレイの決死の懇願で、ダイトの命は救われた。ダイトの命がルウの手にゆだねられたことを考慮すれば、一体どっちが悪者なのか分かったものではない。
「とりあえず、暴れないためにこの幼女を縛り上げるとしますか。なんだか言葉にすると、怪しい響きですが、目的は、ナイフを持たないようにです」
どこから取り出したのだろうか。ルウは持っていたロープで幼女を縛り上げ、とりあえずは身柄を抑えることに成功した。その間に、ミレイとダイトは先ほど刺された女性二人の看護にあたっていた。状況を察するに、重症ではあるが、命に別状はないようだ。
「さて、状況をいろいろと整理しましょう。一言で言えば、色々とおかしいですね」
ルウが達観のように状況を把握していた。
「あ、当たり前じゃないですか! これだけの人間を、それも幼女が殺すだなんて、おかしくないわけないじゃないですか」
と、ミレイが反発する。ルウの方は、なぜミレイが激高しているのか理解できなかったが、少しして謎が解けた。
「これは失礼。言葉が足らず、誤解を与えてしまい申し訳ありません。私が指摘したかったのは、殺害方法です。大量の人間を殺害するなら、普通は大量破壊兵器を使うものです。1度の攻撃で何百人、何千人の命を奪うことができますから。ですが、あの幼女はあれだけの人間を殺害しておきながら、いかにも原始的な戦法です。刃物で一人一人の殺害では時間と手間がかかって仕方ありません」
人間としての理性が飛んでいるルウならではの視点だと、ミレイは呆れていた。だが、ルウの見解は一理あると、納得もしていた。
離せぇと幼女は手足の先をばたつかせながら叫んでいるが、とりあえず事情を聞くことにした。そのため、事情を聞くため、興奮状態の幼女を落ち着かせることにした。だが、三人とも幼女をあやす経験が乏しいことからどう対処していいかわからなかった。
まずは精神が子供なダイトが適任とルウが判断し、ダイトがやや怒りに肩を震わせながら、対応することになった。
「ほらぁ、お嬢ちゃん、飴玉だよ」
「ふざけんなオッサン! 今どきこんな飴玉なんかで誰が釣られるか、バーカ! 頭悪いんじゃないの、このボーケ!」
またしても怒りに肩を震わせるダイト。
「ふ、ふざけるなぁ! いくら子供だからと、容赦しねーぞ!」
「こらダイト。子供が言うことなんですから」
「ほほう、このお嬢さんは洞察力に長けていますね。残念ですがダイト君、全ては真実ですよ。潔く受け止めなさい」
「な、なんだとぉぉ!!」
「やめなさい二人とも!」
ミレイからしてみれば、目の前にいる三人全員が子供のように見えた。この二人に任せては解決できる問題も解決できないと判断したミレイは、独自の解決方法を模索した。
「ねぇ、私はあなたの味方よ。だから、安心してお話してくれないかな?」
「うっせぇブース!!」
「私には、そんな暴言で反応するようなことはありませんよ。あなたは子供ですから、何を言われようと、感情的にはなりません」
ミレイはダイトとは違い育ちがいいためか、汚い言葉に対しては何の反応も示さないよう教育されていた。マーナの言葉に対して嫌な顔一つしていない。ここがダイトとは根本的に違うところである。
「フーン。それなら別の手よ。そうね、あなたが好きな人は・・・」
「キャー―――!! わかったわかったわかったわかったから、それ以上は言わないでーーー!!」
いつものミレイからは想像もできないほどあたふためく。やはり、時代年齢問わず、女の子は恋愛に対しては敏感なようだ。突然ミレイの態度が変わったため、ダイトだけでなくルウですらあっけにとられていた。
「な、なぁミレイ。お前が好きな人って・・・」
「お黙りなさい!!」
「は、はい・・・」
いつになく迫力を出すミレイである。目がまるで通り魔のように血走っていた。ダイトにとっては蛇に睨まれた蛙となった。
マーナを落ち着かせる手立てとして、残るカードはルウだけとなった。
「え、私が尋問するのですか?」
「お願いです。もはやルウさんしか頼める術はありません。ルウさんなら、特殊な魔法でこの子からお話を聞けそうな気がします」
子猫を撫でながら、やや面倒な表情を見せたが、ミレイの要件を引き受けることにした。
「わかりました。ではまず自白剤を飲ませたいので、ミレイさんとダイト君であのお嬢さんの口を押えて・・・」
「やめてください! 何考えてるんですか? 子供相手にそんな強引なことはいけません!」
ルウのぶっ飛んだ提案にミレイが慌てて止めに入る。まして、ルウなら冗談ではなく本気で自白剤を飲ませそうな気がしたミレイは、尚更強く止めに入った。
「わかりました。では、和平交渉といたしましょうか。やむをえませんが」
ルウが遠い目をしたのをミレイは見逃さなかった。まさか、私が止めなかったら、本当に自白剤を飲ませるつもりだったのだろうかと、疑心暗鬼になっていた。
「私からいくつか聞いてみましょう。その前に、あなた、お名前は?」
「マーナ」
「マーナさんですか。では早速、一体なぜこれだけの人間を刺すのです? それも、ただ殺すのではなく、決まって刺殺と来ています。先ほど私が話した大量破壊兵器を使用しない件についてもですが・・・幼女のあなたには難しい話でしたか?」
「わたしわかるもん!」
幼女はダイトやミレイの時のような難癖をつけることはなく、ルウの言葉にすんなり受けた。ダイトはルウに対して幼女であるマーナが心を開いているような気がして、何となく嫉妬していた。なぜ俺には心を開いてくれなかったんだ、と。
「これは頼もしい。では、話を続けましょうか。と言っても、答えは見えているので一言で言いましょう。マーナさん、血を見たいがために人間を刺しているのではないですか?」
しばしの沈黙が流れた。
「血を見るですって、そんな狂ったことがあるのですか?」
ミレイがそんなバカげた状況があるかと思った矢先。
「正解よ」
「えっ」
三人は幼女が発した言葉に耳を傾けた。
「私ね、人間の血を見るのが、な~によりもだいっすきなのぉ」
ミレイとダイトが驚愕する。まるでホラー映画のような釈明に、嘘をついているのではないかと。
「血ね・・・」
ルウがしばしの沈黙ののち、ある結論にたどり着いた。
「分かりました。あの幼女が考えていることを。恐らく、昔の私と同じ考えですね」
ミレイが仰天した。
「ルウさん、あなたはこれまで何をしてきたのですか!」
「おっと、口が滑りました。今の話はなかったことにしてください」
「・・・・・・・」
「そう簡単には、忘れてはもらえませんか・・・」
半ばあきらめの気持ちで、ルウは受け止めた。
「マーナさん、人間の血で作ったカクテルを飲んだことはありますか?」
「ルウさん、何考えてるんですか!」
ミレイが声高らかにルウを軽蔑した。
「本当に、何考えてるんだ、あいつは」
ミレイに続き、ダイトもルウたちの吸血鬼のような会話にはついていけなかった。
「リンゴジュースと混ぜて飲んだことはあるけど、やっぱり血液100%が一番ね」
「おや、気が合いますね。私も血液をストレートで飲むのが好きです」
「「・・・・・・・・・」」
スプラッターな会話のキャッチボールに、ミレイとダイトは言葉を失っていた。
「では、人間の血で作ったお風呂に入ったことはありますか?」
「えーそこまではないなー。そんな夢のお風呂に入りたいなー」
「人間の体温は36度前後のため、お風呂にしては少しぬるいですがね。私の場合は少し炊きなおしましたが」
「き、気持ち悪い・・・」
ミレイはルウたちの話を聞いているうちに、血で満たされたお風呂に浸かったことを想像した結果、身体の内部がゾクゾクしてきて、身体が震え始めた。吐き気をこらえるのがやっとで、両手を口に当てていた。やがて全身から血の気が引いていく感覚がはっきりと認識し、立っていることが困難になった。最後には、ミレイは失神した。ミレイの頭が地面に打ち付けないよう、ダイトがミレイを支えていた。
「おや、ミレイさんは失神してしまいましたか。無理もありませんね。人間の血を簡単に出しては、その人は死んでしまいますからね。本能で血を出さないよう危険信号を身体に送っている影響が現れたのでしょう」
ルウとダイトで、ミレイを公園のベンチで横に寝かせた。マーナが逃げ出すことのないように、ルウが絶えず彼女を監視しながら。
五分ほどしたのち、ミレイがゆっくりと目を開けた。
「おい、ミレイ、気分はどうだ?」
「えぇ、なんとか大丈夫。ルウさんの話を想像したら気持ち悪くなったけど、とりあえず落ち着いたわ」
身体が小刻みに震えているのを見たルウとダイトは、彼女がまだ本調子ではないと悟った。




