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【本編完結】愛だの恋だの面倒だって言ってたじゃないですか!  作者: ぱっつんぱつお


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再会、愛しきもの


「すみません、ミハエルさん。用もないのにわざわざ……」

「いえいえ! 慣れた道ですし千聖さんなら何処へでも迎えに行きますよ!」

「うわー、調子良い~。さっすがミハエルさん」

「ど、どういう意味です??」


 紳士にエスコートしながらミハエルノウマへ案内するミハエル。

(毎度毎度ややこしい……!)

 今日は週に2回の神殿へ向かう日だが、ハント公爵は忙しいようで昨日から帰ってきていない。予めハント公爵がミハエルを手配していたみたいで、時間より少しだけ早く迎えに来てくれた。

 神殿へ行ったところでアロマオイルは完成していないから、ローズおばさんと少しお話してハーブに水やりをしたらあとは書庫で時間を潰す。城の庭園を散歩したり、メイド達と洗濯物を干したりおやつを食べたり、結構楽しい。


 まぁ所謂(いわゆる)バイトも大学も無いから暇なのだ。

 ただ“暇感”を醸し出すと公爵家の人達に勉強させられるからとりあえず神殿へ行く。

 馬も一人で乗れて、もっと行ける場所が増えれば選択肢が広がるだろう。いまはまだ少しの辛抱。


「聞きましたよミハエルさん。年上の女性達に上手く取りってるらしいですね」

「な、はい!? 誰がそんな事を!?」

「ハント公爵です」

「だ、だんちょぉ~~! 酷いなぁもう……」

「わぁ~、私も気を付けよ~」

「団長の婚約者様に何もしないですよ!」


 ミハエルは私と同じぐらいの年齢かと思ったのだが、現在18歳らしい。

 私の世界ではまだまだ遊び盛りだが、この世界の貴族では結婚を考える歳のようだ。それが女なら尚更。

 犬系男子であるミハエルはエスコートなどふとした時のギャップで女を落とすのだろう。本当にズルい奴だ。

(私は騙されないぞっ!)

 犬系というか犬なミハエルは、主人の言うこともよく聞くし、空気を読んで機転もきくし、部下としても扱いやすいだろうな。ハント公爵がミハエルをこき使う気持ちも分かる。


「それでミハエルさん。良い女性は見つかりましたか?」

「人を女漁りみたいに言わないで下さい! 私は別に狙ってそうしてるんじゃないですよ。仕方無いです、弟なんですから」

「上にはお姉ちゃんが?」

「はい、そうですね。三人姉弟の一番下です、あはは……」

「ミハエルさん天然でそれやってるとか。尚更恐ろしい~」

「ちょっと千聖さぁん、止めてくださいよ~~」


 久し振りのミハエルいじりで私も少し楽しくなって、和気あいあいと神殿まで向かっていたのだが、突然──、ぴたりとミハエルノウマが止まる。同時にミハエルが「っ千聖さん……」と、声で分かるぐらい強張っているではないか。


「ん? どうしたんですか?」

「うぅ、あれ……たぶん……」

「なんです?」


 ミハエルは目の前を指すのだが、男性の背中で私からは見えない。

 すこしだけミハエルの肩を借りて、ぐっと目の前を覗いた。

 50メートル程先、ちょこんとお座りしている黒いわんこ。


「あ! あ、あ、あああ、あぬびすぅ~~」


 初っ端大声を出してしまったのだが、驚かせてはいけないとなんとか声のボリュームを下げた。ミハエルは驚かせてしまったが今はどうでもいい。

(私には分かる! あれがアヌビスだと!)

 今行くぞっ!とミハエルノウマから飛び降りて、研究者用のワンピースを少し捲し上げて小走りで向かった。


「ひぃい! 千聖さん少しは自重してぇ~! 私が怒られるんですからぁ~~!」


 後ろで何か言っているが私には届かない。ちゃんと聞こえているけど聞こえない。

 アヌビスの2メートル手前まで辿り着くと、しゃがんで目線の位置を合せてみる。いきなり近くまで行くと警戒するだろう。

(でもっ、あの顔はどう見ても喜んでるっ!)

 舌を出して笑っているアヌビス。その姿のなんと愛らしいことか。

 少し成長したのかこの前会ったときより一回り大きい。

 そっと手を地面すれすれに出すと、やはりまだ少し警戒しているのか、おずおずと近寄ってくる。

(うーーっわ。かわいい。えげつないほど可愛い。来ちゃうんだ。でも、来ちゃうんだ。可愛すぎて失神しそう)


 とん、と濡れた鼻先が手のひらを嗅いで、ちらりちらりと上を見てくる。

 これは失神してもおかしくないやつだ。萌殺す気なのかこの犬は。


 どきどきと高鳴る心臓。

 ついに、ついにその美しいマズルを、

 私は、(触ったー……!!)


「はぁっはぁっ、かわいいっ、くそう、かわいいっ……」


 顔や首周り、優しく撫でればアヌビスの瞳が笑う。

 私の手の感触を気持ち良さそうに感じている。


「アヌビス、アヌビス、お前の名前はアヌビスだからな。アヌビスぅ~、可愛いねぇ~~」


 私は今、でれでれとだらしない顔になっているだろう。

 そんなもの構うものか。こんな顔にさせるアヌビスが悪いのだ。


 それから10分ほど撫でていると、森の奥からアオーーンと遠吠えが聞こえた。

 その声にピクリと反応したアヌビスは私と目を合わせる。

(あ~~、分かっちゃう~、理解しちゃう~、アヌビスの伝えたい事がすぐ分かるぅ~~)


「もう、行かなきゃなんだね。また会える?」


 恋しく頬を撫でると、アヌビスはにぱっと笑う。

(お前は可愛いが過ぎるかよぉ~、罪深き生き物めぇ~~)


 アヌビスは最後に、脚が治ったことを伝えたかったのか私の目の前でくるくる飛び跳ねてまわり、森の奥へと駆けていく。

 真っ黒な身体は森の影とすぐに溶けて、見えなくなったのだった。

 ミハエルは「ちょっと千聖さん有り得ないですって……!」と顔面蒼白だったのは言うまでもない。


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