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異世界でも私、頑張って幸せになる!~転生少女は世界平和はともかく自分の幸せの為に精一杯なのです~  作者: 高丘楓


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side.フレイヤ 王妃と聖女と魔法使い

ヒュームゼス王国王妃、フレイヤ視点の話になります。

 私の妹は、天真爛漫で、無垢で、無邪気で、春の陽光のように優しく温かいときもあれば、秋の夕暮れのように何かに物憂げに想いを馳せるような静かさも持っていた。

 私はそんな妹が大切で仕方なかった。


 ヒュームゼス王国からすれば小国ではあるが隣国でもある、有名な魔法使いを多く輩出しているリュミエナ王国の王家であるカローリナ家の長子として生まれた私は、幼い頃からヒュームゼス王家の長男であるアブソリウス様の婚約者として両国を行き来し、王妃となる為の教育を受け続けていた。


 私には弟妹がいて、一人は双子の弟でカローリナ家長男の王位継承権を持つ弟、ウィルフリード。

 そして妹はレティシア。


 レティシアは五つ違いの妹で、私もウィルも大切にしてきた。

 姉弟仲は悪くはなかった筈だ。

 レティシアはよく、お姉様お姉様と言って私の後をついてきたり、お兄様と言ってウィルの膝に座ったりもしていた。


 レティシアには特別な力があった。

 無垢な美しさは可愛いという言葉が似合い、万人を惹き付ける。そして、人よりも神聖魔法を使う能力に長け、気が付けば聖女と呼ばれるようになっていた。


 ヒュームゼス王国でもレティの噂はすぐに広がり、私の婚約者のヒュームゼス王国の王太子であるアブソリウス様も知っていた。

 おそらくアブソリウス様はレティに対して好意を抱いていただろう。私と一緒にヒュームゼス王国を訪問していたときには、婚約者である私よりもレティの方をエスコートしようとしていたくらいだ。妹が可愛いのは認めるけど、それは許さない。

 妹には自由恋愛で自分が好きだと思える人としっかり結ばれて欲しいと思っていたのだし、レティシアは正直、アブソリウス様のことを怖い人もしくはなんか苦手な人と認識していたと思う。それでも私と一緒にヒュームゼス王国に訪問していたのは、彼女がお姉ちゃんっ子だったから。ただそれだけ。

 そんなことがあったから、レティシアが狙われないように私とウィルが全力で阻止はしていた。


 私の婚約が公に発表された頃からレティの生活も変わりつつあった。

 リュミエナ王国にはプラナージュ様を祀る神殿があり、レティは王族でありながらも大神殿にも所属し、人間の国の各地の戦場を慰問するようになった。


 本当はそんな危ないことをしないでほしいと思ってはいたが、本人の希望と、リュミエナ王国でも腕利きの騎士として名高い、近衛騎士団の一人を護衛に付けるということで彼女は慰問の旅に出た。


 時々届く彼女からの手紙には、なんとか頑張れていることや、戦場の様子に心を痛めていることなどが綴られていた。それでも、自分を必要としてくれている人達の為に頑張ると。

 そんなやり取りが半年以上続いたある日、ハイドレジア渓谷の戦場を発ったレティ達の一団が魔物に襲われ、助けを呼ぶために一人逃がされた若い修道士以外全員が安否不明という事態になってしまった。

 私もウィルも、父上も母上も全員がレティシアのことを心配し、アブソリウス様も同じように心配して下さった。


 レティシア達が行方不明になり、王国も全力を挙げて捜索に当たって一か月が経ったとき、彼女らは帰還した。

 護衛だった近衛騎士も怪我を負って戦える状態ではなかったが、しっかりと治療を受ければまた戦えるようになるだろうという見込みもあった。

 レティシアが頑張って負傷者に回復魔法をかけ続けていたのだろう。


 だけど、レティシアは帰還後から様子がおかしかった。

 いや、元々どこか浮世離れした天然さはあったけど、それとは違うおかしさ。


 誰かを想い、静かになる。


 レティシアだけではない。近衛騎士も、一緒に慰問の旅に出ていた一団全員の様子が違ったのだ。




 アブソリウス様との結婚を目前に控えたある晩、レティシアが私の寝室を訪ねてきて、泣きながら私に抱き付いてきた。


 「お姉様、私、私…………」

泣きながら言葉を紡ごうとする妹に、私は頭を撫でながら静かにその後に続く言葉を待った。


 「…………バルと生きたい…………」


 と言われた瞬間、頭によぎったのは、『誰?』の一言だけだった。

 いや、だって仕方ないじゃない。いきなり知らない名前叫ばれても。

「えっと、えぇっと……、レティシア、とりあえず落ち着いて、一から私に説明してちょうだい。急に固有名詞が増えても、流石の私もわからないことだってあるし、対処できないわよ?」


 落ち着かせて話を聞くと、バルとは、魔物に襲われた時に遭遇して助けられ、共闘することになった獣人の一団を率いる者の名前だった。


 「で、レティ達はその獣人達と一緒に魔物と戦って、仲を深めて、人間と獣人の共存を実現したいと思ったってことね……」

「はい…………。お姉様、私…………」

「…………んー…………まぁプラナージュ様の教え的には全然アリだからアリだと思うけれど、アリなの?」


 大体の話は分かったけど、宗教的にも大丈夫なんだけど、大丈夫なの?と、自分が不安になってしまう。一応人間側からすれば敵対している相手だし、相手もそうだろうけど。

 でも、大切なレティが会えなくて沈むぐらいには相手のことが好きなんだろうと思うと、姉として応援してあげたくもなる。


 「まぁアリか。アリってことにしよう。でもまぁ、私が言うのもなんだけれども、獣人のどこが良かったの?一応人間代表のヒュームゼス王家に嫁ぐ身としては聴いておきたいのだけれども」

「…………お姉様は、反対……ですか?」

「えぇっと…………反応に困るのは確かね。私自身、獣人は敵と教えられていた部分もありますし、実際リュミエナも獣人と戦っています。両手放しで良いとも言えないことであるのは確かね」


 私の反応を見てレティシアは少し俯き、そして頬を染めながらもじもじする。

「獣人の方は怖いと、確かに私もそう教えられながら生きてきました。…………でも、バルは、バル達は怖くなかった……。私達と一緒に悩んで、笑って、戦って、悲しんで、怒って、一緒だった……。………………平和がいいって、言ってくれた………………」


 何も言わずに聴き、そして、艶やかな金糸のような髪の毛を撫でる。

「そしたらね、もっとバルのこと知りたいって思った。…………お姉様、私、人間失格なのかな?」


 答えを返せない。

 獣人との共存を考えたことが無かったわけじゃない。

 ただ、想像がつかなかったのだ。


 「あなたと……。あなたと一緒に行動した人間の皆はどう思われているのですか?」

「…………わかりません…………。でも、エヴァンは賛同して下さいました。共に旅をした者達は皆、私の考えに賛同して下さいました」

エヴァン―――。レティシアと共に行動した近衛騎士の青年か。それに神殿の者達も。


 ならばこれは一つの、時代を変える流れになるのかもしれない。


 「…………私の結婚式が終わってしばらくしてからにしなさい、国を出るのは。…………せめて私の晴れ姿を見て、それからに。………………私の方でも手を回せるところには回しておきます。父上や母上、ウィルにも。だからレティ、あなたはあなたの幸せを」

「お姉様……。……ありがとうございます!」


 それから私はアブソリウス様と結婚し、ヒュームゼス王国の王太子妃となった。

 結婚式は両国を挙げて盛大に行われ、レティシアも私のことを祝福してくれた。


 そして、私の結婚から半年、レティシアが旅立つ日が来た。


 外交の用事ついでにリュミエナ王国に里帰りしたその日の夜中、王都の外れで出発する準備をして集まっていたレティシアに賛同する者達と顔を合わせ、全員を一人ずつ静かに抱擁する。


 「貴方達の気持ちは十分に理解しているつもりです。獣人達との共存。それがもし本当に可能なら、この世界の争いも減り、少しずつでも世界は女神プラナージュ様が願う平和に近づいていくでしょう。―――獣人達との戦争に際し、人間側の筆頭となっているヒュームゼス王国の王太子妃となった私には貴方達を表立って見送ることはできません。しかし、レティシア・カローリナの姉として、私は妹と貴方達の判断を大切にしたいと思っております。いつか、人間側の代表として、獣人と手を取り合って生活している貴方達と手を取り合える日が来ることを、私は願っています」


 この場に集まった、レティシアやエヴァンを含む三十人ほどの者達に、私は静かに語りかけ、そして、希望を託す。


 妹が望んだ未来を、私も見てみたかったから。

 いつか、妹が胸を張ってバルという獣人を私に紹介できる日が来るのなら、私はそれを楽しみに待っていよう。

 父上も母上も、ウィルも同じ思いだ。


 「お姉様……。いえ、フレイヤ様。私も、いつか貴女と笑って手を取り合える日を心待ちにしています。どうかお元気で」


 礼をして出発する一団の背中に、女神プラナージュ様の御加護があることを祈る。

 聖女と呼ばれたレティシアがいるのだから、きっと大丈夫だ。

 彼女は女神プラナージュ様と同じ希望を持ち、それを実現できるだけの、人間としてはトップクラスの魔力だって持っている。


 表向きにはその日、レティシア達は女神プラナージュ様の御意志を辿る、いつ終わるかもわからない巡礼の旅に出たことになった。

 神殿に所属し、聖女と呼ばれ、戦場を慰問したという実績があったからこその辻褄合わせ。その結果、レティシアの聖女としての株は更に上がることになった。





 「人間と獣人が共に暮らしている村を発見した……か…………」

今から三年と少し前に受けた報告に、私は頭を悩ませた。

 この情報が今私の手元に来たということは、少なくともこの国と、その方向性に賛同する多くの国はその村の排除に出るだろう。


 私はしばらく思考し、内密で宮廷魔導士のベルンを呼び、転移魔法で急遽リュミエナ王国に発った。


 宮廷魔導士のベルン・タナセアム。転移魔法を使用できる数少ない魔導士で、性格は多少融通の利かないところもあるが真面目で温厚。

 魔法の勉強の為にリュミエナ王国の魔法学院に在籍していた。その時代に彼はレティシアに助けられたという恩があり、彼女の為になるのならばと、私の意向を色々と汲み取って動いてくれる。


 現在リュミエナ王国の王は父上ではあるが、弟のウィルフリードも王太子として職務に当たり、ある程度の実権を与えられている。

 私はウィルと二人で話し、レティシア達の救出の為の作戦を練る。

 結果としては派兵される者達の中にこちら側の人間を紛れ込ませ、現地でレティシア達を保護するか、現場を混乱させた隙に逃がすということになった。


 結果は、報告上村はせん滅され、生き残りは村の人間と獣人達が逃がした半獣人の子ども達だけだと言われた。

 しかし、実際は―――。


 有名な魔法使いを多く輩出するリュミエナ王国。派兵した者も例外なく便利な魔法を色々と使える。

 そして、レティシアと共に出て行った者達もまた、その多くが魔法を使え、中でもレティシアは様々な魔法を使いこなすことができる。


 レティシアはリュミエナ王国や近隣諸国では、神殿に所属し、普段は神聖魔法を多く使うことから聖女という二つ名が通ってはいるが、実際はそれだけではない。

 彼女の適性や使用する魔法が回復魔法などの神聖魔法というだけで、他の魔法が使えないわけではない。

 人より多い魔力があるということは、たとえ彼女の村の者が傷つけられたのなら、即死しない限り何度も回復させて戦わせることができる。

 そして、彼女は攻撃魔法はあまり使わないが、幻術系や防御系の魔法も使いこなすことができる。


 レティシアがこちらの兵とコンタクトを取り協力をすれば恐らく、そこらの兵士達を欺くのは容易いだろう。


 「―――どうにか生き延びてくれたみたいね、レティ」

閉じた瞼の裏には、別れた時の彼女の穏やかな顔が浮かぶ。

 私達が、いつか手を取り合える日を望みながら―――。




 そして、この春に一人の少女が宮廷魔導士としてヒュームゼス王国に仕えることになった。

 ユワ・シノゴゼ。

 小国出身だという彼女は、その魔法の才を認められて我が国の宮廷魔導士として登用された。

 初めて会った彼女はどこか私の妹に似ていて、会えなくなって久しい彼女の面影を感じることができた。


 だからだろう。私は彼女を誘ってお忍びの城下探訪に出掛けたり、行動に付き合わせることが多かった。


 平和になったらレティシアとしたかったことをユワと一緒にして、少しだけ気を紛らわせて。


 しかし、そんな穏やかな日々は長く続かなかった。


 アブソリウス様が出した命令により赴いたコリジアータ平原で、ユワは死んだ。

 コリジアータ平原を任されていたゼス・フォートナムからの報告では自ら死ぬ道を選んだとのことだった。


 動揺を隠せず、私はベルンに支えられながら城へと戻り、一人思考を巡らせる。

 ケネスが発案した王の命令は彼女をそこまで追いつめてしまっていたのか。

 あの明るくて純真で天真爛漫な娘を戦場に追いやり、慰み者として使おうとして。


 普通なら宮廷魔導士の新人を使い潰すようなことをするはずがない。

 宮廷魔導士になれるレベルの魔法使いはそうそう現れるものでもない。その貴重さは彼だって十分理解しているはず。


 なら、完全に一方通行の私情のもつれでしかない。あのバカ息子は。


 そして、もう一つ。

 果たしてユワはそう簡単に自分から死ぬことを選ぶだろうか?


 この約二か月共に行動してわかったのは、彼女は明るく、自分からそういった道を選ぶタイプではないということ。そして、ケネスのことを、第三王子という立場を知っていながらも軽くあしらい続け、それを気にする様子も無いほどさっぱりしている。むしろ、いつか軽い仕返しくらいしてやろうという強さを持っているタイプだ。


 わざわざ死ぬことを選ぶなんて、彼女らしくない。


 となれば、あぁ……そうか。


 ユワちゃん、コリジアータ平原に行ってから、無事に戻ってきてからの柵が面倒になって逃げたかしら。


 ケネスとの面談の後にベルンにも言っていたみたいだし。

 何かあったら『全力で逃げるから安心して下さい』って。


 そんなことを言いながらも、コリジアータ平原の兵達の労働環境を整えたりして、王から命令されていた兵達の支援をして士気を向上させること自体はちゃんとこなしているあたり、真面目な子ではあるのだけれど……。


 私は少しだけ、あのときの涙を返してほしいと思いながら、軽く溜め息をついた。

 ベルンが言っていたわね。

 ユワはあらゆる魔法に適性があって、魔力も、レティシアを超える程持っているって。


 それなら、私達を欺くなんて簡単なことよね…………。


 でも彼女のことだ。いつか何も無かったかのようにひょっこり顔を出して、そのときには何があったかを笑いながら教えてくれるだろう。

 でも、私達を騙したことはちゃんと叱らないと。

 一言相談してくれていたら、もう少し違う解決方法もあったかもしれないのだから。




 そして数か月が過ぎ、城での変わらない日常の中に大きな変化の報告を受けた。


 コリジアータ平原に派兵していた者達の全滅という報告を―――。

久しぶりの更新になり、申し訳ありません。

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いつも読んで頂き、本当にありがとうございます。

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