第2話 異世界で新社会人デビューしたけど上司の上司ら辺がヤバいらしい
「本日からこちらの配属になりました、ユワ・シノゴゼです。よろしくお願いします!」
第一印象は良いに越したことないし、元気よくハキハキと挨拶をする。
王城の一室、宮廷魔導士達が集まる部屋に響き渡る私の声。
「シノゴゼ、王城内ではもう少し声を控えめに。王族や貴族達に聞かれると、下品だと評されてしまいますよ?」
私をこの部屋に連れてきて挨拶を促してきた上司の男性は、メガネをクイッと人差し指で上げ、私に注意してくる。
「申し訳ありません。元気な挨拶は基本だと思っていたので……。以後、気を付けます」
私は一礼して詫びた。
「元気なことは良いことなのですが、場所を考えて下さい。では、業務内容についてお伝えしていきます。今日は基本的に私の下で勉強して頂きます。一日の業務の流れ、他の部署との連携方法、タイミングが合えば王族の方々への挨拶も」
「よろしくお願いします」
部屋で目を覚ますと、テーブルの上にエドレシスからの置手紙が置いてあった。用意してある国の紋章が刺繍されているローブに着替えて登城しろと。そして、大体の流れは神パッドにリマインダー登録とマッピングしてあるから確認してね、と。
その指示に従うように支度をして、準備されていたローブを身に纏う。
姿見で全身を確認し、エドレシスが調整したこの肉体が本当に可愛いなぁと改めて実感する。
四御神優羽時代の髪質より柔らかめでふわっとしていて、全体的に軽い。肌も、エドレシスまでとはいかないけど、白く透き通ったような綺麗さで、なんとなく魔法少女モノの主人公になったような気持ちにもなる。
思考を切り替え、椅子に座りながら神パッドを起動させる。
脳内に展開されるタブレットの画面を操作し、自分のやるべきこととその予定を確認し、ついでにこの国の簡単な概要も検索する。
ヒュームゼス王国。人間の国の中では一番大きく、他の人間の国を纏めている人間連合の中心国。国王はアブソリウス・ヒュームゼス。獣人を滅ぼすという目標を掲げ、人間達をまとめている。人間には善政をしっかりと行っているということから、人間サイドからは慕われている。
ただ、ぶっちゃけ正直、関わり合いにはなりたくないタイプの人だ。
宮廷魔導士の一番の上司は王様だっていうことは理解しているけど、それでも。
「思っていたより呑み込みが早いな。いいことだ。では、次は王族の方々への挨拶だ。予定を確認したら何人かは昼から会っていいと言われた」
上司であるベルン・タナセアムさんに付いて午前中は書類仕事を手伝ったり、業務内容マニュアルを読みこまされたりして、予定していた就職先よりも楽そうな事務仕事を教えられた。
宮廷魔導士の一番面倒なことは、王族の命令に合わせて戦闘に参加しないといけないということだ。
流石に新人の私がすぐに戦場に送られることも無いだろうし、宮廷魔導士は基本的に王族の護衛を主としているから、前線に立たされるなんてことも殆んど無いらしい。
丁度午前の業務が終わり、昼食後に挨拶回りをすることになった私は、城内にある城勤めの者達が利用できる食堂へと足を伸ばし、人生初の異世界料理を食べることとなった。
よく異世界料理はマズいとか原始的とか色々な物で読んだり見たりしたことはあったけど、実際に出されたモノは普通の料理だった。
ベースは西洋ファンタジーみたいな世界なこともあって、和食でもないけれど、基本パン食派だった私としては特に気にならなかった。
そのうち『故郷の味が食べたい!』とか言いだすかもしれないけれど、そのときは最悪、魔法創造の力を使って和食を出せばいいだけだ。多分できる。ざっくりと神パッドに訊いてみたら、普通にできるって回答していたし。
王城ということもあって、食事の質も良い。ランチで一食千五百円ぐらい普通にとれるレベルのおいしさだった。
「では、これから王妃、第一王子、第三王子の順番で挨拶に回る。決して失礼の無いように」「はい」
「シノゴゼ、先に伝えておく。第三王子には気を付けるんだ」
王城の通路を歩きながら、ベルンさんが私に小さな声で話しかける。
「何があるんですか?第三王子に」
「彼は女好きで嫉妬深い。気になる女性が居たら自分のものにしようとする。私は、……君は、かわいい方であると思っている。だからこそ、彼に気に入られないように気を付けてくれ」
ありがとうベルンさん!
私もこの姿は可愛いと思っています!エドレシス、あなたの作ったこの肉体、確かに可愛いっていう評価もらえたよ!!
私は上司の言葉に感謝しながら軽くお辞儀をして、気を付けておきますと一言静かに返した。
「この度、宮廷魔導士として王家に仕えさせて頂くことになりました、ユワ・シノゴゼです。皆様のお役に立てるよう頑張ります。どうぞよろしくお願いいたします」
相手の目を見ながら挨拶を述べ、終わりと共に深くお辞儀をし、相手の許可が出るまでその姿勢を維持する。
「ユワ、ベルンも。面を上げなさい」
先に私を紹介してお辞儀をしていたベルンさんと一緒に姿勢を正し、王妃の顔を改めて見る。
王の正室で、隣国の王女であった女性、フレイヤ・ヒュームゼス。
歳は私の母親と大差ないように見えるけれど、気品と穏やかさが溢れ、それに引っ張られるかのように美しく、歳を感じさせないくらい若々しく見える。
「宮廷魔導士の登用は数年に一度あるかどうかです。その魔法の才、国の為、臣民の為に使って下さいね。ベルン、しっかりと彼女を育てるのですよ?」
『はい』
私とベルンさんの声が重なり、二人同時に返事をする。
「あと、ユワ。貴女はとてもかわいらしいわ。まるで花の精霊のように。だから先にお伝えしておきます。第三王子には気を付けなさい。私からも注意はしているのですが、なかなか…………」
すみません王妃様。
さっきベルンさんからも注意を受けました。
そしてまだ見ぬ第三王子よ、皆からそう思われているうえに母親も庇わないレベルっていうのは正直どうかと思う!
お母さん悲しませたらダメでしょ……。
王妃様との面談を済ませ、次は第一王子との挨拶となった。
先程と同じような挨拶と動作をし、第一王子であるニコラス・ヒュームゼスに許可を頂きその姿をしっかりと見る。
イケメンだった。キラキラしたエフェクトが付きそうなくらいには。
甘く端正な顔に、光を孕んで輝く金糸のようなサラサラの髪。ザ・王子様というような清廉さをその身からオーラのように放っていた。
年齢はベルンさん曰く十九歳で、婚約者との結婚も間近らしい。
この国というか、人間サイドは十六歳で成人して働きに出るのが普通で、二十前後で結婚する人達が多いと、神パッドは私に教えてくれた。
でも私、わかった。
神パッドにも載っていない情報を。
―――この世界、というか王族関係者、総じて美男美女が多い!
アイドル集団の中に紛れ込んだような、そんな錯覚さえする。
「ユワ。これからは王国の剣として尽力してくれ」
「はい」
「あと、これからケネスのところに行くのだろう?…………十分に気を付けてくれ。アイツは婚約者がいるにもかかわらず、他の女性にも手を出そうとしてしまう悪癖がある……」
ごめん、ホントごめん。
知ってます。もうすでに二人から忠告されています。
あなたで三人目なんです……。
私は心の中でニコラスに謝りながら第三王子の部屋へと向かっていったのだった。
そして、運命の第三王子の部屋の前で私は深呼吸をし、ベルンさんが扉をノックする。
「誰でしょうか?」
「宮廷魔導士のベルン・タナセアムです。新しく宮廷魔導士となった者を挨拶に連れてまいりました」
数秒間を置いて扉が開き、メイドがどうぞと私達に声をかける。
扉の向こうには数人のメイドと護衛の女性騎士が立ち、彼女達に囲まれるようにケネスが座っていた。
なるほど、確実に女好きだ。
顔はニコラスに似ているけど、根本的に何かが大きく違う、というか違和感しかない。
気品さも高貴さもあるんだけど、下心が滲み出ているというか。
しかし、どんな人間でも上司は上司。
私はベルンさんの挨拶に続いて、本日三度目の定型文で挨拶をする。
「この度、宮廷魔導士として王家に仕えさせて頂くことになりました、ユワ・シノゴゼです。皆様のお役に立てるよう頑張ります。どうぞよろしくお願いいたします」
同日投稿できるとは、自分でもちょっとびっくりしています。
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