第1話 くしゃみとかうっかりミスとか酷すぎない?
その日は、待ちに待った新しいタブレット端末を受け取る日だった。
親が大学の卒業祝いと就職祝いを込みで買ってくれることになった、特別なタブレットだ。
予約していた超ハイエンドモデルの最新機種は、タブレット端末の中で今まで実現されなかった大画面で、従来のモデルより軽量で、更に本体のストレージ容量も二倍以上。その上処理速度も向上してストレスなく使えるという素敵性能!別売りの専用ペンを使えば、タブレットの液晶の上なのに、紙に書くのと変わらないレベルで字が書けるというレベル。
予約も抽選で、宝くじレベル……とは言わないけれど、それなりに当選率が低い。
つまり、買うのがめっちゃくちゃ大変だったってことだ。
それなのに、何故…………。
なぜ――――――。
「四御神優羽。私は女神エドレシス。貴方に伝えなければならないことがあります」
死んだと思った瞬間、気が付けば無重力の宇宙のような場所に浮いていた。目の前には神々しいオーラを放ちながら静かに語り出す女性が居る。
満開に咲き誇る桜のような長く柔らかい髪。淡雪のように透き通る白い肌。
美しさの中には儚さもあり、見る者を老若男女構わず魅了するような、テレビでもネットでも見たことの無い美しさの化身のような女性が。
「ごっめーん。こっちの手違いでぶっちゃけ殺されちゃった!」
しかし、底抜けに明るい声で謝罪しているようで謝罪していない様なセリフをぶつけてくる自称女神に対し、私は軽い殺意を覚えた。
四御神優羽。
職業、市役所の職員―――になるはずだった。
享年二十二歳。
死因、心筋梗塞(原因、自称女神のうっかり)。
「優羽ちゃん怖い顔しないでよー。優羽ちゃんすっごくかわいいんだからぁ。ね?ね?」
「可愛くったってなんだって、もう死んじゃったから関係ないですよ。誰かの手違いでね!」
桜色のふわっふわな長い髪の毛をかわいらしく振りながら、自称女神は何かを必死に否定しようとする。
否定すんな。お前の所為だお前の。
「ちゃ、ちゃんと色々考えてあげてるんだから!まず、ご両親が寂しくならないように、この後二人の間に赤ちゃんが生まれることにします!次は男の子。やったね優羽ちゃん。弟が生まれるよ!あと、ちゃんと保険対象だから優羽ちゃん死んでもお葬式はちゃんと開けるよ!」
「いや、うちの両親確かにまだ若いけど、今から産んだら弟成人する頃には年齢区分がもう高齢者よ!?というか、私居ないところで弟生まれても、私可愛がれないじゃん!……まぁ、お父さんとお母さんがそれで泣かなくてもいいんだったら、それはそれでいいんだけどさ……。…………私が死んだあとにやることやってる両親もちょっと想像したくないな……」
「それが生命の営みってものよ、優羽ちゃん。人間は寂しさを紛らわせるためにそういうことするって、ちゃんと知ってるんだから。ドロドロ系のレディコミで見た」
神様がドロドロ系のレディコミ見んな。
なんというか、見てもいいんだけど、神性とかは大事にするべきだとは思う。
「というか、なんだかんだで私が居なくなった方の世界のアフターケアばっかりで、私自身に対してなんか補償とかないんですか?……両親からのプレゼントの最新型タブレットも使えないし、明日から新社会人だったし、…………これから彼氏作って人生楽しもうぜヒャッハー!だったのに」
ジト目で自称女神を睨みつつ、恨み節をつらつらと紡いでいく。
人生これから楽しもうという、いや、まぁ学生時代とかも楽しかったけれども、とにかく、これから始まる新生活が楽しみだったのに、手違いの所為でこんなことになるなんて……。
―――って、手違い?
私は私の中に浮かんだ一つの疑問を自称女神にぶつける。
「手違いってことは、本当はどうなる予定だったの?」
純粋な疑問。私を殺す予定が無かったっていうことは、私ではない誰かが死ぬ予定だったということだ。
「優羽ちゃんのすぐ後ろを歩いていた超イケメンイケボ青年を殺して、その魂を違う世界に送って、その世界を救う勇者にする予定だった。くしゃみしたら座標ずれて優羽ちゃん殺しちゃった」
「え?ていうことは、そのイケイケ青年の代わりに私がその世界の勇者にならないといけないとか?」
「ううん。それはダイジョーブ。優羽ちゃんの後にちゃんと仕留めて、別の神様が対応して無事そっちの世界の勇者になったから」
よかった。ここで勇者になれとか言われたらたまったもんじゃない。流石に怒るわ。
「ということで、優羽ちゃんにはちゃんと違う世界を準備させて頂きました!上司からすっごく叱られたけど、神様だって間違いはあるよねってことでなんとかかんとか捻じ込みました!」
「えらく雑な……」
私は目の前の自称女神に対して浴びせるように深いため息をつく。
「優羽ちゃんには、剣と魔法、恋とファンタジー、夢と希望の世界を準備させて頂いています。まぁ多少きっついところはあるけれども、大丈夫!」
某臨海地区リゾートみたいなキャッチコピーを言いながら右手の親指をグッと立てて自称女神は笑う。
「優羽ちゃんには、女神エドレシスの名において、とっても素敵でチートな能力をちゃんと与えます!その力で歴戦の覇者になってもいいし、王国築いてもいいし、のんびり生活してもいいし、ハーレム作ってもいいし、魔物を全て倒してもいいし、世界滅ぼしちゃってもいい!……あ、滅ぼすの駄目だわ。あっちの担当神に叱られるから。とにかく!その力で滅ぼす以外のことなら何やっちゃってもオッケー!」
やけにアグレッシブな勢いで捲し立てられ、私はちょっとだけ気圧される。
「まぁ正直な話、その担当神が管理してる世界はちょっと問題があって、人間と獣人の争いが続いているの。そんな状態がもう何百年も続いていて、担当神が頭を悩ませていてね。絶対的な悪が居るわけじゃないから世界を強く変える為の勇者はいらないけれど、なにか世界に一石を投じることができるならって、優羽ちゃんの転生先として受け入れをしてくれたのよ」
「はぁ……」
「優羽ちゃんのスタートは人間として人間の国に居てもいいし、獣人として獣人の国に居てもいい。どっちがいい?」
「とりあえず人間で。急に馴染みの無い者になれって言われても困るし」
「おっけーおっけー。あ、優羽ちゃん可愛くっていいんだけど、あの世界で黒髪の人間は目立つから、私と同じ桜色にしておくねー。顔の方もそれに違和感なくなるように少しだけ整えて、でも優羽ちゃんらしさは消さないように……っと。あ、やばいこれ、かわいい!すっごく華があるわけではないけれど、周りを癒すような感じにちゃんと仕上がっている。うん!」
自称女神のエドレシスが一人で凄く盛り上がっていた。
私はそんな様子をボーっと見ながら、なんとなく彼女がゲームのキャラメイクをやっているように見えるなぁとか考えた。
あ、違うわ。見えるんじゃなくって絶対それだ。
あれ、ハマると長いんだよなぁ……。
私も最近、友達に誘われた村づくりをするゲームで自分のキャラを作るのに一時間くらい使っちゃったし。
「出来た!ニュー優羽ちゃん異世界バージョン!いやぁ、傑作だわ。どう?見て見て!」
やっぱり時間がかかったエドレシスが、誇らしげに笑いながら、何もない空間にニュー優羽異世界バージョンの立体映像を映し出す。
確かにこれは可愛いわ。
髪の色とかミドルがロングになっていたりとか細部は色々変わっているけど、私が私と認識できるという範囲で調整されているし、外国人バージョンみたいな感じでちゃんと整っている。
気持ち若くなってるかな?くらいに幼さを感じるからエドレシスに訊いたところ、『漫画とかの王道って高校生くらいじゃん?だから十六歳くらいにしてみた』とのことだった。
遊び感覚じゃねぇか。
「で?エドレシスがくれるっていうチートっていうのは?」
見た目は嫌いでもないし、自分でも好きな方だったから全然アリなんだけど、問題は自分が異世界で生きていけるだけのチートがあるのかどうか。
「それはもう安心してよ。たっぷりよ、たっぷり。王道を行くようなモノについては大体揃えたつもりよ!」
胸を張りながら彼女は呼吸を乱すことなく私に与えられたチートを教えてくれた。
魔法関係だと無尽蔵の魔力、全属性の魔法使用、新しい魔法の創造。―――魔法の創造については、世界の理とかを歪めたり神殺しとかじゃなければ問題はないらしい。
身体能力関係だと毒や麻痺、病気などの状態異常無効。
呪い・封印無効というのもあった。
後は言語適応と、必要最低限の知識インストール。これは大切だよね。うん。
そして、アシスト機能『神パッド』。私が最新型のタブレット端末を使えなかった無念から生み出された、神様が与えた私のチート。
…………と言いながら、単純にその神パッド、その異世界で気になることや調べたいことがあれば、思考領域内のタブレットで簡単に調べられるというだけのこと。他にも一応メモができたり、作図できたり、それを魔法で実体化させたりもできるらしい。
使う時にちょっと考え込む感じにはなるらしいけど、周囲の人的には『まーた何か考え込んでるぞ、アイツ』ぐらいで終わるらしい。
「とりあえず、名前はそのままユワ・シノゴゼって感じで登録しとくね。職業は新米宮廷魔導士。王宮仕えにしとく。役所に勤務する予定だったみたいだしちょうどいいよね?せっかくの異世界ライフ、楽しんでもらえたら嬉しいなぁ」
「一応聞いておくんですけど、人間と獣人の違いって?」
「人間は地球の人間と大体一緒なんだけど、色々な魔法が使えるっていう特徴はあるよ?獣人は魔法が使えないんだけど、魔力自体はあって、それが身体能力強化に全振りされていたり固有の特殊能力として発現されていたりするの」
エドレシスは異世界優羽の隣に人間と獣人のモデルを浮かび上がらせて、丁寧に説明してくれる。獣人にも色々種類があるみたいで、犬・猫・虎・獅子・兎・鼠・鳥・猿・蜥蜴・竜……基本の造形はそれらをモチーフに、だけど、人間のように二足歩行で道具もしっかりと使えて、動物みたいな人間とか、人間みたいな動物といったような印象を抱く。
「あー、とりあず、ゲームとか漫画とかで出てくるような獣人ってことですね」
「そうそう。ホントそんな感じ。獣人も人間もいい人達はいるんだけどねぇ。ただ、基本的に人間は獣人見下してるし、獣人は人間を見下してるしで、根深くて……」
「まぁ地球でも人種差別とかあったりするくらいだから特に驚きもしないけど……」
私と女神は同時にため息をつく。
意外と神様も苦労しているもんだ。
ちなみに、一度担当神が降臨して仲良くしろと言ったこともあるみたいだけど、一年くらいしか仲良くしなかったらしい。そのくせ、その日をどっちの種族も祝日にしているとかしていないとか。
仲良いな、をい。
「そろそろ時間かな?優羽ちゃん、ホントごめんね?地球の家族のことは、最大限ささやかレベルに幸せになれるようにしておくから、美羽ちゃんは新しい世界でがっつり幸せになって!何かあればあっちの担当神プラナージュ様に神パッド使って連絡とっていいから!」
「うん。…………最後に一つ、お願いがあるんだけどさ、お父さんとお母さんに、私がありがとう、ゴメン、そして頑張って幸せになる!って言っていたって、伝えて欲しい。夢でも何でもいいから。お願いします」
「オッケー、わかった。ちゃんと伝えておく。…………それじゃあそろそろ、あっちの世界に転送するね」
その言葉と同時に光の粒子が足元から溢れ出し、天に向かって昇っていく。
「いってらっしゃい、優羽ちゃん」
「…………行ってきます!」
私と女神の言葉を合図にしたように、光が更に溢れ、つま先から光の粒子として体が崩れていき、天へと昇っていく。
『今までありがとう、お父さん、お母さん。なんだかんだでこのやり取り楽しかったよ、エドレシス』
そして、窓から朝陽が差し込むのと同時に、私の新しい人生が始まった。
宮廷魔導士、ユワ・シノゴゼとしての。
ノーマルラブ的な作品の第一話です。
最初の作品よりかテンション高めだったりします。
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