運の無い男…………
2話目の投稿です。
帝国はその日は攻めて来なかった。歩兵の兵力が集まるのを待っていたのである。
次の日になり、帝国軍は全軍を隊列を組ませて待機させた。ジリジリッと、総攻撃の緊張感が熱気として伝わってくる。
ローズガーデン側も砦のほぼ全兵力を外に出して隊列を組んで迎えた。
「…………この兵力差に勝てるのか?」
グラハムはまだグリーンウッド家の力を見ていないので不安であった。
帝国軍は中央を縦の長方形の陣形を組んで、中央の層を厚くしていた。左右は横広く展開している。
「明らかに中央突破を警戒しているな?」
「ええ、そうですね。でもちょうど良かったです」
シオンとカストルは前方の帝国軍を見て笑った。左右にいた両親であるカウスとスピカも喜んでいた。
「あらあら♪中央突破を警戒して縦長に兵士を展開しているなんて、運が良いわねあの二人は」
グリーンウッド家だけはこの展開に喜んでいたが、ローズガーデン側は中央層が厚く、中央突破も容易ではない事に絶望していた。しかし、先の戦いでエリザ姫殿下が50名ほどの奇襲で、敵の大将を討った事実が士気を高めていた。
「エリザ姫殿下、本当に勝てるのでしょうか?」
不安な兵士が声を掛けた。
「うむ、楽勝であろうな!御主達も目を開いて見ているがいい。英雄の戦い方をな!」
6万という大軍を前にエリザ姫殿下と、その側近達は余裕の様子であった。この状況下で、上官が余裕である事が兵士達の安心感にもなっていたのだ。
「おい、エリザ様達は全然焦っていないぞ?」
「何か勝てる策があるかもな!」
「そうだぜ!こんな状況で勝てる算段が無ければあんなに堂々としていられないだろう!」
「勝てるのか!?」
こうしてローズガーデンの兵士達も帝国軍に気圧されないほど士気が上がったのだった。
一方帝国軍側では─
「まったく、西の城塞砦の攻略失敗には驚いたぞ!無能共めが!?」
ローズガーデン侵攻軍、総大将ガーランドは隣で悪態を付く存在にため息をついた。
「おい!ガーランド卿!わかっているな?このローズガーデン攻略は、俺が次の皇帝になる為の実績作りなのだ。失敗は許さんぞ!」
軍に同伴しているこの男は、皇帝の第3王子であるポーランドであった。この男の二人の兄が優秀であり、劣等感に苛まれた可哀想な人物であった。しかし、貴族達の中での立ち回りが上手く、武術はからっきしだが、知恵が廻る男でもあった。故に、多くの帝国貴族を味方に付けて、この遠征を可能にしたのだ。北部などの国と休戦協定まで結ばせた政治的外交も侮れない手腕を持っていた。
これが、兄を立てて自国の利益の為に振るわれれば帝国は大陸統一も夢ではなかったかも知れなかったのだ。
しかし、この男ポーランドは運が無かった。
「確かに西の城塞を攻略出来なかったのは予想外でした。三倍の兵力と攻城兵器を用意していたのにユグドラの英雄に敗れたとは………」
「ふん、何が英雄だ!たった1人で万の軍勢に勝てる訳がないだろう。大方、敗戦の責任を取りたくない幕僚達の言い訳だろうが!」
ポーランドは自分の思い通りに侵攻が進んでいない事に苛立ちを覚えていた。
そして、総大将ガーランドも額面通りに報告を鵜呑みにはしていなかった。正面から敵の突撃を受けた直後、少数ではあるが後方から奇襲を受けたので、前方の壁である兵士を後方に廻したことで、突撃を奥深くまで許してしまったと、作戦指示のミスが原因だと捉えていた。
その考えが間違いだと気付くのにはもう少し後になってからだった。
「うむ?」
そんな時、ローズガーデンの軍に動きが見られた。
「まさか、向こうから仕掛けるのか?」
3倍以上の兵力差に、受け身で耐えるのではなく、向こうから攻めるいう事は全滅も覚悟の上という事である。
『どういうつもりだ?この兵力差では守備に廻り、こちらの兵站が無くなるのを待つのが定石であろうに………』
ガーランドは考えるも、結論が出ないためすぐに指示を出した。
「ローズガーデンが捨て身で向かってくるぞっ!前線部隊に盾を構えさせろ!密集陣形をとり前線の防備を強化せよ!後方の弓隊は射程に入り次第一斉射撃だ!」
帝国でも歴戦の将軍であるガーランドは的確に指示を出したが─
そして
グリーンウッド一家の蹂躙の始まりである。
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