不良の有能さ
ダンジョン遠征までの一ヶ月は座学がへって実技・実践がおおくなる。おれは座学のほうが好きだから少し物足りない学校生活だ。
今日も朝から個人訓練だったから魔力が切れてきてダルい。
「メル、顔色が悪いけれど何かあった?」
「来月ダンジョンに行くから実技授業が多くて……」
ハーブを利かせたポークにレモンをビシャビシャにかけて食べる。酸味が疲れをとってくれる気がするぜ……。
「食欲がいつもよりないようですわねぇ、おかわいそう」
プリュネちゃんが肩をなでてくれる。
「少々お休みになられるといいわ」
そうね、とみんなが心配してくれてランチのあと保健室での昼寝をすすめられた。ランチのあとはそのままお喋りして過ごすのが通例だけど、お言葉に甘えてどこかで休むことにした。
(保健室ってよくイベント起きるから嫌な予感するんだよな)
フェナクがまた寝てるかもしれん。愛人勧誘の手紙のこともあるし顔合わせづらい。
学棟の中庭はぜんぶ繋がってるしデザインも似てるので、探せば人気のないベンチとかあるだろう。なかったら保健室だな。
食後なのでゆっくり歩いて二年学棟側の中庭を散策する。
「おい」
「あ、ごきげんよう」
日当たりはいいが端っこって感じのいわゆる穴場に不良がいた。こういうところ見つける嗅覚はやっぱり不良たる才能のせいなのかな?
「ヴェガ様、おひさしぶりですわ。二年学棟にいらっしゃるってことは進級できましたのね」
「あいかわらず失礼なやつだな」
「そうそう。クッキーありがとうございました。とても美味しかったのですぐに頂いてしまいましたわ」
一年ももう終わるという春休みのある日、ヴェガから高級感あるクッキーが我が家に届いた。たぶん愛の日のお返しなんだろう。直接お礼をいう機会がなく今になっちゃったぜ。お礼を言ったところで不良は鼻を鳴らすだけなんだが。
「ところで猫ちゃんはいっしょじゃありませんの?」
「……たまに来る。おまえは猫ばっかだな」
「可愛いんですもの。でもヴェガ様のことも気にかけてますわ」
ヒロインとフラグ立ててないか、定期的に様子をみたいとは思ってる。レクティータさんがフラグ乱立させてるっぽいからさー。
「……気に、かけてるのか」
「ええもちろん」
「ふん」
令嬢スマイルむけたら鼻鳴らしやがった。なんだよっおれもまぁまぁ可愛いと思うが!?
ぐぬぅ……と思ったらちょっとめまいがした。慌てて壁に手をついてしのぐ。
「どうした?」
「いえ、ちょっと魔力切れで……」
貧血ともちがう、魔力不足のとき特有のめまい。酔ってるみたいで不快なのも目をつむってしばらく耐えるしかない。
「寝ろ」
腕を引かれたと思ったらベンチに寝かされてた。驚きとか表現したいけど、気持ち悪いからちょっと待って……。
「水膜、緑の盾、……おい、これ持ってろ」
ヴェガが魔法を唱えると、固い木のベンチとおれとの間に水のクッションが現れ……これ、ウォーターベッドだ。薄く目を開けた頭上には葉っぱでできてるっぽい盾があっていい感じに木漏れ日がきてる。
「あ……これ魔力回復石では」
「よく知ってんな。やるよ」
「いただけません……が、お借りします……」
魔力回復石はあらかじめ魔力をこめておいて、不足したときに握ると回復してくれる魔石をつかった高価なアイテムだ。
ウォーターベッドも濡れないし、葉の盾も浮いたままだ。一瞬にしてここまで整えるとは、さすが魔法に長けた家のやつだな。
「しばらく寝てろ。おれは向こうで見張ってるからなんか用事あるなら呼べ。……緑の盾」
ベンチを隠すみたいに葉っぱのパーテーションができた。至れり尽くせりだな……お礼はあとで絶対にいっぱい言おう……。
自分で思ってたより疲れてたみたいで、おれはそのまま寝落ちしたようだった。
「んんー! スッキリ!!」
目を覚ますとだいぶ気分が良くなっていた。むしろ朝より調子いいくらいだ。
ベンチに座って伸びをする。左右に体を振ってストレッチ。
葉っぱのパーテーションはまだあって向こう側は見えない。
立ち上がって回りこみ外を見ると、背中を向けて壁にもたれてるヴェガがいた。
「ヴェガさまーありがとうございました!」
「っ早かったな」
ヴェガもウトウトしていたらしい。
「わたくし、どれくらい休んでいました?」
「つかの間だな。昼休みも終わってない」
「まぁ!こんなに回復してるのに! わたくしとヴェガ様って魔力の相性がよいのかもしれませんね」
魔石のなかに込められた魔力の吸収率がよいってことは、相性がいいってことだもんな。ありがたいぜ。
「……もう大丈夫なのかよ」
「ええすっかり! 本当にありがとうございました!」
膝をおってしっかり感謝の意を伝える。
そして手に握ったままの魔石をもってちょっと悩む。
「……この魔力回復石は魔力を込めてお返ししますので、預かってもよろしいですか?」
めちゃくちゃ時間かかるかもだけど、許可してくれたら満タンにして返すぞ! ただ高価なやつだからなー。おれに信用があるのかないのか……。
「別にいい。すぐに充填できる」
そう言うとヴェガがおれの石を握った拳のうえに手を乗せた。ぼんやりとあたたかい気配がする……?
「おまえ、午後も授業で魔力つかうだろ。持っておけ」
「ええ⁉ いやそれは申し訳なさすぎ」
「それ、うちにはゴロゴロあるから」
お金持ちィ!
というかいまの一瞬で魔力込めたんか、すごすぎない?
「……ありがとうございます、明日必ずお返しいたしますわ」
「ああ、わかった。じゃあな」
足早に立ち去るヴェガ。
あ。どこで返したらいいか場所聞くの忘れてた……。




