落ち込む公爵令嬢
「ローズマリー様、お気をたしかに」
「大丈夫です! すべて誤解ですもの」
「事情を話せばわかってくれますわぁ!」
クローブ公爵家のサロンがざわついていた。
いつもは外で待機してるメイドさんたちが室内にいて気を張ってるし、なによりピネちゃんたちがいる。
長いソファの中央でクッションを抱いた刃丞に左右からピネちゃんハチクちゃんが接触し、正面からはしゃがみ込むプリュネちゃんが膝に手を置いている。
あいつ……ついにハーレムを作ったのか。と思わせるには刃丞の目が死にすぎていた。
「ど、どうしましたの……?」
「カエノメルさんっ」
スクッとハチクちゃんが立ち上がり早足でやってきた。
「ええと、ごきげんようハチクさま……っ?」
無言で腕を取られハチクちゃんのやわらかさとかを感じる間もなく引っ張られて刃丞のとなりに座らされる。
おれと刃丞をはさむように左右に女子が座るという、状況が状況なら夢のような配置だ。
「なぐさめて差し上げて!」
ぎゅうっと体ごと押しつけるみたいにして顔をよせ小声で言われた。おふぅハチクちゃんの吐息がくすぐったい。
しかし慰めるもなにも事情がわからない。
「王子に叱られましたの」
「まるまる太ってるって言ったけれど、それは猫にですわ」
「ちょっと汚れてますわ、というのも猫にですのにぃ!」
え? え!? ちょっと待って、王子に叱られた?
「そ、それはランチのときです?」
「ええ。レクティータさんがこのまえのお礼を言いにテラスにいらしたの、あの猫を抱いて」
うそだろ!
『王子の怒り』イベントは回避したんじゃなかったのか!?
「ふふふ、王子はわたくしから離れたわ。きっとレクティータさんとおつき合いになるのよ」
なんてことだ、理由はわからないけどこれはつまりヒロインちゃんの王子ルートがひとつ進展したってことだ。
「ローズマリー様、よろしいですか」
刃丞の手をとり握りしめる。相当ショックだったのか手が冷たいな。
「メル……ごめんなさい、がんばってくれたのに」
「ローズマリー様謝らないで。ここからが勝負ですわよ」
「勝負?」
刃丞は回避したイベントが再度起きたのに混乱してるみたいだが、あくまでもあのイベントは王子ルート中盤のもの。これから先のイベントを阻止したらいいだけだ。
「いまから本気でフェナク様とレクティータ様をくっつければ良いのです!」
レクティータさんの好みはしらない。でもいまのところ好感度かいちばん高いのはフェナクのはずだ。だから刃丞のために、高校時代の彼氏はぜひともフェナクにしといてくれ。
「どういうことですのカエノメルさん」
ピネちゃんの声に顔をあげると、キラキラと瞳を輝かせた取り巻きたちがいた。さすが恋の話に目がない貴族のご令嬢。
うまく説明できればきっとうまいことやってくれるだろう。
「コホン。わたくしが独自に調べたところ、レクティータ様は一年のころからフェナク様と仲がよろしいそうです。ですからあの二人がさらに仲良くなれば王子は放っておかれるはずですわ」
「まぁ! まあまあ! そうでしたの!」
「フェナク様はレクティータさんがお好みなのですか!」
「ご婚約まで行かずとも大きな噂にでもなれば王家とは関われないはずですわねぇ」
三者三様、感想をのべながらも頬が赤い。ぐいぐいと身を乗り出して聞いてくる。三人ともおっぱいが大きいから圧迫感があるぜ!
「わたくしの王子ルートはまだ生きている……?」
おれは刃丞の目をまっすぐにみて頷いた。
そうだ、まだ物語は前半みたいなもんなんだぞ!
「っやりますわよ! 明日からはフェナク様とレクティータ様をフォローいたしましょう!」
「「「 はい! 」」」
ぎゅうう!
気力を取り戻したらしい刃丞の宣言に、涙ぐみながら笑顔で抱きつく仲間たち。みれば待機してるメイドさんの中にも目に涙を浮かべてるひともいた。
それからはいつも以上に近い距離で、おれたちはいつものようにお茶会をして過ごすことができた。
帰り際、ふたりきりになったところでおれは刃丞に香油のビンを渡した。そもそもこれを渡しに訪問したんだよ。
「とうとう販売になるのね、おめでとう翔義」
「おかげさまでな。効果は薄いけど、王子攻略にも使えるかもしれん」
「ええ。ここぞというときに使うわ」
それから刃丞は部屋から持ってきた“資料”を渡してきた。
「これは……」
「読めないわたくしより翔義が持っていたほうがいいわ。翔義には負担でしょうけれど、卒業まで協力して」
「何言ってるんだ、当たり前だろ」
「………ふふっありがとう。わたくしも王子の好みに近づけるようお尻を鍛えるわ。その他にもなにかあったら教えてちょうだいね」
「ああ」
手をぎゅっと握り合う。
明日からは王子以外の男をヒロインにぶつけていかなきゃな!




