お小遣いふえるかな
春休暇は新学期への準備をするために設けられているのだが特にやることはない。かといって二週間しかないから地元に帰る時間もないという微妙な休みだ。
おれの予定はロベールとシフリール先輩の家に行くことと、刃丞、ウィステリア先輩と東の湖へ行くことぐらい。
今日はシフリール先輩のところへお邪魔する日だ。
「はぁー! なんか緊張しますね」
「ああ、こんなに硬い石を集めたのはすごいよ、すてきな屋敷だ」
「あ、そっち……」
シフリール先輩のお宅は騎士団を束ねるハーツイーズ辺境伯家であり、ほかの貴族の屋敷よりもだいぶ無骨な造りだった。端的にいうと装飾が少なく石がむき出しで、たしかにロベールが好きそうなデザインだ。
おれたちは応接室でシフリール先輩を待ってる。ロベールは窓際に使われた石を熱心に眺めてるから話し相手にならん。なんかいいやつなんだろう。
おれは壁のタペストリーを見ることにした。男らしい屋敷においてこのタペストリーは花と孔雀が刺繍されてて雰囲気がちがう。
「可愛いわね」
「ありがとうございます!」
!?
急に女の子の声が聞こえてビクッとなった。
振り向くと小学生にも満たないくらいの女の子がいた。ピンクのドレスを着て人形みたいに可愛い。
「ど、どなた……?」
「リカです!」
「あ、はい。カエノメルですわ」
「ロベールだ」
「はい!!」
だ、誰だ。ロベールのそでを引いてコソコソ聞くけどロベールも知らないらしい。
そうこうするうちにリカちゃんがおれの元にやってきて、おれとロベールが座ってる真ん中の隙間によいしょと座った。
「カエノメルさまはリカのおねえさまになるの?」
「うん???」
「ロベールさまはおにいさまになるの?」
「なに……???」
戸惑うおれたちを気にも止めずちいさい両手で手を繋いでくる。そのまま鼻歌を歌いだしたのでおれとロベールは無言で聞きの体制に入った。なんか母性か父性が刺激されてる気がする……
「リカ……!」
ほわぁと和んでいるとシフリール先輩が焦った様子で応接室に駆け込んできた。
「おにいさま!」
「リカ、急にいなくなっては兄様は驚いてしまうよ。かくれんぼは終わりでいいね?」
ピョコンとソファから飛びおりたリカちゃんがシフリール先輩に抱きついた。
それを受け止めた先輩はめずらしく髪が乱れている。制服じゃない先輩もレアだしな。
「リカ、これから兄様は大切なお話をするからお部屋に戻っていなさい」
「はーい!」
先輩に扉を開けてもらい、近くにいたメイドさんといっしょに去っていくリカちゃんがこちらを振り返って手を振っていった。それを三人で見送り、無言で向き直る。
「……妹が失礼した」
「いえ、可愛らしい妹さんですわね」
社交辞令でもなく本心でいうとシフリール先輩が微笑んだ。
「ありがとう。さて、だいぶ待たせてしまったね。本題に入ろう」
ニコッ。キラッ。
先輩がいつもの爽やかな笑顔に切り替えておれたちを促したので、おれはバッグから香り石でつくった香油を取り出した。
実験の結果。
香油は陽と月の光で効能時間が変わることがわかった。
香り石をオイルに漬ける時間が短時間ではせいぜい保って三時間。
一晩漬けておくと半日は保つ。けれど香りが薄い。相手を欲する気持ちも理性で抑えられるくらいにほどほどだ。
しかし夕陽か新月に晒すと漬ける時間に関係なく爆発的な香りと効果を発揮することがわかった。おれが学校で追われることになったときも、夕陽にあてちゃったオイルだった。
「僕たちの結論としては、日にも月にも当てずに作った香油ならば危険性はないと判断する。効果範囲も1メートルにもならない」
「これでしたら相手に好印象をもたせる程度ですし、乙女に人気がでると思いますの」
「なるほど」
腕を組んだ先輩が真剣に聞いてくれる。
おれたちは実験中に起きたハプニングや対処を包み隠さず報告した。
「……以上ですわ。王都でも販売できますでしょうか?」
考え込むように黙っている先輩にドキドキする。
しばらく耐えていると、先輩がふと顔をあげておれをみた。
「よく調べたね。きみたちの言うようにこれは良い商品になるだろう」
「!」
「店舗を作るのか雑貨屋に卸すのか決めたら言いなさい。俺のできる範囲で協力しよう」
ニコッ!
「…ううっ、うれしいー!!」
先輩の会心の笑顔と許可に思わず隣にいたロベールに抱きついた。
「か、カエノメル、胸が」
「ロベールやったわ! 長かったわねー!!」
これでちょっとは仕送りできるかもー!!!




